サトーは2026年9月7日、清涼飲料水製造を担うサントリープロダクツの国内全10工場において、RFID資産管理ソリューションパッケージ「ASETRA(アセトラ)」が採用されたと発表した。先行導入されたサントリー天然水 北アルプス信濃の森工場では、約2万4,000点に及ぶ設備予備品の棚卸し作業工数を従来の約57時間から約2時間へと短縮し、95%以上の削減を達成している。
サントリープロダクツ全10工場におけるRFID導入の経緯と運用実態
サントリーグループの国内清涼飲料製造の中核を担うサントリープロダクツでは、最先端のデジタル技術を活用したスマートファクトリー化の推進に伴い、製造ラインの安定稼働を支える保守・保全業務のデジタル化が進められてきた。
スマートファクトリー化の進展と設備予備品管理の課題
サントリープロダクツは2021年5月末、長野県大町市に「サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場」を稼働させた。同工場は高度なAIやIoT基盤を組み込んだ次世代型スマートファクトリーとして設計され、同年に設備保全管理システム(CMMS: Computerized Maintenance Management System)を導入した。ライン停止のリスクを最小化するため、工場内では約2万4,000点に及ぶ多様な設備予備品が保管・運用されていた。
しかし、上位システムであるCMMSの導入後も、予備品の入出庫や定期的な棚卸し作業は現場作業員による目視確認と端末への手入力に依存していた。部品点数が膨大であるため、データ入力漏れや型番の転記ミスなどのヒューマンエラーが頻発し、システム上の帳簿在庫と現場の実在庫との間に乖離が生じていた。
その結果、現場では定期棚卸しに多大な工数を割く必要があり、信濃の森工場では20人体制で合計約57時間を費やしていた。また、特定の部品がどこにどれだけあるかを熟知している特定担当者に保全業務が依存し、担当者の不在時や休暇中にも所在確認の連絡が入るなど、業務の属人化が深刻な現場負荷となっていた。
候補10社からの選定と「ASETRA」採用の決め手
管理精度の向上と現場負荷の軽減を図るため、サントリーホールディングスのデジタル&AI本部およびサントリープロダクツはRFID(電波による個体識別技術)を活用した資産管理の検討を開始した。約10社のベンダーを比較検討した結果、サトーが提供するRFID資産管理ソリューションパッケージ「ASETRA」の採用を決定した。
選定において重視された主な要因は以下の点である。
- 既存の設備保全管理システム(CMMS)とAPI等を介して容易にデータ連携ができる点
- RFIDリーダーをかざすだけで入出庫や棚卸しの実績データが自動的にCMMSへ登録される運用性の高さ
- 金属対応タグの選定や、電波干渉を防ぐための現場レイアウト指導など、ハードウェアと現場運用を包括した導入支援体制
- 1〜2回の指導で現場担当者が直感的に操作できるシンプルなUI(ユーザーインターフェース)
導入から全10工場展開に至る時系列
サントリープロダクツにおける予備品管理DXの推進プロセスは下表の通りである。
| 年月 | 出来事 | 主な取り組み・内容 |
|---|---|---|
| 2021年5月 | 北アルプス信濃の森工場稼働 | AI/IoT基盤を搭載したスマート工場として稼働開始。 |
| 2021年中 | 設備保全管理システム導入 | 保全業務の一環としてCMMSを導入し、約2万4,000点の予備品をデータ化。 |
| 2025年11月 | 先行工場の運用成果確認 | 信濃の森工場で棚卸工数95%削減、在庫精度の向上を確認。 |
| 2026年9月 | 全10工場への展開を正式発表 | 信濃の森工場の成果を踏まえ、サントリープロダクツ全10工場へ導入。 |
信濃の森工場における業務プロセスの劇的変化
信濃の森工場における設備予備品約2万4,000点を対象としたASETRAの導入効果は、作業時間・体制・精度のすべての面で確認されている。
| 評価項目 | 導入前の状態(手作業・目視) | 導入後の状態(RFID「ASETRA」活用) | 改善度 |
|---|---|---|---|
| 棚卸しの所要時間 | 合計 約57時間 | 約2時間 | 約96.5%削減 |
| 棚卸しの作業人数 | 20人体制(各エリア担当者総出) | 1人体制(専任者のみで完結) | 19人削減 |
| データ登録方法 | 紙台帳・目視確認後の端末手入力 | ハンディリーダーでの一括読み取りによる自動反映 | 転記ミス・漏れの根絶 |
| 在庫把握の精度 | 理論在庫と実在庫の乖離が恒常化 | リアルタイムな把握で乖離を極小化、所在の可視化を実現 | 余剰在庫の抑制・発注適正化 |
| 業務の属人化 | 特定担当者しか場所や数量を把握不可 | 誰でも1〜2回のレクチャーで探索・入出庫が可能 | 属人化の解消、休日の問い合わせゼロ |
