国土交通省は2026年8月28日、物流効率化法に基づき特定荷主に指定された建設業者向けに、中長期計画書(様式第3)の記載見本集を公表しました。年間取扱貨物重量が9万トン以上の特定第一種および特定第二種荷主を対象に、トラックドライバーの荷待ち短縮や積載効率向上に関する具体的な記載水準が提示されています。
改正物流効率化法における建設業向け中長期計画策定の全貌
2026年4月に全面施行された「物資の流通の効率化に関する法律(通称:物流効率化法)」に基づき、一定規模以上の荷物を扱う事業者は「特定荷主」としての法的義務を負うことになりました。今回公表された記載見本集は、製造業、小売業、卸売業、連鎖化事業に続き、建設業に特化した物流改善の実務指針として策定されたものです。
建設業編における中長期計画制度の枠組み
物流効率化法において、前年度の取扱貨物重量が年間9万トン以上の建設事業者は「特定荷主」に該当します。特定荷主は役員クラスから物流統括管理者(CLO)を選任した上で、トラックドライバーの拘束時間削減や輸送効率化を推進するための「中長期計画書」をオンラインフォームから提出しなければなりません。初年度となる2026年度の提出期限は10月末日に設定されています。
制度の基本的な構成要素を以下の表に整理しました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠法令 | 物資の流通の効率化に関する法律(物流効率化法) |
| 対象事業者 | 年間取扱貨物重量9万トン以上の特定荷主(第一種・第二種) |
| 主な提出義務 | 中長期計画書(様式第3)の提出、定期報告の年次提出 |
| 初回提出期限 | 2026年10月末日(オンラインフォームによる提出) |
今回公開された「建設業編」の様式第3では、荷主企業が取り組むべき計画が以下の3つの主要テーマに区分され、特定第一種荷主(自ら運送契約を締結する事業者)と特定第二種荷主(資材の手配や受渡しを行う元請・協力会社等)の双方に向けて具体的な記載事例が提示されました。
- 運転者一人当たりの一回の運送ごとの貨物の重量の増加に関する計画(積載効率の向上)
- 運転者の荷待ち時間の短縮に関する計画
- 運転者の荷役等時間の短縮に関する計画
国土交通省は、各現場の拠点構成、取扱品目(鉄骨、生コンクリート、木材、土砂、PC板等)、委託先との役割分担、事業規模に合わせて、目標数値や実施時期を調整しながら活用することを求めています。
参考記事: 特定荷主とは?改正物効法・省エネ法の違いと2026年施行に向けた実務対応策
建設物流をめぐる法規制強化の時系列
建設資材の物流は、トラックドライバーの長時間労働や荷待ちが深刻な分野の一つとして以前から指摘されていました。2024年4月の時間外労働上限規制(年960時間規制)の適用以降、制度の強化が段階的に進められています。これまでの経緯と今後のスケジュールは以下の通りです。
| 時期 | 制度・政策の動き | 建設業界への主な影響 |
|---|---|---|
| 2020年5月 | 建設資材物流編ガイドライン策定 | 荷待ちの多い建設資材分野での取引改善を国交省が要請。 |
| 2024年4月 | ドライバー時間外労働上限規制適用 | 輸送能力不足が顕在化し、建材の配送遅延リスクが上昇。 |
| 2024年5月 | 改正物流効率化法が公布 | 荷主に対する物流効率化の法的義務付けが成立。 |
| 2025年4月 | 配慮義務・努力義務の施行 | 全荷主に対し、荷待ち短縮や積載向上への努力義務を課す。 |
| 2026年4月 | 改正物流効率化法が全面施行 | 年間9万トン以上の荷主へCLO選任・計画提出を義務化。 |
| 2026年5月 | 特定荷主の初回届出期限 | 対象事業者が地方整備局等へ特定荷主の届出を実施。 |
| 2026年8月 | 中長期計画記載事例集(建設業編)公表 | 様式第3における記載粒度や目標設定の具体例を提示。 |
| 2026年10月 | 中長期計画の初年度提出期限 | 対象となる特定荷主が国交省へ計画書を提出。 |
参考記事: 物流効率化法、2026年10月期限へアナログ管理からの脱却が急務
データで見る建設資材物流の待機実態と納品制約
建設現場における物流は、一般的な消費財や流通倉庫とは異なる特殊な商慣習が存在します。NX総合研究所の調査データによると、建設資材の現場搬入において、43%の搬入作業で15分以上の待機時間(荷待ち)が発生しています。
さらに同調査では、建材メーカーから現場への納品において「納品時間指定」が設定されている割合が91.8%に達しており、そのうち「ピンポイント指定」または「1時間幅指定」が73.2%を占めています。指定時間帯の分布を見ると、午前10時までの時間帯に集中しており、午前10時以降の搬入指定はわずか6.2%にとどまります。
