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Home > 輸配送・TMS> 国土交通省の適正原価タリフ試算は標準比33%減、下限とモデルの二層構造へ
輸配送・TMS 2026年10月14日

国土交通省の適正原価タリフ試算は標準比33%減、下限とモデルの二層構造へ

国土交通省の適正原価タリフ試算は標準比33%減、下限とモデルの二層構造へ

国土交通省が制度設計を進めるトラック運賃の「適正原価」について、距離制タリフ(運賃表)形式で試算した金額が現行の標準的な運賃比で約33%低下することが判明した。適正原価が運賃引き下げ圧力として作用することを避けるため、同省はタリフ自体の告示を見送り、実際の交渉では利潤を上乗せした「モデル運賃」を活用する方針をとっている。

距離制適正原価の試算結果とタリフ非告示に至る制度設計の経緯

トラック運送業界の取引適正化に向け、国土交通省は法的な運賃フロア(下限規制)となる「適正原価」の制度設計を進めている。この過程において、設計中の距離制適正原価をタリフ(運賃表)形式に落とし込んで試算したところ、走行距離ごとの運賃額が現行の「標準的な運賃」と比べて約33%低下(約3分の2水準)する結果が示された。

実車率の算定基準変更がもたらす運賃水準の低下要因

運賃額が標準的な運賃と比べて約33%低下する主因は、制度算定における「実車率」の取り扱いにある。

現行の標準的な運賃(2024年3月告示)は、片道運行で復路に荷物がない状態を想定した「実車率50%」を前提に積算されている。これは、復路で生じる燃料費、ドライバーの人件費、車両償却費などの運行コストを往路の運賃に内包させることで、実運送事業者の採算性を担保する仕組みである。

これに対し、適正原価制度の検討では、復路運行のコストを運賃収受の基礎から切り離し、走行実績に応じた実車率を反映させる方向で議論が進められている。国土交通省の「自動車輸送統計年報」(2024年度実績)によると、トラックの平均実車率は63.43%であり、車格別では6.5トン以上11トン未満が54.18%、11トン以上16トン未満が70.05%となっている。実績に近い実車率を算定式に代入すると、片道運行を前提に積算されていた往路あたりの距離単価が大幅に目減りする構造が生じる。

タリフ告示の見送りと「モデル運賃」を併用する二層構造

仮に適正原価を距離別のタリフ表として可視化・告示した場合、荷主側から「国の公認価格」とみなされ、現行運賃の引き下げ交渉の口実に使われる懸念がある。全日本運輸産業労働組合連合会(運輸労連)も有識者検討会において、国が原価基準の客観的数値を提示することで「その水準だけ支払えば十分である」と誤認されるアンカーリング現象への警戒感を示している。

こうした実勢運賃の切り下げ圧力を回避するため、国土交通省は適正原価をタリフ形式で告示しない方針を固めた。適正原価は法令遵守に必要な最低限の原価(下限規制)として算定式などで管理するにとどめ、実際の運賃交渉現場では適正な事業報酬(利益)を上乗せした「モデル運賃」を活用する二重の枠組みを敷く。

適正原価制度を巡るこれまでの経緯と今後の法制定スケジュール

適正原価制度は、2025年6月に公布された「改正貨物自動車運送事業法(トラック適正化二法)」に根拠を置く。公布から3年以内となる2028年6月までの全面施行に向け、以下の工程で制度設計が進められている。

時期 政策動向・制度決定事項 運送市場への影響
2020年4月 初代「標準的な運賃」告示 実車率50%前提で交渉の努力目標として導入
2024年3月 「標準的な運賃」改定告示 平均約8%引き上げ、荷役・待機料を別建て明記
2025年6月11日 トラック適正化二法公布 法的拘束力を持つ適正原価の創設、許可5年更新制が確定
2026年7月17日 第1回 適正原価有識者検討会 適正原価の積算要素、実車率、多重下請けの議論着手
2026年8月26日 第2回 適正原価有識者検討会 モデル運賃の活用方針、原価計算実態調査の公表
2026年10月1日 第3回 適正原価有識者検討会 経団連・新聞協会等ヒアリング、実車率の論点整理
2026年12月(予定) 検討会による提言取りまとめ 算定式構造、実車率取り扱い基準の最終確定
2027年春(予定) 国土交通省による基準告示 適正原価算定基準およびモデル運賃の提示
2028年6月まで 適正原価制度の全面施行 下限割れ継続事業者への事業許可更新拒否を適用

