建値とは?仕切値との違いや実務で役立つ基礎知識と最新のDX戦略を徹底解説とは?

この記事の要点
  • キーワードの概要:建値とは、商品やサービスの基準となる価格のことです。多くの場合、メーカー希望小売価格と同じ意味で使われます。単なる目安ではなく、すべての取引やシステムの基礎となる重要なデータです。
  • 実務への関わり:建値に「掛率」をかけることで、実際の取引価格である「仕切値」や「卸値」が決まります。これらを正確に区別することで、受発注システムへの誤入力を防ぎ、赤字取引を回避して適正な利益を確保できるようになります。
  • トレンド/将来予測:物流2026年問題による物流費の高騰を受け、適正な価格転嫁を行うために建値や仕切値の抜本的な見直しが急務となっています。また、複雑な価格設定やリベート計算の属人化を防ぐため、受発注や見積もり業務のDX(デジタル化)が急速に進んでいます。

「建値(たてね)」とは、単なる価格の目安ではない。企業の利益構造を決定づけ、サプライチェーン全体の商流・物流・金流を統制する極めて重要な「マスタデータ(基準値)」である。物流・流通業界に身を置く実務担当者にとって、建値の正確な理解は、受発注システムやWMS(倉庫管理システム)の安定稼働、そして適正な利益確保のための絶対条件となる。

しかし、現場では「仕切値」や「卸値」との混同による重大な価格設定ミス、複雑化するリベート計算による属人化、さらには物流費高騰に伴う価格転嫁の失敗など、建値にまつわるトラブルが後を絶たない。本記事では、建値の正確な定義から、商流における仕切値との違い、オープン価格への歴史的変遷、そして物流2026年問題を見据えた価格管理のDX戦略に至るまで、実務に即した深い知見をもって徹底解説する。

目次

建値(たてね)とは? ビジネス・商流における正確な定義

物流・流通業界において、「建値(たてね)」は日々の受発注システムや見積書、メーカーとの商談などで頻繁に目にする言葉である。辞書的な定義を最速で述べるならば、建値とは「商品やサービスの基準となる価格」を指す。

しかし、単なる「基準となる価格」という表層的な理解のまま現場に出ると、仕切値や卸値との混同を招き、重大な価格設定ミスや利益の圧迫を引き起こしかねない。近代的なサプライチェーンマネジメント(SCM)において、建値はすべての取引の起点となるマスターデータ(MDM:Master Data Managementにおける中核要素)として機能する。本セクションでは、言葉の正確な意味を押さえつつ、商流や物流の最前線で建値がどのように運用されているのか、そのリアルな実態に迫る。

建値の2つの主な意味(メーカー希望小売価格・相場の基準)

日本の商習慣において、建値には大きく分けて2つの意味が存在する。

  • メーカー希望小売価格としての建値:消費財メーカーなどが設定する「希望小売価格」と同義で使われるケースである。この建値を基準として、卸売業者や小売業者に対する「掛率(かけりつ)」を掛け合わせることで、実際の取引価格である「仕切値」や「卸値」が決定される。この一連の仕組みを「建値制」と呼ぶ。建値制の下では、建値に対してリベート(割戻し)の条件が複雑に絡むため、最終的な利益率を正確に把握する高度な管理が求められる。また、建値を実態以上に高く設定し、店頭で不当に安いと誤認させる行為は「二重価格表示」として景品表示法や独占禁止法に抵触するリスクがあるため、コンプライアンス上の細心の注意が必要である。
  • 相場の基準としての建値:銅やアルミなどの非鉄金属、鋼材といった市況商品において、大手メーカーが発表する国内販売の「基準価格」を指す。物流実務においては、この建値が変動することで、原材料の調達コストが変化し、ひいては荷主企業に対する運賃の価格転嫁のタイミングを図る重要な先行指標となる。

