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物流DX・トレンド 2026年9月10日

Muso Actionが年100万件データで挑むピッキング自動化

Muso Actionが年100万件データで挑むピッキング自動化

フィジカルAIで現場作業の自動化を手掛けるMuso Actionは2026年9月9日、経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が推進する「GENIAC」のロボット基盤モデル研究開発事業に採択された。本事業ではアスクル、日本通運、若松梱包運輸倉庫が実稼働させる3拠点の倉庫から、2026年10月より1年間で100万エピソード規模の作業データを収集する。

GENIAC採択の背景と実稼働3拠点で進む実証計画

物流倉庫における自動化の歴史は、定型化された作業の機械化から始まりました。しかし、EC市場の急拡大に伴い取扱品目(SKU)が数万から数十万規模へ膨張した現場では、従来型のロボット導入が大きな壁に直面しています。経済産業省およびNEDOが主導する「GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)」において、Muso Actionが提案したスライダー式ロボットアーム向け基盤モデル開発事業が採択された背景には、現場の約95%を占めるとされる「ロングテール商品」のハンドリング問題があります。

物流ピッキングにおける「5%の壁」とロングテールの障壁

従来のピッキングロボットは、特定サイズの段ボールや均一な飲料ケースなど、事前に形状や重量を登録・学習させた特定SKUへの対応を得意としてきました。しかし、Muso Actionの公表データによると、ピースピッキングロボットが安定して把持・仕分けできる商品は全SKUの約5%程度にとどまっています。

残りの約95%は、日用品、文具、衣類、化粧品、不定形のパウチ袋など、形状・材質・梱包状態が多種多様なロングテール商品です。これらは商品の入れ替わり頻度も高く、新商品が入荷するたびにエンジニアが現場で把持位置やアーム軌道をプログラム(事前ティーチング)していては、運用コストやダウンタイムが膨らみ、投資対効果(ROI)が成り立ちません。結果として、多品種小口のピッキング工程は、現在も熟練スタッフの人海戦術に依存し続けています。

Muso Actionの歩みとGENIAC事業の採択経緯

Muso Actionは2025年4月の創業以降、実世界で動く知能「フィジカルAI」の実装に特化した研究開発を進めてきたスタートアップです。同社が短期間で国家プロジェクトの採択に至るまでの経緯は下表の通りです。

年月 主な出来事 詳細内容
2025年4月 会社設立 代表取締役CEOに村山龍太郎氏が就任。フィジカルAI開発を開始。
2025年10月 1stRound採択 起業支援プログラム「1stRound」第13回支援先に選定。
2025年12月 シード1stクローズ East VenturesやGMO AI&ロボティクス商事等から1.0億円調達。
2026年2月 シード2ndクローズ 大和ハウスベンチャーズ等から追加調達し累計1.6億円に到達。
2026年6月 AWS支援プログラム採択 「フィジカルAI開発支援プログラム by AWS ジャパン」に採択。
2026年9月 GENIAC事業採択 経産省・NEDOによるロボット基盤モデル開発事業者に決定。

今回の採択は、ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業の一環として実施される公募であり、Muso Actionを含む13件のグループが採択されました。同社は「物流倉庫のピッキング・ソーター投入におけるスライダー式ロボットアーム向け、多品種対応のためのロボット基盤モデルとデータ収集デバイスの開発・実証」を提案テーマとして掲げています。

参考記事: 経産省が27年度8964億円要求、フィジカルAI循環で物流自動化を加速

実稼働3拠点における年間100万エピソードのデータ収集

本プロジェクトの最大の特徴は、人工的なテスト環境ではなく、実際に商品が出荷されているリアルな現場環境で膨大な作業データを継続取得する点にあります。実証拠点には、荷主・物流企業3社の異なる特性を持つ3倉庫が選定されました。

実証パートナー 対象拠点 所在地 倉庫の運用特性・取扱商材
アスクル株式会社 ASKUL関東DC 埼玉県上尾市 1500万SKU超を扱うECマザーセンター。日用品・オフィス用品等。
日本通運株式会社 関西空港倉庫 大阪府泉佐野市 国際航空貨物・フォワーディング拠点。多様な輸出入貨物・混載荷姿。
若松梱包運輸倉庫株式会社 本社第二共配センター 石川県白山市 地域共配拠点。食品・日用雑貨など荷姿・出荷ロットが異なる多品種荷物。

各拠点の運用形態や商材特性が大きく異なるため、収集されるデータには多様な現場のノイズや例外事象が含まれます。Muso Actionは2026年10月から2027年9月までの1年間で、合計100万エピソード規模の作業データを蓄積する計画です。

データ収集にあたっては、作業者が手に装着または把持して普段通りに作業を行うだけで動作ログ(視覚情報、手指・アームの位置姿勢、力加減など)を取得できる「UMI(Universal Manipulation Interface)形式」のデバイスを独自に物流現場向けへ改良して投入します。これにより、倉庫業務のオペレーションを止めることなく、高品質な実稼働データを低コストかつハイスピードで収集する仕組みを構築しています。