RFIDリーダーでタグを一括読み取りするだけで、入出庫データや棚卸し結果が即座にCMMSへ登録されるため、データ入力の手間が省かれただけでなく、帳簿在庫と実在庫のズレが極小化された。さらに、電波の読み取り精度を高めるために予備品の配置や棚番号の整理を徹底したことで、工場内の「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」とロケーション管理が標準化され、他部門の作業員でも即座に必要な予備品を取り出せる環境が整った。
参考記事: RFIDとは?仕組みやバーコードとの違い・物流現場での活用事例を解説
サントリープロダクツ全10工場展開が各業界プレイヤーへ与える影響
サントリープロダクツのような大手飲料メーカーが、製造ラインの製品そのものだけでなく、バックヤードに位置する「設備予備品」の管理にRFIDを全面導入し、全10工場へ水平展開したことは、製造・物流業界の保全・資材管理に大きな波及効果をもたらす。
製造業者・メーカー:間接材管理のROI向上とスマートファクトリーの完成度向上
製造業において、原材料や製品のトレーサビリティおよび自動認識は投資対効果(ROI)が見えやすく、導入が先行してきた。一方で、機械の修理部品や予備モーター、センサー、ボルト類といった「設備予備品」は、多品種少量かつ非定型な形状が多いため、長年にわたり管理のデジタル化が後回しにされてきた経緯がある。
今回の事例は、約2万4,000点という膨大な予備品に対しても、RFIDを用いることで「20人・57時間」を「1人・2時間」に圧縮できることを明確に実証した。これは、製造業各社の経営層にとって、設備保全という間接部門へのIoT投資が直接的な人件費削減や稼働率維持に直結することを示す強い根拠となる。
また、予備品の正確な在庫数がリアルタイムに可視化されることで、「念のため多めに発注しておく」という安全在庫の過剰な積み増しが防止される。サントリープロダクツでも確認されているように、複数工場間での予備品の融通や共通化が進むことで、グループ全体での運転資本の圧縮につながる。保全担当者が定常業務に集中できる環境が整うため、設備故障時のダウンタイム短縮という製造業の最重要指標(KPI)の改善にも寄与する。
参考記事: 在庫可視化とは?理論と実在庫のズレを解消し、コスト削減と現場の負荷軽減を実現する実践手法
現場作業員・倉庫保全担当:データ入力負荷の解消と労働環境の標準化
工場の保全現場や物流倉庫の管理担当者にとって、毎月末や期末の棚卸し作業は身体的・精神的な負担が重い業務の一つであった。微小な金属部品や棚の奥に押し込まれた重量パーツを一つひとつ目視でカウントし、チェックシートから管理端末へ手作業で数値を打ち込むプロセスは、ヒューマンエラーが発生しやすく、再カウントによる残業を恒常化させていた。
RFID導入による一括読み取り環境が整備されたことで、作業員は脚立に登ってバーコードを1点ずつスキャンしたり、棚の奥の型番を目視で確認したりする作業から解放される。作業負荷の劇的な低下は、現場作業員のエンゲージメント向上や離職防止に大きく寄与する。
さらに、シンプルな操作性により1〜2回の指導で誰でも作業を行えるようになったことで、「あの部品の置き場所は○○さんしか知らない」「担当者が不在でライン復旧に必要なパーツが見つからない」といった業務の属人化が解消された。特定の熟練保全担当者に過度なプレッシャーがかかる体制が是正され、休暇の取得しやすさや労働時間の平準化など、現場の労働環境改善に直接的なメリットをもたらす。
参考記事: 電子タグとは?RFID・バーコードとの違いから現場導入のポイントまで徹底解説
SaaS・テクノロジーベンダー:上位システム連携と現場実装力のパッケージ化要求
テクノロジーベンダーやシステムインテグレーター(SIer)の市場環境にも変化が生じている。矢野経済研究所の調査によると、RFIDソリューションの世界市場規模は2024年に前年比10.8%増の1兆6,431億円に達し、2027年には2兆3,379億円規模まで拡大すると予測されている。アパレル業界のレジ会計・棚卸し用途から始まったRFIDの普及は、製造・物流の間接材管理へと急速に裾野を広げている。
今回のサトーの採用事例で注目すべき点は、単にRFIDリーダーやタグというハードウェアを納入しただけでなく、既存のCMMSとシームレスにデータ連動するソフトウェアパッケージ「ASETRA」として提供された点である。上位システムとデータ連携できなければ、現場で読み取ったデータは孤立し、別の端末へCSVデータを手動で取り込むといった新たな非効率を生み出してしまう。
今後のテクノロジーベンダーには、基幹システム(ERP)や倉庫管理システム(WMS)、CMMSといった既存のIT資産と「ノンプログラミングまたは容易なAPI連携」ができるパッケージ設計が求められる。同時に、金属製部品へのタグ貼り付け位置や電波の反射・干渉を考慮した保管ラックの配置など、現場の物理空間に即した泥臭い実装支援ノウハウを併せ持つベンダーが選定される傾向が強まる。
