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Home > 事例・インタビュー> SUBARUが部品積み込み約10分を実現、荷主主導の荷役分離で物流維持へ
事例・インタビュー 2026年8月10日

SUBARUが部品積み込み約10分を実現、荷主主導の荷役分離で物流維持へ

SUBARUが部品積み込み約10分を実現、荷主主導の荷役分離で物流維持へ

株式会社SUBARUは埼玉県北本工場にて、ハイブリッド車用部品50基のトラック積み込み作業を自社従業員が担い、約10分で完了させる荷役分離の運用体制を確立しました。ドライバー依存だった荷役作業を荷主側が自ら負担するこの取り組みは、ドライバー不足が加速する中で自社の物流網を維持・確保するための実効性の高い経営戦略を示しています。

SUBARU北本工場における「荷役分離」の推進とオペレーション革新

自動車業界において、トラックドライバーの高齢化や労働時間上限規制に伴う輸送能力の低下、いわゆる「物流問題」への対応が最優先の経営課題となっています。そうした中、株式会社SUBARU(以下、SUBARU)が取り組む荷役(にやく)分離の運用が、業界内で大きな注目を集めています。

荷役作業とは、トラックへの荷物の積み降ろしや棚卸し、検品といった輸送に付随する作業全般を指します。従来、日本の物流現場では、これらの付帯作業が明示的な対価や契約上の位置づけがないまま、ドライバーの慣習的な業務として押し付けられてきました。これがドライバーの長拘束時間や過重労働の大きな原因となっていました。

従来のドライバー依存荷役からの脱却と成果

2026年7月上旬、埼玉県北本市にあるSUBARU北本工場にて、新たな輸送オペレーションの実務が確認されました。同工場に到着したトラックに対し、ドライバーではなく北本工場の自社従業員がフォークリフトを操作し、ストロングハイブリッド(S:HEV)車用部品50基の積み込み作業を実施しました。

従来であれば、ドライバー自身がフォークリフトを操作するか、手作業で積み込みを行っており、荷降ろしから積み込み完了までに1時間近くを要することも珍しくありませんでした。しかし、工場側の専門スタッフがフォークリフトによる積載を主導した結果、わずか約10分で作業が完了しました。積み込みを終えたトラックは、すぐに車体組み立て拠点である群馬県太田市の同社工場(群馬製作所)へ向けて出発できる体制が整えられています。

SUBARUの物流改革に関する時系列と組織体制の強化

SUBARUの荷役分離への取り組みは、現場の一時的な改善活動にとどまらず、経営層が主導する全社構造改革の一環として戦略的に推進されています。同社の物流改革における主な時系列と組織の動きは以下の通りです。

2024年10月:北本工場でのトライアル開始

埼玉県北本市の北本工場において、ハイブリッド車用トランスアクスルの生産開始に合わせ、部品受発注・納入時のドライバー荷下ろしおよび積み込み作業を自社スタッフへ移管・切り替える実証トライアルを開始しました。

2025年4月1日:CLOポストおよび「物流本部」の新設

改正物流効率化法への先行対応および全社的な物流管理体制の一元化を目的に、役員級の「CLO(最高物流責任者)」ポストおよび「物流本部」を新設(初代CLOには村田眞一執行役員が就任)。従来、購買・生産・販売の各部門に分散していた物流費と管理会計の可視化に着手しました。

2026年2月:外部フォーラムでの事例発表

国土交通省および経済産業省が共催する「物流統括管理者(CLO)フォーラム」等の機会において、先進事例として自社の物流管理体制と荷役分離の取り組み内容を公表しました。

2026年7月上旬:10分積載オペレーションの本格運用確認

北本工場にて、HV用部品50基の積み込みを作業員がフォークリフトで完遂し、拘束時間をわずか10分程度に抑えるオペレーションの定着が確認されました。

参考記事: 荷役分離とは?2024年問題に立ち向かうメリットと現場での導入ステップを徹底解説

荷役分離導入前後の比較分析

荷主企業であるメーカー側が自ら荷役作業を分担・内製化することで、現場のオペレーションや運行効率には劇的な変化が生じています。導入前後の比較を以下の表に示します。

評価項目 従来の慣行(ドライバー負担) 改正後(SUBARU工場側の分担)
荷役作業の主体 サプライヤーや運送会社の手配したドライバー 工場で自社教育を受けたSUBARU従業員(専任フォークマン)
作業・滞留時間 1時間程度(荷下ろし・積み込み作業に長時間を要していた) 約10分(拘束時間を大幅短縮し、敷地内の回転率が向上)
ドライバーの必要資格 フォークリフト運転技能講習の修了が必須 要資格作業の免除(運転免許のみで運行が可能)
採用・労働環境 重量物の荷役や機械操作がドライバー確保の障壁 荷役負担の解消により女性やシニアドライバーの採用が容易に

