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Home > 輸配送・TMS> マツダと日本通運、2026年5月からHVO輸送実証で脱炭素を加速
輸配送・TMS 2026年7月8日

マツダと日本通運、2026年5月からHVO輸送実証で脱炭素を加速

マツダと日本通運、2026年5月からHVO輸送実証で脱炭素を加速

2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、産業界全体でサプライチェーンの脱炭素化(グリーン物流)が最重要アジェンダとなっています。しかし、大型商用車(トラックやトレーラ)の電動化(EV化)や燃料電池車(FCV)への移行には、数千万円規模の車両投資、充電・充填インフラの未整備、積載効率の低下、航続距離の制約といった非常に高い壁が立ちはだかっています。

こうした課題に対する極めて実践的で強烈なインパクトを持つ「現実解」として、マツダ株式会社とNIPPON EXPRESSホールディングス株式会社のグループ会社である日本通運株式会社は、2026年5月より山口県防府市にて次世代バイオディーゼル燃料(HVO)を使用した完成車輸送トレーラの実証走行を開始しました(2026年7月7日発表)。

本プロジェクトは、既存のクリーンディーゼル車両や給油インフラをそのまま有効活用できる「ドロップイン燃料」としてのHVOの稼働実績や、運用におけるメンテナンス体制、地域インフラ構築の可能性を2026年度末まで長期にわたり多角的に検証するものです。単なる環境アピールにとどまらず、製造業(荷主)、物流事業者、車両メーカー、燃料供給事業者が一体となった、極めて実効性の高い「サプライチェーン協調モデル」として、物流業界の脱炭素化を加速させる試金石となります。


2026年度末まで実施:マツダと日本通運によるHVO実証走行の全容

今回の実証走行は、マツダの工場と港湾に隣接する車両プール場を結ぶ、極めて稼働頻度の高いピストン輸送ルートを舞台に実施されています。既存の物流プロセスや現場オペレーションを維持したまま燃料転換を図り、夏期や冬期といった季節変動を含む実運用下でのデータを蓄積することが狙いです。

本プロジェクトの事実関係と実務的な骨子を以下の表に整理しました。

項目 詳細内容 参画主体・協力企業 実務上の検証意義
実施期間 2026年5月〜2026年度末(予定) マツダ、日本通運 短期テストにとどまらず、季節変動(夏期の猛暑・冬期の低温)をまたぐ長期的な車両・燃料データを蓄積。
実証ルート マツダ防府西浦工場 〜 中関完成車プール場(往復約12km) マツダ(荷主)、日本通運(物流事業者) 稼働頻度が非常に高く負荷の大きい完成車ピストン輸送において、現場のリードタイムやダイヤへの影響を精緻に検証。
使用燃料 HVOを約51%混合した次世代バイオディーゼル燃料 NX商事(燃料調達を担当) 既存のインタンク(自家用給油所)や調達網を活用し、非化石燃料の「高濃度ブレンド」によるCO2削減と安定供給を両立。
使用車両 完成車輸送用トレーラ 2台 いすゞ自動車(車両および点検整備での協力) 既存のクリーンディーゼル車(いすゞ「ギガ」等)をそのまま稼働。エンジン、フィルター、燃料配管への影響をメーカー基準で精緻に追跡。

今回の実証で採用されたHVO(Hydrotreated Vegetable Oil:水素化植物油)は、廃食油や植物油などを原料とし、水素化処理を施して分子構造を石油由来の軽油とほぼ同一にした再生可能ディーゼル燃料です。第一世代のバイオディーゼル(FAME)とは異なり、酸化劣化のしにくさや、エンジン・給油設備を一切改造することなく軽油と「ドロップイン(そのまま置き換え)」で使用できる点が最大の強みです。

また、本プロジェクトではいすゞ自動車の協力のもと、「従来の軽油と同等の運用・点検体制」を維持したまま稼働させています。これは、現場の整備士や運行管理者、ドライバーに対して余計な作業負荷や心理的ハードルを与えず、現場に配慮した「即戦力」の脱炭素ソリューションとして非常に高く評価できます。

参考記事: バイオ燃料とは?カーボンニュートラル時代の物流実務と導入ロードマップ徹底解説


業界別・ステークホルダーに与える具体的なインパクト

既存のアセット(保有車両や給油スタンド)を最大限に延命しながら、即座に温室効果ガス(GHG)排出量を削減できるHVO輸送モデルは、サプライチェーンを構成する主要プレイヤーそれぞれに強力なベネフィットと行動変容を促します。