【物流現場・実務における建値運用のリアル】

表面的な言葉の意味以上に現場を悩ませるのが、ERP(統合基幹業務システム)やWMS(倉庫管理システム)における「商品マスタの単価設定」と運用保守である。システム上、基本となる単価マスタには「建値」を登録し、得意先ごとの「掛率マスタ」や「リベート条件」と紐付けて、自動で仕切値を算出するのが一般的な商流のIT化である。

恐ろしいのは、システム障害時の対応である。万が一、クラウドネットワークの障害などで受発注システムやWMSが完全にダウンし、自動計算による出荷指示が止まりそうになった場合を想像してほしい。優秀な物流センター長は、システム復旧をただ待つことはしない。ローカル環境や紙でバックアップしておいた最新の「建値一覧(Price List)」と「得意先別掛率表」を用いて、アナログ(電卓やExcel)で仮納品書・仮ピッキングリストを作成し、物理的なモノの流れを決して止めない強固な運用体制(BCP:事業継続計画)を構築している。つまり建値は、平時の基準価格であると同時に、システムトラブル時における「最後の拠り所」となる絶対的な基準値なのである。

為替・金融市場における「建値」との違い

物流・流通業界における建値と、為替や金融市場における建値は、言葉は同じでも使われる文脈や性質が大きく異なる。実務者が混同して社内コミュニケーションの齟齬を生まないよう、以下の表に違いをまとめる。

比較項目 物流・流通・商流における「建値」 為替・金融市場における「建値」
主な意味 商品の基準価格(メーカー希望小売価格など) 取引の基準となる為替レートや約定価格
変動性 基本的には固定(期首や一斉の価格改定時にのみ変更) 市場の動きに合わせて秒単位・日単位で激しく変動
関連する専門用語 建値制、仕切値、卸値、オープン価格、掛率、リベート 為替予約、スポットレート、ポジション建値
実務上の主な影響 卸売価格の決定、利益率の計算、物流費の価格転嫁交渉 決済通貨の換算レート決定、為替差損益の計上

例えば、世界的な原油価格や原材料の高騰による価格転嫁を行う際、国内営業部門は「流通における建値の引き上げ」を交渉の主眼に置くが、輸入原材料を扱う購買・調達部門は「為替建値の変動」を睨みながらコスト計算を行う。同じ社内のS&OP(セールス・アンド・オペレーションズ・プランニング)会議であっても、部門によって「建値」という言葉が指す定義が異なるケースがあるため、新任担当者は文脈のすり合わせを意識することが重要である。

建値の英語表現(quotation / price list)

グローバルなサプライチェーンにおいて、建値を正確な英語で伝えることは、越境での商流構築や海外展開において不可欠である。実務上、建値は文脈に応じて以下の2つの表現が使い分けられる。

  • Quotation(見積価格・建値):特定の顧客に対して、掛率やリベートを加味する前の「提示価格」として使われる。「Could you send me the quotation?(建値・見積もりを送ってくれますか?)」といった形で、価格交渉のスタートラインとなる数字を指す。
  • Price List(定価表・建値表):メーカーが広く一般に公開している基準価格の一覧を指す。海外代理店との契約において、「当社のPrice Listをベースに、〇%の掛率で卸値(仕切値)を決定する」といった建値制の契約を結ぶ際に必須となるマスタードキュメントである。

輸出入の現場では、インボイス(商業送り状)に記載する単価が「建値」なのか「仕切値」なのかで、通関時の申告価格や関税額が大きく変わるリスクがある。そのため、国際物流の手配を行うフォワーダーや通関士に対しては、「このインボイスの単価はディスカウント前の建値(Price List価格)である」旨を明確に伝達し、事後調査等での追徴課税トラブルを防ぐ実務対応が求められる。

図解でわかる「建値」「仕切値」「卸値」の違いと関係性

物流や流通の現場において、価格の名称を正確に定義し、社内の受発注システムやWMSのマスターデータに正しく落とし込むことは、致命的な誤出荷や情報漏洩トラブルを防ぐための第一歩である。ここでは、複雑な商流を可視化し、「建値」と「仕切値卸値)」がそれぞれどのフェーズでどう扱われるのかを整理する。

