株式会社ディーエイチシーは、BtoC向け配送を担う「川崎ロジスティクスセンター」に自動搬送ロボットや立体型仕分け機、倉庫運用管理システムを導入し、2026年8月5日より本格稼働を開始しました。約300人いたアルバイト等の人員体制を半数以下へ抑えつつ、センター全体の出荷能力を従来比で30%向上させる計画です。
川崎ロジスティクスセンターにおける自動化刷新の全容
川崎ロジスティクスセンター(神奈川県川崎市川崎区)は、4フロア合計の延べ床面積約36,000平方メートルを有する同社の基幹物流拠点です。全国の通信販売顧客および直営店92店舗に向けた出荷を担っており、通常日で1日あたり約1万6000件、繁忙期には約2万件のオーダーを処理しています。
同センターで取り扱う商品は健康食品約450品目、化粧品約580品目、医薬品約35品目、アパレル・生活雑貨約8600品目の合計約9700品目にのぼります。このうち売上全体の8〜9割を上位500品目が占めるという明確な偏り(パレートの法則)が存在していました。今回のシステム刷新では、この出荷特性に合わせて設備構成を完全に分離し、全体制御を行う仕組みを構築しています。
出荷頻度別に最適化したハイブリッド型マテハン構成
高頻度で出荷される上位500品目のA品と、それ以外のロングテール商品(B品・C品)とで、ピッキングから仕分けまでの導線を分けています。
高頻度商品に対しては、デジタルピッキングシステム(DPS)と270台の小型自動搬送ロボット「T-Carry system」(椿本チエイン製)を連動させました。作業者が保管棚の間を歩き回ることなく、定位置のピッキングステーション(22ブース)で手元に届いた商品をピッキングし、同時に検品を完了させる「歩かないピッキング」を実現しています。日々の注文傾向やキャンペーン展開に応じて商品の配置先ブースを柔軟に振り分け、ロボット側が最適なブースへ自動走行する設計です。
一方、出荷頻度の低いB品・C品群は、作業者が複数オーダー分をまとめて集めるトータルピッキングを実施します。集約された商品は、立体型自動仕分けシステム「オムニソーター」(Gaussy製)に投入され、1バッチあたり最大200件の個別注文へ自動仕分けされます。投入時のバーコードスキャンによって仕分けと検品が同時に行われるため、手作業によるミスが発生しにくい構造です。
各ステーションで集約された商品は、T-Carryによって25ブースある梱包ステーションへと運ばれ、納品書の同梱など最終工程を経て出荷ラインへ流れます。ライン上には段ボールのサイズを自動認識してテープ留めと送り状貼付を行う「自動封函機」と、配送業者・配送方面・配達指定日ごとに荷物を分流する自動仕分けシステム「クイックソート」(椿本チエイン製)が直結しています。
| 設備名称 | メーカー/システム | 処理能力・スペック | 導入効果(従来比) |
|---|---|---|---|
| 小型AGV | 椿本チエイン「T-Carry」 | 270台稼働、ピッキング22ブース、梱包25ブース | 歩行ロスの排除、ステーション間自動搬送 |
| 立体型自動仕分け機 | Gaussy「オムニソーター」 | 仕分け能力1,000個/時間、最大200件同時処理 | 生産性約2.5倍向上、検品作業の同時完了 |
| 自動封函機 | — | 処理能力1,200箱/時間・台 | 生産性約2倍向上、採寸・封かん・貼付の自動化 |
| 配送自動仕分け機 | 椿本チエイン「クイックソート」 | 処理能力4,000箱/時間 | 生産性約2.4倍向上、方面別・配送業者別分流 |
参考記事: 搬送システムの基礎知識と選び方|AGV・コンベヤ等の種類からWMS連携まで徹底解説
参考記事: ソーターとは?種類や仕組み・導入メリットと失敗しない選定手順を徹底解説
WES(倉庫運用管理システム)を介在させた階層構造
今回の刷新において中核を担っているのが、上位の基幹管理システムであるWMS(倉庫管理システム)と、各マテハン設備を直接動かすWCS(倉庫制御システム)の中間に配置された「WES(倉庫運用管理システム)」です。
