貨物保険とは?運送保険との違いやインコタームズ、コスト最適化まで徹底解説とは?

この記事の要点
  • キーワードの概要:貨物保険とは、モノを運んだり保管したりする間に起きる破損や盗難などのトラブルから、自社の財産を守るための保険です。運送会社が加入する保険とは違い、荷主が自らの資産を守るために手配します。
  • 実務への関わり:万が一の物流事故が起きた際、運送会社の保険だけでは賠償限度額があり全額をカバーできないケースが多くあります。自社で貨物保険に加入することで、損害による予期せぬ多額の出費を防ぎ、ビジネスを安全に継続できます。
  • トレンド/将来予測:昨今の異常気象や物流業界の人手不足により、事故の潜在的リスクは高まっています。今後はデジタル技術を活用してサプライチェーン全体を可視化し、リスク管理と保険手配をより効率的に行う体制づくりが重視されています。

国際物流や国内サプライチェーンにおいて、日々稼働する「貨物」は企業にとっての生命線であり、動くキャッシュそのものです。しかし、どれほど緻密に構築されたサプライチェーンであっても、天災、事故、システム障害といった不確実性を完全に排除することはできません。万が一の事態が発生した際、企業のバランスシートを毀損から守り、事業継続を可能にする最後の砦となるのが「貨物保険」です。本記事では、物流実務の最前線で求められる貨物保険の基礎知識から、運送約款に基づく賠償責任との決定的な違い、インコタームズとの連動、コスト最適化の手法、さらには物流DXを見据えた次世代のリスクマネジメント戦略まで、圧倒的な深度で徹底解説します。

目次

貨物保険とは?物流リスク管理に不可欠な理由

貨物保険の基本定義と経営における役割

貨物保険とは、海上・航空・陸上の輸送中、あるいは保管中や荷役中に発生した貨物の破損、盗難、紛失などの物理的損害を補償する保険です。特に国際物流においては外航貨物海上保険(Marine Cargo Insurance)と呼ばれ、荷主(輸出入者)が自らの資産を守るために手配する、物流リスクマネジメントの最重要ツールとして位置づけられています。

物流現場に配属されたばかりの担当者や、経営陣ですら陥りやすい罠が、「物流事故による損失は運送会社がすべて負担してくれる」という致命的な勘違いです。自社の貨物を守るために掛ける「貨物保険」と、運送会社が自らの賠償責任をカバーするために掛ける「運送業者貨物賠償責任保険」は、目的も適用範囲も全く異なります。前者は「荷主の資産とキャッシュフローを保護するもの」であり、後者は「運送人の過失が法的に認められた場合のみ発動する、運送人のための防衛策」に過ぎません。この構造を理解しないまま物流網を拡大することは、自社の命運を外部のコントロール不可能な要因に委ねるに等しい行為です。

なぜ加入が必要なのか?想定される過酷な物流リスク

物流ビジネスにおいて貨物保険が必須である理由は、単なる「モノの破損による原価の喪失」を超えて、企業のサプライチェーン全体を麻痺させ、巨額のキャッシュアウトを引き起こす経営的インパクトがあるためです。輸送途上では、以下のような過酷かつ予測不可能なリスクが常に潜んでいます。

  • 荒天によるコンテナの海中落下・荷崩れ:台風や低気圧による本船の激しい横揺れ(ローリング)や縦揺れ(ピッチング)により、コンテナ内部のラッシング(固縛)が破断し、貨物が全損するリスク。最悪の場合、コンテナごと海中へ転落(Wash Overboard)することもあります。
  • 温度変化による結露(スウェットダメージ):赤道直下を通過する航路や、寒暖差の激しい地域を移動する際、コンテナ内部に結露(コンテナスウェット)が発生し、精密機械のショートや食品・アパレル製品の水濡れ・カビ被害を引き起こすリスク。
  • 共同海損(General Average)による分担金の請求:座礁、火災、機関故障などの際、船や他の貨物を救うために船長が意図的に行った犠牲(積荷の投棄など)や発生した費用を、無事だった荷主も含めて全員で負担する海商法上の義務です。自社の貨物が完全に無傷であっても、数百万〜数千万円の分担金を支払う(または保証状を提出する)まで貨物を引き取れなくなり、納期の遅延と莫大な資金ショートを引き起こします。
  • 地政学的リスクとトランシップ(積み替え)時の盗難:港湾ストライキの長期化による保管中の劣化や、第三国でのトランシップ時に発生するコンテナの抜き取り盗難。特に高単価な電子部品や医薬品は、組織的な窃盗団の標的になりやすい傾向があります。