朝一番のクレーン作業や現場の朝礼スケジュールに合わせて大量のトラックが現場周辺に集中し、路上や待機所での長時間の荷待ちを余儀なくされる構造が、データからも裏付けられています。国土交通省が2026年7月に公表した輸送動態調査(運送会社1,032社対象)では、全産業平均の荷待ち・荷役等時間は2時間2分と改善傾向にあるものの、建設資材分野では依然として現場搬入時のボトルネックが解消しきれていない現状があります。
建設業法上の営業停止処分との連動リスク
特定荷主が提出する中長期計画は、単なる行政手続きにとどまりません。物効法に基づく義務違反は、本業である建設業の事業継続に直結する重い法的リスクを伴います。
国土交通省は2026年、物流効率化法の改善命令に違反して役員などが刑罰(罰金刑等)に処された特定荷主に対し、建設業法に基づく「7日以上の営業停止処分」を科す監督処分基準の改正を進めています。
| 段階 | 発生する手続き・行政処分 | 企業経営への影響 |
|---|---|---|
| 1次対応 | 中長期計画・定期報告の不備、未提出 | 国土交通省からの指導・助言、是正勧告 |
| 2次処分 | 勧告に従わない場合の措置 | 企業名公表、改善命令の発令 |
| 刑事罰 | 改善命令の不履行 | 役員等への刑罰(最大100万円の罰金) |
| 監督処分 | 建設業法に基づく行政処分 | 7日以上の営業停止処分、公共工事の指名停止 |
営業停止処分が下された場合、新規の工事請負契約の締結が禁止されるだけでなく、公共工事の指名停止や経営事項審査(経審)の大幅な減点に直結します。中長期計画に記載する内容は、将来の監査や定期報告において履行状況が厳しく照会されるため、実行可能性を精緻に検証した計画策定が不可欠です。
参考記事: 国土交通省が物効法違反の建設業者に7日以上の営業停止処分新設、経営リスク直結
参考記事: 国土交通省、9万トン超の特定荷主に7日以上の営業停止案|建設業界は即時対応を\
参考記事: 改正物流効率化法10月末計画提出に日清食品など3000社超が挑む必須対応
サプライチェーン関係者への具体的な影響
今回の記載事例集の公表は、建設現場に関わるすべてのステークホルダーに対し、日々の業務運用や契約関係の見直しを迫る契機となります。
建設荷主(ゼネコン・住宅メーカー):全社的な工程管理と物流統括の統合
特定荷主に指定された元請ゼネコンや大手ハウスメーカーは、現場ごとに分散していた資材手配と工程管理を、CLOの指揮下で一元的に把握する体制への移行が必要です。
従来の建設現場では、所長や各工区の担当者が下請負業者や資材メーカーに個別発注を行い、搬入時間も現場の作業都合を優先して指定される傾向にありました。しかし、中長期計画において「荷待ち・荷役時間の短縮」や「積載効率の向上」に関する定量目標を掲げる以上、場当たり的な搬入指示は許容されません。
現場ごとの搬入スケジュールをデジタル上で統合管理し、資材の一時保管場所(中継デポ)を活用した共同配送や、混載便の手配による積載率向上など、全社レベルのロジスティクス戦略を現場運用へ落とし込む体制整備が求められます。
運送事業者:待機実態のデータ化による運賃・附帯業務の適正交渉
建材やプレキャストコンクリート、鋼材などを輸送する運送事業者にとっては、建設荷主に対して荷待ちや荷役の実態を提示し、契約条件の適正化を求める強力な根拠が得られる環境が整います。
特定荷主側には毎年度の定期報告義務が課されるため、建設業者は現場でのトラックの到着時間、荷待ち時間、荷役終了時間のデータを把握しなければなりません。運送事業者は、デジタコや動態管理システムから得られる客観的な運行記録を荷主へ提示することで、契約に含まれない荷降ろし補助作業の是正や、長時間待機に対する適正な待機時間料の請求を交渉しやすくなります。
元請建設会社が中長期計画の目標を達成するためには運送事業者との協力が不可欠となるため、従属的な下請関係から、サプライチェーン維持に向けた協調関係への再構築が進むことになります。
SaaS・テクノロジーベンダー:現場車両管理とバース予約システムの普及
建設現場特有の狭小な敷地条件やクレーン作業の制約に対応するため、現場車両管理システムやトラック予約受付システムの導入需要が拡大します。
製造業や流通倉庫と異なり、建設現場は工期の進捗に伴ってレイアウトや必要な資材が日々変化します。固定的なバース運用が難しいため、スマートフォンやクラウドを活用した現場向け搬入予約サービス、資材ヤードの動態把握ツール、入場許可証のデジタル発行システムなどの需要が高まっています。
