伊豆半島被災支援に向けた海上支援ネットワーク指定の概要
国土交通省は2026年10月7日、大規模災害時における伊豆半島への物資・人員支援に備えるため、支援側と受援側の港湾が連携する「海上支援ネットワーク」を構成する「広域支援ふ頭」および「地域支援ふ頭」を国土交通大臣が指定したと発表しました。静岡県からの申請を受けた措置で、発災時に岸壁の利用可否を迅速に判断できるよう、事前の数値解析などの取り組みを推進する方針です。
能登半島地震の教訓と港湾基本方針改定の経緯
2024年1月の能登半島地震では、半島特有の道路網寸断により陸上輸送が長期にわたり麻痺し、海上からの物資搬入や人員派遣が極めて重要な役割を果たしました。これを受け、交通政策審議会港湾分科会防災部会の答申(2024年7月公表資料によれば)や、2025年6月公表の「広域港湾BCP策定ガイドライン(被災地支援輸送編)」において、海上支援拠点の確保と迅速な点検体制の整備が提言されていました。
さらに、2025年10月1日施行の改正「港湾の開発、利用及び保全並びに開発保全航路の開発に関する基本方針」に基づき、概ね1日サイクルで被災地支援を行える範囲ごとに広域支援ふ頭・地域支援ふ頭を大臣指定する制度が規定され、今回の指定申請に至りました。
指定された静岡県内9港の岸壁一覧と推進内容
静岡県内の重要港湾・地方港湾を含む9港において、耐震強化岸壁を中心とするふ頭群が指定されました。
- 広域支援ふ頭(後方支援拠点・大型受援拠点)
- 清水港:興津第一埠頭(興津2号岸壁:水深-10.0m、延長186m)、興津第二埠頭(興津11号岸壁:水深-12.0m、延長220m/興津12号岸壁:水深-12.0m、延長220m)、日の出埠頭(日の出新1号岸壁:水深-12.0m、延長410m/日の出新2号岸壁:水深-12.0m、延長410m)
- 田子の浦港:中央埠頭(中央2号岸壁:水深-12.0m、延長240m)
- 御前崎港:西埠頭(西埠頭10号岸壁:水深-14.0m、延長280m)
- 地域支援ふ頭(被災地域側の物資・人員受入拠点等)
- 伊豆半島東岸・南岸:熱海港(和田磯地区埠頭:水深-7.5m、延長155m)、伊東港(玖須美地区埠頭:水深-4.5m、延長80m)、下田港(外ヶ岡地区埠頭:外ヶ岡桟橋:水深-6.0m、延長80m)
- 伊豆半島西岸・駿河湾奥:松崎港(新港地区埠頭:水深-6.0m、延長80m)、土肥港(大藪地区埠頭:水深-4.5m、延長60m)、沼津港(外港地区埠頭:外港西岸壁:水深-5.5m、延長90m/外港東1号岸壁:水深-7.5m、延長130m)
- 広域連携拠点港:清水港(興津第一埠頭:興津1号岸壁:水深-10.0m、延長185m/江尻埠頭:江尻11・12号岸壁:水深-4.5m、延長130m)、御前崎港(西埠頭:西埠頭3号岸壁:水深-7.5m、延長130m/西埠頭4号岸壁:水深-7.5m、延長130m)
今回の指定に伴い、指定された主たる岸壁のうち、事前数値解析が未実施の施設について、想定地震動や地盤条件に基づく事前解析を推進し、地震発生直後の迅速な利用可否判断に役立てます。
関係する物流事業者・荷主企業
- 内航海運事業者および旅客船・フェリー運航会社(緊急支援物資の海上輸送や支援船運行)
- 静岡県および周辺地域で運行するトラック運送事業者(港湾への集約輸送、受援港からのラストワンマイル配送)
- 指定各港の港湾運送事業者・港湾荷役事業者
- 伊豆半島および東海地域に生産・流通拠点を構える荷主企業
海上輸送・陸上配送の実務に関わる変化
- 内航海運・フェリー事業者