参考記事: 国土交通省の適正原価、標準運賃比35%減試算で下限タリフ210円へ

適正原価とモデル運賃の制度設計上の相違点

今後の運賃交渉では、下限を定める適正原価と、推奨値を定めるモデル運賃という2つの基準が存在することになる。

項目 適正原価(下限規制) モデル運賃(交渉指標)
制度の役割 運賃ダンピングの抑止・法令遵守基準 荷主との価格交渉における指標提示
利潤の算入 一切含まない(コストのみ) 適正な利潤を上乗せ
提示形態 個別運行データを代入する「算定式」 直感的に参照可能な「タリフ(運賃表)」
法的効力 拘束力あり(違反継続で許可更新拒否) 拘束力なし(合意形成の目安)
基準運賃差 標準的な運賃比で約33%低下水準 標準的な運賃と同等以上の水準を想定

参考記事: 国土交通省の実車率50%見直し、新タリフ最大半額で収益悪化に直結

運賃の二重基準化がサプライチェーン各層に与える実務的影響

適正原価のタリフ非告示とモデル運賃の導入による二重基準化は、運送事業者、荷主企業、行政当局のそれぞれに異なる実務対応を要求する。

運送事業者(実運送・元請)

運送事業者にとっての最大のリスクは、告示されないはずの適正原価水準(標準比約33%減)が市場に漏れ伝わり、荷主側から契約価格の基準として悪用される点である。国土交通省の調査(2026年7月公表)によると、トラック運送事業者の赤字割合は約48%〜63%に達し、保有車両10両以下の小規模事業者の営業利益率はマイナス2.3%と厳しい収益環境にある。利潤を一切含まない適正原価水準で運賃が固定化されれば、事業継続は不可能になる。

また、国土交通省の調査では、中小運送事業者の23%が自社の正確な原価計算を実施できていない。これまでは標準的な運賃のタリフをそのまま提示することで一定の価格転嫁を進めてきた企業が多いが、タリフが告示されない適正原価制度のもとでは、自社の運行データ(稼働時間、走行距離、待機時間、燃料費、人件費)を根拠として提示できなければ、荷主優位の交渉を押し返せない状況に直面する。

元請事業者においては、適正原価制度の施行に伴い、下請運送会社へ支払う委託運賃が適正原価を下回った場合に処分対象となる。荷主から十分な運賃を収受できないまま下請へ適正原価以上を支払わざるを得ない場合、元請事業者のマージンが圧縮される構造的リスクを抱える。

参考記事: 国交省標準運賃、53%が収受5〜7割止まりで強制力欠如が課題

製造業者・荷主企業

荷主企業に対しては、適正原価を下限とする規制への適合と、輸送力確保に向けたモデル運賃の受容という2つの判断が求められる。中小企業庁の「価格転嫁円滑化施策フォローアップ調査」(2026年3月)において、トラック運送業の価格転嫁率は全32業種中31位〜32位と最下位水準にある。行政による監視が強まる中、荷主が一方的に適正原価ぎりぎりの価格設定を強要する行為は、トラック・物流Gメンによる「働きかけ」や「要請・勧告」の対象となるリスクが高い。

特に、帰り荷の確保が困難な専用便や不定期輸送を委託している荷主は、実車率の向上に向けた具体的な協力体制の構築を迫られる。復路が空車にならざるを得ない運行形態の場合、運送事業者から往復コストを反映した運賃を求められるケースが増える。荷待ち時間の短縮や検収作業の迅速化、帰り荷を確保しやすい運行スケジュールへの変更など、拘束時間の削減につながる運用の改善を行わなければ、運送事業者から車両の配車を断られる事態が生じる。