ドライバーの拘束時間短縮と作業標準化

荷役分離によってトラックの工場滞留時間が大幅に削減され、ドライバーは本来の「運転業務」に専念できるようになりました。拘束時間の短縮は、法令で定められた改善基準告示(運転時間や休憩時間の規定)の遵守に直結します。

免許要件緩和による労働力の確保

従来、自動車部品輸送を担うドライバーには、大型運転免許だけでなくフォークリフト運転技能講習の修了証が実質的に求められていました。荷主側が荷役を全額分担・代行することで、フォークリフト免許を持たないドライバーでも配送路線を担当できるようになり、運送会社側の配車繰りや人員確保のハードルが大きく下がりました。

改正物流効率化法と大手自動車メーカーに求められる構造改革

今回のSUBARUの取り組みは、単なる一企業の現場改善にとどまらず、2026年4月に本格施行された「改正物流効率化法(流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律等の改正)」が求める荷主責任を果たす具体策でもあります。

特定荷主責任と2026年問題への先手

改正物流効率化法では、年間貨物取扱重量が9万トン以上の事業者に対して「特定荷主」の指定がなされ、役員級の物流統括管理者(CLO)の選任、中長期計画の策定、年1回の定期報告が法律上の義務として課されています。行政は、運行1回あたりの荷待ち・荷役時間を原則2時間以内、可能であれば1時間以内へ短縮することを強く求めており、是正命令に従わない場合には最大100万円の罰金や企業名の公表といったペナルティが設定されています。

SUBARUは2025年4月時点でいち早くCLOを配置し、組織横断的な「物流本部」を立ち上げることで、法令遵守を単なる手続きではなく経営戦略の柱へと引き上げました。

参考記事: 物流総括管理者設置義務とは?2026年施行に向けた選任基準と企業が備えるべき実務対策

「運んでもらえて当たり前」からの脱却と調達・物流の統合

従来の製造業では、自社製品や調達部品の配送において「運送会社に依頼すれば運んでもらえる」という前提が成り立っていました。しかし、ドライバーの絶対数が減少する中では、荷作業の過酷な拠点や荷待ち時間の長いメーカーは、運送事業者から取引を断られる「荷主選別」の対象となります。

製造現場でのフォークマン育成と荷役体制構築

SUBARUのように工場側の従業員が荷役を担当するには、工場内の人員配置の見直しやフォークリフト操作の安全教育といった追加コストと労力が発生します。しかし、これを「製造に必要な投資」として飲み込み、自前でフォークマンを育成・配置する体制を整えることで、輸送パートナーからの信頼を勝ち取ることができます。

発荷主・着荷主一体となった物流平準化の推進

北本工場で積み込まれた部品は、太田市の組み立て工場へ送られます。発送側(発荷主)と受取側(着荷主)が同一企業グループ内、あるいは緊密な調達ネットワーク内にある強みを活かし、工場間の輸送スケジュールを分単位で平準化することで、トラックの到着待ち時間自体を限りなくゼロに近づけています。

参考記事: 改正物流効率化法で特定荷主3000社超に2026年4月CLO選任が義務化へ

主要プレイヤーが受ける影響とサプライチェーンの再構築

荷主自らが荷役を負担し、わずか10分でトラックを出発させるというイノベーションは、自動車産業のサプライチェーンに関わる各プレイヤーに大きな波及効果をもたらします。

製造業者・メーカー:物流起点の生産・調達管理への転換

製造業者にとって、物流はこれまで「発生した製品を運ぶための付帯費用(コストセンター)」と捉えられがちでした。しかし、荷役分離の推進は、生産計画の段階から物流効率を組み込む『物流起点での生産管理』への転換を迫ります。

コストセンターから経営戦略への意識革新

荷役作業を工場従業員が分担することは、工場の人件費増につながるように見えます。しかし、トラックの回転率を高めて調達網が麻痺するリスクを防ぐコストと考えれば、工場全体の操業停止リスクを回避するための不可欠な「保険」であり戦略投資となります。

子会社・パートナー企業との連携強化

SUBARUの完成車輸送や国内・海外部品物流の実務は、100%物流機能子会社である株式会社スバルロジスティクスが中心となって管理・運用を担っています。荷主本体のCLOと物流専門子会社、さらに外部の協力運送会社が一体となって現場の課題をタイムリーに共有し、改善策を実行できる体制が強みとなっています。

