株式会社T2、アイリスオーヤマ株式会社、中小運送・倉庫事業者で構成されるNLP協同組合の3者は、九州―関東間の幹線輸送において、自動運転トラックと貨物鉄道を組み合わせた「モーダルコンビネーション」輸送実証を完了しました。佐賀県鳥栖市から神奈川県川崎市までの約1,100kmを対象に、高速道路区間でのレベル2自動運転走行と鉄道コンテナ輸送を有機的に接続させています。
九州―関東間1,100kmを結ぶ「モーダルコンビネーション」実証の全貌
今回の実証実験は、2026年7月9日から10日にかけての2日間で実施されました。佐賀県鳥栖市にあるアイリスオーヤマ鳥栖工場を出発地とし、神奈川県川崎市に位置する「NLP川崎DC」を目的地として、実商流貨物である清涼飲料水「CRYSTAL SPARK」の長距離輸送が行われました。
最大の特徴は、中小運送・倉庫事業者の連合体であるNLP協同組合が実証の結節点として参画し、自動運転スタートアップのT2、荷主であるアイリスオーヤマ、そしてJR貨物や全国通運といった通運・鉄道インフラと一体的な運行体制を組んだ点です。
参画プレイヤーと実証における役割分担
本プロジェクトでは、荷主企業から技術開発会社、インフラ企業、中小物流事業者の協同組合に至るまで、各プレイヤーが明確な役割を分担して運行を完遂しました。
| 参画企業・団体名 | 本実証における主な役割 | 組織概要・事業内容 |
|---|---|---|
| 株式会社T2 | 自動運転トラックの運行管理 | 自動運転トラック幹線輸送事業を手がけるスタートアップ |
| アイリスオーヤマ株式会社 | 荷主企業(実証貨物の供給) | 生活用品・家電・飲料などを製造・販売するメーカー |
| NLP協同組合 | 着地拠点の荷受・運用管理 | 中小運送・倉庫事業者が結集して設立した協同組合 |
| 日本貨物鉄道株式会社(JR貨物) | 貨物鉄道網の提供・機材開発 | 幹線鉄道輸送を担当、T2と共用コンテナを共同開発 |
| 全国通運株式会社 | ファーストマイルの陸送担当 | 鳥栖工場から福岡貨物ターミナル駅までの有人トラック輸送 |
輸送行程とモーダル切り替えの運用設計
約1,100kmの輸送行程は3つの区間に分割され、鉄道とトラック、有人運転と自動運転が段階的に切り替えられました。
| 行程 | 輸送モード | 担当事業者 | 担当区間と運用の詳細 |
|---|---|---|---|
| 第1区間 | トラック陸送(有人) | 全国通運 | 鳥栖工場(佐賀県)から福岡貨物ターミナル駅(福岡県)への集約 |
| 第2区間 | 貨物鉄道 | JR貨物 | 福岡貨物ターミナル駅から京都貨物駅(京都府)までの幹線輸送 |
| 第3区間 | 自動運転トラック(レベル2) | T2 | 京都貨物駅からNLP川崎DC(神奈川県)へ輸送。約360kmを自動運転 |
第3区間のトラック輸送では、新名神高速道路の亀山西JCT(三重県)から東名高速道路の綾瀬スマートIC(神奈川県)に至る約360kmの高速道路区間において、セーフティドライバー乗車のもとシステムが加減速および操舵を担うレベル2自動運転走行を実施しました。
機材面では、T2とJR貨物が共同開発した「31フィート共用コンテナ」が投入されました。このコンテナは、スワップボディトラック用規格(32フィート)と鉄道コンテナ規格(31フィート)の寸法差を吸収するシャシアジャスターおよび上部隅金具を備えており、駅構内でのクレーン荷役とトラック荷台への緊締を円滑化する仕様となっています。実証期間中、接続部における積み替え遅延や貨物の荷崩れは生じず、計画通りのダイヤで運行を完了しました。
モーダルコンビネーション実証の経緯と時系列
自動運転トラックと貨物鉄道を融合させた輸送モデルは、JR貨物とT2の技術連携を皮切りに、荷主や物流団体を巻き込みながら段階的に検証範囲を拡大してきました。
