物流プラットフォームを提供するX Mileは、2026年11月11日に大手町プレイスで開催する「物流DX未来会議2026」に国土交通省大臣官房審議官の奈良和美氏が登壇すると発表しました。奈良氏は「物流の『効率化』と『適正な対価』をどう両立するか」を主題に掲げ、2026年4月に全面施行された改正物流効率化法に基づくCLO(物流統括管理者)の設置状況や中長期計画、下限運賃として議論が進む「適正原価」の運用方針を説明します。
改正法全面施行下の「物流DX未来会議2026」と行政方針の焦点
X Mileが主催する「物流DX未来会議2026」は、今回で3回目の開催となります。会場となる東京都千代田区の大手町プレイスには、荷主企業、運送事業者、卸売・小売業者、ITベンダーなどから40人超の登壇者が集まり、約30セッションが実施されます。
国土交通省が提示する制度設計と議論の論点
本カンファレンスにおける国土交通省セッションの焦点は、2026年4月1日に全面施行された改正物流効率化法(物資の流通の効率化に関する法律)の履行状況と、2025年6月公布の改正貨物自動車運送事業法に基づく「適正原価」制度の具体化にあります。
年間取扱貨物重量9万トン以上の特定荷主に対しては、役員級CLOの選任届出および初年度の中長期計画提出が2026年10月末に設定されました。国土交通省は制度の運用状況を踏まえ、荷主企業が策定した待機時間短縮や積載効率向上の計画が実効性を持つかどうかの検証を進めています。
あわせて、トラック運送取引における運賃ダンピングを抑止する「適正原価」の議論が進行しています。国土交通省は2026年7月より有識者検討会を開始し、距離制タリフ形式の試算において現行の「標準的な運賃」から約33%下がる試算結果が出たことを受け、適正原価をタリフ形式で告示せず下限基準の計算式として管理し、実際の価格交渉には利益を上乗せした「モデル運賃」を用いる二重基準の設計を進めています。奈良審議官の講演では、これらの制度設計の背景と、適正なコスト負担を荷主企業へ求める行政方針が直接説明されます。
改正法全面施行と適正原価策定をめぐる政策・実務の時系列
物流効率化法の改正から適正原価の策定、本イベント開催に至る政策および業界動向の経緯は以下の通りです。
| 年月日 | 主体 | 決定事項・出来事 | 実務への直接的な影響 |
|---|---|---|---|
| 2024年5月15日 | 国会 | 改正物流効率化法の公布 | 荷主および物流事業者に対する規制措置の導入が決定 |
| 2025年4月1日 | 国土交通省・経済産業省 | 改正物流効率化法の一部施行 | 全荷主を対象とした荷待ち・荷役短縮の努力義務が開始 |
| 2025年6月11日 | 国会 | 改正貨物自動車運送事業法の公布 | 下限規制となる適正原価制度と許可5年更新制の創設が決定 |
| 2026年4月1日 | 国土交通省・経済産業省 | 改正物流効率化法の全面施行 | 年間9万トン以上の特定荷主にCLO選任・中長期計画策定を義務化 |
| 2026年4月21日 | 三菱食品・花王ほか | 共同配送コンソーシアム「CODE」発足 | 卸・日用品メーカー間での車両混載と配送ルート共通化を始動 |
| 2026年7月17日 | 国土交通省 | 第1回 適正原価有識者検討会 | 適正原価の積算要素、実車率の算定基準、多重下請けの議論開始 |
| 2026年10月1日 | 国土交通省 | 第3回 適正原価有識者検討会 | 経団連、全国中小企業団体中央会、日本新聞協会等からのヒアリング実施 |
| 2026年10月5日 | 国土交通省 | 中長期計画作成ポイントの公開 | 10月末の提出期限に向けたKPI設定要件と記入指針を公表 |
| 2026年10月15日 | X Mile | 「物流DX未来会議2026」開催公表 | 国交省奈良審議官、セブン‐イレブン、三菱食品らの登壇を発表 |
| 2026年11月11日 | X Mile | 「物流DX未来会議2026」開催 | 大手町プレイスにて約30セッションを実施 |
参考記事: 国土交通省の適正原価タリフ試算は標準比33%減、下限とモデルの二層構造へ
大手荷主・流通企業による実践事例の共有
カンファレンスでは行政の方針解説に加え、大手荷主企業や大手物流企業による法対応とDXの実践事例が報告されます。
三菱食品は、物流DXを軸にしたサプライチェーンの「可視化・最適化・オープン化」と、2026年4月に始動した共同配送コンソーシアム「CODE」の取り組みを紹介します。花王などのメーカーと連携した一部地域の実証では、年間約300台分の運行削減とCO₂排出量約10トンの削減が確認されており、単独企業にとどまらない輸送インフラの共用事例として共有されます。
セブン‐イレブン・ジャパンからは執行役員の山口繁氏が登壇し、原材料調達から店舗納品に至るサプライチェーン全体最適について議論します。人手不足や配送コストの上昇が続く中、個別プロセスの改善ではなく配送網全体の標準化や例外管理の仕組みをどう構築するかが語られます。このほか、セイノーホールディングスをはじめとする大手運送グループも参画し、運賃収受と実運送体制の維持に関する議論が行われます。