これらの事象が発生した場合、重要KPIとなる「事故起因のキャッシュフロー悪化率」や「サプライチェーンの停止日数」を最小限に食い止める手段は、迅速に保険金を受け取り、代替品の再手配資金へ充当すること以外にありません。

「貨物保険」と「運送保険」の決定的な違い

荷主企業の資産を守る「貨物保険」

実務担当者が検索エンジンで「運送保険 違い」と調べる背景には、この2つの保険の責任範囲の混同があります。結論から言えば、これらは「誰の、何を守るためのものか」という根本が異なります。
「貨物保険」とは、自社の貴重な資産である貨物そのものを守るために、荷主自身が任意で手配する保険です。最大の強みは、「運送業者の過失の有無に関わらず、偶然かつ外来の事故による貨物の損害であれば補償される」という点です。例えば、台風によるもらい事故や、原因不明の火災であっても、貨物保険の補償対象(オールリスク条件等)に含まれていれば、保険会社から直接、荷主に対して保険金が支払われます。

運送業者の賠償責任をカバーする「運送保険」

対して「運送保険」とは、実務上運送業者貨物賠償責任保険と呼ばれるもので、運送会社、フォワーダー、倉庫業者が加入します。これは「荷主の貨物を守るための保険」ではなく、「輸送中の過失によって荷主から損害賠償を請求された運送業者が、自社の倒産を防ぐためにかける保険」です。
物流現場で「弊社は上限5,000万円の保険に入っているので安心してください」と営業マンが語ることがありますが、これは「いかなる事故でも5,000万円まで無条件で弁償する」という意味では決してありません。運送業者の保険が発動するのは、あくまで「運送業者側に重大な過失があり、かつ法的な賠償責任が認められた場合」に厳格に限定されます。

実務上の落とし穴:運送業者の保険だけでは不十分な理由(賠償限度の壁)

「運送会社が保険に入っているから」と自社の貨物保険手配を怠ると、事故発生時の求償(クレーム)業務で地獄を見ることになります。実務上、運送業者に全額賠償を求めることを阻む「3つの分厚い壁」が存在します。

  1. 不可抗力による免責の壁: 台風、地震、津波といった天災、不可避なもらい事故、突然の急病による事故など、運送業者側に「無過失(不可抗力)」が認められる場合、運送業者は免責事項を盾に法的賠償責任を負いません。当然、運送業者の保険は1円も下りず、荷主の貨物損害は全額自社被りとなります。
  2. 国際条約および運送約款に基づく「責任限度額」の壁: 仮に運送業者の過失が認められたとしても、運送約款や国際条約(ヘーグ・ヴィスビー規則、モントリオール条約など)によって賠償額の上限が厳格に定められています。例えば、航空輸送では「1キログラムあたり22SDR(特別引出権:約4,000〜4,500円程度)」といった重量ベースの限度額が適用されるのが一般的です。1箱1,000万円の精密半導体が全損しても、重量が10kgであれば数万円しか賠償されないという残酷な実態が現場には存在します。
  3. 示談交渉の長期化と立証責任の壁: 運送業者の保険を使って賠償を受ける場合、「どこで、誰の過失で壊れたのか」を荷主側が立証する責任を負うケースが多く、過失割合の算定や保険会社の調査に数ヶ月〜年単位の時間を要します。その間、代替品の再手配にかかる莫大なコストはすべて荷主の持ち出しとなります。

これらの壁を飛び越え、迅速な資金回収を図るためには、荷主自身の手による貨物保険の包括手配が絶対条件となります。

貨物保険の種類と補償範囲・対象外となるケース

外航貨物海上保険と内航(国内)貨物海上保険の違い

荷主企業が手配する貨物保険には、大きく分けて国際輸送(輸出入)を対象とする外航貨物海上保険と、国内における拠点間移動や配送を対象とする内航(国内)貨物保険があります。