中長期計画に記載した目標数値を年次でモニタリングし、行政への定期報告データとして集計する作業をアナログな手書き伝票で行うことは現場の疲弊を招きます。SaaS事業者は、データ収集から行政提出用フォーマットへの出力までを支援するソリューションを提供することで、建設業界への浸透を図る好機を迎えています。
参考記事: トラックバース予約管理システムとは?荷待ち時間の可視化やWMS連携でバース割り当てを効率化する機能を解説
行政・規制当局:多重下請け構造を持つ現場への実効的ガバナンス
国土交通省をはじめとする規制当局は、製造・流通分野に続いて建設分野への詳細な記載事例を提示したことで、物流改革の網を重層下請構造の奥深くまで広げる姿勢を鮮明にしています。
建設業は多数の専門工事業者が重層的に関与しており、物流管理の責任所在が曖昧になりやすい領域でした。様式第3において特定第一種・第二種それぞれの立場に応じた計画例を示したことは、発注者や元請だけでなく、資材調達を担う上位下請事業者にも効率化の役割を分担させる狙いがあります。
トラックGメンによる現場立ち入りや運行実績調査と、年次提出される定期報告の突き合わせが進むことで、実効性を伴わない計画を策定した事業者に対する指導や改善命令の執行精度が高まります。
LogiShiftの視点:形式的計画から実効的な現場運用への転換
今回の記載事例集の公表は、建設物流が「現場監督の裁量による調整」から「役員級CLOによる統括管理」へと移行する転換点を示しています。2026年10月末の中長期計画提出を単なる書類仕事として処理する企業と、調達・工程管理の構造改革として捉える企業との間で、調達力と事業継続性に決定的な格差が生じることになります。
物効法違反が建設業法に基づく営業停止処分に連動する法体系が整備された現在、実効性のない中長期計画の策定は、最大のリスク要因となり得ます。例えば、中長期計画において「荷待ち時間を平均30分以内に短縮する」と掲げながら、実態把握の仕組みを持たず現場任せにしていれば、毎年度の定期報告で改善の進捗が示せず、是正勧告や改善命令へと進む危険性があります。
建設荷主が取り組むべき本質的な解決策は、午前10時前後に集中している搬入ピークの分散です。NX総合研究所のデータが示す通り、9割以上の納品で時間指定が行われ、その多くが早朝に偏っている構造こそが荷待ちの根本原因です。
これを解消するには、工程管理システムと車両搬入予約システムを連携させ、夜間搬入の受け入れ態勢構築や、資材ごとの搬入時間帯の分散(タイムスロット管理)を組織的に設計しなければなりません。また、都市部の狭小現場においては、現場近郊に共同ストックヤードを確保し、中継拠点から現場へのシャトル便輸送を構築することで、大型車の現場待機をゼロ化するような抜本的なオペレーション改革が求められます。
中長期計画の策定を機に、設計段階からプレハブ化・ユニット化を進めて現場への資材搬入回数そのものを減らすといった、建築設計・調達・施工計画を横断したサプライチェーン全体の最適化へ踏み出す企業が、持続的な施工能力を維持することになります。
まとめ:初年度10月末提出へ向けた3つの実行ステップ
2026年10月末の中長期計画書提出に向けて、特定荷主に該当する建設事業者は直ちに社内体制を整え、実効性のある計画策定に着手する必要があります。明日から取り組むべき主要なステップは以下の3点です。
- 自社の年間取扱貨物重量の再算定と特定荷主区分の確定
元請工事および下請工事を含め、自社が運送を委託または手配・受渡ししている建設資材・建設副産物の年間総重量を正確に算定し、自社が特定第一種荷主または特定第二種荷主のどちらに該当するかを確定させます。
- 現場別の荷待ち・荷役時間の実態把握と客観データの収集
主要な施工現場を対象に、トラックの入場から荷役終了・退場までの所要時間を調査します。運送事業者からのヒアリングや日報の確認に加え、必要に応じて動態管理ツール等を一時的に活用し、計画書に記載する基準数値を客観的に把握します。
- 記載事例集をベースにした自社計画の策定とシステム導入検討
国土交通省が公開した建設業編の事例集を参照し、自社の現場条件(都市部、郊外、山間部等)や工種に合わせて現実的な改善目標と実施スケジュールを策定します。将来の定期報告を見据え、車両予約や入退場実績を継続的に記録できるデジタルツールの導入準備を並行して開始します。
出典: トラックニュース
出典: 国土交通省(中長期計画書記載見本集【建設業編】)
出典: 国土交通省(流通業務総合化・効率化法関連)
出典: NX総合研究所(物流トレンド解説)
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