参考記事: アスクルが1500万SKUを最適化するCLO主導の次世代EC物流

VLAモデルとスライダー式アームによる省電力設計

収集された100万エピソードのデータは、オープンソースとして公開されているVLA(Vision-Language-Action:視覚・言語・行動)モデルをベースとした物流特化型基盤モデルの訓練に投入されます。

VLAモデルは、カメラから得られる映像情報(Vision)と「この商品を把持してソーターへ投入せよ」といった指示(Language)を統合的に推論し、ロボットの関節や吸着グリッパーの駆動信号(Action)へ直接変換するエンドツーエンド型のアーキテクチャです。事前学習済みの基盤モデルに現場特有の大規模行動データをファインチューニングすることで、事前の画像登録がない「未学習SKU」に対しても、過去の類似形状や材質の把持経験から自律的に最適なアプローチを導き出すことが可能になります。

さらに、本プロジェクトではハードウェア構造として「スライダー式ロボットアーム」を採用しています。近年注目を集める二足歩行・多関節のヒューマノイド型ロボットは、機体バランスの維持や複雑な関節制御のために膨大な電力を消費し、連続稼働時間やバッテリー重量が課題となります。一方、倉庫のコンベヤラインや棚間を直線スライドしながら移動するスライダー式アームにフィジカルAIを最適化させることで、ヒューマノイド型と比較して約6〜7割の省電力を実現する設計としています。

開発された基盤モデルは、2027年前半のモデル学習と同年後半の現場本実証を経て、Muso Actionが提供する月額サブスクリプション型ロボットワーカー「Muso-Roid」へ標準実装される予定です。

開発・実証フェーズ 実施期間 主な活動内容
フェーズ1:現場データ収集 2026年10月〜2027年9月 3拠点でUMI形式デバイスを活用し年間100万エピソードを収集。
フェーズ2:基盤モデル開発 2027年前半 公開VLAモデルをベースに物流特化型基盤モデルを訓練・構築。
フェーズ3:各拠点での本実証 2027年後半 稼働3倉庫へスライダー式アームを配置し未学習SKUピッキングを検証。
フェーズ4:商用サービス展開 実証完了後 月額サブスクリプション型ロボット「Muso-Roid」へモデルを実装展開。

参考記事: AWSのフィジカルAI支援、4カ月でロボ実装する世界動向と示唆

主要サプライチェーンプレイヤーに及ぶ構造的影響

実稼働倉庫の大規模データを梃子にした物流特化型基盤モデルの開発は、倉庫の運営者やテクノロジーベンダーに大きな変革をもたらします。

EC事業者:ロングテールピッキング自動化による人手不足の根本的解消

自社ECやマーケットプレイスを展開する事業者にとって、数万〜数十万SKUにのぼるロングテール商品のハンドリングは、物流コストの肥大化と出荷能力のボトルネックに直結していました。売れ筋上位(Aランク)の商品は自動倉庫やGTP(Goods-to-Person)設備で効率化できても、出荷頻度が低く形状がバラバラなロングテール商品(C・Dランク)は、作業員が広大な倉庫内を歩き回ってピッキングせざるを得ませんでした。

実証パートナーであるアスクルが「ASKUL関東DC」を実験場として提供しているように、未学習SKUを自律処理できるフィジカルAI基盤モデルが実用化されれば、商品マスターの事前登録やティーチング作業から現場が解放されます。商品の入れ替わりが激しいセール期や季節商戦においても、ロボットが初見の商品を自動で認識して適切な力加減でピックできるようになり、小口出荷の多いEC現場における人手不足の恒久的な解決策となります。

参考記事: ピッキングロボットの仕組みと主要タイプ解説|荷姿別の選び方から導入手順まで

倉庫事業者・3PL:設備投資リスクを排除した「サブスク型自動化」の定着

日本通運や若松梱包運輸倉庫のような受託型物流を担う3PL事業者にとって、従来の自動化設備(AS/RSや専用ソーター等)は、荷主との契約期間(通常3〜5年)に対して投資回収期間が長く、導入リスクが高いという構造的問題を抱えていました。また、受託する荷主ごとに商材の形状や梱包仕様が異なるため、特定の荷姿にしか対応できない固定設備は敬遠されがちでした。

未学習SKUに適応するスライダー式ロボットアームが「Muso-Roid」のような月額サブスクリプション型で提供されれば、3PL事業者は巨額の初期固定投資(CAPEX)を抱えることなく、荷量に応じた変動費(OPEX)としてロボットワーカーを調達できます。ヒューマノイド型に比べて6〜7割省電力である点も、電力料金が高止まりする中でのランニングコスト抑制に寄与します。荷主の契約更新や商材変更が発生しても、ソフトウェアのアップデートのみで即座に新しい荷扱いに適応できる柔軟性は、3PLの営業競争力を大幅に引き上げます。

