一般社団法人日本自動車工業会は2026年10月13日、幕張メッセで「Japan Mobility Show Bizweek 2026」を開幕し、商用車メーカーとIT企業による共同展示を開始しました。会場では日野自動車が実証走行55万kmの実績を持つ量産型大型FCトラックを公開したほか、物流スタートアップ各社が荷主間・運送事業者間の積載率を向上させる配車最適化技術を披露しました。
JMS Bizweek 2026で公開された脱炭素車両と共同輸配送技術
2026年10月13日から16日まで開催されている「Japan Mobility Show Bizweek 2026」は、IT・エレクトロニクス総合展「CEATEC 2026」と併催され、「動かし続ける、日本。」を統一テーマに掲げています。日本自動車工業会に加盟する会員メーカー14社の合同展示エリアでは、「水素普及」と「共同物流」という実務直結の2領域に焦点が当てられました。
水素商用車の実用化実績と主要展示車両
大型トラックは国内貨物自動車全体の二酸化炭素排出量のうち約6割から7割を占めており、長距離幹線輸送におけるゼロエミッション化が急務となっています。今回の展示では、実証実験を終えて実運送フェーズへ移行した燃料電池(FC)大型トラックや、既存内燃機関の構造を活かす水素エンジン車が揃いました。
| 車両名称 / 開発元 | 動力方式・主要スペック | 開発・実証の経緯 | 実務運用の特徴・制約要因 |
|---|---|---|---|
| 日野プロフィア Z FCV(日野自動車) | 燃料電池(FCV) 1回充填航続距離:約650km | ヤマト運輸や西濃運輸と延べ55万kmの実証走行を実施 | ディーゼル同等の操作感と低振動。水素タンク搭載による積載容積の制約があり容積勝ち貨物から先行導入 |
| H2IC(三菱ふそうトラック・バス) | 水素内燃機関(水素エンジンコンセプト) | 既存エンジンの燃焼技術をベースに開発 | 既存の部品サプライチェーンや整備インフラを活用しつつ脱炭素化を図る選択肢 |
日野自動車が展示した「日野プロフィア Z FCV」は、2020年10月にトヨタ自動車や荷主・運送大手と合意した走行実証計画から開発が重ねられ、公道実証を経て量産フェーズに移行したモデルです。同社広報の柳澤昌詩氏によると、現場ドライバーからは振動の少なさや無段階変速による荷崩れリスク低減が高く評価されています。一方で、車載水素タンクやスタックの重量・体積が有効積載量を圧迫するため、当面は重量勝ちの金属部品等ではなく、容積勝ちの軽量貨物を扱う事業者への提案が中心となっています。
また、水素充填インフラの拠点数不足が商用運行ルートの制約となっている点に対し、同社は社会的なインフラ網整備に向けて業界内の協調を促しています。
参考記事: FCVトラック入門|ディーゼル車・EVとの比較から導入メリット・手順まで徹底解説
共同物流を支える動態管理・AI配車アルゴリズムの展示
合同展示の「共同物流」エリアでは、車両ハードウェアの進化と連動し、空車回送の削減と積載率向上をソフトウェア面から支援するシステムが公開されました。
| 出展企業 | システム名称・領域 | 主要機能と提供価値 | 解決を目指す物流課題 |
|---|---|---|---|
| 株式会社One Stream | コンテナ物流特化型動態管理システム | 港湾・ドレージ輸送の到着時刻予測と自動配車 | 海上コンテナ輸送における帰り便の空回送解消、複数荷主間のマッチング基盤構築 |
| 株式会社オプティマインド | 配車ルート最適化「Loogia」 / ALGORITHM LAB | 幹線輸送・調達・販売物流を含むSCM全体の配車シミュレーション | 異業種・競合他社間における共同輸送の成立可否判定、CLOの意思決定支援 |
One Stream(名古屋市中区)は、熟練配車担当者の勘に依存していたコンテナ到着予測をデータ化し、動態管理と配車計画を自動連携させる基盤を出展しました。自動車部品調達などで頻繁に発生する「輸入コンテナを届けた後の空コンテナ回送」に対し、輸出入貨物のマッチングと運行ルートの可視化によって実車率を引き上げる枠組みを提案しています。
一方、AI配車システム「Loogia」を提供するオプティマインド(同区)は、ラストワンマイル配送に特化していた最適化エンジンを、調達からアフターパーツ(販売物流)までのサプライチェーン全体へ拡張しました。同社代表取締役社長の松下健氏は、荷姿や配送条件が異なる複数荷主の荷物を組み合わせる際、相性の良し悪しを事前に検証するアルゴリズムの重要性を提示しています。