  • 外航貨物海上保険: 原則として、輸出地の倉庫を出発してから輸入地の倉庫に到着するまでの「Door to Door(一貫輸送)」をカバーします。国際的な約款である「ICC(協会貨物約款)」に基づき、インコタームズに応じた付保義務の明確化が必要です。
  • 内航貨物保険: 国内の工場から港のコンテナヤード(CY)までの輸送や、国内の物流センター間のトラック輸送を対象とします。特に、FOB条件等で輸出を行う際、本船積載前(リスク移転前)の国内区間で外航保険が適用されない空白期間を埋めるために極めて重要な役割を果たします。

具体的に補償される事故・損害の範囲(ICC約款の理解)

外航貨物海上保険の補償範囲は、契約する約款の条件によって劇的に変わります。現在主流となっている2009年協会貨物約款(ICC: Institute Cargo Clauses)には、広範なものから順に (A), (B), (C) の3つの基本条件があります。

  • ICC(A)条件(旧オールリスク条件): 貨物に生じた物理的な滅失・損傷を「原則としてすべて」カバーする最も広い条件です。荷役中の落下、航海中の他貨物との接触、悪天候による海水濡れ、盗難・不着、海賊被害など、実務で想定される大半のリスクが対象となります。
  • ICC(B)条件 / ICC(C)条件: 火災、爆発、船舶の座礁・沈没・衝突、共同海損犠牲などの「重大な海難事故」等に限定して補償する条件です。ICC(C)では、荷崩れによる単なる破損や、波しぶきによる水濡れ、盗難などは補償されません。

現場の実務担当者は、単価の安い鉄鉱石やバルク貨物でない限り、基本的には「ICC(A)条件」を選択して手配すべきです。ケチってICC(C)で付保した結果、コンテナの雨漏りで製品がサビだらけになっても一切補償されないという悲劇が絶えません。

要注意!保険金が支払われない「免責事項」とサーベイヤー対策

どんなに手厚いICC(A)条件であっても、保険会社が支払いを拒否する免責事項が約款に明記されています。物流現場で最もトラブルになりやすいのが以下の3点です。

  1. 梱包の不備・不適切なバンニング: 荷主またはその委託業者が行ったコンテナ内での固定(ラッシング)不足や、想定される輸送の揺れに耐えられない不十分な外装梱包。
  2. 遅延による損害: 航海日数の延長、通関トラブル、港湾ストライキ等に起因する「納品遅れ」による市場価値の下落や、取引先からの違約金請求(これらは物理的損害ではないため免責)。
  3. 貨物固有の瑕疵(かし)・自然の消耗: 時間経過による自然な目減り、通常の環境下で発生する発酵や変質など。

実務において圧倒的に揉めるのが「梱包不良」と判定されるケースです。輸入地でコンテナの扉を開けた際(デバンニング時)に製品が破損していた場合、現地のサーベイヤー(第三者の損害鑑定人)が調査に入ります。この時、「輸出時のラッシングが甘かった」「カートンの強度が足りなかった」と報告書に記載されれば、保険金は一円も下りません。
これを防ぐため、プロの物流担当者は、倉庫業者に対して「バンニング完了直後、およびコンテナドアを閉める直前の多角的な写真撮影」をマニュアル化し、証拠保全を徹底しています。また、遅延免責に対しては、WMS(倉庫管理システム)停止時やストライキ発生時を想定した迂回ルートの確保や、代替品の航空便(エアフレイト)手配スキームといったBCPをあらかじめ構築しておくことが求められます。

インコタームズ(貿易条件)と保険手配の実務ルール

CIF・CIP条件における「売主」の保険手配義務

貿易・物流実務において、「インコタームズ 保険」の取り決めは、単なる費用負担の線引きではなく、リスクコントロールの主導権をどちらが握るかという極めて戦略的な要素です。
CIF条件(運賃・保険料込み)およびCIP条件(輸送費・保険料込み)では、売主(輸出者)が外航貨物海上保険を手配し、保険料を負担します。しかし、実務の現場で輸入者が直面する最大の課題は、「売主が手配した保険の補償内容が、自社の求める基準を満たしていない」というトラブルです。

