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Home > サプライチェーン> モスフードサービス、9月7日MOVO PSI導入で定番品をAI発注へ
サプライチェーン 2026年9月7日

モスフードサービス、9月7日MOVO PSI導入で定番品をAI発注へ

モスフードサービス、9月7日にMOVO PSI導入し需給3課題を解消へ

株式会社モスフードサービスは2026年9月7日、株式会社Hacobuが提供するAI発注・輸送最適化サービス「MOVO PSI」を導入したと発表しました。需要が安定した定番品を中心にAIが需要予測や発注量算出を担い、確定発注前の計画段階から発注見込みデータをサプライヤーへ共有する体制へ移行します。

モスフードサービスが直面した需給管理の課題と「MOVO PSI」採用の全容

外食産業におけるサプライチェーンは、天候や季節要因、販促キャンペーンなどの影響を強く受けるため、精緻な需給コントロールが欠かせません。株式会社モスフードサービス(以下、モスフードサービス)が今回導入を決めた「MOVO PSI(ムーボ・ピーエスアイ)」は、株式会社Hacobu(以下、Hacobu)が提供するAI発注・輸送最適化SaaSです。同社がどのような背景から導入に至り、どのような運用体制を敷くのか、公表された情報と事実関係を整理します。

導入に至る背景と3つの主要課題

モスフードサービスは、インターネット普及期において外食業界に先駆けて自社構築したサプライチェーン基盤を長年にわたり運用してきました。しかし、システムの老朽化に伴い、基幹システムを含むサプライチェーン基盤全体のリニューアルを進める中で、需給管理に関して以下の3つの課題に直面していました。

第一に、既存サプライチェーン基盤の刷新です。長年改修を重ねてきたレガシーシステムでは、近年のデジタル技術や外部データとの柔軟な連携が難しくなっていました。

第二に、事業領域の拡大に伴う需給管理の複雑化です。国内外の店舗網拡大や新規フォーマットの展開に伴い、取り扱う食材・資材のアイテム数が増加し、物流拠点ごとの在庫管理や配送ルートの調整負荷が増大していました。

第三に、ベテラン担当者が持つ知見の継承です。従来の受発注や在庫調整は、長年の現場経験を持つ担当者の暗黙知に依存する側面が強く、属人化の解消とノウハウの形式知化が急務となっていました。

「MOVO PSI」の機能概要と発注業務の棲み分け

MOVO PSIは、需要(Production/Purchasing: 調達・生産)、在庫(Stock: 在庫)、発注・販売(Sales: 販売)、輸送(Logistics)を一体で捉え、PSI(生産・在庫・販売)管理と輸送の最適化を支援するクラウドサービスです。

モスフードサービスでは、全品目を一律に自動化するのではなく、商品の特性に応じたハイブリッド型の運用方針を採用しています。

運用区分 対象となる品目特性 業務の主担当 具体的な運用内容
定番品 通年で需要が比較的安定している食材・資材 AI(MOVO PSI) 過去の実績や傾向から需要予測を行い、推奨発注量を自動算出
変動品・販促品 季節限定商品やキャンペーン商品など変動が大きい品目 人(専任担当者) 販促施策や市場動向を勘案し、高度な定性判断を加えて発注量を確定
判断基準の可視化 AI提案値を人が修正した案件すべて 人とシステムの協調 修正内容や修正理由をログとして蓄積し、属人的な判断基準をデータ化

需要のブレが小さい定番品の発注計算をAIに任せることで、業務工数を大幅に削減します。担当者は、急激な需要増減が見込まれる限定メニューやキャンペーン商品といった、人による戦略的判断が求められる領域に注力できるようになります。また、担当者がAIの提案を修正した履歴をデータベース化することで、これまで個人の頭の中にあった発注ノウハウを可視化し、組織的な知見として蓄積します。

サプライヤーとの確定前計画情報共有

MOVO PSIの導入における大きな特徴が、確定発注に至る前の「計画段階」でのデータ連携です。

従来の商習慣では、発注企業側で発注データが確定した段階で初めてサプライヤー(原材料メーカーや食品加工業者など)へ注文が伝達されるケースが一般的でした。この場合、サプライヤー側は突然の確定発注に対応するため、過剰な安全在庫を抱えるか、急な増産手配や突発的なトラックチャーターを行わざるを得ず、サプライチェーン全体に無理が生じていました。