参考記事: WMS(倉庫管理システム)とは?在庫管理・OMS・TMSとの違いや導入メリットを解説
LogiShiftの視点:予備品RFID化から見える工場・物流DXの構造転換
サントリープロダクツの全10工場展開は、単なる工数削減の成功事例にとどまらず、産業界における「資産可視化のスコープ拡大」という構造的転換を明確に示している。
製品から「間接資産・治具」へ広がるデジタルの網
これまで製造業や物流業における個体管理技術(バーコード、QRコード、RFID)は、顧客へ出荷される「製品」や「原材料・外装ダンボール」のトレーサビリティに主たる投資が向けられてきた。これは顧客要求への対応や出荷ミス撲滅といった外的なプレッシャーが強かったためである。
しかし、製品まわりのデジタル化が一巡した今、次の生産性向上のフロンティアとなっているのが、工場や物流センターのオペレーションを水面下で支える「間接資産」である。具体的には、本件のような設備の保守予備品をはじめ、輸送用パレット、カゴ車、通い箱、工場内の治具や工具などが該当する。
サントリーホールディングスの担当者が今後の展望として「パレットやビール樽のトレーサビリティなど、予備品以外の資産管理への展開」に言及している通り、一度工場内でRFIDの運用インフラとノウハウが確立されれば、対象となる資産の横展開もしやすくなる。閉じた空間(自社工場内)での予備品管理で確実に高いROI(工数95%削減)を叩き出し、その基盤をサプライチェーン全体の循環資材(パレット・樽等)へと拡張していくアプローチは、非常に理にかなったDX戦略のモデルケースといえる。
参考記事: スマート物流とは?物流DXとの違いや導入メリット、成功事例を徹底解説
CMMSとRFIDの融合がもたらす「予防保全」の高度化
もう一つの本質的な論点は、CMMS(設備保全管理システム)という「データの中枢」と、RFIDという「現場の物理的な動き」がリアルタイムに直結したことによる保全業務の高度化である。
従来の予備品管理では、在庫データにタイムラグやズレが存在していたため、「部品があると思って保全計画を立てたが、現場の棚になかった」「欠品を恐れて過剰に高額な部品を発注していた」という非効率が日常茶飯事であった。しかし、出庫と同時にCMMS上の在庫数が減算され、実在庫と完全に一致する状態が維持できれば、保全計画の精度は飛躍的に高まる。
さらに、設備の稼働時間や故障傾向のデータと、予備品の消費サイクルデータを連携させることで、「どの部品がいつ摩耗し、何個必要になるか」を予測する高精度な予防保全(Predictive Maintenance)の実現へと道が開かれる。サントリープロダクツが達成した95%の工数削減という実績は、現場の省力化という成果であると同時に、工場全体のダウンタイムをゼロに近づけるためのデータ基盤が完成したことを意味している。
まとめ:現場のスマート化に向けて明日から意識すべきこと
サントリープロダクツ全10工場におけるRFID導入の成功は、高度なITシステムを導入するだけでは現場のDXは完結せず、物理的なモノとシステムをいかに低負荷でつなぐかが重要であることを物語っている。自社拠点での展開を検討するにあたり、以下のステップを意識することが推奨される。
- 現場の間接業務に潜む「目視・手入力」の工数を定量化する
設備の予備品や治具、物流容器など、これまでデジタル化の優先度が低かった領域で、棚卸しや探索にどれだけの時間が費やされているかを可視化する。サントリーの事例のように「20人がかりで57時間」といった実態を把握することが、導入検討の最初の契機となる。
- 既存の管理システムと現場作業をつなぐインターフェースを見直す
CMMSやWMSなどの上位システムを導入していても、現場の記録手段が紙や手入力のままであれば、データ精度の破綻と現場の疲弊を招く。システムそのものを入れ替えるのではなく、既存システムとAPI連携可能な自動認識技術(RFIDやハンディターミナル)を付加し、現場の入力負荷をゼロに近づける設計が不可欠である。
- デジタル導入を機に現場のロケーションと5Sを標準化する
RFIDの導入成功には、タグの貼付位置や電波特性に配慮した保管方法の整理が欠かせない。ツールの導入を単なる省力化で終わらせず、保管場所のルール化や表示の統一を同時に進めることで、誰でも迷わず作業できる属人化排除の体制を確立することが重要である。
製造・物流現場における人手不足が深刻化する中、目視や転記といった非付加価値作業を自動化し、限られた人員を高付加価値な保全・改善業務へシフトさせる取り組みは、持続可能な現場運用を構築する上で極めて有効な選択肢となる。
参考記事: 物流IoTとは?仕組み・活用事例から導入メリットやステップまで解説
出典: LOGI-BIZ online
出典: サトー 導入事例
出典: サトー プレスリリース
出典: LOGISTICS TODAY


