- キーワードの概要:食料システム法とは、資材費や物流費の高騰を取引価格へ適正に反映させ、持続可能な食料供給網を維持するための法律です。環境負荷低減を目指す「みどりの食料システム法」とは異なり、適正な価格交渉や取引環境の整備に主眼が置かれています。
- 実務への関わり:食品メーカーや物流事業者は、コスト増加分に関する適切な協議や取引条件の見直しといった努力義務に対応する必要があります。また、パレット標準化や共同配送などの物流合理化を進めることで、コスト削減と法対応を同時に実現できます。
- トレンド/将来予測:2025年の成立以降、サプライチェーン全体で適正な対価の支払いや価格転嫁を進める動きが加速します。同時に、AIを用いた需給予測やコールドチェーンのデジタル化による環境配慮型物流の導入が強く推奨されます。
「みどりの食料システム法」(2022年7月施行)と「食料システム法」(2025年6月成立)は、名称こそ類似しているものの、法制度が目指す目的と事業者に求められる対応方針は明確に異なります。前者は脱炭素をはじめとする環境負荷低減を推進するための支援枠組みであり、後者は資材費や物流費の高騰を取引価格へ適正に反映させる取引環境の整備を促す枠組みです。
- みどりの食料システム法と食料システム法の違いと制度の全体像
- 2つの法律の成立背景と目的の違い(環境対応と持続可能な取引)
- 生産から加工・流通・消費まで:対象となる事業者の範囲
- 食品・物流事業者に求められる「努力義務」と法的な影響
- 飲食料品等事業者に課される2つの努力義務(持続的調達と適正対価)
- 農林水産物・食品の流通合理化に向けた物流側の対応要求
- 「みどり認定」を取得する具体的メリット:補助金・税制優遇・金融支援
- 税制優遇(投資額の税額控除・特別償却)と日本政策金融公庫の低利融資
- 関連補助金における採択加点措置と主要な対象事業
- 申請から計画認定・支援受給までの4つの実務ステップ
- コールドチェーン最適化と共同物流による環境負荷低減のDX施策
- 共同配送・パレット標準化・運行最適化による温室効果ガス削減
- スマートコールドチェーンと温湿度データ管理による食品ロス低減
- AI需給予測と在庫最適化による食品サプライチェーンの省エネ化
- 法対応・環境対策を加速させる自社行動チェックリストと実務手順
- 【フェーズ別】現状把握からみどり認定取得までの実務チェックリスト
- 持続可能な取引方針の策定とサプライチェーンパートナーとの連携手順
みどりの食料システム法と食料システム法の違いと制度の全体像
| 比較項目 | みどりの食料システム法 | 食料システム法(新法) |
|---|---|---|
| 正式名称 | 環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律 | 食品等の持続的な供給を実現するための食品等事業者による事業活動の促進及び食品等の取引の適正化に関する法律 |
| 施行時期 | 2022年7月施行 | 2025年6月成立・段階的施行 |
| 制度の主眼 | 環境負荷の低減・脱炭素化の推進 | 持続可能な供給網の維持・適正な価格形成 |
| 事業者の関わり方 | 計画認定による税制優遇や補助金等のインセンティブ活用 | 適正な取引条件の維持・価格交渉に関する努力義務 |
2つの法律の成立背景と目的の違い(環境対応と持続可能な取引)
みどりの食料システム法は、2021年策定の「みどりの食料システム戦略」を法制化した施策です。気候変動に伴う生産リスクや、輸入化学肥料・化石燃料への依存低減を目的とし、サプライチェーン全体での環境負荷低減と脱炭素化を推進しています。事業者が「環境負荷低減事業活動実施計画」等の認定を受けることで、税制上の特例や関連補助金での優先採択といった直接的な支援措置を獲得できる仕組みです。
一方、2025年に成立した食料システム法(旧・食品等流通法を改正・拡充)は、原材料費・燃料費・人件費の急激な上昇に対して適正な価格転嫁が行われにくい取引構造を是正するために制定されました。農林水産省の調査において、農林漁業者や関連事業者の価格転嫁率が50%台にとどまっていた実態を踏まえ、生産・加工・流通の各段階で発生する合理的な費用を価格に反映させるための公的なプロセスの構築を目指しています。
生産から加工・流通・消費まで:対象となる事業者の範囲
両制度とも、農林漁業者から加工メーカー、卸売・小売事業者、物流・倉庫業者に至るまで、食に関わる全事業者を対象と定めています。
