物流テック大手のハコベル株式会社は、全国の拠点に分散する荷待ち時間や積載率を一元化し、AIが改善策を自動抽出する「CLOダッシュボード」を2026年9月下旬より提供開始します。改正物流効率化法により特定荷主への「中長期計画」策定や物流統括管理者(CLO)の設置が義務化される中、アナログ管理が続いていた現場データを経営判断の基盤へと昇華させる重要な一手となります。
ハコベル「CLOダッシュボード」の開発背景と改正法対応の実態
物流現場のデジタル化を推進するハコベル(東京都中央区、代表取締役社長CEO:狭間健志)は、荷主企業のサプライチェーン全体を可視化する新システム「CLOダッシュボード」の開発を発表しました。配車管理システム「ハコベル配車管理」やトラック予約受付サービス「トラック簿」などの運行・荷役データを統合し、AIが「どの拠点で荷待ちが頻発しているか」「どの輸送ルートで積載率が低下しているか」といったボトルネックを自動で特定します。
改正物流効率化法が求める「中長期計画」とデータ集約の壁
2026年4月に本格施行された改正物流効率化法(物資の流通の効率化に関する法律)では、年間貨物取扱重量が9万トン以上の荷主が「特定荷主」に指定され、役員クラスの物流統括管理者(CLO)の選任に加え、荷待ち時間削減や積載率向上を目指す中長期計画の策定・提出が義務付けられました。2026年度における初年度の計画提出期限は10月末日に設定されており、対象となる約3,200社の特定荷主は喫緊の対応を迫られています。
しかし、多くの荷主企業では工場や物流センターごとに管理手法が異なり、紙の伝票やExcelによる属人的な集計が続いていました。全社横断的なデータ基盤がない状態では、法的に求められる実態把握や実効性のある計画立案が困難という構造的課題が存在していました。
以下の表は、ハコベルの事業展開と法改正スケジュールの推移を整理したものです。
| 年月 | ハコベルの主な動向 | 法制度・市場の主な動き |
|---|---|---|
| 2022年8月 | ラクスルから分社化し、セイノーホールディングスとの合弁会社として設立 | 物流2024年問題への対策議論が本格化 |
| 2024年11月 | 株式会社モノフルよりトラック受付・予約サービス「トラック簿」を事業承継 | 改正物流効率化法が公布(2024年5月) |
| 2025年7月 | 「トラック簿」と「ハコベル配車管理」の自動連携を開始 | 改正法第1段階施行(荷待ち・荷役短縮の努力義務化) |
| 2026年4月 | 狭間社長が他社システムとの連携拡大方針を表明 | 改正法第2段階施行(特定事業者の指定・CLO義務化) |
| 2026年9月 | 「CLOダッシュボード」の提供を開始予定 | 2026年10月末の特定荷主向け中長期計画提出期限に対応 |
参考記事: 改正物流効率化法による特定事業者の年間9万トン基準とCLO選任の必須対応
参考記事: 年9万トン超の荷主に改正物流効率化法での物流統括管理者選任が必須対応に
運行・荷役データをAIで統合解析する機能構成
新システムは、従来バラバラに管理されていた「配車データ」と「バース滞在データ」を直結させる点に特徴があります。AIが運行実績を横断分析し、積載効率が極端に低いレーンや、特定の時間帯に集中する荷待ちを自動検知して改善優先度を提示します。
これにより、特定荷主は行政へ提出する中長期計画の基礎数値を容易に算出できるだけでなく、拠点ごとの改善進捗をリアルタイムにモニタリングするPDCAサイクルの確立が可能になります。
参考記事: 配車計画とは?効率化の仕組みやシステム選定・改善ステップを解説
参考記事: 積載率とは?計算方法や実車率との違い・改善に向けた実践アプローチを解説
サプライチェーン関係者への具体的な影響
「CLOダッシュボード」の登場とデータ一元化の流れは、荷主企業、テクノロジー事業者、運送事業者の関係性に大きな変化をもたらします。
製造業者・メーカー:現場集計の負担解消と「名ばかりCLO」からの脱却