| 年月 | 主な出来事・実証内容 |
|---|---|
| 2024年7月 | 中小運送・倉庫会社の有志によりNLP協同組合が設立 |
| 2024年11月 | JR貨物、T2、全国通運ら5社が自動運転×鉄道の実証検討を開始 |
| 2025年6月 | 北海道~大阪間(約1,500km)で雪印メグミルク製品を対象に第1弾実証を実施 |
| 2025年7月 | NLP協同組合がアイリスオーヤマらと異業種共同幹線輸送を開始 |
| 2026年7月 | T2、アイリスオーヤマ、NLP協同組合が九州~関東間(約1,100km)の実証を完了 |
| 2027年度以降 | 高速道路でのレベル4完全自動運転トラック商用運行への移行を計画 |
実証を終えた3者は今後、高速道路におけるレベル4完全自動運転の社会実装を見据え、定期運行枠の設置に向けた協議を進めています。あわせて、NLP協同組合に参画する他の荷主企業が持つ九州発・関東着の貨物についても、本複合輸送網へ順次組み入れる計画を策定しています。
参考記事: アイリスオーヤマが1100km輸送で自動運転と鉄道を融合し長距離物流の省人化が加速
参考記事: エスビー食品ら4社、850kmの自動運転×鉄道実証で長距離輸送の省人化が加速へ
物流エコシステムを構成する3プレイヤーへの影響
中小運送事業者が協同組合を通じて自動運転トラックと鉄道のハイブリッド幹線網に参画した実績は、サプライチェーンに携わる各プレイヤーの事業設計に直接的な影響を及ぼします。
1. 運送事業者:超長距離運行の自前維持から「中継・地場集配」への特化
国内の自動車運送事業者の約99%は、従業員300人以下の中小零細企業で占められています。個社単独では数千万円規模の自動運転対応車両や専用ヤードを導入する投資余力を持てず、長距離幹線運行におけるドライバーの時間外労働上限(年960時間)規制への適合に限界が生じていました。
協同組合を通じてT2の自動運転ネットワークやJR貨物のコンテナ網に接続することで、中小事業者は自社で長距離車両とドライバーを抱え続けるリスクを排除できます。幹線区間を自動運転と鉄道に委ね、自社の保有車両と乗務員を貨物ターミナルや物流ハブ(NLP川崎DC等)からの半径50〜100km圏内における集荷・配送に集中させることで、日帰り勤務を前提とした労務管理体制を構築できます。
長距離運行に伴う夜間連続運転や車中泊勤務が解消される結果、運行管理コストの圧縮と若年層・女性ドライバーの採用歩留まり改善が見込めます。
参考記事: トラック上限960時間規制に対応!JR貨物越谷積替ステーション活用が加速
2. 製造業者・メーカー:ロット集約による共同幹線網の利用とScope3排出量削減
アイリスオーヤマのように容積・重量の大きい消費財や飲料を全国へ供給するメーカーにとって、幹線トラックの確保難は出荷停止や欠品に直結する経営課題です。自社単独での鉄道コンテナ貸し切りやチャーター便手配は、物量波動によって積載率の低下を招き、輸送単価の上昇を引き起こします。
今回のスキームのように、NLP協同組合が束ねる異業種共同輸送の荷量プールと連携すれば、物量がまとまらない閑散期であっても共用コンテナの積載効率を維持できます。また、電気で走行する鉄道と高速道路での定速自動運転を組み合わせることで、従来のディーゼル大型トラック単独輸送と比較してCO2排出量を大幅に圧縮できます。改正物流総合効率化法が求める荷主企業の省エネ化要件や、サプライチェーン全体を対象としたScope3排出量の算定・開示基準への適合が容易になります。
参考記事: コーナン商事が約520kmの自動運転定期輸送を開始|荷主の輸送力確保に直結
3. SaaS・テクノロジーベンダー:鉄道ダイヤと自動運転ETAを同期させるTMS需要の拡大
