多品種化に伴う出荷拠点の分散で荷物の「小口割れ」が頻発し、運賃や梱包費の高騰に頭を抱えるEC事業者は少なくありません。アスクルが実践する次世代EC物流戦略は、AIによる在庫最適配置と外部パートナーを巻き込むプラットフォームの共創により、配送コストの抑制と現場負荷の軽減を同時に実現する道筋を示しています。
アスクルが描く次世代EC物流戦略とCLOの基礎知識
EC市場の急拡大と顧客ニーズの多様化により、流通現場では取扱品目(SKU)の急増と配送効率の維持という二律背反の課題に直面しています。アスクル株式会社(以下、アスクル)は、物流を単なる「コストセンター」ではなく「経営の競争力の源泉」と位置づけ、テクノロジーとサプライチェーン全体の共創を融合させたロジスティクス改革を推進しています。
CLO(最高ロジスティクス責任者)と物流統括管理者の統合体制
2026年3月、アスクルはロジスティクス本部本部長の池田和幸氏がCLO(Chief Logistics Officer:最高ロジスティクス責任者)を兼務する新体制を発足させました。池田氏はIT部門と物流部門の双方を経験したバックグラウンドを持ち、デジタル技術と現場オペレーションの双方に精通したリーダーです。
アスクルにおけるCLOの最大の特徴は、2026年4月施行の改正物流効率化法で求められる「物流統括管理者」の役割を一体で担っている点にあります。法令遵守を目的とした形式的な役職設置にとどまらず、経営判断、SCMデータの統合、倉庫や輸配送の現場改善をひとつの指揮系統に束ねる体制を敷いています。
【アスクルにおけるCLO統括モデル】
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│ CLO(執行役員 ロジスティクス本部長) │
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│
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【経営・投資戦略】 【データ・DX推進】 【現場実務・外部共創】
・全社SCM最適化 ・AI需要予測・配車 ・全国11拠点DCの運用
・設備投資の意思決定 ・在庫配置アルゴリズム・配送パートナー連携
・エシカル物流推進 ・TMS「とらっくる」 ・サプライヤー発注平準化
多品種化を支える柔軟な自動化と東西2大マザー拠点
アスクルが取り扱う商品点数は1,500万SKUを超えています。この膨大なアイテムを効率的に出荷するため、同社は東日本と西日本に大規模なマザーセンターを配置する戦略をとっています。
西日本では延床面積約16.5万平方メートルの「ASKUL Value Center 関西(大阪府吹田市)」、東日本では2025年6月に本格稼働した延床面積約10.5万平方メートルの「ASKUL関東DC(埼玉県上尾市)」が中核を担います。ロングテール商品をマザーセンターへ集約し、需要の高い日用品やオフィス消耗品を地域拠点へ最適配置することで、複数拠点からの分割配送(小口割れ)を防ぎ、1箱にまとめて届ける同梱率の向上を追求しています。
倉庫内では、完全無人化を目的とするのではなく、作業負荷を最小化して少人数で高品質なオペレーションを維持する「協働型の自動化」が進められています。
| 設備・技術名称 | 導入拠点・規模 | 主な機能と役割 |
|---|---|---|
| Table-sorting system | ASKUL関東DC(160台) | 自律走行による小型荷物の自動仕分けAGV |
| PopPick Ver.1.3 | ASKUL関東DC(444台) | GTP(Goods-to-Person)型の自動ピッキングシステム |
| Carry Bee Dragon3 | ASKUL関東DC(12台) | 庫内の多品種商品を運搬する6輪台車搬送AGV |
| バース予約システム | 全拠点(ASKUL関西DC等) | トラック待機時間を削減する事前荷受予約基盤 |