現場におけるアプローチとして、みどりの食料システム法では「環境配慮型の設備投資や技術導入」を行う事業者が主な対象となります。例として、自然冷媒を用いた省エネ型冷蔵倉庫の建設や配送ルート最適化システムの導入にあたり、計画認定を通じた金銭的・金融的支援を受けるケースが該当します。
対する食料システム法では、飲食料品を取り扱う全事業者に対して取引条件の見直しや協議に応じる努力義務を課しています。対象には運送を担う3PLやトラック事業者も含まれ、各種コストの上昇に基づいた運賃・手数料の改定要求に対し、発注者・受注者の双方が合理的なエビデンスに基づき話し合う体制の構築が求められます。
食品・物流事業者に求められる「努力義務」と法的な影響
食料システム法の制定により、食品製造・卸売・小売・物流を担う事業者には、従来の慣行化された価格設定や納品条件を見直す義務が生じます。コスト増に伴う対価の適正化と、荷待ち・荷役時間の削減をはじめとする流通合理化の双方が実務課題となります。
飲食料品等事業者に課される2つの努力義務(持続的調達と適正対価)
食料システム法において規定された努力義務は、大きく以下の2点に集約されます。
1つ目は「持続的な供給に要する費用の考慮を求める協議への誠実な対応」です。人件費、燃料サーチャージ、保管料等の上昇に伴い取引先から協議の申し出があった場合、事業者は合理的な根拠なしに一律拒絶することを禁じられます。公的統計や客観的な費用データに基づいた協議要請に対しては、速やかに応諾の姿勢を示すことが必要です。
2つ目は「持続的な供給に資する商慣習の見直し等の提案に対する検討・協力」です。物流効率を低下させる取引慣行の修正に関し、以下の具体的施策への協力が求められます。
| 商慣習見直しの項目 | 従来の実務課題 | 改善による具体的な効果 |
|---|---|---|
| 納品期限の緩和(1/3ルールの見直し) | 製造日から賞味期限までの1/3経過で納品不可となり、配送頻度の過密化と廃棄リスクが発生 | 納品期限を1/2残し等へ緩和し、配送頻度の集約と食品ロス削減を実現 |
| 発注リードタイムの延長 | 当日の突発発注による急な配車要求や長時間労働の発生 | 事前発注の徹底により、配車計画の最適化と荷待ち時間を短縮 |
| 検品・附帯作業の簡素化 | ドライバーによる店別仕分け・手降ろし作業が拘束時間を増加 | 一括検品やパレット納品の導入でドライバーの附帯作業時間を削減 |
農林水産省は定期的なモニタリング調査を実施し、取り組みが著しく不十分な事業者に対しては指導・助言のほか、勧告や公表を行う枠組みを整えています。
農林水産物・食品の流通合理化に向けた物流側の対応要求
食品流通における輸送力不足へ対処するため、食料システム法と物流効率化法が連動し、物流プロセスの合理化に関する実務対応が求められています。
日別店舗別仕分けや手積み手降ろしが常態化しているチルド物流センター等の現場では、荷受け時の検品待ちや積み降ろしによる数時間の荷待ちが発生する課題を抱えます。これに対し、JIS規格である「11型(T11)標準パレット」を用いた一貫パレチゼーションの推進、トラック予約受付システムの導入による入荷時間の分散、および同一エリア内での共同配送体制への切り替えが有効な解決手段となります。
これらの合理化策を実施する事業者は、食料システム法に基づく「流通合理化事業活動計画」の認定を受けることで、日本政策金融公庫による低利融資や債務保証等の金融支援を活用できます。
「みどり認定」を取得する具体的メリット:補助金・税制優遇・金融支援
制度上の努力義務を果たすとともに、環境配慮型の設備投資を行う事業者は「みどり認定(環境負荷低減事業活動実施計画または基盤確立事業実施計画の認定)」を取得することで、各種支援施策を利用可能です。
税制優遇(特別償却)と日本政策金融公庫の低利融資
みどり認定を取得した事業者は、「みどり投資促進税制」による特別償却の適用や、日本政策金融公庫による低利融資枠の活用が可能になります。
1. 税制優遇(みどり投資促進税制)
認定計画に基づき導入された対象設備に対し、取得初年度に以下の特別償却が認められます。
- 機械・装置・器具備品:取得価額の32%を特別償却
- 建物・附属設備・構築物(機械と一体整備する場合):取得価額の16%を特別償却
取得価額5,000万円の環境配慮型コールドチェーン倉庫(建物・附属設備)を導入した場合、初年度に通常の減価償却費とは別枠で800万円(5,000万円×16%)の損金算入が行え、法人税負担を直接軽減できます。
