公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)は2026年9月10日、東京ビッグサイトで「物流統括管理者連携推進会議(J-CLOP)」の第1回会議を開催しました。本会議には行政の担当省庁をはじめ、荷主企業や物流事業者など126社から157名が参加しました。
改正物流効率化法の全面施行とJ-CLOP発足の背景
2026年4月1日、改正物資の流通の効率化に関する法律(物流効率化法)が全面施行されました。この法改正では、前年度の年間取扱貨物重量が9万トン以上の荷主および連鎖化事業者が「特定荷主」に指定され、役員・執行役員クラスからの物流統括管理者(CLO)選任、物流効率化に関する中長期計画の策定・提出、毎年度の定期報告が義務付けられました。
特定荷主の届出社数は3,000社を超え、各社でCLOの配置が進んだものの、自社単独での取り組みだけではトラックドライバーの待機時間削減や積載率向上に限界があるという課題が浮き彫りになりました。こうした背景から、荷主同士や物流事業者が協調領域で連携し、実効性のあるサプライチェーン改革を推進するための産官学プラットフォームとして、JILSが「物流統括管理者連携推進会議(J-CLOP:JILS CLO Partnership)」を発足させました。
制度改正から第1回推進会議開催までの経緯
物流関連法改正の成立からJ-CLOPの本格始動に至るまでの経緯とスケジュールは以下の通りです。
| 年月日 | 主管・主催 | 出来事・施策内容 | 実務への影響 |
|---|---|---|---|
| 2024年5月 | 国会 | 改正物流関連2法の成立・公布 | 荷主企業に対する規制的措置の導入が決定 |
| 2025年4月1日 | 国土交通省・経済産業省 | 判断基準(努力義務規定)の施行 | 全荷主に荷待ち短縮や積載率向上の努力義務適用 |
| 2026年4月1日 | 国土交通省・経済産業省 | 改正物流効率化法の全面施行 | 年間9万トン以上の特定荷主へCLO選任等を義務化 |
| 2026年8月10日 | 日本ロジスティクスシステム協会 | J-CLOPの設立・メンバー募集開始 | 業界横断のCLO相互連携プラットフォームが始動 |
| 2026年9月10日 | 日本ロジスティクスシステム協会 | 第1回 物流統括管理者連携推進会議開催 | 官民126社157名が集い課題共有と対話を開始 |
| 2026年10月末 | 特定事業者(荷主等) | 初年度「中長期計画」の提出期限 | 2028年度KPI達成に向けた具体的な施策を提出 |
J-CLOPは、JILS会員企業であれば無料で参加でき、非会員企業も年額132,000円で参画できるオープンな枠組みを採用しています。物流への経営層の関心が高まった結果、JILSの会員企業数は約1,100社に達し、過去最高を更新しています。
参考記事: JILS、9月10日にJ-CLOP始動|荷主連携で物流統括管理者の課題解決へ
J-CLOPの組織構成と2つの参加区分
J-CLOPでは、課題を抱える荷主企業だけでなく、現場を支える物流事業者やITベンダーが対等なパートナーとして対話できるよう、2つの参加区分を設けています。
| 区分名称 | 主な対象企業・団体 | プラットフォーム内での主な役割 |
|---|---|---|
| 荷主メンバー | 特定荷主、特定連鎖化事業者、一般荷主 | 自社の枠を超えた共同輸送や標準化などの協調領域に関する協議・実践 |
| 共働メンバー | 物流事業者、3PL、IT・マテハンベンダー、研究機関 | 荷主CLOに対して専門的な技術や物流ソリューションを提案・協働支援 |
単に荷主だけで閉じた議論に終わらせず、実務を担う「共働メンバー」を組織内に組み込むことで、現場の実態に即した施策検討を可能にしています。
第1回会議における官民代表者の登壇内容
