ネスレ日本と明治は、千葉港と堺泉北港を結ぶ海上フェリー航路を活用し、関東〜関西間におけるトレーラー無人航送のラウンド輸送を2026年10月19日より順次開始する。全行程の運行管理を郵船ロジスティクスが担い、往路と復路で異なる荷主の荷物を組み合わせることで、従来のトラック単独輸送に比べて年間CO2排出量を約56%削減する。
千葉〜関西を往復する無人航送ラウンド輸送の全容
今回の取り組みは、関東から関西への往路と、関西から関東への復路で荷主を入れ替えて1台のトレーラーシャーシを運用する共同ラウンド輸送である。陸上区間はトラクターヘッドによる牽引(ドレージ輸送)を行い、海上区間はトラック荷台部分(シャーシ)のみをフェリーに積載する「無人航送方式」を採用している。
往復ルートと運行プロセスの構造
往路では明治の粉ミルク製品を千葉県野田市から大阪府高槻市へ輸送し、復路ではネスレ日本の飲料製品を兵庫県尼崎市から千葉県野田市へと輸送する。発着地はいずれも両社の基幹物流拠点であり、拠点間を直結する長距離陸送を海上輸送へ置き換える設計となっている。
| 運行区分 | 荷主企業 | 出発地(積載拠点) | 経由港湾 | 到着地(荷降拠点) | 主な取扱品目 | 運行開始日 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 往路 | 株式会社明治 | 明治野田倉庫(千葉県野田市) | 千葉港 → 堺泉北港 | 明治西日本MDC(大阪府高槻市) | 粉ミルク製品(「明治ほほえみ」等) | 2026年10月19日 |
| 復路 | ネスレ日本株式会社 | ネスレ日本尼崎MDC(兵庫県尼崎市) | 堺泉北港 → 千葉港 | ネスレ日本 野田物流センター(千葉県野田市) | 飲料製品(「ネスカフェ ゴールドブレンド」等) | 2026年10月22日 |
運行頻度は週1往復から開始し、オペレーションの定着を確認しながら順次拡大する計画となっている。
郵船ロジスティクスによる運行統括とシャーシ循環
全行程の一貫手配および動線管理は郵船ロジスティクスが担当する。陸上区間のトラック手配、フェリーの船腹予約、港湾でのシャーシ脱着オペレーションを一括して統括することで、荷主2社間における積載タイミングの調整と車両稼働率の維持を可能にしている。
ドライバーがフェリーに同乗せずシャーシのみを海上輸送するため、港湾での荷台切り離しと接続作業が鍵となる。往路の荷降ろし完了後、空になったシャーシは兵庫県尼崎市のネスレ日本尼崎MDCへ回送され、復路の貨物を積み込んで再び堺泉北港へ搬入される循環ループが確立されている。
参考記事: キッコーマンとネスレ、陸送610kmを船へ転換しCO2約5割削減
長距離幹線輸送の転換による定量データ比較
関東〜関西間の幹線輸送における輸送方式の変更は、環境負荷と運行効率の両面に明確な数値変化をもたらしている。
輸送方式別のスペック比較
従来の大型トラック単独による全線陸送と、今回の海上ラウンド輸送における主要指標の違いは下表の通りである。
| 比較項目 | 従来の大型トラック陸送 | 海上ラウンド輸送(無人航送) | 差異・削減効果 |
|---|---|---|---|
| 長距離陸送区間 | 約600km(全区間走行) | 0km(港湾周辺のドレージのみ) | 長距離運行の完全排除 |
| 海上輸送区間 | 0km | 千葉港〜堺泉北港 | 内航フェリーによる大量一括輸送 |
| 復路の空車運行 | 荷主ごとに空車回送リスクあり | 異業種混載により空荷走行を抑制 | 実車率の向上 |
| CO2排出量 | 基準値(100%) | 約44% | 年間約56%のCO2削減 |
| 運行形態 | ドライバー1名が全区間乗務 | シャーシのみ航送・地場ドライバー対応 | 宿泊を伴う運行の解消 |
トラック単独運行と比べて年間のCO2排出量が約56%削減される試算は、フェリー輸送の高い環境効率と、往復路の実車率向上による相乗効果によるものである。