MOVO PSIでは、確定発注より前の段階から、将来の需要予測や発注見込み情報をサプライヤーとオンラインで共有できます。サプライヤー側は前もって工場の生産計画や原料調達、物流車両の積載計画を平準化できるようになり、準備余力を確保した上でモスフードサービスの加盟店に対する確実な安定供給体制を整えることが可能になります。

MOVO PSIの開発経緯とサービス展開の歩み

MOVO PSIは、突如として登場したシステムではなく、物流危機に対応するために食品・飲料メーカーの実証実験を経て商用化されたソリューションです。その開発とサービス提供のタイムラインは以下の通りです。

年月 主体・参画企業 実施内容・マイルストーン
2021年 Hacobu、キリンビバレッジ株式会社 物流課題解決に向けた「輸送量平準化 共同プロジェクト」を開始し、MOVO PSIのβ版実証実験を実施
2023年 Hacobu、キリンビバレッジ、アサヒ飲料株式会社 アサヒ飲料がプロジェクトに参画。両社の納品先在庫管理(VMI)拠点を対象にMOVO PSIの実証検証を実施
2024年10月29日 Hacobu、株式会社JDSC、キリンビバレッジ、アサヒ飲料 「MOVO PSI」の正式提供を発表(11月1日提供開始)。基盤企画・販売をHacobu、AI共通データ基盤開発をJDSCが担当
2026年9月7日 モスフードサービス、Hacobu モスフードサービスによる「MOVO PSI」の導入を正式発表。外食チェーンの大規模SCM基盤へ適用

本システムは、システムインテグレーションやAI導入支援を担うプロフェッショナル組織「Hacobu Solution Studio」のサポートのもとで実装が進められています。自社専用のスクラッチ開発ではなく、標準機能を備えたSaaSを採用しつつ必要な業務連携を柔軟に組み込むことで、短期間での立ち上げと継続的な機能アップデートの恩恵を享受できる設計となっています。

参考記事: AI需要予測とは?SCMを変革する仕組み・導入メリット・成功の5ステップを徹底解説

参考記事: 在庫最適化と自動発注を実現する「需要予測AIシステム」ツール比較4選【2026年04月版】

外食産業の物流を取り巻く制度変化と逼迫の実態

モスフードサービスが物流基盤の刷新を急いだ背景には、外食産業が直面する輸送力不足の深刻化と、法制度の厳格化があります。

輸送能力不足の推計と外食業界の対応遅れ

株式会社NX総合研究所が実施した試算(2019年度比)によると、物流の改善策を講じない場合、営業用トラックの輸送能力は2024年度に14.2%(ドライバー14万人相当)、2030年度には34.1%(同34万人相当)不足すると推計されています(農林水産省「令和5年度 食料・農業・農村白書」掲載)。

とりわけ外食産業は、日々の食材の鮮度保持が求められるため、多頻度小口配送や短リードタイムでの発注が定着してきました。しかし、2024年4月に施行された働き方改革関連法によって自動車運転業務の時間外労働上限規制(年960時間)が適用され、従来の無理な運行スケジュールを前提とした物流は維持できなくなっています。

株式会社Goalsが2024年3月に公表した「飲食企業従事者に対する『2024年問題』に関しての意識調査」によると、物流問題への対応状況について「実施済み」と回答した飲食企業はわずか8.0%にとどまっていました。「検討中・実施予定」が46.0%、「対応完了時期は未定」が48.2%に上り、多くの外食企業が有効な対策を見出せないまま物流危機の波に直面しています。

法改正による荷主責任の強化とCLOの義務化

国は、サプライチェーンの持続可能性を確保するため、荷主企業に対する法的な是正措置を相次いで打ち出しています。

制定・施行時期 法律・ガイドライン名称 外食・荷主企業に課される主な要請・義務
2023年6月2日策定 物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン 発注量や発送量の適正化、リードタイムの十分な確保、トラックの荷待ち・荷役時間の削減に向けた自主行動計画の策定を要請
2024年4月1日施行 働き方改革関連法(労働基準法等改正) トラックドライバーの時間外労働に年960時間の上限が適用され、長距離輸送や急な突発便の手配が困難化
2024年5月15日公布(2025年4月より順次施行、2026年4月本格施行) 物流改正法(流通業務総合効率化法・貨物自動車運送事業法の改正) 一定規模以上の特定荷主に対し、役員クラスの「物流統括管理者(CLO)」の選任や中長期計画の作成、定期報告を義務付け