参考記事: アスクルが47歳新社長の登用で進める物流経営シフトへの必須対応
なぜ今、荷主主導のDXと共創戦略が不可欠なのか
物流現場を取り巻く環境は、ドライバー不足と法規制の強化によって劇的な転換期を迎えています。単独企業の努力や運送事業者へのコスト転嫁に頼る旧来の手法は、もはや通用しません。
改正物流効率化法による「特定荷主」への規制強化
2024年5月に公布された「物資の流通の効率化に関する法律(改正物流効率化法)」は、段階的な施行を経て、2026年4月1日より特定荷主に対する規制的措置が本格施行されました。年間貨物取扱量が9万トン以上の事業者には、役員クラスのCLO(物流統括管理者)の選任、中長期計画の提出、定期報告が義務付けられています。
中長期計画では、トラックドライバーの荷待ち・荷役時間を合計2時間以内に抑えることや、積載効率の向上が厳格に求められます。取り組みが不十分な企業に対しては勧告や是正命令が下され、従わない場合は最大100万円の罰金や社名公表の対象となります。
アスクルは法改正に先駆け、2019年から関西DCなどでバース予約システム「MOVO Berth」を順次導入し、全国の拠点へ水平展開してきました。かつては納品車両の集中により待機時間の長さが問題視されていた時期もありましたが、荷主自らがデジタルツールを導入して荷受け体制を刷新し、法令基準を大幅にクリアする環境を早期に整えています。
1,500万SKU時代の「小口割れ」と配送費の爆発的増加
EC市場における取扱品目の爆発的な増加は、物流現場に深刻な歪みをもたらします。アスクルでは、重点業種(医療・介護、飲食など)への品揃え強化を進めており、取り扱うアイテム数は1,500万点を突破しました。
在庫配置が適切でない場合、顧客が1回の注文で複数商品をまとめて購入しても、商品ごとに異なる倉庫から別々に発送される「小口割れ」が発生します。小口割れは以下の3重の損失を引き起こします。
- 箱数と個口数の増加によるラストワンマイル配送料金の急増
- ダンボール資材の過剰消費と梱包作業工数の肥大化
- 荷物の受取回数増加に伴うエンドユーザー(顧客)の利便性低下
この問題を克服するには、勘や経験に頼る在庫補充を排し、AIを用いた高度な数理モデルによって「どの拠点に、どの商品を、何個置くべきか」を常に計算し続ける仕組みが不可欠です。
参考記事: AGS提言|2026年4月施行のCLO義務化と装置産業化で挑む物流DX
アスクルの次世代EC物流戦略がもたらす4つの具体的効果
アスクルが進めるDXと共創モデルは、倉庫オペレーションから配送パートナー、サプライヤー、地球環境に至るまで広範な定量的・定性的成果を生み出しています。
1. バース予約管理によるトラック待機時間の極小化
アスクルは全国の物流センターにおいて、Hacobuが提供するトラック予約受付システム等を駆使し、納品車両の事前予約運用を徹底しています。
大規模物流拠点であるASKUL関西DC(吹田市)では、日量約300台の納品車両を受け入れる中で、平均待機時間を従来の42分から12分へと大幅に短縮しました。業界全体の社会課題となっている「1時間以上の荷待ち待機」の発生率は10%以下(実績値としては3%台)に抑え込まれています。また、新木場物流センターにおいても、導入後に1時間以上の待機率が4分の1以下、早朝・深夜の待機台数が3分の1以下へ低減しました。ドライバーの拘束時間を削ることで、運送会社から優先的に選ばれる荷主としての地位を確立しています。
2. 産学連携AIアルゴリズムによる「小口割れ」抑制と配送費低減
アスクルは、電気通信大学および株式会社タイムインターメディアと産学連携を結び、遺伝的アルゴリズム(進化計算)を活用した「在庫配置計画アルゴリズム」を共同開発しました。