参考記事: 物流ロボティクス入門|AGV・AMRの違いと導入手順・費用対効果を徹底解説

SaaS・テクノロジーベンダー:実現場データ主導の「データフライホイール」確立

倉庫管理システム(WMS)やロボット制御ソフトウェア(WES)を展開するテクノロジー企業にとって、今回の取り組みはロボット開発の競争軸が「ハードウェアの性能」から「実現場の行動データ量」へと完全に移行したことを示しています。

どれほど優れたVLAモデルであっても、シミュレーション(仮想空間)上だけの学習では、実倉庫特有の「照明の反射」「ビニール包装の皺」「商品のへこみ」といった物理的な外乱に対応しきれません。実稼働3拠点から年間100万エピソードという密度の高い物理データを吸い上げ、それをモデルへ再学習させて現場へ戻す「データフライホイール」を先行して回したプレイヤーが、不可逆な認識精度の優位性を築きます。ソフトウェアベンダーにとっては、オープンな基盤モデルを自社システムにどう組み込み、現場のデータ収集インターフェースをどう抑えるかが今後の生存戦略となります。

参考記事: ABEJAとJR東日本、7軸双腕ロボで挑む館内物流の完全自動化

LogiShiftの視点:固定設備から「自律適応型フィジカルAI」へのパラダイムシフト

日本の物流ロボティクスは、従来の「固定設備・事前ティーチング前提の特化型自動化」から、基盤モデル(VLA)と実現場の大規模行動データによって「未学習SKUにも自律適応する省電力フィジカルAI」へと不可逆なパラダイムシフトを迎えています。

これまで倉庫の自動化といえば、数億円から数十億円の資本を投じて建屋全体を専用設計する「グリーンフィールド型」の開発が主流でした。しかし、国内に既存する大半の中小・中堅倉庫(ブラウンフィールド)は、天井高や床荷重、通路幅の制約から大規模なマテハン設備を導入できません。この物理的制約に対し、既存のコンベヤや棚設備に後付け可能なスライダー式アームと、未学習物に対応できる基盤モデルの組み合わせは、既存倉庫の構造を壊さずに知能化する極めて合理的なアプローチです。

注目すべきは、Muso Actionの村山社長が指摘する「日本の倉庫特有の過酷な環境が世界最高の学習データになる」という点です。日本の物流現場は、多品種・小口配送が極限まで進んでおり、外装の傷一つ許されない高い荷扱い品質が要求されます。このシビアな環境下で鍛え上げられた年間100万エピソードの行動データと基盤モデルは、米国や欧州の大規模・均一な物流現場向けに開発されたAIモデルに対しても強力な参入障壁となります。

経産省・NEDOのGENIAC事業による国策支援をテコに、日本発の物流特化型VLAモデルがデファクトスタンダードとなれば、国内の人手不足解消にとどまらず、世界中のEコマース倉庫へ「省電力なフィジカルAIワーカー」を輸出する産業プラットフォームへと昇華する道筋が見えてきます。

参考記事: フィジカルAIが拓く10.5兆円の自動化潮流と中小物流の生き残り策

明日から意識すべきこと

実稼働倉庫でのロボット基盤モデル開発が進む中、現場の責任者や物流経営層は以下の3つのアクションを意識して準備を進める必要があります。

  1. 自社倉庫における取扱SKUの「ロングテール比率」と定型作業率の棚卸し

自社のピッキング工程において、上位数%の定番品と、残り95%のロングテール商品が現場作業工数(人時)のどれだけを占めているかを可視化してください。定番品専用の大型マテハン導入が適しているのか、それとも未学習SKUに対応可能なフィジカルAIの導入が適しているのかを見極める判断基準となります。

  1. 現場オペレーションを阻害しない「データ収集インターフェース」の検証

将来的なAIロボット導入を見据え、自社現場の作業ログや商品の把持データがデジタル化可能かを確認してください。UMI形式のような簡易デバイスによる動作記録や、入荷時の商品画像・寸法データのクレンジングを進めておくことが、将来AIロボットを迎え入れる際のリードタイム短縮に直結します。

  1. 「一括購入(CAPEX)」から「サブスクリプション(OPEX)」への投資基準の転換

AIモデルは導入後もソフトウェア更新によって自律的に賢くなり続けます。減価償却を前提とした旧来の設備投資基準を見直し、月額サブスクリプションやRaaS(Robot as a Service)形式で柔軟にロボットワーカーを現場配置できるよう、財務・調達ルールの見直しを進めることが求められます。

参考記事: 物流自動化とは?導入メリットや主要設備・失敗しない進め方を徹底解説

参考記事: NVIDIA連合が狙う2040年60兆円市場!物流自動化の主導権争い

出典: 物流(ロジスティクス)ニュース LNEWS
出典: PR TIMES(Muso Action株式会社 プレスリリース)
出典: 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
出典: MONOist
出典: 事業構想オンライン
出典: LOGI-TODAY

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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