行政・規制当局

国土交通省および規制当局は、2028年6月までに導入される事業許可の5年更新制において、適正原価制度を実効性のある法規制として機能させる責任を負う。適正原価を下回る取引を継続する事業者に対しては許可更新の拒否(市場からの退出)を適用する方針を掲げており、厳格な監査体制の整備が必須となる。

一方で、最低ラインの適正原価が独り歩きして実勢運賃の相場全体を引き下げないよう、モデル運賃をいかに市場へ浸透させるかが制度設計上の重要課題となっている。下限規制によるダンピング排除と、モデル運賃によるドライバー処遇改善の両立という、相反する要請を調和させる運用基準の策定が求められている。

参考記事: 国土交通省の適正原価検討会、10月に論点整理|運賃単価35%減の試算も|

LogiShiftの視点:原価主義の二重基準化が突きつける「実車率データ」の武器化

法令による運賃規制の強化が進む一方で、原価基準の算定方法によって運賃水準が二重化し、データに基づいた透明性の高い価格交渉が業界標準へと移行しつつある。この構造的変化において、運送事業者と荷主企業が直視すべきは「実車率」という変数の扱いである。

従来の標準的な運賃制度において、実車率50%は運送事業者の非効率を保護するクッションとして機能していた。しかし、国交省の統計で平均実車率が63.43%と示され、適正原価の積算から復路コストが切り離されようとしている現在、固定的なタリフに頼る価格防衛はもはや成り立たない。

今後、運送事業者が利益を確保するためには、運行ごとの実車率データを正確に可視化し、荷主との交渉において論理的な根拠として突きつける能力が不可欠となる。「この運行は帰り荷が確保できない専用輸送であるため実車率は50%であり、復路コストの負担がなければ適正原価を割り込む」という事実を、デジタルタコグラフや動態管理システムのログデータから客観的に証明できなければ、荷主主導で高めの実車率(60〜70%水準)を適用され、距離単価を約33%削り落とされる。

適正原価(下限)とモデル運賃(推奨)が併存する環境下では、自社の運行実績データを持ち得ない事業者は下限値に引きずり落とされ、データを武器に運行実態を証明できる事業者のみが適正利潤を確保できる。運賃交渉の主戦場は、タリフの当てはめから、運行データの開示と分析による「原価の論理的立証」へ完全にシフトしたと捉えるべきである。

まとめ:明日から自社オペレーションで見直すべき着眼点

制度の告示が予定される2027年春、そして施行期限である2028年6月を見据え、各企業が着手すべき実務対応は明確である。

  1. 自社の運行実態における「実車率」の車格別・荷主別再集計

デジタルタコグラフや配車管理システムの運行履歴データを洗い出し、ルートごと・荷主ごとの平均実車率を車格別に算出する。統計平均(63.43%)を大きく下回る片道専用便を特定し、適正原価ベースでの収支シミュレーションを先行して実施する。

  1. 車両固定費・変動費・人件費を網羅した原価計算体制の確立

中小運送事業者の23%が原価計算未実施である実態から抜け出し、自社のキロ単価および時間単価の原価構造を可視化する。タリフ非告示の方針に対応するため、国交省が提示する適正原価算定式へ自社実績を即座に代入できる管理フォーマットを構築する。

  1. 荷主との契約における「片道運行コスト」と「付帯作業料」の別建て明確化

標準比約33%減の試算値が荷主側の値下げ交渉の根拠として利用されるリスクに備え、現行契約書の改定を進める。復路コストの負担割合、待機時間料、積込・取卸料を基本運賃から分離し、運行実態に基づいた個別対価として収受する契約条件へ移行する。


出典: 物流ウィークリー
出典: 国土交通省 第2回適正原価の設定に向けた有識者検討会資料
出典: 国土交通省 第3回適正原価の設定に向けた有識者検討会資料

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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