インコタームズ2020の規定では、CIF条件における売主の保険手配義務は、最低限のカバーである「ICC(C)条件」で良いとされています。売主は自社のコストを最小化するため、最も貨物保険 料率の安い条件を選ぶ傾向があります。もし買主(輸入者)がICC(A)レベルの広範な補償を求める場合は、売主にその旨を契約で要求し追加の保険料を負担するか、自らで補足的な保険(コンティンジェンシー保険など)を掛ける防衛策が必要です。なお、CIP条件ではインコタームズ2020から原則「ICC(A)条件」が義務付けられましたが、戦争・ストライキ特約(War & Strikes Clauses)などの付帯状況は、船積み前に保険証券(Insurance Policy)のドラフトを入手して必ず目視確認する体制が不可欠です。

FOB・CFR条件におけるリスク移転のタイミングと空白期間の回避

買主(輸入者)が自ら保険を手配するFOB条件(本船渡し)やCFR条件(運賃込み)において、実務上の最大の防衛線となるのが「リスク移転(危険負担)」のタイミングの正確な把握です。

インコタームズ上、FOB条件等でのリスク移転の分岐点は「貨物が輸出港で本船の甲板に置かれた(On Board)瞬間」です。ここで深刻な実務課題となるのが、「輸出国の内陸部(工場から港のCYまで)における輸送中・保管中の事故」です。この区間はまだリスク移転前のため売主の責任となりますが、売主が国内用の適切な保険を手配しておらず、運送業者の賠償限度額の壁に阻まれて資金回収ができず、代替品の再出荷が暗礁に乗り上げるケースが多発します。

この「保険の空白期間」を回避するため、百戦錬磨の物流プロフェッショナルは、自社が輸入手配する外航保険に「FOB Attachment Clause(FOB買付貨物特約)」を付帯します。これにより、法的(インコタームズ上)にはリスク移転前であっても、売主の工場を出庫した時点から自社の保険でカバーできる強力なバックアップ体制を敷くことが可能になります。

実務で迷わない保険手配のスケジュールとBCP体制

保険手配の手続きは、「本船出港前」に完了させることが絶対原則です。実務では、フォワーダーから船積通知(Shipping Advice)やB/Lのドラフトを受領した即日、遅くとも出港日までに保険会社へ申し込みを済ませる必要があります。出港後に海難事故のニュースを見てから慌てて遡及手配(後乗せ)をしようとしても、保険会社には一切引き受けてもらえません。

しかし、現場では「急な船積みスケジュールの前倒し」や「フォワーダーからの連絡遅延」が日常茶飯事です。手配漏れを防ぐため、一定規模以上の企業は、1年間の全貨物を自動的にカバーする「包括予定保険(オープンカバー / オープンポリシー)」を導入し、手配漏れ(無保険状態)の発生率ゼロをKPIとして徹底しています。
さらに踏み込んだ実務の極意として、「WMS(倉庫管理システム)がサイバー攻撃等でダウンした際のバックアップ体制」があります。WMSが止まり、保険代理店へのデータ連携が途絶えた場合、現場の担当者が手書きのパッキングリスト等から「インボイス金額・船名・出港日」の3点のみを抽出し、保険代理店へ緊急で「仮手配(Provisional Declaration)」を電話やFAXで通達するアナログなエスカレーションフローを構築しておくこと。こうした泥臭いフェイルセーフこそが、システム障害と物流事故の同時発生という最悪のシナリオから企業を救います。

貨物保険の保険料(料率)の決まり方とコスト最適化

貨物保険の「料率」を決定する主要な要素

貨物保険の導入や見直しフェーズにおいて、物流部門や経営層が直面する課題が「保険料コストの妥当性と最適化」です。保険会社が提示する貨物保険 料率は、ブラックボックスではなく、過去の膨大な事故データと荷主の申告内容に基づくリスク評価の積み重ねで決定されます。主に以下の要素が厳格に審査されます。

  • 貨物の性質・種類: 精密機器やガラス製品などの「破損リスク」、高級アパレル、スマートフォン、医薬品などの「盗難リスク」、食品の「温度変化リスク」が評価されます。
  • 梱包状態: カートン(段ボール)、クレート(すかし木箱)、密閉木箱、スチールパレットなど。簡易梱包は料率が高く設定され、堅牢な梱包は割引の対象となります。
  • 輸送モードと区間・航路: 海上か航空か。また、直行便かトランシップ(積み替え)が発生するか。積み替え回数が増えるほど荷役ダメージのリスクが高まるため、料率は上がります。危険海域や政情不安な地域を経由する場合も割増となります。
  • 過去の損害実績(ロス・レコード): 該当企業の過去3〜5年間の保険金請求履歴。支払った保険料に対して受け取った保険金の割合(ロスレシオ)が高いと、次年度の更新時に料率が跳ね上がります。

