安田倉庫は2026年10月26日、全社における生成AI利用者率が2026年6月時点で34.6%に達し、中期経営計画で掲げた2027年度目標の20%を前倒しで達成したと公表しました。同社は「営業日に1日1回以上利用した従業員」を1人日として厳格に利用率を算出しており、348人を対象とした計57回に及ぶ現場巡回研修が急速な定着を支えています。
安田倉庫における生成AI利用率34.6%達成の全貌と定着施策
今回の発表で特筆すべき点は、目標の前倒し達成という事実だけでなく、現場における実態を反映した厳格なKPI設定と、草の根的な定着支援プログラムを愚直に実行した点にあります。
営業日「1日1回以上」を厳格に追う利用率算出基準
多くの企業で導入されるSaaSやAIツールでは、「アカウント発行数」や「月間ログイン回数」といった表面的な数値が指標として用いられがちです。しかし安田倉庫が設定した「生成AI利用者率」の計算式は、極めて実態に即した基準を採用しています。
同社では、営業日に1日1回以上生成AIを実際に業務で利用した従業員を「1人日」として集計しています。その上で、年間延べ利用者数(人日)を年間延べ従業員数(人日)で除算して利用率を算出しました。
単にシステムを開いただけのアクセスや、月に数回程度の散発的な利用は除外されます。日常的な実務のルーティンとしてAIを操作している従業員の比率を測る指標であり、この基準で34.6%という数値を2026年6月時点で記録したことは、全社的な業務基盤として定着しつつあることを証明しています。
57回の拠点巡回と348人への実演が生んだ定着プロセス
利用率急伸の直接的な契機となったのが、2025年10月から2026年1月にかけて実施された徹底的な利用支援策です。IT部門主導の画一的なオンライン説明会で終わらせず、本社部門および各営業所への直接巡回を行いました。
研修は座学形式ではなく、各部門の個別業務に即した実演形式で行われました。対象となった従業員は計348人に達し、開催回数は57回を数えます。現場ごとの具体的な伝票処理や文章作成、情報検索などの実業務に生成AIをどう落とし込むかを目の前で実演したことが、利用ハードルを大幅に下げる結果につながりました。
さらに、新入社員研修カリキュラムへの生成AI基礎知識・リスク管理・社内利活用ガイドライン教育の組み込みや、ツールの操作に不慣れな従業員を個別フォローするセミナーおよび専用相談窓口の開設など、多角的な支援体制を敷いています。
定着支援のタイムラインと施策内容の整理
安田倉庫が実施してきた生成AI定着支援の経緯と主要な指標は以下の通りです。
| 時期・期日 | 施策区分 | 対象・規模 | 施策内容と達成状況 |
|---|---|---|---|
| 2025年10月〜2026年1月 | 現場巡回研修 | 本社・営業所(348人) | 計57回実施。実務に即した実演形式で活用法を伝達 |
| 通年施策 | リテラシー教育 | 新入社員・既存社員 | ガイドライン・リスク教育、相談窓口・セミナー開設 |
| 2026年6月時点 | 実績評価 | 全社従業員 | 生成AI利用者率34.6%(2027年度目標20%を前倒し達成) |
| 2030年度(目標) | 長期計画 | 全社従業員 | 生成AI利用者率50%、業務短縮・品質向上の効果検証 |
参考記事: 生成AIの導入で安田倉庫が73名のロジ本部業務を省人化し物流DXが加速
物流サプライチェーン各層に及ぶ波及効果
安田倉庫が示した定着プロセスの成功は、自社内にとどまらず、倉庫事業者やテクノロジーベンダーなどサプライチェーンに関わるプレイヤーに具体的な影響を与えています。
倉庫事業者・3PL:アカウント付与から「日常業務への組み込み」への転換
多くの倉庫事業者や3PL企業において、生成AIの活用は「特定部署でのテスト導入」や「関心の高い一部社員による個人利用」の段階で足踏みするケースが目立っていました。アカウントを一括付与したものの、現場が何に使えばよいか分からず休眠アカウント化するという課題です。