従来の一般的なマテハン導入では、「WMSからWCS」へ直接指示を流す構造が多く採用されてきました。しかしこの構成では、設備ごとにオーダーが固定化されやすく、特定ゾーンへの作業集中や設備の稼働停止が発生した際に、センター全体の作業が滞るボトルネックが生じがちでした。また、新たな機器の追加やラインレイアウトの変更を行う場合、上位のWMSまで含めた大規模な個別受託改修が必要となり、多額の費用と期間を要する課題がありました。
川崎ロジスティクスセンターでは、WESが「現場監督」としてリアルタイムに入庫・在庫・ピッキングの進捗状況や設備の稼働データを監視しています。あるピッキングブースで負荷が高まった際には、空いている別のブースへ搬送先を即座にリルートする動的制御を行います。さらに、設備制御ロジックをWES層に集約させたことで、将来的な重量検品機の追加やマテハンの増設が生じた際にも、WMSの設計を変更することなく柔軟に機能拡張できる体制を整えました。
| システム階層 | 主な役割・機能 | 川崎ロジスティクスセンターでの具体的制御 |
|---|---|---|
| WMS(倉庫管理システム) | 在庫・出荷計画・全体データ管理(司令塔) | オーダー情報の取り込み、在庫ステータス管理、配送確定データの連携 |
| WES(倉庫運用管理システム) | 作業進捗監視・動的リソース配分(現場監督) | ブースごとの負荷分散、搬送ルート動的指示、設備稼働状況の最適同期 |
| WCS(倉庫制御システム) | 個別マテハン機器の直接制御(作業指示) | T-Carryの走行制御、オムニソーターのセル開閉、封函機・ソーター駆動 |
参考記事: WES(倉庫実行システム)とは?WMS・WCSとの違いや導入メリット・選定ポイントを徹底解説
参考記事: WCS(倉庫制御システム)とは?WMS・WESとの違いと導入で失敗しない選定基準を解説
導入に至るタイムラインと品質目標
川崎ロジスティクスセンターにおける設備導入と稼働までの推移、および設定された品質目標は以下の通りです。
- 2020年2月: 神奈川県川崎市に「川崎ロジスティクスセンター」(MFLP川崎Ⅰ A棟内)を開設。
- 2023年1月: オリックス株式会社がディーエイチシーの株式を取得し子会社化。経営体制の刷新とともにサプライチェーン投資を加速。
- 2023年8月: 同センター内にアパレル・生活雑貨約6,600品目(約66万個)を収納する自動倉庫「オートストア(AutoStore)」を先行稼働。
- 2026年6月下旬: 4階の人手による既存出荷オペレーションを継続しながら、3階エリアの設備工事を完了させ、新システムの試運転を開始。
- 2026年8月5日: T-Carry 270台やオムニソーター等を含む自動化ラインの本格稼働を開始。
同センターの出荷品質は、熟練作業員の目視と手作業によって60〜70PPM(出荷100万件あたり60〜70件の誤出荷)の水準を維持していました。新システムの導入により、バーコードスキャンとマテハン連動による機械的照合を徹底し、数年以内に誤出荷率を1桁台PPM(100万件あたり9件以下)へと引き下げる計画です。
参考記事: バラピッキングとは?ケースピッキングとの違いから誤出荷を防ぐ3つの改善策まで解説
参考記事: 誤配送とは?誤出荷との違いや現場で起こる原因・再発防止策を解説
関連プレイヤーへの波及効果
多品種を扱うEC・通販事業者
売れ筋商品とロングテール商品が混在するカタログ通販や総合EC事業者にとって、庫内全域を一律の大型設備で自動化することは投資対効果の面で困難を伴います。
ディーエイチシーが採用した「上位500品目をAGVでGTP(Goods to Person)化し、残る9,000品目超はトータルピッキング後に立体ソーターで多点仕分けする」というアプローチは、SKUごとの出荷頻度差に応じた現実的な設備投資モデルです。一種類のマテハンに運用を縛られず、注文集中時にもスループットを維持できる柔軟性は、SKUの改廃頻度が高いアパレル・化粧品・健康食品ECの拠点設計において有用なベンチマークとなります。
倉庫内作業員と雇用構造
川崎ロジスティクスセンターでは、従来約300人体制だったアルバイト等の人員を最終的に150人以下へと半減させる計画です。ピッキング作業における長距離歩行や重いコンテナ搬送といった身体的負荷が排除され、ハンディ端末の画面指示に従う単純作業へと平準化されたため、未経験者でも初日から即戦力として稼働できる環境が整いました。