メーカー・卸・小売から見る流通構造と価格の呼び方

商品がメーカーで製造され、消費者の手に届くまでの商流において、価格の呼び名は取引のフェーズごとに変化する。物流・購買の実務担当者がシステムに入力する「単価」は、このフェーズを正確に理解していなければ、設定ミスによる大規模な請求トラブルを引き起こしかねない。

以下に、一般的な流通構造における価格の名称を整理した表を示す。

取引フェーズ 価格の名称 実務上の意味・役割
メーカー → 卸売業者(一次卸) 仕切値(メーカー仕切値) メーカーから卸売業者へ商品を納入する際の実際の取引価格。
卸売業者 → 小売業者 仕切値卸値・卸売価格) 卸売業者から小売業者へ商品を納入する際の実際の取引価格。
流通全体を通した基準 建値希望小売価格など) 小売価格の基準となる価格。建値制においては、この価格をベースに各業者の仕切値が逆算される。
小売業者 → 消費者 売価(店頭価格) 最終的に消費者が購入する価格。近年は建値ではなくオープン価格を採用し、小売業者が自由に設定するケースも増加。

現場で発生しがちな重大インシデントとして、WMSの納品書出力設定において、本来「仕切値」を印字すべきBtoB向け出荷の帳票に、誤って「建値」を印字してしまい、顧客(小売業者)から「請求金額が全く違う」という猛烈なクレームに発展するケースがある。さらに深刻なのは、二次卸向けの納品書に一次卸の「仕切値」を誤印字してしまう情報漏洩である。商流のどの位置にいるかによって、システムが参照すべき価格マスターは明確に区別されなければならない。

「建値」と「仕切値(卸値)」の決定的な違いとシステム上の課題

建値」と「仕切値卸値)」の決定的な違いは、「基準」か「実際の取引額」かという点にある。

建値は、メーカーが「この商品は店頭でこの価格で売られるべきだ」という意思を込めた基準価格である。一方、仕切値は、建値に対して「掛率(歩引き)」を乗じて算出される、業者間のリアルな決済金額である。

例えば、建値10,000円の商品に対し、メーカーと卸売業者の契約掛率が「6掛け(60%)」であれば、メーカー仕切値は6,000円となる。ここで実務担当者が最も苦労するのが、建値制からオープン価格への移行期や、両者が混在する商品カタログの管理である。受発注システム上で「建値」の項目が空白(オープン価格)であるにもかかわらず、システムが強制的に掛率計算を走らせてしまい、仕切値がエラーでゼロ円になってしまうというシステムトラブルは後を絶たない。

また、建値=小売価格の基準であるからといって、メーカーが小売業者に対して建値での販売を強要することは独占禁止法(再販売価格維持行為の禁止)に抵触する。そのため、あくまで流通全体の目安としての意味合いに留まる。

取引先によって仕切値が変わる理由とKPIへの影響

物流・流通の現場では、「同じ建値の商品なのに、納品先A社とB社で仕切値(卸値)が違う」というのは日常茶飯事である。全取引先で仕切値が同一であるケースの方が稀であり、この変動性が企業の粗利率や営業利益という重要KPIに直結する。取引先によって仕切値が変わる主な理由は以下の通りである。

  • 取引ボリュームと荷姿(ロット割引): 一度の発注量がパレット単位か、ケース単位か、あるいはバラ(ピース単位)かによって、物流センターにおけるピッキング工数や輸送コストが劇的に変わる。そのため、大量一括納品(パレット納品)が可能な取引先には掛率を下げて仕切値を優遇設定する。
  • センターフィーなどの物流協力金: 小売業者が運営する専用の物流センター(TC/DC)を経由して納品する場合、そのセンターの使用料(センターフィー)をメーカー側が負担する商習慣がある。これをあらかじめ仕切値から割り引いて調整するケースが多い。
  • 商流の多層化: 一次卸、二次卸と間に入る業者が増えるほど、各業者の利益(マージン)を確保するために掛率が変動する。
  • 販売促進協力とリベートの前倒し: 特売チラシへの掲載や、棚割りの優遇(エンド陳列など)を条件に、あらかじめ仕切値を引き下げるケースがある。