2. 低利・無利子融資制度
| 資金名称 | 主な対象事業者 | 融資条件(金利・償還期間等の特例) |
|---|---|---|
| 農業改良資金 | 認定農業者・農業法人 | 無利子、償還期間最大12年(うち据置5年以内) |
| 食品等持続的供給促進資金 | 食品製造・卸売・小売・物流事業者 | 特別低利、償還期間15年以内(うち据置3年以内) |
| 新事業活動促進資金 | 機械メーカー・流通加工事業者 | 基準利率より0.60%~0.65%低減、償還期間20年以内 |
関連補助金における採択加点措置と主要な対象事業
みどり認定の保持は、農林水産省が実施する主要な補助金事業の公募において採択時の加点要素となります。
代表的な支援枠である「みどりの食料システム戦略推進交付金(基盤確立事業)」では、環境配慮型の荷さばき設備、品質保持施設、集配用機器の導入に対し、補助率1/2以内(最大2億円規模)の資金支援が設定されています。「強い農業づくり総合支援交付金」や「スマート農業技術活用促進事業」においても同様に優先採択措置が講じられています。
申請から計画認定・支援受給までの4つの実務ステップ
支援の適用を受けるための標準的な手順は以下の通りです。
ステップ1:取組内容の整理と窓口相談
温室効果ガス削減やコールドチェーン効率化などの取組計画を整理し、都道府県の農林水産担当部署または農林水産省の担当部局へ事前相談を行います。金融支援を利用する場合は、日本政策金融公庫の窓口へも並行して相談します。
ステップ2:実施計画書の作成
5年間の環境負荷低減目標、導入機器の仕様、投資額、見込まれる二酸化炭素削減効果などを記載した計画書を作成します。
ステップ3:計画の提出と審査・認定
申請書類の提出後、担当機関による審査を経て「計画認定通知書」が交付されます。提出から認定までの期間は通常1〜2ヶ月程度を要します。
ステップ4:設備の発注・導入と特例適用
認定通知の受領後に設備の発注・発注契約を締結します。認定日より前に契約・取得した設備はみどり投資促進税制の対象外となるため、スケジュールの管理が必要です。確定申告時に認定書の写しを添付することで特別償却の適用を受けます。
コールドチェーン最適化と共同物流による環境負荷低減のDX施策
食料システム法が求める流通合理化と、みどりの食料システム法が掲げる脱炭素化を同時に達成するには、現場へのDXテクノロジーの導入が効果を発揮します。
共同配送・パレット標準化・運行最適化による温室効果ガス削減
個別配送からエリア単位の共同配送体制へ切り替えることで、走行車両台数の直接的な削減が可能になります。
基盤となるのは、T11型標準パレットを用いた一貫パレチゼーションです。バラ積み・手降ろし作業をパレット運用へ切り替えることで、大型トラック1台あたりの荷役時間は従来の約2.5時間から約30分へと短縮されます。荷待ち時のアイドリング削減は燃料使用量および排出ガスの抑止に直結します。
あわせて、TMS(運行管理システム)により複数荷主の配車データを照合し、空車回送率を低減させる取り組みも普及しています。年間1,000トンの農産物を扱う3PL事業者では、AIルート最適化の導入により使用車両台数を約15%削減し、CO2排出量の削減を達成した事例があります。
スマートコールドチェーンと温湿度データ管理による食品ロス低減
冷凍・冷蔵輸送における温度逸脱は、商品の品質劣化による受取拒否や廃棄損を引き起こします。これに対し、IoT温湿度センサーとセルラー通信機能を搭載したデータロガーの導入が進んでいます。
輸配送中のデータをクラウドへリアルタイム送信し、管理設定値を超えた際に即時アラートを発報する運用を導入することで、積載管理や設備異常に対する即時対処が可能になります。トレーサビリティデータが証明されることで検品工数が短縮され、商品の賞味期限延伸を通じた食品ロスの削減が実現します。
AI需給予測と在庫最適化による食品サプライチェーンの省エネ化
需要予測の制度向上は、過剰在庫に起因する倉庫電力の浪費や廃棄ロスを防ぐ基本施策です。
気象情報、販売実績、イベント日程などをAIで解析する需給予測システムを活用することで、適正発注量を算出できます。年間数万ケースの生鮮食品を扱う流通センターにおいて、AI予測に基づく計画発注へ切り替えた結果、安全在庫量を約12%削減し、賞味期限切れ廃棄損を前年比で20%以上低減した実績が得られています。
| 施策カテゴリー | 導入テクノロジー・手法 | 主な削減効果(CO2・食品ロス) | 関連制度・活用メリット |