一方で、現場作業員の大幅なスリム化は不可避となります。ディーエイチシーでは個別の面談を通じた意向確認や他拠点・他業務への配置転換、再就職支援プログラムを用意して移行を進めています。庫内作業の機械化は、作業負荷の軽減をもたらす半面、現場人員の再配置やスキルシフトといった労務管理上の対応を必然的に伴います。
物流システムベンダーとSIer
従来のマテハン市場では、コンベヤや自動倉庫などの大型固定設備を納入する単一ベンダーが、WCSや専用WMSまで含めて一括提供する垂直統合型が一般的でした。しかし今回の事例では、椿本チエインのAGVやソーター、Gaussyの立体仕分け機といった異なるメーカーのハードウェアをWESが上位で統括しています。
このように機器ベンダーとソフトウェア制御層を分離し、オープンな連携を可能にするWESへの需要は拡大しています。特定メーカーのハードウェアに縛られず、現場の運用改善に合わせて柔軟に機器を差し替え・追加できるアーキテクチャは、システムインテグレーターや物流系ソフトウェア開発企業にとって新たな案件開拓の軸となります。
LogiShiftの視点
川崎ロジスティクスセンターの事例において注目すべきは、マテハンの単体能力ではなく、「固定設備を最小限に抑え、AGVとWESによってレイアウト変更と処理能力の可変性を担保した」という構造設計にあります。
従来の自動化プロジェクトでは、導入時点の出荷件数とSKU構成に合わせてコンベヤラインやソーターを床面に固定構築する手法が主流でした。しかしこの方式は、取扱品目の急増や販売チャネルの急変が生じた際にライン変更が難しく、設備過剰または能力不足に陥るリスクを抱えていました。ディーエイチシーの長谷川俊一ロジスティクスユニット長が「出荷件数が現状の3倍に増えても耐えうる体制」と言及している背景には、床面固定設備を極力減らし、T-Carryの台数追加やブース割り当てのソフトウェア設定変更だけでスループットを段階的に引き上げられる設計思想があります。
ハードウェア(AGV・ソーター)とソフトウェア(WMS・WES)を疎結合に保つアプローチは、将来的な需要変動や荷主側のビジネスモデル転換に対する高い適応力を備えています。物流センターを一度構築したら10年間改修できない「固定資産」としてではなく、状況に応じて機器やステーションを増減できる「モジュール型インフラ」として捉える視点が、中長期的な設備投資の成否を分ける要因になります。
参考記事: 物流ロボティクス入門|AGV・AMRの違いと導入手順・費用対効果を徹底解説
参考記事: 物流自動化とは?導入メリットや主要設備・失敗しない進め方を徹底解説
自社拠点の自動化検討に向けた実践ステップ
川崎ロジスティクスセンターの取り組みを参考に自社拠点の運用を見直す場合、以下の手順で検討を進めることが実務上の要点となります。
- 出荷データのABC分析による設備適合性の検証
自社の全SKUについて出荷頻度と出荷数量の相関を可視化します。売上の大半を占める上位SKUにはDPSやGTP型搬送ロボットを割り当て、ロングテールSKUにはトータルピッキングとバッチ仕分け機を組み合わせるなど、頻度帯ごとに適した自動化アプローチを切り分ける必要があります。 - システム統合レイヤーにおけるWESの必要性判断
既存のWMSと導入予定の複数マテハンとの間に、リアルタイムな負荷調整を担う実行層(WES)を挟むべきかを検証します。将来的な出荷波動の大きさ、繁忙期と閑散期の差、設備の段階的な追加計画がある場合は、WESを介在させた疎結合アーキテクチャの採用が長期的な改修コスト抑制につながります。 - 完全自動化の範囲設定と人的工程の役割定義
梱包状態の最終確認や顧客体験を左右する同梱作業など、人手による作業品質が求められる工程を明確に線引きします。すべてを機械化するのではなく、検品・封かん・仕分け等の定型負荷のみを機械に逃がし、付加価値の高い最終工程に人員を集中させる現場動線の設計が求められます。
参考記事: 物流自動化とは?導入メリットや主要設備・失敗しない進め方を徹底解説
出典: 通販新聞社
出典: 椿本チエイン
出典: WWDJAPAN
出典: LOGISTICS TODAY
出典: カーゴニュース