- 大規模災害時における伊豆半島沿岸への海上支援ルートおよび寄港可能岸壁の諸元(水深や岸壁長)が整理され、緊急配船計画の立案が容易になります。事前数値解析が進むことで、地震発生後に現地潜水点検等を待たずに迅速な接岸可否の判断を受けられる環境が整う見込みです。
- トラック運送事業者
- 東海地震や南海トラフ巨大地震等で伊豆半島の幹線道路が途絶した場合、陸路全線輸送から「清水港や御前崎港等の広域支援ふ頭への持ち込み+海上輸送+各地域支援港からの陸上配送」という複合的な代替輸送ルートの活用可能性が広がります。
- 荷主企業・サプライチェーン管理者
- 伊豆半島地域への生活物資供給や同地域からの製品出荷について、道路寸断時のBCP代替航路として各港湾の機能をあらかじめ事業継続計画に組み込む検討が可能になります。
今後の見通しとスケジュール
本文テキストには事前数値解析の完了期限や具体的な工程表は記載されていません。
なお、国土交通省の「広域港湾BCP策定ガイドライン」(2025年6月公表資料によれば)では、指定完了後も定期的な訓練の実施や点検・評価を通じた継続的な運用の見直し(PDCAサイクル)を進める方針とされています。
今後の実効性を左右する未決定の論点
- 事前数値解析の実施完了時期と判定基準の公開:今回指定された岸壁のうち、事前数値解析が未実施とされている施設(別紙青字施設)の解析完了スケジュールや、発災時に利用可否情報が民間事業者に共有される仕組み・手順は現時点で公表されていません。
- 民間船社・運送事業者との協定・運用マニュアル:指定されたふ頭を活用して実際に物資を運ぶ内航船やトラックの動員体制、港湾荷役機械の確保に関する民間事業者との具体的な協定策定は、今後の検討課題となります。
- 受援港から避難先・配送拠点へのアクセス道路の耐震性:地域支援ふ頭に物資が揚陸された後、孤立集落等へ届ける背後道路の啓開手順や自治体防災計画との整合性が実効性の焦点になります。
港湾BCPガイドラインと関連制度の動向
- 国土交通省は2025年6月、能登半島地震の教訓を踏まえて「広域港湾BCP策定ガイドライン(被災地支援輸送編)」および「港湾BCP策定ガイドライン(改訂版)」を公表し、海上輸送を活用した被災地支援体制の標準化を進めています。
- 港湾法第3条の2第1項に基づく「港湾の開発、利用及び保全並びに開発保全航路の開発に関する基本方針」が2025年10月1日付で改定施行され、被災地支援を行う港湾の連携指定制度が法的に位置づけられました。
よくある質問
Q. 今回指定された「広域支援ふ頭」と「地域支援ふ頭」にはどのような違いがありますか?
A. 広域支援ふ頭は、受援機能に加えて被災地外からの支援物資の積載や補給拠点となる機能・規模(耐震強化岸壁、荷さばき地等)を有する大型ふ頭です。一方の地域支援ふ頭は、被災地域において物資や人員を受け入れる受援拠点となるふ頭を指します。
Q. 事前数値解析とは何のために行うものですか?
A. 発災直後に支援船が安全に接岸できるかを速やかに判断するため、想定される地震動や地盤データに基づいて岸壁の耐力や変形状態をあらかじめシミュレーションしておく手法です。これにより現地点検にかかる時間を短縮し、迅速な物資受入れ判断が可能になります。
Q. 今回の指定によって物流事業者に新たな義務や手続きは発生しますか?
A. 民間事業者に対する新たな手続きや法令上の義務付けはありません。本指定は行政による防災拠点の位置づけと岸壁機能評価の推進を目的としたものです。
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出典
- 発表主体: 港湾局海岸・防災課 / 発表日: 2026-10-07
- 報道発表資料(PDF)
- 掲載ページ
