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Home > 輸配送・TMS> トラック適正化2法で2028年6月適正原価導入|運賃2割上昇への実務対応
輸配送・TMS 2026年10月23日

トラック適正化2法で2028年6月適正原価導入|運賃2割上昇への実務対応

トラック適正化2法で2028年6月適正原価導入|運賃2割上昇への実務対応

国土交通省は2028年6月までにトラック適正化2法を完全施行し、トラック輸送の運賃下限を法的に義務付ける「適正原価制度」を導入します。国が定める適正原価を下回る運賃や料金での契約締結が禁止され、民間試算では運賃水準が約2割上昇する見通しです。

改正法に基づく適正原価制度の導入スケジュールと法的義務

2025年6月11日に公布された「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」(令和7年法律第60号)および「貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律」(令和7年法律第61号)のいわゆるトラック適正化2法に基づき、国土交通省は運送取引の抜本的な適正化を進めています。

「標準的な運賃」から「適正原価」への法的位置づけの変更

従来の「標準的な運賃」は、能率的な経営における原価に適正な利潤を上乗せした推奨指標であり、荷主との交渉を円滑化するための努力目標にとどまっていました。そのため法的拘束力はなく、告示水準を下回る契約であっても直接的な罰則はありませんでした。

新設される「適正原価」は、適正な利潤を含まないものの、事業者が法令を遵守して事業を継続するために最低限不可欠なコストラインとして定義されます。この基準を下回る運賃・料金での取引は法令違反となり、自ら運送を受託する場合だけでなく、下請事業者へ再委託する場合の双方に適用されます。

比較項目 標準的な運賃(現行・順次廃止) 適正原価(2028年6月までに施行)
制度上の定義 能率的経営原価+適正利潤 事業継続に最低限必要な原価(利潤なし)
法的拘束力 なし(交渉の参考指標) あり(下限割れ取引の継続を禁止)
違反時のペナルティ なし 5年ごとの事業許可更新不許可(免許失効)
提示形式 車種・距離・時間別のタリフ表 稼働データを代入する算定式
適用対象 自社受託時の交渉目安 自社受託および下請への再委託の双方

新制度において最も重いペナルティは、同時に導入される「5年ごとの事業許可更新制」との連動です。適正原価を継続して下回る運賃で取引を行っている事業者は、許可の更新が認められず、運送事業免許が失効して市場からの退出を余儀なくされます。

参考記事: 2028年6月全面施行!国土交通省の適正原価制度で運送事業者の淘汰が加速

適正原価制度の導入ロードマップ

トラック適正化2法の公布から2028年6月の全面施行、そして2030年度に予定される事業許可更新審査の本格化に至るまでのタイムラインは以下の通りです。

時期・期日 決定事項および政策動向 荷主・運送事業者への実務的影響
2025年6月11日 トラック適正化2法の公布 適正原価制度と許可更新制の導入が確定
2026年4月1日 1年以内施行分の規定が施行 実運送体制管理簿作成・書面交付の義務化
2026年7月17日 第1回 適正原価有識者検討会 算定式アプローチや原価構成要素の議論開始
2026年10月13日 国土交通大臣が段階導入を表明 2028年6月施行期日は維持し運用を段階化
2026年12月(予定) 有識者検討会の提言取りまとめ 算定式の基本骨子と運用方針の確定
2027年春(予定) 国土交通省による基準告示 適正原価の算定基準およびモデル運賃の提示
2028年6月まで 適正原価制度の全面施行 下限割れ取引の禁止・違反是正の本格適用
2030年度(予定) 事業許可更新審査の本格開始 下限割れ継続事業者への更新拒否の適用

新聞・出版業界など一部の荷主団体からは、深夜早朝の専用便で帰り荷が確保できない輸送特性から運賃が約2倍に跳ね上がる懸念が示され、施行猶予の要望が出されていました。しかし国土交通省は、2028年6月までの法定期日を変更せず、2030年度の許可更新審査開始までの移行期間を活用した段階的適用で激変緩和を図る方針を明言しています。