2026年9月10日に東京ビッグサイトで開催された第1回会議では、関係省庁や業界団体のキーパーソンが登壇し、CLOが果たすべき役割と連携の意義について発言しました。
| 登壇者 | 役職・所属 | 発言の要点 |
|---|---|---|
| 大野 泰 氏 | JILS副会長/ファミリーマート 執行役員 物流本部長(物流統括管理者) | 2030年に輸送能力の34%が不足する試算に触れ、物流は経営戦略の成長エンジンであり自社最適からサプライチェーン全体最適への移行が不可欠と強調。 |
| 正岡 孝 氏 | 国土交通省 物流・自動車局 物流政策課長 | 物流効率化法の目玉はCLOであり、改革の中心として企業間連携が鍵になると言及。関係省庁一丸で支援する方針を表明。 |
| 佐藤 猛行 氏 | 経済産業省 商務・サービスグループ 流通政策課長 併 物流企画室長 | 物流をコストセンターではなく経営の中心に据え、全社横断の変革とサプライチェーン全体最適化の2点を要請。 |
| 原田 達 氏 | 農林水産省 大臣官房 新事業・食品産業部 食品流通課長 | 食品流通の鮮度保持や多段階構造の課題を挙げ、個社の限界を超える業界横断の持続可能な物流構築を訴求。 |
| 北條 英 氏 | JILS理事/JILS総合研究所長 | 財務指標ROIC(投下資本利益率)とロジスティクスの関係を解説し、CLOは社会的価値を含む企業価値向上を担う人材であると定義。 |
後半のプログラムでは、業種や業界の異なる参加企業が混ざり合う「情報交換ラウンドテーブル」が実施され、荷待ち削減や共同配送の実現に向けた課題共有が行われました。
参考記事: 日本ロジスティクスシステム協会、34%輸送不能にCLO主導改革を提言
サプライチェーン各プレイヤーに及ぶ影響
J-CLOPの本格稼働とCLOによる企業間連携の進展は、小売、製造、行政、物流事業者の各主体の力学に直接的な影響を与えています。
小売・流通業:協調領域の拡大による納品効率化
ファミリーマートをはじめとする小売業態では、店舗への多頻度小口配送や配送ルートの重複が積載効率低下の主因となってきました。J-CLOPのような横断組織が機能することにより、競合するコンビニチェーンやスーパーマーケット間での共同配送、夜間納品の共通化、バックヤードでの荷受ルールの統一といった協調領域の改革が進みます。
CLOが経営陣として社内の商品調達部門や店舗運営部門と直接交渉し、配送条件を緩和することで、運送事業者の待機時間を大幅に短縮させる環境整備が可能になります。
製造業・メーカー:異業種連携による積載率向上とデータ共有
製造業やメーカーにとって、J-CLOPは同業種だけでなく異業種荷主とのマッチング拠点として機能します。例えば、重量勝ちの製品を扱う飲料・建材メーカーと、容積勝ちの製品を扱う日用品・スナック菓子メーカーが連携し、往復輸送での混載や共同幹線輸送を組むことで、積載率の引き上げと輸送コストの抑制が実現します。
また、発荷主と着荷主の間で事前出荷情報(ASNデータ)の仕様を統一し、パレットをT11型などの標準規格に揃える動きが加速します。自社ルールに固執していた商慣行を改めることで、サプライチェーン全体の整流化が図られます。
参考記事: 年9万トン超の荷主に改正物流効率化法での物流統括管理者選任が必須対応に
行政・規制当局:形骸化の防止と中長期計画の実効性担保
国土交通省、経済産業省、農林水産省などの関係省庁にとって、J-CLOPは法規制を実効化するための重要な推進エンジンです。改正法では、特定荷主に対して中長期計画の提出や定期報告を義務付け、改善が見られない場合には勧告、企業名の公表、さらには最大100万円の罰金といったペナルティを設けています。
単なる罰則適用による取り締まりにとどまらず、J-CLOPのようなプラットフォームを通じて成功モデルを共有させることで、形式的な書類作成に陥りがちな中長期計画の実効性を高め、2028年度KPI(荷待ち時間削減、積載効率向上)の達成を後押しする狙いがあります。