製造業者・メーカー(マツダ):荷主主導による「Scope3削減」とESG調達の推進

自動車メーカーをはじめとする大手製造業者にとって、物流プロセス(運ぶプロセス)におけるCO2排出量の削減は、自社が直接排出するScope1・2だけでなく、他社が担う「Scope3(カテゴリ4:上流の輸送・配送)」の削減実績として非常に重要視されています。

従来のメーカーは、運送事業者に対して一方的にCO2削減目標の達成を求める傾向にありましたが、EVやFCVといった高額なクリーン車両の導入を運送会社の財務負担だけに依存することには限界がありました。今回のマツダのように、荷主自らが主導して物流事業者(日本通運)、燃料調達会社(NX商事)、車両メーカー(いすゞ自動車)を結びつけるアライアンスを設計したことは、物流を「脱炭素実現のための戦略的共同パートナー」として再定義することを意味します。

メーカーにとっては、燃料転換に伴うコスト(軽油とのプレミアム差額)や実証リスクを物流事業者と共同で負担・シェアする協調体制を構築することが、今後の持続可能な調達(ESG調達)におけるデファクトスタンダードとなっていくでしょう。

参考記事: カーボンニュートラル物流とは?現場担当者が知るべき実務知識と実践ガイド

運送事業者(日本通運・一般運送会社):既存アセットを活かして競合他社と差別化

トラック運送事業者にとって、車両フリートをすべてEVトラックへ置き換えることは、車両の購入価格が跳ね上がるだけでなく、充電インフラの整備、充電待ち時間による稼働率の低下、重いバッテリー搭載による最大積載量の減少といった致命的なデメリットを伴います。

HVO混合燃料の活用は、既存のディーゼル車をそのまま活用できるため、追加の車両投資を極限まで抑えつつ、即座に環境対応型運送サービスを開始できるという、圧倒的な経営メリットをもたらします。

実務面においては、今回のような大手主導プロジェクトを通じて「HVO使用が車両(エンジン、燃料配管、フィルター)の寿命や燃費に与える長期的な実データ」をいち早く蓄積することが、今後の大きな競争優位性になります。データを武器に、荷主に対して「HVO使用による正確なCO2削減エビデンス」を提示できる体制を整えれば、ドライバー不足や物量減少が懸念されるなかでも、荷主から優先的に選ばれる「環境プレミアム運賃」を収受する強固なポジションを確立できます。

参考記事: 丸紅ロジスティクスら4社の7月1日脱炭素輸送開始が示す既存アセット延命の最適解

物流施設・エネルギー供給者:次世代給油インフラを内包した「新たなハブ」への転換

本プロジェクトでNX商事がバイオディーゼル燃料の調達を担っているように、グリーン物流の普及における最大のボトルネックは「供給インフラ(スタンド網)の圧倒的な不足」です。

自社の物流拠点に自家用の給油スタンド(インタンク)を持たない運送事業者がバイオ燃料を手軽に補給することは、現時点では非常に困難です。ここに、先進的物流施設(大型マルチテナント型倉庫)などを開発するデベロッパーや、地域インフラを担うエネルギー関連企業の新たな差別化戦略が生まれます。

施設内や地域拠点において、NX商事などの供給事業者と提携した「次世代バイオ燃料(HVO)共同給油ステーション」を設置し、周辺を運行する運送会社が手軽にバイオ燃料を補給できる「エネルギー拠点化」を推進するのです。これにより、入居する荷主・物流企業は、当該施設に拠点を構えるだけでScope3削減に直結するクリーンな輸配送網を即座に構築できるようになり、施設自体の環境付加価値(ESG不動産としての価値)が飛躍的に高まります。


LogiShiftの視点:なぜ「51%混合」なのか、制度をハックする戦略的インサイト

マツダと日本通運が今回採用している「HVOを約51%混合した次世代バイオディーゼル燃料」という点には、極めて実務的かつ戦略的な意図が隠されています。なぜ、あえて「100%(RD100)」ではなく「51%」なのかを深掘りします。