安田倉庫が示した「営業所巡回実演」と「1人日基準のKPI追跡」という手法は、同業他社にとって実効性の高い運用モデルとなります。特に、入出荷指示書の確認や配送会社との連絡調整、日報作成など、拠点ごとにローカルルールが存在する物流現場では、中央集権的なマニュアル配布だけでは利用は広がりません。各営業所の実態に合わせた研修を展開し、利用頻度を追跡する仕組みが、今後の倉庫DX推進における標準要件となります。
テクノロジーベンダー:ツール単体提供から個別業務研修・伴走支援モデルへの需要拡大
物流テックベンダーやSaaS事業者に対しては、提供するソリューションのスコープ変更を促す要因となります。単に高性能なLLM環境やAPIアクセス環境を提供するだけのビジネスモデルは、現場での実利用が進まないリスクを抱えています。
物流現場特有の非構造化データ(FAX、手書きメモ、イレギュラーなメール依頼)をいかに現場社員自身がAIに処理させるかという、具体的なプロンプト設計や業務適用ノウハウの提供が求められます。安田倉庫が57回にわたり実施したような、業務に直結した研修カリキュラムの共同開発や、社内窓口の運用支援といった伴走型コンサルティングの需要が急拡大しています。
参考記事: 三井倉庫ロジスティクスが3年で50人育成するAI人材モデルと物流DX
LogiShiftの視点:PoCを脱却した物流AIが直面する効果測定の壁
物流業界における生成AIの導入は、技術の実現可能性を検証する「PoC(概念実証)」のフェーズを完全に脱却しました。従業員が日々の実務道具としてAIを使いこなす「実務定着・業務成果創出」のフェーズへと構造転換しています。
「利用率」から「創出時間・品質指標」へのKPI再定義
安田倉庫は2030年度の目標として利用者率50%を掲げていますが、今後の最大の焦点は「利用率の上昇」が「営業利益や現場の労働時間短縮」へどのように連動するかという定量的な効果測定です。
ログイン率やプロンプト投入回数を増やすこと自体は、研修や窓口設置といった施策によって達成可能であることが今回証明されました。次の関門は、AI利用によって削減された時間をどのように集計し、創出された時間をどの業務へ再配分したかを可視化することです。例えば、伝票入力の工数が浮いた結果としてトラックの受付待機時間が短縮されたのか、あるいは荷主への改善提案件数が増加したのかといった、実業務の成果指標(KPI)への結びつけが不可欠となります。
現場の非構造化データ処理と基幹業務連携への深化
安田倉庫はこれまでにも、ロジスティクス本部におけるAI-OCR「MOVO Adapter」の導入による帳票入力削減や、シミュレーションソフト「IdeaSim」を活用したマルチピック方式の実装など、現場オペレーションに密着した技術適用を重ねてきました。
全社的な生成AI利用率が34.6%に達した今、日常的なテキスト処理や要約にとどまらず、WMS(倉庫管理システム)やTMS(輸配送管理システム)のデータとLLMを安全に連携させる仕組みが求められます。個別社員のプロンプト処理から、組織的なデータ連携基盤へと活用範囲が深まるかどうかが、2030年度目標である50%達成時の真の企業価値を左右します。
参考記事: 安田倉庫とイデアロジー、人時生産性26%向上を実現した設備投資なきDX
まとめ:明日から現場リーダーが着手すべき実務の棚卸し
安田倉庫の事例が示しているのは、ツールの優劣ではなく「定着プロセスの設計」がDXの成果を分けるという事実です。他社の物流現場リーダーが明日から取り組むべきアクションは以下の通りです。
- 日常業務における「テキスト・情報処理」の棚卸し
日報作成、社内問い合わせ、配送調整メールの作成など、現場担当者が毎日15分以上費やしている言語化・検索作業を特定する。
- ログイン数ではなく「1日1回利用」を基準にした活用頻度の測定
アカウントの有無ではなく、業務ルーティンの中にAI利用が組み込まれているかを測る実質的な利用指標を設定する。
- 現場に出向いた個別業務ベースでの実演研修の計画
一般的な機能説明を省き、現場担当者が実際に扱っている帳票やデータを題材にした実践形式のレクチャーを小規模に繰り返す。