参考記事: 国土交通省が適正原価の28年6月施行を明言|30年度許可更新に向け段階適用

参考記事: 井林国交相、適正原価制度の段階導入を表明|2028年6月施行へ激変緩和

算定式アプローチと適正原価の構成要素

適正原価は、従来の固定的な運賃一覧表(タリフ形式)ではなく、事業者の運行実態に応じた実績値を代入する「算定式」によって算出されます。

固定的なタリフ表で下限額を告示した場合、荷主側から「国の公認価格」とみなされ、本来利潤を上乗せすべき交渉現場で運賃引き下げの基準(アンカー)として悪用されるリスクがあるためです。国土交通省は、下限基準としての適正原価は算定式で管理し、実際の価格交渉には適正利潤を織り込んだ「モデル運賃」を提示する二層構造を採用します。

適正原価の算定式を構成する要素は以下の通りです。

  • 運賃原価(固定費):
    • 全産業平均を踏まえた適正なドライバー人件費
    • 車両減価償却費、各種保険料、税金
    • 安全確保経費(デジタルタコグラフ・ドライブレコーダー維持費等)
    • 事業継続のための投資原資(採用・教育費、BCP対策費)
  • 運賃原価(変動費):
    • 燃料費、油脂費、タイヤ消耗費、修繕費
  • 料金原価等:
    • 荷扱い作業料、検品料、待機時間料
  • 委託手数料:
    • 下請(実運送事業者)へ再委託する際の適正な手配手数料
  • 実費:
    • 高速道路利用料、フェリー利用代、中継輸送施設利用料

参考記事: [国土交通省の適正原価タリフ試算は標準比33%減、下限とモデルの二層構造へ](https://logishift.net/2026/10/14/post-9704/)

サプライチェーン各層が直面する具体的な影響

適正原価制度の導入と運賃水準の上昇は、トラック運送事業者、製造業者や流通業などの荷主企業、そして輸送現場のドライバーにそれぞれ異なる実務課題をもたらします。

運送事業者:原価割れ取引の排除と許可更新に向けたデータ立証

トラック事業者にとっては、長年続いてきた赤字覚悟の安値競争から脱却し、法令を根拠として荷主に適正な取引条件を求める法的基盤が得られます。2024年度の国土交通省調査によると、トラック事業者の赤字割合は48%に達し、保有車両10台以下の小規模事業者(全体の51.5%を占める)の営業利益率はマイナス2.3%と極めて厳しい状況にあります。適正原価制度は、こうした構造的ダンピングを排除する機能を果たします。

一方で、運送事業者は自社の運行実態を客観的な数値で証明する体制を整えなければなりません。適正原価は算定式に基づくため、走行距離、拘束時間、待機時間、実車率、燃料消費量などの運行データを管理できていない事業者は、収受している運賃が適正原価を満たしているかを行政や荷主に立証できません。

中小事業者の約23%が正確な原価計算を実施できていない現状において、データ管理ができない事業者は2030年度の許可更新時に不許可処分を受けるリスクに直面します。また、元請事業者においては、自社の受託運賃だけでなく、下請運送会社へ支払う運賃でも適正原価以上を担保しなければならず、多重下請けによる中間マージンに依存した事業構造の抜本的な見直しが必須となります。

参考記事: 国交省総括審議官が警告する「市場退出」とは?2028年適正原価義務化と運送業の原価管理対策

製造業者・荷主企業:運賃2割上昇を見据えた調達・配送体制の再構築

民間試算による「運賃約2割上昇」は、製造業や流通業の営業利益を直接圧迫する要因となります。主要32業種調査において、トラック運送業の価格転嫁状況は発注側で最下位(32位)となっており、全国商工会連合会の調査でも運輸業の97%でコスト転嫁が進んでいない実態が示されていました。2028年6月以降は、こうした歪みを放置したまま下限原価を下回る運賃で発注を続けた場合、荷主側も是正指導の対象となります。