参考記事: 改正物流効率化法で100万円の罰金も!特定荷主が備えるべきCLO対策
運送・物流事業者:下請け構造から対等な共創パートナーへの転換
従来の運送事業者は、荷主から提示された一方的な運行条件や長時間の荷待ちを受け入れざるを得ない立場にありました。しかし、J-CLOPの枠組みに「共働メンバー」として参画することにより、荷主のCLOに対して現場の実態データを直接提示し、改善策を共同で企画する「ロジスティクス・プロデューサー」としての立ち位置を獲得できます。
デジタルタコグラフや動態管理システムの客観データを基盤に、荷待ち時間の改善や適正運賃の収受、附帯作業の契約分離を交渉できる環境が整いつつあります。
参考記事: 船井総研SCコンサル新刊、特定荷主3200社が直面するCLO改革の要諦
LogiShiftの視点:制度対応から「企業価値向上」への構造転換
J-CLOPの本格始動が示す本質的な変化は、物流が「現場のコスト削減対象」から「経営戦略の中核」へと位置付けを完全に改めた点にあります。荷主企業の売上高物流コスト比率は2024年度に5.44%へ上昇しており、運送業界の処遇改善が進めば7%台に達すると試算されています。もはや物流費の抑制を現場任せにすることは、企業の収益構造を破綻させるリスクを伴います。
第1回会議において、JILS総合研究所長の北條英氏がROIC(投下資本利益率)と物流の相関性を提示したことは象徴的です。過剰在庫の削減(運転資本の圧縮)、リードタイムの適正化による物流拠点の最適配置(固定資産の効率化)、そして共同物流による輸送原価の低減は、すべてROICの向上に直結します。CLOは単なる法令遵守の担当者ではなく、資本効率を高めて企業価値を創出する最高経営層の一角として機能しなければなりません。
さらに、経済産業省の佐藤猛行室長が指摘した通り、CLOに求められる最大の任務は社内の「部分最適の打破」です。営業部門の無理な短納期対応や製造部門の過剰生産に対し、職務権限規定に基づいた「物流改善命令権」を行使できるかどうかが問われています。J-CLOPの場を単なる異業種交流会で終わらせず、そこで得た標準化や共同化の枠組みを自社内のガバナンス改革へとフィードバックできる企業だけが、2030年に予測される輸送力不足を乗り越えることができます。
参考記事: フィジカルインターネットセンターが示す2026年4月CLO義務化への必須対応
まとめ:明日から意識すべき3つのアクション
J-CLOPの立ち上げに伴い、特定荷主をはじめとするすべての企業は、自社の物流体制を再点検し、具体的な行動を起こす必要があります。明日から取り組むべき優先アクションは以下の3点です。
- 自社のCLOに対する社内権限の再確認と規程整備
CLOが営業や製造部門に対して商慣行の変更を命じられる「物流改善命令権」が職務権限規程に明文化されているかを確認します。名ばかりの役員選任では、法が求める実効的な計画策定や社内変革を主導できません。
- 10月の中長期計画提出に向けた協調領域の棚卸し
2026年10月末に迫る初年度の中長期計画提出に向け、自社単独で解決できる課題と、他社との共同運行やパレット標準化が必要な協調領域を切り分けます。J-CLOPが10月9日に開催する解説ウェビナーや情報交換会を活用し、計画の実効性を高めます。
- 物流事業者との定期的なデータ共有体制の構築
現場の荷待ち時間や実車率、附帯作業の有無を客観的な数値データとして把握するため、委託先の運送・倉庫事業者と対等に協議できる定例ミーティングを設置します。勘や経験に頼らないデータ主導の改善サイクルをサプライチェーン全体で確立します。
参考記事: 改正物流効率化法2026年義務化!特定荷主に課される3大義務と生存リスク
出典: 物流(ロジスティクス)ニュース LNEWS
出典: LOGISTICS TODAY
出典: 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(J-CLOP規約)