全国11拠点に及ぶ物流センターの出荷実績や購買傾向、季節変動データをAIが解析し、商品ごとの最適な拠点配置を導き出します。東西2大マザーセンター(関東DC・関西DC)と周辺拠点が緊密に連携することで、注文の集約同梱率が飛躍的に高まりました。1回の注文を極力1箱にまとめて届ける体制が構築された結果、出荷個口数が削減され、売上高に対する配送費比率の抑制に成功しています。
3. 自社開発TMS「とらっくる」の外部開放による実車率向上
ラストワンマイル配送の効率化に向けて、アスクルは自社開発した配送管理システム「とらっくる」を、子会社のASKUL LOGISTだけでなくグループ外の配送パートナー企業にも無償で開放しています。
「とらっくる」はアスクル取扱荷物以外の配送業務にも柔軟に活用できる設計となっています。配送パートナーは追加の莫大なシステム投資を行うことなく、高精度なルーティング、リアルタイム動態管理、配送ステータスの共有、受取人対応をタブレット端末等で一元管理できます。これにより、配送パートナーの空車走行が減少し、ドライバーの業務負担が軽減されるとともに、ラストワンマイル全体の輸配送能力が安定的に確保されています。
4. 荷姿設計から変える「エシカル物流」と積載率改善
アスクルの取り組みは、倉庫や車両のデジタル化だけにとどまりません。商材の設計やパッケージ構造そのものを物流に合わせて見直す「エシカル物流」を展開しています。
代表例が、自社オリジナル飲料水「LOHACO Water 2L」における特殊梱包箱の採用です。従来の飲料ダンボールは縦置き6本入りが主流でしたが、同社は「2Lボトル5本の平置き箱」を独自開発しました。薄型フラットな箱形状にすることで、出荷用大型ダンボールの最下部に隙間なく収まり、その上部に文具や日用品などの別商材を重ねて梱包できるようになりました。
輸送時の容積効率(デッドスペースの削減)が飛躍的に高まり、トラック1台あたりの積載可能量が増加。車両台数の削減とCO2排出量の大幅カットを両立させています。
【平置き箱採用による同梱・積載の変革】
[従来の縦置き箱]
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│ 飲料ボトル │ ➔ 上部に別商品を重ねにくく、箱内に無駄な隙間(デッドスペース)が発生
│ (縦置き) │ ➔ 複数個口に小口割れしやすい
└─────────┘
[LOHACO Waterの平置き箱]
┌───────────────────┐
│ 文具・日用雑貨などの同梱商品 │
├───────────────────┤
│ 平置き箱(2L×5本) │ ➔ 配送箱の最下部にぴったり平置き。上部スペースを有効活用
└───────────────────┘ ➔ 1箱への同梱率向上・トラック積載効率が大幅改善
| 改革施策 | 従来の課題 | 実施後の定量的・定性的成果 |
|---|---|---|
| バース予約運用 | 長時間待機による「ブラックリスト」入りの危機 | 関西DCで1時間以上待機率10%以下(3%台)。待機時間を3分の1に短縮 |
| AI在庫配置計画 | 多品種化に伴う小口割れと配送運賃の爆発 | 同梱率の向上、出荷個口数削減による配送費比率の低減 |
| TMS「とらっくる」開放 | 配送パートナーの業務属人化と空車運行 | 外部パートナーのルーティング効率化、実車率の向上 |
| エシカル荷姿設計 | 飲料水等の重量物が招く容積効率の悪化 | 5本平置き箱による同梱効率化、トラック積載率向上とCO2削減 |
参考記事: 積載率とは?計算方法や実車率との違い・改善に向けた実践アプローチを解説
現場リーダー・経営層が取り組むべき次世代物流DXの実践ポイント
アスクルの先進モデルを自社に落とし込む際、単にAGVなどの自動化ロボットを購入するだけでは成果は出ません。失敗を回避し、持続可能な物流基盤を確立するための重要ポイントを解説します。
1. 属人化を排除する「計画系AI」への集中投資
多くの物流企業が犯しやすい過誤は、費用対効果の検証が不十分なまま高額なピッキングロボットを導入し、特定SKUしか扱えずに投資を回収できなくなるケースです。