これらの条件によって取引先ごとに異なる仕切値が設定されるため、営業部門と物流部門の連携が不可欠である。特定の相手にのみ極端に低い仕切値を提供する行為は、独占禁止法上の「不当廉売」や「差別的対価」のリスクを伴うため、例えば「バラ出荷の物流コスト増分を明確に原価計算(ABC分析:活動基準原価計算)し、それに基づいた合理的な仕切値の差を設ける」といった、客観的エビデンスに基づく価格設定が必須となる。

「建値制」と「オープン価格制」の違いと歴史的背景

日本の商習慣において、なぜ建値制が根付いたのか、そして現在なぜオープン価格へと移行しているのか。ここでは、その歴史的背景だけでなく、物流センター内の流通加工やシステム運用に及ぼすリアルな影響、ひいては物流KPIの悪化要因といった現場の最前線の視点から深く掘り下げる。

建値制(メーカー希望小売価格)のメリット・デメリット

建値制(いわゆるメーカー希望小売価格の提示)は、かつての日本の商流において、ブランド価値の保護と市場価格の統制を目的に広く普及した。メーカーが全国一律の「建値」を設定し、そこから問屋や小売への掛率を適用して卸値や仕切値を決定する仕組みである。これに伴い、事後的にリベートを調整することで、メーカー側が流通網を強くコントロールしていた。

物流の現場実務において、建値制は良くも悪くも極めて強力な「物理的制約」を生み出す。

  • メリット:メーカーの製造・包装段階でパッケージに直接価格を印字できるため、小売店や中間の中継物流拠点での値札付け作業を完全に省略できる。また、システム上でも、一つのアイテムコードに対して一つの「建値」をマスタ登録しておけばよく、データ構造が極めてシンプルで済む。
  • デメリット:価格改定(値上げ・値下げ)の際、すでに市場や倉庫内に流通している「旧建値が印字された在庫」の回収という膨大な逆流物流(リバースロジスティクス)が発生する。物流現場では、「旧価格の印字部分に新価格のラベルを寸分違わず手作業で貼る」という、神経をすり減らす流通加工が深夜まで続くことも珍しくなく、これが物流コストを著しく圧迫する。

オープン価格とは? 建値制との明確な違いと現場への負荷

オープン価格とは、メーカーが建値(希望小売価格)を設定せず、最終的な店頭での販売価格の決定権を小売業者に完全に委ねる方式である。現在、家電や日用品をはじめとする多くの業界で主流となっている。

比較項目 建値制(希望小売価格) オープン価格制
価格の決定権 メーカー 小売業者
商流・リベート計算 建値 × 掛率 + 複雑なリベート 実売ベース、または純粋な卸値ベース
物流現場への負荷(流通加工) メーカー側でパッケージ印字済(負荷低) 小売側(または指定の物流センター)で個別値札付け(負荷甚大)
システムマスタの構造 全国共通の「建値」を単一マスタで管理 得意先ごとに異なる販売価格・仕切値を管理

物流現場における最大の違いは、「値札付け(インストアマーキング)」の負担がどこにいくかである。オープン価格制では、商品パッケージに価格が印字されていないため、納品前の物流センター(TC/DC)にて、小売企業独自の販売価格シールを一つひとつ貼る流通加工が爆発的に増加した。これにより、ピッキング後の検品・加工作業エリアが慢性的にパンクし、作業生産性(人時生産性:UPH)が極端に悪化。出荷リードタイムが逼迫するというのが、現代の物流現場が抱えるリアルな悩みである。現在では、この負荷を軽減するために自動ラベラーやAIを活用したピッキングロボットの導入が急務となっている。