参考記事: 日野自動車、4社連携の実証にNeLOSS提供|共同配送の積載率を最適化
水素商用車・共同物流プラットフォームを巡る開発時系列
商用車の電動化と共同輸配送の標準化は、個社単独の開発から複数企業・競合メーカーによる連合体制へと段階的に移行してきました。
| 年月 | 出来事・発表内容 | 参画主体・対象領域 |
|---|---|---|
| 2020年10月 | 大型FCトラック走行実証の基本合意 | トヨタ、日野、ヤマト運輸、西濃運輸、アサヒGHD、NLJ |
| 2023年5月 | 水素燃料電池大型トラックの公道実証走行開始 | トヨタ・日野製車両を使用し、関東〜関西間の幹線輸送等で検証 |
| 2025年9月 | 量産型大型FCトラック「日野プロフィア Z FCV」発表 | 日野自動車(累計走行実績40万km達成時に量産化を公表) |
| 2025年10月 | JMS 2025にて水素エンジン「H2IC」コンセプト初公開 | 三菱ふそうトラック・バス |
| 2026年4月 | 日野自動車と三菱ふそうの持株会社「ARCHION」設立 | 両社の経営統合による商用車事業基盤の共通化 |
| 2026年10月 | JMS Bizweek 2026開幕、脱炭素車両と共同輸配送技術を合同展示 | 日本自動車工業会会員14社、オプティマインド、One Stream等 |
日野自動車と三菱ふそうトラック・バスは、2026年4月に持株会社「ARCHION(アーチオン)株式会社」を設立して経営統合を実施しました。展示会場において日野自動車の柳澤氏は、国内市場における過度な値引き競争から脱却し、環境対応技術やCASE領域において協調体制を構築する重要性を説明しました。さらに、いすゞ自動車を含む国内競合他社とも規格共通化を進め、アジアを中心とするグローバル市場での競争力維持を図る構想を明らかにしています。
荷主・運送・ITベンダーに及ぶ実務への影響
会場で示されたゼロエミッション車両の実装と業界横断型アルゴリズムの進化は、サプライチェーンを構成する各事業者の実務オペレーションに直接的な変化をもたらします。
運送事業者:航続距離と積載特性に応じた運行ダイヤの再設計
運送事業者は、FC大型トラックの現場導入にあたり、従来の軽油給油を前提とした運行管理体制を改める必要があります。
日野プロフィア Z FCVの航続距離は1充填あたり650kmであり、東京〜大阪間(約500km)の片道運行は無充填で走破可能です。ただし、水素ステーションの配置場所と営業時間が限定されているため、途中で充填を行う長距離ダイヤを組む場合は、配送ルート上にステーションを組み込んだ運行計画の固定化が求められます。
また、車両総重量の法規制上限に対し、水素タンクとスタックの重量分だけ最大積載量が減少します。運送事業者がFC大型トラックを配車する場合、積載重量の制限にかかりにくい日用品、スナック菓子、発泡スチロール、断熱材などの容積勝ち貨物を優先的に割り当てる専従運行モデルを設計することが、減トンに伴う収支悪化を防ぐ実務要件となります。
製造業者・荷主企業:CLO主導による競合他社との輸配送枠共有
荷主企業に対しては、2026年4月に施行された改正物流効率化法(物資の流通の効率化に関する法律)により、年間取扱貨物重量9万トン以上の特定荷主を対象とした役員級「物流統括管理者(CLO)」の選任が義務化されました。荷主は自社単独でのチャーター輸送から、他社との混載を前提とした出荷体制への見直しを求められています。
オプティマインドが提示したサプライチェーン全体の配車シミュレーション機能は、競合するメーカー同士が共通の納品先を持つ場合に効果を発揮します。工場出荷段階の調達物流は生産計画に縛られるため混載の難易度が高いものの、完成品倉庫から流通センターへ配送する販売物流や、全国の拠点へ届ける補修用アフターパーツの領域では、他社貨物との混載余地が大きく残されています。
CLOは、自社製品の容積・重量マスターデータを高精度に整備した上で、AIによる混載シミュレーションを活用し、同業他社との共同運行枠を設定することで、輸送コストの圧縮と積載率改善計画の策定を両立させる体制を構築できます。
参考記事: 物流総括管理者設置義務とは?2026年施行に向けた選任基準と企業が備えるべき実務対策
参考記事: ブレインパッドらCLO向けIT拡大|2026年4月義務化でデータ経営が加速
SaaS・テクノロジーベンダー:個別最適から「成立可否判定」アルゴリズムへの転換