池田CLOが指摘するように、物流においてAIが最大の威力を発揮するのはピッキング等の単一作業ではなく、「計画系(配車計画、拠点間在庫配置、需要予測)」の領域です。ロジスティクスは日々繰り返される反復プロセスの連続です。条件を設定して計算し、実績とのズレをAIに再学習させるサイクルを回すことで、在庫配置の精度や配車の最適化レベルは持続的に向上します。自社開発が難しい場合は、標準化されたSaaS型のAI配車システムや需要予測ツールの活用から着手するのが賢明です。
2. サプライヤーとの情報共有による「発注・入荷の平準化」
自社倉庫内の効率化だけを進めても、上流から届く入荷量が日によって乱高下していては、荷受けバースの混乱や作業員の突発的な残業は防げません。
アスクルは主要サプライヤーと入荷車両情報や仕入れ計画データを共有し、特定日時に集中していた納品を分散・平準化させています。荷主企業は、購買・調達部門と緊密に連携し、以下のアクションを進める必要があります。
- サプライヤーごとのリードタイムと適正発注ロットの再設定
- 月初・週末への偏重を解消する発注スケジュールの分散
- 入荷予定データ(事前出荷情報:ASN)の電子化による検品作業の事前段取り
調達データを川上から川下へと滑らかに流通させることが、現場の装置産業化と安定運用の基盤となります。
3. 「協調領域」のオープン化による共創プラットフォーム構築
物流課題の多くは、個社単独の努力で解決できる限界を超えています。自社で構築した仕組みであっても、囲い込まずに外部へ提供する姿勢が求められます。
アスクルが配送管理システム「とらっくる」を外部の配送会社へ無償開放したように、自社のサプライチェーンに関わるステークホルダーを「共通のデジタルインフラ」で結びつけることが重要です。バース予約システムの導入にあたっても、出入りの運送業者へ一方的に利用を強制するのではなく、利用側のメリット(待機時間の削減、拘束時間の短縮)を丁寧に説明し、現場定着を支援する伴走姿勢が成否を分けます。
参考記事: 共同配送とは?仕組みと混載便との違い・導入メリットをわかりやすく解説
明日から取り組むべき3つのアクション
物流統括管理者(CLO)の設置義務化に伴い、物流は現場のコスト削減にとどまらず、企業の持続的成長を左右する最重要アジェンダとなりました。アスクルの事例は、テクノロジーの活用とサプライチェーン全体の共創を両輪とすることで、逆境を競争力へと昇華できることを明確に証明しています。
自社のサプライチェーンを変革するために、明日から以下のステップを進めてください。
- 自社の「小口割れ率」と「拠点別在庫配置」の実態をデータで把握する
出荷データと配送伝票を突き合わせ、1回の注文に対して何個口の発送が発生しているかを数値化してください。小口割れによる超過運賃を可視化することが、在庫配置アルゴリズムや拠点再編の投資判断を引き出す第一歩となります。
- 荷受けバースの「待機時間測定」とデジタル予約の導入を検討する
トラックの入退場時刻を手書きではなくデータで記録し、1時間を超える待機が発生している時間帯と原因を特定してください。バース予約システムのトライアル運用を開始し、運送事業者との協議体制を整えましょう。
- 調達・営業・物流を横断する「社内CLO推進チーム」を組成する
物流部門だけに改革を任せる構造を改め、経営企画、調達、営業、IT部門を巻き込んだ横断タスクフォースを立ち上げてください。荷姿の見直しや納品条件の適正化など、部門間のトレードオフを解消する権限規程の整備に着手することが不可欠です。
参考記事: CLO必見!2026年10月末の計画提出へ向けた日清食品の実践策
出典: 物流(ロジスティクス)ニュース LNEWS
出典: アスクル公式企業サイト 物流とDX
出典: LOGISTICS TODAY(ASKUL関東DC開所報道)
出典: Hacobu公式導入事例(アスクル)
出典: 電気通信大学 プレスリリース(在庫配置最適化)