オープン価格への移行が進んだ背景(二重価格表示と独占禁止法)

日本でオープン価格制への移行が急速に進んだ最大の理由は、コンプライアンスの厳格化である。かつて小売店では「メーカー希望小売価格(建値)10,000円のところ、当店は半額の5,000円!」といった過激な販促が横行していた。しかし、実際には誰もその建値で買っていないような実体のない価格を基準に値引きをアピールすることは、景品表示法における二重価格表示(不当表示)に該当する。さらに、メーカーが小売に対して建値での販売を強要することは独占禁止法(再販売価格維持行為の禁止)に抵触する。こうした重大な法的リスクを回避するため、メーカーは建値の提示を取りやめざるを得なくなった。

しかし、この「建値の廃止」は、受発注システムや物流運用に新たな脆弱性をもたらした。物流プロフェッショナルの間で最も恐れられているのが、「基準値の不在による、システム障害時の復旧困難さ」である。建値制の時代であれば、万が一クラウドシステムが停止しても、パッケージに印字された価格や共通のカタログ価格をもとに、手書きの納品書を応急的に作成し、トラックの出発時間に間に合わせるという現場の「力技」が可能であった。

しかしオープン価格制の現在、システムが止まれば「この小売店向けの今日の仕切値」を知る術は完全に失われる。単価が印字されていない商品だけが目の前に積まれ、納品書の金額が埋められないため出荷指示が出せず、物流センター全体が完全に麻痺してしまうのである。だからこそ、商流データ(価格・仕切値)と物流データ(個数・納品先)のシステム連携を密にしつつも、WMS単体で「数量ベース」の出荷作業を継続できるようなエッジ処理の仕組みが不可欠となっている。

【実務編】建値を基準とした見積もり・価格交渉とリベートの仕組み

建値は単なる「メーカーが定めた基準価格」という辞書的な意味にとどまらない。実際の商取引において、建値は企業間の利益を分配し、複雑な商流をコントロールするための強力なツールとして機能する。ここからは、物流や流通の最前線で担当者が直面する実務的な運用プロセスと、現場でつまずきやすい落とし穴について深掘りしていく。

建値から「掛率」を用いて仕切値を計算する実務プロセス

BtoBの取引現場において、メーカーから卸売業者、さらに小売業者へと商品が流れる際、実際の取引価格となる仕切値は、建値に対して契約ごとに定められた「掛率」を乗じて算出される。建値制を採用している業界では、この計算がすべての商取引の土台となる。

  • 計算式:建値 × 掛率 = 仕切値
  • 実務例:建値10,000円の商品において、一次卸への掛率が60%であれば、仕切値は6,000円。一次卸から小売店への掛率が75%(※建値に対する掛率の場合)であれば、仕切値は7,500円となる。

近年、消費者向けにはオープン価格を採用するメーカーが増えているが、企業間の受発注実務においては、計算の根拠が不明瞭になることを避けるため、依然として内部的な建値(システム上の仮建値)を設定し、掛率で管理する手法が根強く残っている。営業や購買の担当者は、見積もりを作成する際、「提示された掛率がどの建値を基準にしているのか(旧建値か新建値か)」を正確に把握しなければ、利益相反や原価割れを起こす危険性がある。

日本の商習慣「リベート(割戻し)」の仕組みと目的

建値と掛率によって決まる仕切値だが、実際のビジネスではそれだけで最終的な利益が確定するわけではない。ここで登場するのが、日本の商習慣に深く根付いているリベート(販売奨励金・割戻し)である。リベートとは、一定の期間や条件を満たした取引に対して、事後的にメーカーから卸・小売に対して支払われる(または相殺される)金銭のことである。

なぜ最初から仕切値を下げないのか。理由は「建値を崩さないため」である。建値を安易に下げると、市場でのブランド価値が毀損されるだけでなく、流通在庫の評価額が一気に下落し、商流全体に大混乱を招く。そのため、建値制を維持したまま、実質的な価格調整を行う「安全弁」としてリベートが活用される。