参考記事: モーダルシフトとは?鉄道・船舶への転換メリットと実務での導入ステップを徹底解説
関連プレイヤーの実務に生じる直接的な影響
本スキームの導入は、荷主メーカー、3PL・物流事業者、運行を担うドライバーの各階層において実務上の変化を生じさせる。
製造業者・荷主企業の実務変化
自社単独で幹線輸送を維持する場合、片道の荷量に対して復路の積載貨物を確保できず、空車運賃の負担や長距離チャーター便の調達難に直面しやすい。本件のように、千葉県野田市周辺と関西圏にそれぞれ拠点を構える異業種メーカー同士が枠組みを共有することで、安定した輸送容量を相互に確保できる。
また、荷主企業に求められるサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量(Scope3)の算定において、幹線輸送区間のCO2約56%削減は具体的な削減実績として算入可能となる。
倉庫事業者・3PLの機能変化
荷主企業が直接フェリー会社や各地のドレージ事業者と個別に契約・調整することは運用の負荷が大きい。本件では郵船ロジスティクスが介在し、両社の出荷計画とフェリーの運航スケジュールを統合管理している。
3PLやフォワーダーには、単一荷主の荷動きを管理するだけでなく、複数荷主の拠点位置、荷姿、運行ダイヤを照合してラウンド運行を成立させるオーケストレーション機能が求められる。
トラックドライバーの就労環境変化
従来の関東〜関西間(片道約600km)の運行では、拘束時間の延長や車中泊を伴う長距離運行が避けられなかった。無人航送方式への移行により、ドライバーの業務は「拠点〜近隣港湾」のピストン輸送(ドレージ運行)に限定される。
長距離走行が不要となることで、運行は日帰り可能な地場輸送の範囲に収まり、拘束時間の大幅な圧縮と労働負荷の軽減につながる。
参考記事: 2026年上期のフェリー・RORO船積載率を国交省が公表、海運モーダルシフトを後押し
LogiShiftの視点:荷主間アライアンスと無人航送が示す幹線物流の必然性
本件の注目すべき点は、ネスレ日本が2026年6月に開始したキッコーマン食品との共同ラウンド輸送に続き、明治との新たな枠組みを立ち上げた点にある。
キッコーマン食品との取り組みでは千葉港〜堺泉北港間の内航RORO船を活用し、千葉県流山市から兵庫県高砂市への調味料輸送と、兵庫県姫路市から千葉県野田市への飲料輸送を組み合わせた。今回の明治とのスキームでも、千葉港〜堺泉北港航路を活用し、野田市を基点とした関西圏との往復動線を構築している。
自社のアセットや単一ルートに固執せず、同じ港湾航路と荷台規格を利用できるパートナーを柔軟に組み替える動きは、幹線物流が「個社ごとのチャーター便運行」から「共用シャーシと定期航路をベースとしたネットワーク型」へと移行している実態を裏付けている。
長距離区間をフェリー・RORO船の定期便に委ね、地上側の集荷・配送を標準化されたトレーラーシャーシで接続する運用形態は、今後の長距離幹線における定石パターンとなる。
参考記事: 2030年の輸送力34.1%不足を打破するJR貨物等の共有戦略
明日から意識すべき自社物流での協調領域検討
幹線輸送の維持に向けて荷主企業および物流事業者が着手すべき実務手順は以下の通りである。
- 自社拠点周辺における異業種荷主の貨物動線調査
自社が長距離輸送を行っている発着地に対し、逆方向の定期需要を持つ近隣事業者をリストアップし、拠点間の距離がドレージ圏内(数十km以内)に収まるパートナーの探索を進める。
- トレーラーシャーシおよび荷姿の互換性検証
無人航送を活用するためには、パレット規格や荷台への積載重量バランスの適合が必須となる。共同運用を想定した車両規格の標準化要件を事前に確認する。
- 航路ごとのフェリー・RORO船ダイヤとリードタイムの再計算
海上輸送の介在により、従来のトラック直行便と比べてリードタイムが半日から1日程度伸長する。受発注サイクルや在庫配置の調整が可能かを現場実務と照合する。