大手製造業やメーカーにとって、CLO就任後に直面する最大の障壁は「自社サプライチェーンにおける一次データの収集」でした。調達・製造・販売の各事業部が個別に物流を委託している場合、全社合算の積載率や待機時間を算出するだけで膨大な工数を要していました。
ダッシュボードによって全拠点のデータが可視化されることで、CLOは客観的な数値を武器に社内改革を主導できます。営業部門の無理な短納期要請や、生産部門の過剰な見込み生産に対して「物流改善命令権」を行使するための論理的根拠が揃い、形骸化しがちなCLO体制を実効的な経営組織へと転換させることが可能です。
SaaS・テクノロジーベンダー:現場ツールから経営ダッシュボードへの競争激化
物流テック業界においては、単一業務を効率化するポイントソリューションから、経営層向けの戦略意思決定基盤へと提供価値のシフトが進んでいます。従来のTMS(輸配送管理システム)やバース予約システム単体での競争から、基幹システム(ERP)や他社SaaSとシームレスにAPI連携し、統合データをどう分析・提示できるかへと主戦場が移行しました。
ハコベルが他社システムとの連携強化を打ち出しているように、自社プロダクトの囲い込みではなく、オープンなデータハブとして機能できるベンダーが今後のプラットフォーム競争で優位に立つことになります。
参考記事: TMS(輸配送管理システム)とは?WMSとの違いから導入効果・失敗しない選び方まで解説
運送事業者:待機原因の数値化による適正運賃・条件交渉の進展
運送事業者にとって、荷主側で荷待ち時間や積載率のデータが一元管理されることは、長年の商慣習を是正する契機となります。これまでドライバーの自己申告や日報ベースでは証明が難しかった「発着拠点での長時間待機」や「非効率な積載指示」が荷主側のシステム上で客観的に証明されるためです。
荷主企業が自発的に課題拠点を把握できるようになれば、待機料金の適正な請求や、附帯作業費の書面化、納品リードタイムの緩和といった取引条件の改善交渉を、対等かつ建設的なデータに基づいて進める環境が整います。
LogiShiftの視点:部分最適の現場管理から本社主導のデータ経営への構造転換
今回のハコベルによるCLOダッシュボード開発は、物流管理の主権が「各事業所・倉庫の現場任せ」から「本社主導のデータガバナンス」へ完全に移行したことを示しています。
2026年3月時点の民間調査では、企業のCLO設置への意識が8割近くに達する一方で、実効性のある権限移譲や全社データの統合に至っている企業はごく一部にとどまっていました。特定荷主約3,200社が直面している本質的な課題は、単なる報告書の作成ではなく、「拠点ごとの個別最適が引き起こす全社コストの増大と運送会社からの選別リスク」です。
物流データを本社が一括管理し、AIによる客観的な改善指摘を経営会議のアジェンダに直接組み込める体制を構築できるかどうかが、持続可能なサプライチェーンを維持できる企業と、「物流難民」に陥る企業の分水嶺となります。
まとめ:明日から経営層・現場リーダーが意識すべき実践ポイント
特定事業者に課される中長期計画の策定期限が迫る中、企業はツールの導入にとどまらず、データを活用した組織運営へと舵を切る必要があります。明日から取り組むべき具体策は以下の通りです。
- 拠点ごとに分散している物流データの集約経路を確認する
自社の工場・倉庫・外部委託先で記録されている配車実績やバース入退場データが、本社で一元的に把握可能な状態にあるか現状のシステム構成を棚卸しする。
- 客観データに基づき他部門と調整する社内ルールを策定する
積載率の低下や荷待ちの主要因となっている営業・調達部門の取引条件に対し、CLOがデータを示して是正を指示できる職務権限規定の運用を徹底する。
- 課題の大きい特定ルートからデータ駆動型の改善に着手する
全社一斉の改革を目指すのではなく、AIやダッシュボードで特定された最も非効率な拠点・レーンに絞り、運送事業者との運行計画見直しを先行実施する。