ドライバー・運送会社:付帯作業の削減と稼働率・安全性の向上

物流事業者およびドライバーにとって、荷主側による荷役分離は最大の課題解決策です。

プロドライバーの運転業務への特化

手積み手降ろしやフォークリフト作業といった無償の重労働から解放されることで、ドライバーは体力を温存し、本来のプロフェッショナル業務である「安全運転」に集中できます。これにより、作業中の怪我や製品破損事故のリスクが劇的に低下します。

採用面での多様性推進とドライバー定着

荷役作業が免除されることで、長距離走行や手作業による体力的な負担が軽減され、女性や高齢ドライバー、未経験者の参入障壁が大きく下がります。運送会社にとっても、他社より働きやすい配送ルートとして求人上の強い強みとなります。

行政・規制当局:実効性のある現場改善事例としての波及効果

国土交通省や経済産業省などの行政当局にとって、SUBARUの取り組みは法改正の実効性を証明する好事例となります。

トラックGメンと法規制遵守のシナリオ

政府は「トラックGメン」による荷主企業への監視・指導を強化しており、特に長時間の荷待ちや無償での荷役強要を厳しく取り締まっています。大手自動車メーカーであるSUBARUが自発的に荷役を全面分担し、10分積載という数値を実証したことは、他業種の荷主企業に対しても強力な是正圧力を与えることになります。

参考記事: 改正物流効率化法による特定事業者の年間9万トン基準とCLO選任の必須対応

LogiShiftの視点(独自考察):10分荷役の先にある荷主企業の競争力

SUBARU北本工場での「10分積載」という成果は、荷主企業が自ら手を動かして現場のオペレーション改革に踏み込んだ結果です。しかし、この取り組みを自社にも導入しようとする企業が注意すべきは、単に「工場スタッフにフォークリフトを乗らせれば解決する」という表面的な真似に終わらせないことです。

「自営荷役」の投資対効果を最大化するオペレーション設計

荷役分離を成功させるためには、工場側の受入・出荷エリアにおける「荷姿の標準化」と「パレット管理」が不可欠です。SUBARUの事例でも、部品50基をわずか10分で積み込めるのは、専用の通い箱や標準パレットが徹底され、フォークリフト1回あたりの搬送効率が最適化されているからです。

バラ積み・手作業が残る現場で荷役だけを工場従業員に移管しても、工場側の労働負荷が増大して現場の反発を招くだけに終わります。荷姿モジュール化と自前荷役体制をセットで設計することが、投資対効果(ROI)を最大化する唯一の道筋です。

CLO主導による他部門(生産・営業)への物流最適化要請

もう一つの重要なポイントは、CLO(最高物流責任者)の持つ組織的な影響力です。工場側の従業員に荷役を担当させる決定は、製造現場のコストや人員配置に直接影響するため、従来の「物流部長」の権限だけでは工場長や生産管理部門の反対を押し切ることが極めて困難でした。

役員級のCLOがトップダウンで「物流を止めることは工場を止めることと同義である」というメッセージを発信し、生産部門の協力を引き出したからこそ、北本工場の10分積載体制が実現しました。CLO選任を形だけに終わらせず、社内の職務権限規定において「物流改善命令権」を明確に与えるガバナンス構築こそが、改革成功の要となります。

参考記事: 2026年4月法改正へ日清食品のCLO選任後アクションで物流効率化が加速

まとめ:物流網を維持するために荷主企業が明日から意識すべきアクション

SUBARUによる荷役分離の実践は、これまでの「物流会社任せ」の時代が完全に終わり、荷主企業が自らのサプライチェーンを守るために行動を起こす時代になったことを物語っています。すべての荷主企業や現場リーダーが明日から意識・実践すべきアクションは以下の通りです。

  1. 自社拠点のトラック滞留時間と荷役実態を正確にデータ化する
    紙の受付簿をデジタルツールや受付システムへ切り替え、荷待ち時間だけでなく「荷役作業に何分かかっているか」の事実関係を把握することから改善が始まります。

  2. 自社工場・倉庫における「荷役の自社負担・分担」の実行可能性を検証する
    主要な発着拠点において、自社スタッフや常駐の倉庫作業員によるフォークリフト荷役への切り替えが可能か、設備および要員配置の検討を開始してください。

  3. CLOを中心とした全社ガバナンスと他部門との連携体制を構築する
    物流部門だけでなく、製造・調達・営業部門を巻き込み、「物流の維持」を全社最優先の経営課題として共有・評価する仕組みを整えましょう。

物流を単なる「削減すべきコスト」ではなく、「企業の維持と成長を支える重要インフラ」として捉え直し、自ら現場の改革に踏み出す企業こそが、これからの時代に選ばれ続ける荷主となります。

出典: 東京新聞デジタル
出典: SUBARU IR・リスクマネジメント
出典: SUBARU ニュースリリース
出典: LOGISTICS TODAY

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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