保険金額の設定ルールと保険料の計算方法

貨物保険の保険料は、原則として「保険金額 × 貨物保険 料率」という極めてシンプルなロジックで計算されます。しかし、実務で担当者を悩ませるのが「適切な保険金額の設定」です。

国際貿易における標準的な保険金額(Insured Value)の設定ルールは、「CIF価格(商品代金+運賃+保険料)の110%」です。なぜ10%を上乗せするのかというと、貨物が滅失・損傷した際に、単なる原価を補填するだけでなく、「無事に届いていれば得られたはずの期待利益(バイヤーズ・プロフィット)」や、輸入通関にかかった費用、事故対応のための諸経費をカバーするためです。万が一の事故時に「原価分しか戻ってこないため、利益計画が狂う」という事態を防ぐための先人の知恵と言えます。

自社の物流コストを抑える!保険料削減の実践的ポイント

保険料は単なる「掛け捨ての固定費」ではなく、物流・調達プロセス全体を見直すことで大幅に最適化できる「コントロール可能なコスト」です。以下の3つのアプローチを実践することで、強固なリスク管理とコスト削減を両立できます。

  1. 包括予定保険(オープンカバー)の徹底活用と申告の自動化: 都度個別に保険を掛けるのではなく、年間の全輸出入案件をひとつの保険会社にまとめる包括契約を結ぶことで、スケールメリットにより料率が劇的に下がります。さらに、基幹システムやWMSから出力された月次の出荷実績(CSVデータ)を保険会社へ一括申告するフローを構築し、見えない事務工数(人件費)を大幅に削減します。
  2. 免責金額(ディダクティブル / フランチャイズ)の戦略的設定: 保険契約に「1事故につき5万円までは自己負担」といった免責金額を設定することで、ベースの保険料率を大きく引き下げることが可能です。数千円程度の軽微な外装凹みなどの小額クレームは自社で吸収し、船舶の座礁やコンテナ丸ごとの水濡れといった「経営を揺るがす甚大事故」にのみ保険機能の焦点を絞る、メリハリのあるリスクファイナンス戦略です。
  3. 梱包のアップグレードによるトータルコストダウン: 「梱包材のコストをケチった結果、事故が多発して保険料率が跳ね上がり、さらに事故対応の事務工数で大赤字になる」というのは物流現場のよくある失敗です。高額な精密機器の輸出において、強化段ボールから木箱へ変更し、内部にショックウォッチ(衝撃検知シール)やティルトウォッチ(傾斜検知シール)を貼付して荷役業者にプレッシャーを与えることで、保険会社からのリスク評価が劇的に向上します。結果として、梱包費用の増加分を上回る保険料の削減と、クレームゼロによる顧客信頼を獲得できるのです。

次世代の物流課題を見据えた貨物保険戦略とDX

物流危機(2024年・2026年問題)による事故リスクの増大

これまでの貨物保険手配は、「決まったフォーマットに従って都度書類を作成し、FAXやメールで依頼する」という属人的な業務が主流でした。しかし、日本の物流業界を取り巻く環境は劇的な変化の只中にあります。2024年の残業時間上限規制、そしてトラックドライバーや庫内作業員不足がさらに深刻化する2026年問題。これらは単なる「モノが運べなくなる」問題に留まらず、「荷扱い品質の低下による事故リスクの急増」という形で現場に牙を剥いています。
未経験の派遣作業員や不慣れなドライバーが急増することで、ターミナル内でのパレット落下事故や、フォークリフトの誤操作による外装破損が多発しているのが現実です。このような環境下において、「運送会社の賠償責任保険があるから大丈夫」という考えは完全に時代遅れです。運送業者の経営体力も限界に近づいており、不可抗力や免責条項を厳密に主張してくるケースが増加しています。自社のバランスシートを守るためには、広範な補償範囲を持つ自社手配の貨物保険の重要性が、かつてないほど高まっています。