|---|---|---|---|
| 共同配送・物流標準化 | T11型パレット、TMS、AIルート最適化 | 荷役時間約80%削減、車両台数15%削減によるCO2削減 | 食料システム法 計画認定(公庫低利融資等) |
| スマートコールドチェーン | IoT温湿度ロガー、クラウドリアルタイム監視 | 温度逸脱の防止による受取拒否・食品ロスの抑制 | みどり認定(特別償却・補助金優先採択) |
| AI需給予測・在庫最適化 | AI需要予測エンジン、BEMS連動事前冷却 | 廃棄損失20%削減、保管庫消費電力10〜15%削減 | みどりの食料システム戦略推進交付金対象 |
法対応・環境対策を加速させる自社行動チェックリストと実務手順
【フェーズ別】現状把握からみどり認定取得までの実務チェックリスト
法対応と環境対応を並行して推進するための実務プロセスは以下の通りです。
| フェーズ | 取り組み項目 | 具体的な実務作業 | 確認・判定基準 |
|---|---|---|---|
| Phase 1 現状把握 |
温室効果ガス排出量と物流負荷の数値化 | ・保管・輸送における電力量・燃料消費量の測定 ・トラックの荷待ち時間・荷役時間・積載率の算出 ・コールドチェーンにおける温度・電力データの収集 |
輸送1トンキロあたりのCO2排出量および平均荷待ち時間が数値化されているか |
| Phase 2 取引協議 |
サプライチェーンでの価格・運用適正化 | ・食料システム法の努力義務に基づく価格交渉窓口の設置 ・「1/3ルール」見直しや標準パレット化の協議 ・燃料費・人件費の上昇に関するエビデンス作成 |
取引先と協議を実施し、合理的な運賃・原価の合意形成に向けた記録が残されているか |
| Phase 3 申請準備 |
計画策定と行政窓口との事前調整 | ・環境負荷低減事業活動計画等の作成 ・都道府県や農林水産省窓口への事前相談 ・みどり認定取得スケジュールの確立 |
対象設備の発注前に認定申請が完了するスケジュールが組まれているか |
| Phase 4 設備導入 |
DX技術の導入と税制・補助金申請 | ・バース予約システムやAI温度管理システムの導入 ・補助金の交付申請手続き ・みどり投資促進税制(特別償却)の申告準備 |
導入後に荷役時間が短縮され、特別償却(機械32%・建物16%等)の申告準備が整っているか |
持続可能な取引方針の策定とサプライチェーンパートナーとの連携手順
実務で取引条件の見直しと流通合理化を進める際の連携手順は以下の通りです。
- 1. コスト構造の可視化と根拠データの提示
車両の燃料消費量、保冷用電力コスト、バース待ち時間の実態を可視化し、協議時の根拠資料を整備します。 - 2. 誠実協議プロセスの運用
価格協議の社内窓口を明確化します。取引先から協議申出があった場合、合理的なエビデンスを元に誠意を持って対応し、一方的な据え置きを回避する運用ルールを策定します。 - 3. 運用の合理化・商慣習の見直し
納品時間帯の幅の拡大、一括検品、T11型標準パレットの活用をパートナー企業と共同で実施し、検品待ち時間を縮小させます。 - 4. 制度の共同利用
共同輸送や中継拠点の設置を進める際、パートナー企業と共同で計画を策定し、日本政策金融公庫の低利融資や国庫補助金を活用して導入負担を軽減します。
よくある質問(FAQ)
Q. 「食料システム法」と「みどりの食料システム法」の違いは何ですか?
A. 主な違いは法律の目的にあります。2022年施行の「みどりの食料システム法」は、脱炭素など環境負荷低減を推進するための支援枠組みです。一方、2025年成立の「食料システム法」は、資材費や物流費の高騰を取引価格へ適正に反映させ、持続可能な取引環境を整備することを目的としています。
Q. 「みどりの食料システム法」で認定を受けるメリットは何ですか?
A. 「みどり認定」を取得すると、投資額の税額控除や特別償却といった税制優遇のほか、日本政策金融公庫からの低利融資を受けられます。また、関連する国の補助金申請において採択時の加点措置が適用されるため、環境対応への資金調達を有利に進められる点が大きなメリットです。
Q. 食料システム法によって食品・物流事業者はどのような対応が求められますか?
A. 事業者には「持続的な調達」と「適正対価の反映」に関する努力義務が課されます。物流面ではコスト上昇分を適正に取引価格へ転嫁することに加え、共同配送やパレット標準化、コールドチェーンの最適化などを通じた流通の合理化・効率化への取り組みが求められます。