物流改正法においては、発注側の荷主都合による無理な配送依頼や長時間の荷待ちが厳しく監視されます。モスフードサービスが「物流はコストではなく事業を支える戦略」と位置付け、調達・発注段階からサプライヤーや物流事業者とデータを共有する仕組みを整えたことは、これら一連の政策動向に沿った取り組みといえます。

参考記事: 株式会社Hacobuが11万拠点連携へ、2026年4月CLO義務化への必須対応

参考記事: 株式会社Hacobuが10月末期限の計画策定をAI支援、特定荷主の法対応に直結

サプライチェーン各プレイヤーへの具体的な影響

モスフードサービスによるMOVO PSIの導入と発注・輸送計画のデータ連携は、同社内にとどまらず、関係する様々なサプライチェーンのプレイヤーに影響を及ぼします。

小売・外食事業者:定型業務の自動化による人手不足対策と戦略業務へのシフト

外食や小売のチェーンオペレーションにおいて、各店舗や物流センターの需給管理は、長年にわたり現場担当者の「勘と経験」に頼ってきました。天候予報や過去の売上実績を突き合わせながら手動で発注数値を入力する作業は、担当者の業務時間を圧迫する大きな要因でした。

MOVO PSIの導入により、需要が安定した定番品の発注業務がAIによって自動化されることで、需給管理部門の省人化と定型作業の削減が実現します。急激な需要変動が起こりにくい品目をAIが確実に処理するため、担当者は発注漏れや重複発注の不安から解放されます。

創出された時間は、新商品の販売予測や地域ごとのプロモーション対応、仕入れ先との取引条件交渉といった付加価値の高い戦略業務へと再配置されます。また、AIの提案に対して人がどのような意図で数値を修正したかがログとして残るため、新任担当者への技能伝達や業務の標準化が容易になり、ベテラン社員の退職による業務停止リスクを回避できます。

食品メーカー・サプライヤー:計画段階の内示データ連携による生産・出荷の平準化

外食チェーンへ食材や包装資材を納入する食品加工メーカーやサプライヤーにとって、発注データが確定するまでのリードタイムの短さは常に頭痛の種でした。急な大口発注が入れば、工場ラインを休日稼働させたり、割高なスポット運賃で緊急車両を手配したりといった対応を余儀なくされていました。

確定発注前の段階から今後の発注見込みや需要動向がMOVO PSIを通じて共有されることで、サプライヤーは無理のない生産計画を前もって立案できるようになります。原料の調達スケジュールや製造ラインの稼働日程を平準化できるため、過剰な安全在庫を抱えるコストや廃棄ロスを抑えられます。

さらに、出荷予定の荷量が早い段階で把握できるため、運送会社に対する事前の配車依頼がスムーズになります。積載率の高い大型便の定期手配や混載便の活用が可能になり、トラック不足による出荷遅延リスクを大幅に低減できます。

物流DX・SaaSベンダー:基幹刷新を牽引するSaaS+支援ハイブリッドモデルの定着

業務系SaaSやAIソリューションを提供するITベンダーにとって、モスフードサービスのような大手外食チェーンが受発注・需給管理の基盤としてクラウドSaaSを採用したことは、今後のビジネス展開における重要なマイルストーンです。

従来の大手企業におけるサプライチェーン基盤の構築は、数億〜数十億円のコストと数年の開発期間をかけたフルスクラッチ型システム開発が主流でした。しかし、法規制の変更速度や物流危機の進行が加速する中では、個別開発の完了を待つ時間的猶予がなくなっています。

Hacobuが推進するように、業界標準の機能を持つ「SaaS」を中核に据えつつ、専任チーム(Hacobu Solution Studio)が導入支援やシステム連携を伴走するハイブリッド型の導入手法は、基幹SCMの迅速な刷新を求める荷主企業に対する現実解として評価を高めています。今後、物流領域にとどまらず、調達・生産・販売の計画を一元化する「PSI管理SaaS」の需要は他業種へと波及していく見通しです。