サプライチェーン可視化と保険手配プロセスのDX(組織的課題の克服)

DX推進時において、多くの企業が直面する組織的課題が「部門間のサイロ化」です。営業部門がインコタームズを決定し、物流部門が手配を行い、法務・財務部門がリスクを管理するという縦割り構造の中では、情報の分断による「保険の手配漏れ」や「二重掛け」が頻発します。
次世代の物流リスクマネジメントにおいては、これらをつなぐ保険手配プロセスのDX化が必須です。具体的には、自社のERPやTMS(輸配送管理システム)と保険会社のシステムをAPI連携させ、出荷データに基づいて自動的に保険を付保する仕組みの構築です。

  • 自動付保の実現: インコタームズの条件マスターをシステムが参照し、自社で付保が必要な取引(CIFの輸出、FOBの輸入など)のみを自動判定してAPIで保険会社へデータ転送し、電子保険証券(e-Policy)を即時発行する。
  • リアルタイムの追跡連携: サプライチェーン可視化ツールと連携し、貨物の現在位置と、台風の進路や港湾ストライキの発生エリアを重ね合わせて検知。事故の予兆があれば即座に迂回手配を促し、万が一被災した場合は自動で保険会社へ初動通知を行う。

これにより、ヒューマンエラーを撲滅し、属人的な手配業務から解放された担当者を、より戦略的な物流企画業務へシフトさせることが可能になります。

時代に適応した自社に最適な保険会社の選び方

これからの時代、複数の保険会社を比較検討する際、単なる保険料率の安さだけで選ぶのは非常に危険です。事故が起きた際の「現場復旧までのスピード」と「システム連携の柔軟性」こそが、物流を止めないための生命線となります。物流実務の責任者が保険会社を選定する際は、以下の次世代基準を必ずチェックしてください。

  • グローバルなサーベイヤー網とクレーム対応力: 海外の現地サーベイヤー(損害鑑定人)のネットワーク網が強固であり、事故発生時に現地での調査・査定、そして保険金支払いが迅速に行われるか。
  • DX・システム対応力: 自社システムとのAPI連携実績があり、データの一括取込や電子証券の柔軟な運用に対応しているか。
  • リスクコンサルティング機能の有無: 単なる「事故発生時の財布」としてではなく、過去の事故データの分析や、梱包改善の現場指導、IoTデバイスを活用した輸送環境テストなど、損害防止活動(ロスプリベンション)を共に実行してくれるパートナーであるか。
  • 特殊貨物への適応力: 自社の扱う特殊貨物(厳密な温度管理が必要な医薬品、リチウムイオン電池などの危険品、超精密機器)に合わせた専用特約や、免責事項の個別交渉に柔軟に応じる引受ノウハウを持っているか。

物流DXを推進するにあたり、経営層や実務リーダーは、自社の貿易条件やシステム環境を再棚卸しし、最新のテクノロジーと最適なパートナーシップを活用して「手配漏れゼロ」「補償漏れゼロ」の強靭な物流基盤を構築することが求められます。

よくある質問(FAQ)

Q. 貨物保険とは何ですか?なぜ必要なのですか?

A. 貨物保険は、輸送中の貨物が天災や事故等で損害を受けた際、荷主の金銭的損失を補償する保険です。万が一の事態から企業のバランスシートを守り、事業継続を可能にするために加入が必要です。運送業者の賠償責任には限度があるため、荷主自身の自衛策として不可欠な役割を担います。

Q. 貨物保険と運送保険の違いは何ですか?

A. 貨物保険は「荷主」が自身の資産である貨物を守るために手配する保険です。一方、運送保険は「運送業者」が輸送中の事故に伴う荷主への損害賠償責任をカバーするために加入します。運送約款に基づく運送業者の保険だけでは、賠償限度額の壁により損害を全額カバーできないことが多く注意が必要です。

Q. 貿易における貨物保険は誰が手配するのですか?

A. インコタームズ(貿易条件)によって保険手配の義務者が決まります。例えば、CIFやCIP条件では「売主」に保険を手配する義務があります。一方、FOBやCFR条件では途中で買主にリスクが移転するため、買主自身で保険を手配しなければなりません。空白期間による無保険状態を防ぐことが実務上重要です。

監修者プロフィール
近本 彰

近本 彰

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。