物流ITベンダーに求められるソリューションの要件は、1台のトラックの走行ルートを最短化する「単一事業者内の個別最適」から、複数企業間の条件調整を自律的に行うアルゴリズムへと移行しています。
共同輸送の実務では、納品先ごとの着時間の許容幅(納品ウィンドウ)、荷受け設備の制約(フォークリフト指定、テールゲート必須)、混載禁止品目のルール(臭気移り、危険物混載制限)など、企業を跨ぐ制約条件が複雑に交差します。これらを人手で照合して共同運行計画を作成することは困難でした。
One Streamが着手する海上コンテナ動態の可視化や、オプティマインドが推進する個別企業向けアルゴリズムの設計支援のように、荷姿や走行実績のデータをプラットフォーム上で統合し、「どの荷主とどの運送会社を組み合わせれば積載率が何%改善し、双方がいくらコストを削減できるか」を定量判定するSaaS基盤の需要が高まっています。
LogiShiftの視点:ARCHION統合が加速させるハード共通化とデータ規格の行方
日野自動車と三菱ふそうトラック・バスがARCHIONとして統合した事実は、商用車業界における「競争領域」と「協調領域」の境界線が塗り替えられたことを示しています。これまで国内4社(日野、三菱ふそう、いすゞ、UDトラックス)が過度な値引きを伴って販売台数を競い合ってきた構造は、ディーゼルエンジン単体での利益率低下と、莫大な脱炭素開発投資の負担によって完全に破綻しました。
水素大型トラックの車両本体価格は、ディーゼル車の2倍から3倍に達し、水素燃料の調達コストも軽油に対して割高な水準にあります。このコスト差を吸収するためには、ARCHIONのように車体プラットフォームや燃料電池システムの基盤を共通化し、量産効果によってハードウェアの製造原価を引き下げるアプローチが避けられません。さらに今後は、いすゞ陣営を含めた商用車規格の統一や、水素充填口・ステーション側プロトコルの統一が不可欠となります。
しかし、ハードウェアのコスト低減だけでは、荷主や運送事業者が脱炭素車両を継続運用する経済的合理性は生まれません。ここで鍵を握るのが、オプティマインドやOne Streamが展示した「共同輸配送の自動マッチング」です。
FC大型トラックは積載容積が削られるため、実車率と積載率を限界まで高めなければ1トンキロあたりの輸送原価が跳ね上がります。ARCHIONなどのメーカーが車両コネクティッドデータをAPIとしてオープン化し、独立系SaaSのAIエンジンと直結させることが求められます。
車両のリアルタイムなバッテリー・水素残量、現在地、荷室の容積余力データをAI配車システムが吸い上げ、複数荷主の貨物を自動で割り付ける運行エコシステムが構築されて初めて、商用車の脱炭素化と物流の積載効率向上は両立します。競争すべきは自社のトラック本体を売ることではなく、運行稼働率を最大化させるデータ連携基盤をいかに標準化できるかに移っています。
明日から意識すべきこと
展示会で示された技術と協調モデルを自社の実務に落とし込むため、物流担当者および経営層は以下の実務に着手する必要があります。
- 自社貨物の容積・重量データと納品制約のデジタル整備
AI配車や共同輸配送のシミュレーションを実行するためには、荷物の外装寸法(縦・横・高さ)、実重量、パレット積載可否の正確なマスターデータが前提となります。製品マスターの寸法登録漏れや、納品先拠点の荷受け制限時間(納品ウィンドウ)のアナログ管理を解消し、システム間で受け渡し可能な形式に構造化してください。
- 容積勝ち・重量勝ちの運行系統仕分けと水素車両の適合調査
自社が運行・委託している長距離便の中から、積載重量の上限に達する前に荷室が埋まる「容積勝ち貨物」の運行系統を抽出してください。1運行あたりの走行距離が600km前後のルートについて、経路上に商用車対応の水素ステーションが存在するかを確認し、将来的なFCV大型トラック導入候補ルートとしての実務的成立性を精査してください。
- 同業他社・近隣荷主とのアフター領域における共同輸送検討
調達物流に比べて荷主間の利害調整がしやすいアフターパーツ配送や補修部品輸送を対象に、同業他社との配送ルート重複状況を棚卸ししてください。物流子会社や委託先運送事業者に対し、帰り便を活用したラウンド輸送や他社荷物との混載シミュレーションの実施を要請し、車両積載率向上に向けた具体的な共同化プロジェクトを立ち上げてください。
出典: logi-today.com
出典: 一般社団法人日本自動車工業会
出典: 日野自動車株式会社
出典: 株式会社オプティマインド


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