荷主企業は、単に値上げ要請を受け入れるだけでなく、輸送効率を改善して総輸送コストの上昇を抑制する施策が求められます。

  • 荷待ち・荷役時間の削減: バース予約システムの導入や検品簡素化により、待機時間料の発生を抑制
  • 積載率の向上: 発注ロットの大型化や納品頻度の見直しによる車両積載効率の改善
  • 共同輸配送の推進: 同業他社や異業種との往復運行ネットワーク構築による実車率の向上

運送事業者が契約を継続する荷主を選別する動きが強まる中、非効率な運用を改善できない荷主は、運賃上昇にとどまらず「トラックを手配できない」という操業停止リスクを負うことになります。

トラックドライバー:賃金格差の是正と下請構造改革による処遇改善

ドライバーにとっては、運賃下限の法制化によって適切な賃金原資が運送事業者に確保されるため、全産業平均を下回る低賃金構造の是正につながります。

厚生労働省などの統計データによると、トラックドライバーの労働時間は全職業平均より約2割長い一方で、年間賃金は全産業平均に比べて約1〜2割低い水準にあります。2026年春闘における運輸労連の妥結額は7,301円にとどまり、全産業平均の1万6,400円と9,000円以上の開きが生じていました。

適正原価の算定式には「全産業平均賃金を踏まえた人件費」が固定費として組み込まれるため、制度の定着に伴って労務費の適正な回収が進みます。また、2026年4月に先行施行された実運送体制管理簿の義務化と合わせ、重層的な中抜き構造が解消されることで、現場でハンドルを握る実運送ドライバーへ正当な対価が行き渡る環境が整備されます。

LogiShiftの視点:下限原価の法制化が変える輸送力調達の前提

適正原価制度の本質は、物流が「荷主主導のコスト削減対象」から「適正対価の支払いが法定義務となる社会インフラ」へと法的に定義し直された点にあります。

これまでの企業間取引では、物流コストは調達交渉における買い叩きやダンピングによって圧縮可能な領域とみなされてきました。しかし、赤字企業が48%に達し、10台以下の零細事業者が営業利益率マイナス2.3%で運行を支える従来モデルは、2028年6月の下限原価義務化と事業許可更新制によって法的に存続できなくなります。

国が利潤を含まない下限原価を定め、それを下回る事業者を市場から退出させる仕組みは、最低限の安全と労務費を担保できない安売り輸送の供給を物理的に遮断することを意味します。荷主企業が直面する運賃2割上昇という試算は、これまで外部不経済としてドライバーや運送事業者に転嫁されてきた潜在的コストが、正規の調達コストとして表面化するプロセスに過ぎません。

今後は、輸送能力を外部から安価に買い叩くモデルから、運送事業者と運行データを共有し、実車率や拘束時間を改善する共同運用モデルを構築できた企業のみが、サプライチェーンの維持に必要なトラック台数を安定確保できる体制へと移行します。

明日から取り組むべき実務対応

2028年6月の全面施行に向け、荷主企業および運送事業者の経営層・現場リーダーが着手すべきアクションは以下の通りです。

  1. 自社の運行データに基づく原価管理基盤の整備

デジタルタコグラフや配車実績データを集約し、運行1件ごとの走行距離、拘束時間、待機時間、燃料費を可視化します。どんぶり勘定から脱却し、自社の運行原価が適正原価を上回っていることを客観的に立証できる体制を2027年春の国交省基準告示までに確立します。

  1. 発着荷主間での待機時間・荷役作業の実態調査

自社の物流拠点におけるトラックの平均荷待ち時間と付帯作業の有無を棚卸しします。2時間を超える待機や契約外の無償荷役が発生している運行については、バース予約の導入や作業料金の別建て契約化を進め、適正原価施行に伴う追加費用の発生を抑えます。

  1. 往復運行と共同配送を前提とした運行ダイヤの再構築

復路の空車運行が多いルートを特定し、求荷求車プラットフォームの活用や取引先との共同輸配送を検討します。適正原価の算定において実車率が厳格に評価されるため、復路の積載を確保して運行あたりの輸送効率を引き上げる取り組みを先行させます。

出典: 日本経済新聞
出典: 国土交通省
出典: 国土交通省 報道発表資料
出典: LOGISTICS TODAY

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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