幹線輸送に自動運転トラックと貨物鉄道が併用される運用環境では、単一モードを前提とした従来の運行管理システム(TMS)ではオペレーションを維持できません。鉄道の遅延状況や貨物駅でのコンテナ荷役進捗、自動運転トラックの到着予定時刻(ETA)をリアルタイムに集約し、後続の集配トラックへ動的に配車指示を出すオーケストレーション機能が求められます。
特にスワップボディや31フィート共用コンテナのステータス管理、荷役作業完了データのAPI連携、高速道路料金所の自動通行データと連動した運行実績の自動集計など、地上設備と車両システムを跨ぐデータ基盤の構築案件が増加します。特定の大手物流企業向け受託開発にとどまらず、協同組合に属する中小運送会社でも扱える標準化されたSaaS型TMSの開発が事業機会となります。
参考記事: 株式会社T2が国交省自動運転支援事業に採択|2027年度の幹線レベル4実装が加速
LogiShiftの視点:協同組合が拓く「オープン型幹線プラットフォーム」への転換
今回の実証が持つ最大の意味は、先端テクノロジーの社会実装が「大手物流会社・大手荷主の専用設備」から「中小事業者が共同利用できるオープンインフラ」へと転換する境界点を作ったことです。
これまでT2が実施してきた実証実験や商用運行は、大手日用品卸や大手製紙メーカー、全国規模の特別積合せ事業者など、単独で大量の荷量を常時供給できるエンタープライズ企業が中心でした。しかし、日本の実運送を支える現場の99%は中小事業者であり、幹線輸送の維持にはこれら中小事業者が日常的に扱う荷物の統合が不可欠です。
NLP協同組合が荷主(アイリスオーヤマ等)の貨物需要を取りまとめ、着地拠点であるNLP川崎DCでの受入体制を整備してT2の自動運転スキームに接続した構造は、資本力に乏しい地域運送会社が自動運転時代に生き残るための標準モデルとなります。中小事業者が個別に車両開発へ投資するのではなく、協同組合を「荷量と拠点のインターフェース」として機能させ、幹線部分の自動運転インフラを外部調達する役割分担が確立されました。
2027年度に予定される高速道路上でのレベル4商用化に向けて、勝敗を分けるのは車両自体の性能ではなく、「完全無人化された高速区間の前後に、どれだけ高密度な集配ネットワークを接続できるか」です。高速道路のインターチェンジ周辺に設けられる中継拠点(トランスゲート等)から納品先までのミドル・ラストワンマイル輸送は、地域の道路事情や荷主の荷受条件を熟知した地元運送会社でなければ担えません。
協同組合を通じて荷量を面で押さえ、先端技術を持つメガベンダーと対等な立場で接続契約を結ぶアライアンス戦略をとれるかどうかが、中小物流事業者の今後数年間の収益構造を決定づけます。
明日のオペレーションを見直すための具体的アクション
中小運送会社および荷主企業の担当者が、自社の輸送体制を次世代型インフラへ適応させるための初動アクションを整理します。
- 自社運行便の運行距離と拘束時間の棚卸し
日帰り運行が不可能な長距離便(片道500km以上)の運行件数、ドライバー拘束時間、および空車回送率を路線ごとに数値化し、他社との共同輸送や鉄道・自動運転への置き換え候補ルートを特定します。
- パレット規格の標準化とスワップボディ対応の検討
鉄道コンテナや自動運転トラックとの接続を前提とし、手荷役作業を前提とした荷受け条件を改め、T11型パレットでの一貫輸送やコンテナ単位での荷役分離(スワップ運用)が可能な構内荷役手順を策定します。
- 同業他社・協同組合との共同荷受・集約体制の協議
単独でのロット確保が困難な場合、地域のトラック協会や既存の協同組合を通じて近隣事業者との貨物混載スキームを構築し、将来的な自動運転幹線枠の共同利用に向けた荷量集約を進めます。
出典: 物流ウィークリー
出典: 株式会社T2 プレスリリース(PR TIMES)
出典: LOGISTICS TODAY
出典: NLP協同組合 公式サイト