項目 通常の仕切値引き リベート(割戻し)
適用タイミング 取引発生時(事前の見積もり段階) 一定期間経過後(事後決済・月次/年次)
目的 単純な取引価格の決定 販売目標達成、物流協力(一括納入やセンターフィーの相殺)の奨励
現場の注意点 即時利益に直結するため交渉がシビア 条件が複雑化しやすく、未回収リスクや「隠れ赤字」の温床になりやすい

リベートには、売上ボリュームに応じた「数量割戻し」、新商品の導入を促す「導入協賛金」、物流センターの運営費用を補填する「物流協賛金」など多岐にわたる名目が存在する。これらが複雑に絡み合うことで、見かけ上の仕切値では黒字であっても、期末に多額のリベートを差し引かれることで営業利益がマイナスに転落する「隠れ赤字」が発生しやすい。

実務で失敗しない見積もり作成と価格交渉のポイント・隠れ赤字の回避

現場の実務において最も神経を使うのが、原材料費や物流費の高騰に伴う価格転嫁のタイミングである。価格改定が行われる際、メーカーは「建値そのものを引き上げる」か、「建値は据え置きで掛率を引き上げる」、あるいは「リベートの条件を厳しくする」という選択を迫られる。見積もりを更新する際、営業担当者はこの変更意図を正確に小売側に説明し、合意を得なければならない。

さらに、実務担当者を最も苦しめるのが、システム間のマスタ不整合によるエラー停止と、それに伴う泥臭い経理処理である。新旧の建値や掛率が入り混じる切り替え期において、営業部門が合意した仕切値が、期限までに受発注システムに正しく登録されないケースが多発する。

その結果、WMSや出荷システムが「単価エラー」を検知して出荷データを弾き、物流が停止してしまう。この際、現場では納期を守るために、やむを得ず「旧価格(旧建値)」のままシステムを強行突破させて出荷を完了させることがある。その後、本来請求すべきだった新価格との差額を埋めるため、営業部門が後日「赤黒伝票(マイナスの赤伝票で旧価格を打ち消し、プラスの黒伝票で新価格を再計上する修正伝票)」を発行し、売掛金を相殺するというアナログなリカバリー作業が発生する。このようなイレギュラー処理は、経理部門の負担を激増させるだけでなく、監査法人からの指摘事項(内部統制上の欠陥)にも繋がりかねない。

物流2026年問題を見据えた「建値戦略」と価格管理のDX

物流の2024年問題(トラックドライバーの残業上限規制による輸送力不足)に続き、スコープ3(サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量)の可視化・削減義務といった環境規制や、さらなる労働力不足が深刻化する「2026年問題」が迫っている。従来の商習慣である建値制を無批判に維持したままでは、メーカーや卸売業の利益構造は確実に崩壊する。本セクションでは、適正な価格設定のあり方と、現場の混乱を防ぐためのDX(デジタルトランスフォーメーション)について解説する。

物流費高騰による適正な価格転嫁と建値・仕切値の抜本的見直し

長年業界内で固定化されてきた建値や、そこから一定の割合で算出される仕切値のままでは、急激な運賃値上げや倉庫保管料の高騰を吸収しきれない。実務の現場では、物流部門が日々負担している実質的な配送コストと、営業部門が提示する希望小売価格卸値との間に深刻な乖離(物流コストの持ち出し)が生じている。

適正な価格転嫁を実現するためには、単なる「お願いベースの値上げ」ではなく、商流全体の利益配分を再設計する根本的な「建値・仕切値の見直し」が不可欠である。具体的には以下のようなアプローチが現場で求められる。