1. コストと環境価値を両立させる「51%混合」の黄金比

高度に精製された次世代バイオ燃料(HVO)は、化石燃料である軽油と比較して製造・精製コストが高く、販売単価も割高にならざるを得ないという致命的な課題を抱えています。燃料費の高騰がダイレクトに収益を圧迫する物流現場において、全量を100%のバイオ燃料に切り替えることは、採算性の面で極めて困難です。

そこで活きるのが「51%混合」という絶妙な比率です。石油由来の軽油を49%混ぜることで、燃料調達コストの上昇を最小限に抑えつつ、改正省エネ法における「非化石比率が過半数(50%超)を占めることで、非化石エネルギー自動車として報告できる」という制度上の適合条件を的確にクリアしています。実務上のコスト負担を最適化しながら、公的な環境価値(法的インセンティブ)のベネフィットを最大化する、極めてスマートな戦略です。

参考記事: 既存車両で脱炭素化!東急バス「サステオ51」導入が物流業界にもたらす3つの恩恵

2. HVO導入初期における「インフラ洗浄作用」と車両トラブルへの予防保全

HVOは優れたドロップイン燃料ですが、石油由来の軽油を長年使い続けてきたインタンク(地下タンク)や配管内に初めて導入する際、現場では特有の「初期トラブル」を想定しておく必要があります。

HVOは軽油に比べて極めて高い「洗浄作用」を持っているため、タンクや車両の燃料配管内にこびりついていた長年のスラッジ(微細な汚れや錆)を一気に剥離させてしまいます。この剥離したスラッジが、導入初期に車両のインジェクターや燃料フィルターを急激に詰まらせ、警告灯の点灯や突然の出力低下(セーフモード移行)といった突発的なダウンタイムを招くケースが各所で報告されています。

実務的には、以下のステップによる予防保全(BCP対策)の徹底が強く求められます。

  • 導入前の徹底した地下タンククリーニング
    地下タンクへHVOを初充填する前に、タンク内部の高圧洗浄と水分除去を徹底的に実施する。
  • フィルター交換サイクルの短縮
    導入開始から最初の3ヶ月間は、車両の燃料フィルターの点検・交換サイクルを通常の半分(例:通常の2万km走行から1万km走行へ)に短縮し、予兆検知を徹底する。
  • 代替車両の即時アサイン体制の構築
    万が一、走行中にフィルターの目詰まりによる出力低下が発生した場合に備え、同じピストンルート上に従来軽油で走るバックアップ車両を一時的に配備し、迅速に運行を切り替えるSOP(標準作業手順)を確立しておく。

まとめ:明日から現場リーダーが意識すべきアクション

マツダと日本通運によるHVO完成車輸送の実証は、日本の物流脱炭素化が「EVトラック一辺倒」の非現実的な議論から抜け出し、バイオ燃料などの「既存アセットを活かす現実的な全方位アプローチ(マルチパスウェイ)」へと完全にシフトしたことを象徴しています。

この動きを傍観するのではなく、自社の明日からの事業戦略に落とし込むため、経営層や現場リーダーは以下の3点のアクションを即座に開始すべきです。

  1. 自社保有クリーンディーゼル車両の棚卸し
    現在保有しているディーゼル車の残存耐用年数と台数を車台番号レベルでリスト化し、無理に高額なEVへ買い替えるのではなく、バイオ燃料(HVO)への切り替えによって既存資産を延命しながら、即座にScope3削減に対応できるポテンシャルがどれだけあるかを可視化する。
  2. 荷主企業のESG部門・購買部門との対話開始
    荷主に対してEV化による初期コストやインフラの限界を論理的に説明した上で、「既存のディーゼル車を活用した、HVO混合燃料による現実的なScope3共同削減ロードマップ」を共同で設計するための提案を行う。
  3. 地域・全国の燃料調達サプライヤーとのネットワーキング
    今回の実証でNX商事が果たしているような、地域に根ざしたバイオ燃料(HVO)の調達ルートを持つ商社や石油元売り、リサイクル事業者との接点を早期に持ち、自社インタンクでのHVO受け入れ体制や、将来的な供給単価の見通しについての情報収集を開始する。

既存の現場力と燃料転換というソフトの切り替えを掛け合わせ、いち早くバイオ燃料の運用知見を蓄積した企業こそが、持続可能な未来におけるサプライチェーンの主導権を握るのです。


出典: 物流ウィークリー

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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