参考記事: 共同配送とは?仕組みと混載便との違い・導入メリットをわかりやすく解説
サプライチェーン各層に及ぶ実務への影響
国土交通省による適正原価の具体化と特定荷主のCLO義務化は、流通・運送・製造の各プレイヤーの取引条件に直結します。
卸・問屋・流通業者:協調インフラ構築とデータ連携の標準化
食品や日用品の卸売事業者は、多頻度小口配送の抑制と積載率の向上が最優先の課題となっています。改正法により自社だけでなく納品先の小売業も特定荷主として荷待ち時間削減義務を負うため、納品バースの予約管理や納品時間帯の集約といった取引条件の見直しが実務上で合意しやすくなっています。
三菱食品が進める「CODE」のような共同配送スキームは、同業他社や異業種の貨物を同一トラックに混載することで、車両台数の削減と積載率向上を両立させる手段です。卸事業者は、受発注データや運行実績データを安全に共有できるプラットフォームを整え、自社の配送網をオープン化する運用体制への移行を求められています。
参考記事: JPIC主催CLO協議会、特定荷主3299社へ共同物流実装促す
運送事業者:適正原価を下限指標とした運賃交渉と原価算出
実運送を担うトラック運送事業者にとって、国土交通省が進める「適正原価」の制度化は、運賃ダンピングの法的阻止につながる根拠となります。ただし、適正原価は利益を含まない最低限のコスト基準(下限規制)として設定されるため、事業者が利益を確保してドライバーの賃上げを行うには、国が提示予定の「モデル運賃」を基準とした交渉が不可欠です。
中小運送事業者の約23%が正確な原価計算を行えていない実態がある中、運行管理システムやデジタルタコグラフを活用して待機時間、荷役時間、実車率、燃料費を数値化できなければ、適正な運賃転嫁を勝ち取ることはできません。実運送データを開示し、荷主企業のCLOに対して適正原価を下回る運行の解消を文書で申し入れる体制構築が収益確保の分かれ目となります。
製造業者・メーカー:CLO主導による取引条件の改定とコスト計画
発荷主となるメーカーでは、役員級CLOが中心となり、営業部門や生産部門を巻き込んだ商慣習の是正が求められます。改正物流効率化法では、出荷時の待機時間を原則2時間以内、受渡しを1時間以内とする基準が示されており、これを超過する場合は改善計画の修正や行政指導の対象となります。
加えて、野村総合研究所の試算では2030年に輸送費が2022年比で34%増加すると予測されており、製造業者は従来の「物流費抑制」を前提とした経営から脱却しなければ輸送力を確保できません。自社の出荷リードタイムの延長やパレット規格の統一、復路貨物とのマッチングなどを中長期計画に組み込み、適正原価を反映した運賃を許容しつつ、積載効率を高めることで総輸送コストを最適化する設計が必要です。
参考記事: 改正物流効率化法と野村総合研究所が示す輸送費34%増への必須対応
LogiShiftの視点:適正原価の二重基準が迫るデータ主導の価格決定
国土交通省が適正原価のタリフ告示を見送り、「下限算定式」と「モデル運賃」の二層構造を選択したことは、荷主と運送事業者の取引現場に客観的データの提示を必須とさせる契機になります。
仮に距離制タリフとして一律の適正原価が公表された場合、荷主側がそれを上限指標として運賃の引き下げ交渉に悪用するアンカーリングが生じる懸念がありました。しかし、タリフが告示されない運用となることで、運送事業者は自社の走行距離、実車率、拘束時間の実績値を計算式に当てはめて個別に下限値を算定し、荷主に提示しなければなりません。
この仕組みは、運行データや労務データを正確に把握していない事業者にとっては交渉材料を失うリスクとなる一方、運行管理DXを完了している事業者にとっては、根拠を持った価格引き上げ交渉の武器となります。三菱食品の「CODE」やセブン‐イレブン・ジャパンのサプライチェーン改革に見られるように、大手企業はすでに単独での効率化から協調領域での共同輸配送へと舵を切っています。
特定荷主3,200社余りが中長期計画の提出を控える今、物流管理は現場のコスト削減策から、CLOが主導する法規制適合とデータに基づく運賃設計へと明確に移行しています。「物流DX未来会議2026」において奈良審議官が提示する方針は、運賃交渉の主導権が「力関係」から「運行実績データの客観性」へと移る決定打となります。
参考記事: 改正物流効率化法で2000人超のCLO誕生|特定荷主の選任義務と罰則
明日から取り組むべき2つの実務対応
- 自社運行における待機時間と実車率の実績データの数値化
運行管理記録やデジタコデータから、運行ごとの平均荷待ち・荷役時間および復路を含む実車率を算出し、適正原価の算定基準と照らし合わせて乖離を把握する。
- 取引先および同業他社との協調領域における共同配送可能性の検討
単独での積載率向上に限界がある配送ルートを抽出し、パレット規格の共通化や共同配送プラットフォームへの参加を視野に入れた運航計画の再設計に着手する。
出典: LOGISTICS TODAY