参考記事: 三菱食品×日清食品データ連携!トラック30%削減を生む3つの影響

参考記事: ネスレ日本が約7000人のドライバーと直接連携し物流持続可能性を強化

参考記事: 大同特殊鋼が全21拠点へMOVO展開!荷待ち半減に導く配車DXの全貌

LogiShiftの視点|「自社最適の在庫管理」から「サプライチェーン全体の同期化」へ

モスフードサービスのMOVO PSI導入は、外食企業におけるITツールの導入にとどまらず、日本のサプライチェーンマネジメントの構造転換を浮き彫りにしています。専門家の視点から、この動きが物流業界にもたらす変化を考察します。

「モノが運べない時代」における製販データの共通言語化

従来のロジスティクスにおいて、在庫管理とは「自社の倉庫に欠品を出さないよう、安全在庫をいくら積むか」という自社完結型の計算でした。しかし、2030年度に営業用トラックの輸送能力が34.1%不足するという予測が現実味を帯びる中、いくら自社が在庫を確保したくても、それを運ぶトラックを確保できなければサプライチェーンは途絶します。

今回の取り組みの本質は、モスフードサービスが「自社内にとどまっていたデータをサプライチェーン全体の共通言語へと進化させる」と明言している点にあります。自社の需要データとサプライヤーの供給・物流能力を同一のプラットフォーム上で突き合わせることで、「いつ、どこへ、どの程度の荷物が動くのか」を前もって同期させています。

物流逼迫下で生き残る荷主の条件は、単に高い運賃を払うことではなく、「相手にとって運びやすい計画」をどれだけ早く提示できるかにシフトしています。発注データを事前に開示してサプライヤーや運送事業者に準備期間を与えるアプローチは、持続可能な調達網を構築する上で不可欠な要件となります。

AI判断ログの蓄積がもたらす「ノウハウの資産化」

多くの企業がAI需要予測の導入で直面する壁が、「AIの予測が外れた際に、現場がシステムを使わなくなる」という現場の不信感です。

モスフードサービスが採用した「定番品はAI、変動品は人が担い、人がAI提案を修正した理由をログとして残す」運用設計は、極めて現実的かつ戦略的です。現場のノウハウをAIと対立させるのではなく、人が介入したプロセスそのものをデータとして収集することで、ベテランの属人的な知見をデジタル資産へと変換しています。

蓄積された修正理由は、次のAIモデルの精度向上や、新規担当者の教育マニュアルとして機能します。AIの自律化と人の定性判断を分離・統合するこの運用プロセスは、人手不足と熟練者の退職に悩むあらゆる流通・物流現場において、模範的なフレームワークとなるはずです。

まとめ:明日から意識すべき3つの実践アクション

モスフードサービスによるAI発注・輸送最適化の取り組みは、すべての荷主企業や流通事業者に対し、自社のサプライチェーン管理のあり方を根本から問い直す契機となります。経営層および現場リーダーが明日から取り組むべきアクションは以下の3点です。

  1. 自社が抱える取扱品目を「AI自動化対象」と「人による判断対象」に分類する

通年で需要が安定している定番品と、販促や季節影響を受ける変動品を明確に切り分けてください。すべての品目を一度に自動化しようとせず、まずは定番品の発注計算をAIやルールベースの仕組みに委ねることで、現場担当者の業務負荷を速やかに軽減する環境を整えます。

  1. サプライヤーとの「発注前内示データ」の共有ルールを策定する

確定発注の直前まで社内に留めている需要見込みデータを、計画段階でサプライヤーへ開示できる業務フローを検討してください。事前に計画を共有することで、相手先の生産ラインや配車手配にどのような余力が生まれるかをヒアリングし、自社とサプライヤーの双方がメリットを享受できる情報連携の協調領域を構築します。

  1. 現場の「例外判断」を記録するデータ収集プロセスを設計する

担当者が発注数値を増減させた際、その「理由(天候急変、競合動向、特売対応など)」をテキストやフラグとしてシステム上に記録する習慣を徹底してください。属人化を排除する第一歩は、暗黙知を否定することではなく、暗黙知が行使された背景を客観的なデータとして蓄積することから始まります。

物流を単なるコストセンターとして捉える時代は終わりを告げました。需要・在庫・発注・輸送を一体で捉え、サプライチェーンの上流から下流までをデータでつなぐ企業だけが、将来にわたってモノを安定供給し続ける競争力を確立できるのです。


出典: 物流(ロジスティクス)ニュース LNEWS
出典: 株式会社Hacobu プレスリリース
出典: キリンホールディングス ニュースリリース
出典: 農林水産省「令和5年度 食料・農業・農村白書」

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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