  • ABC分析(活動基準原価計算)による物流原価の可視化: 拠点間輸送費、ラストワンマイルのチャーター費、庫内荷役費を製品単位・顧客単位で精緻に按分し、原価として明確に組み込む。
  • 物流コスト連動型仕切値の導入: 建値に対する従来の固定的な基準を撤廃し、パレット単位での一括納品か、バラ単位での多頻度小口納品かによって卸値を変動させ、物流効率化に協力する顧客に還元する仕組みを作る。
  • 価格設定方式の転換: あえて形骸化した建値を廃止し、流通業者が自由に価格設定できるオープン価格へ完全に移行することで、メーカー側の価格維持・流通在庫管理にかかるリソースを削減する。

複雑な掛率・リベート管理が引き起こす属人化リスクと組織的課題

現場で最も深刻なのが、「例外だらけの価格設定」による属人化リスクと、部門間のコンフリクト(対立)である。「A小売店は建値の65%の掛率だが、B物流センターへの納品時は物流協力費名目で別途2%のリベートを差し引く」といったブラックボックス化された取引条件が、一部のベテラン営業担当者のエクセルや頭の中にしか存在しないケースは少なくない。

こうした「売上至上主義」の営業部門が、物流コスト(特急便の手配やバラピッキングの労力)を無視して過剰なリベートや低い仕切値を約束してしまうと、物流部門は必死に作業をこなすほど赤字を垂れ流すことになる。このような不透明な取引条件の放置は、優越的地位の濫用や不当な値引き要求による独占禁止法違反のリスクを高め、さらに実態として誰も買っていない高い建値を基準とした大幅な割引アピールは、二重価格表示として景品表示法違反に問われる致命的なコンプライアンスリスクすら孕んでいる。

受発注・見積もりDXによる商取引の効率化とS&OPの実現

こうした属人化とコンプライアンスリスクを払拭し、利益を極大化するためには、BtoB向けの受発注システムの導入による価格管理のDXが急務である。最新のシステムでは、顧客ごとに紐づいた複雑な掛率やリベート条件をマスターデータとして一元管理し、自動で正確な仕切値を算出して見積もりや請求書を発行することが可能となる。

しかし、真のDXを実現するためには、単にツールを導入するだけでは不十分である。導入前に既存の曖昧な建値や属人的な掛率を整理する「マスターデータのクレンジング」を徹底的に行わなければならない。ゴミのようなデータをシステムに入れても、出力されるのはゴミでしかないからだ。

そして、経営、営業、生産、そして物流部門が同一のデータ(建値・原価・物流費)をリアルタイムで共有し、全体最適を図る「S&OP(Sales and Operations Planning:セールス・アンド・オペレーションズ・プランニング)」のプロセスを確立することが求められる。建値という一つのマスタデータを起点に、全社が一丸となって利益を創出する体制を築くこと。これこそが、物流2026年問題という未曾有の危機を乗り越え、強靭なサプライチェーンを構築するための唯一の道である。

よくある質問(FAQ)

Q. 建値とは何ですか?

A. 建値(たてね)とは、企業の利益構造やサプライチェーン全体を統制する価格の基準値(マスタデータ)のことです。主に「メーカー希望小売価格」や「相場の基準」という意味で使われます。受発注システムや倉庫管理システムの安定稼働、および適正な利益確保に欠かせない重要な要素です。

Q. 建値と仕切値の違いは何ですか?

A. 建値が「メーカーが設定した基準となる価格(希望小売価格など)」であるのに対し、仕切値は「メーカーから卸、または卸から小売へ実際に商品を販売する際の取引価格」を指します。これらを混同すると重大な価格設定ミスに繋がるため、実務やシステム上で明確に区別して管理する必要があります。

Q. 建値制とオープン価格制の違いは何ですか?

A. 建値制はメーカーが商品の希望小売価格(建値)をあらかじめ設定する方式です。一方、オープン価格制はメーカーが小売価格を定めず、小売業者が独自に販売価格を決定する方式を指します。不当な二重価格表示の防止や独占禁止法への対応などを背景に、オープン価格への移行が進んでいます。

監修者プロフィール
近本 彰

近本 彰

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。