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物流DX・トレンド 2026年10月23日

資生堂ジャパンが返品回収を自動化|店舗の手書き伝票と電話集荷をゼロへ

資生堂ジャパンが返品回収を自動化|店舗の手書き伝票と電話集荷をゼロへ

資生堂ジャパンは、全国の化粧品専門店向けに展開するバックヤード業務効率化WEBブラウザアプリ「Kakehashi(カケハシ)」に新機能「返品回収予約機能」を追加し、2026年10月より全国で運用を開始しました。手作業で行われていた伝票起票や個別の集荷連絡をスマートフォン上のバーコードスキャンと自動連携に置き換え、対象エリアの店舗における集荷手配までをシームレスに自動化しています。

「Kakehashi」新機能の全容と静脈物流改革の歩み

資生堂ジャパンが提供する「Kakehashi」は、店頭と物流拠点をつなぐ架け橋となることを目的に開発された、化粧品専門店のバックヤード業務支援ツールです。専用端末の導入コストをかけず、店舗スタッフが日常的に使用する汎用スマートフォンやタブレットのブラウザ上で動作する設計が採用されています。

今回追加された「返品回収予約機能」により、店頭での返品処理からメーカー営業担当者の承認、物流側の集荷手配に至るサプライチェーンの各工程がデータで直結されました。

バーコードスキャンから集荷完了までの新業務フロー

従来の返品業務では、店舗スタッフが紙伝票に商品名・品番・数量などを手書きで記入し、計算機を使って返品金額を算出した上で、営業担当者へ連絡して確認を取り、運送会社へ電話等で個別に集荷を依頼するという煩雑なステップを踏んでいました。

新機能の導入によって、これらのプロセスは以下のように再編されました。

  1. 店頭でのバーコードスキャン: 店舗スタッフが端末のカメラで返品対象商品のバーコードを読み取るだけで、品目・数量・返品金額がアプリ上で自動集計され、リスト化されます。
  2. 社内営業システムへの即時データ連携: 生成された返品リストは資生堂ジャパンの担当営業へ瞬時に共有され、クラウド上で承認処理が完了します。
  3. 集荷手配の自動化: 営業承認が下りると同時に、回収可能エリアの店舗に対しては運送事業者への集荷手配がシステムから自動で実行されます。店舗側が運送会社へ伝票作成を依頼したり、電話集荷をかけたりする作業は一切発生しません。

この一連のデジタル化により、店舗側は宅配便の着払い伝票の手書き作成から解放され、メーカー側も「どの店舗から、何が、いつ、どれだけ戻ってくるのか」を物流センター到着前に正確に把握できるようになります。

参考記事: 返品処理の標準フローと効率化手法|検品自動化から返金・再販まで徹底解説

開発始動から全国展開・機能拡張までの経緯

「Kakehashi」の開発は、メーカー側の物流センターで長年続いていた「紙の納品伝票・受領書の発行停止」と、専門店店頭での「入荷検品業務の効率化」を同時に達成するプロジェクトとして2024年2月に始動しました。

年月 取り組みフェーズ 主な内容と到達点
2024年2月 プロジェクト発足 物流伝票のペーパーレス化と店頭業務削減を目指しアプリ開発着手
2024年6月 近畿エリア先行導入 近畿地方の一部専門店を対象に先行して入荷検品機能を現場実装
2024年9月 エリア拡大 先行運用の知見を反映し、近畿エリア全域に対象店舗を拡大
2024年12月 全国展開完了 全国の専門店へ導入。納品伝票・返品伝票の電子閲覧機能を実装
2025年6月 外部表彰 JILS主催「全日本物流改善事例大会2025」で優秀物流改善賞を受賞
2026年8月 新機能パイロット運用 一部エリアで「返品回収予約機能」の先行テスト運用を開始
2026年10月 新機能の全国本運用 全国の化粧品専門店向けに返品回収予約機能を正式リリース

店頭での運用定着を最優先し、機能の作り込みと現場ヒアリングを短いスパンで繰り返すアジャイル型で開発が進められました。資生堂ジャパンのSJロジスティクス部・吉田霞氏は専門誌の取材に対し、「紙伝票の発行をなくす物流の改善だけでなく、得意先さまにも便利に使っていただきたい、貢献したいという思いがあった」と振り返っています。

この「自社都合のペーパーレス化」にとどまらず「取引先のバックヤード作業削減」を両立させた現場実効性が高く評価され、公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)が主催する「全日本物流改善事例大会2025」において「優秀物流改善賞」に選出されました。

年間5255時間の削減と配送密度の改善効果

資生堂ジャパンの試算によると、2024年末の全国展開以降、「Kakehashi」を通じた検品や伝票照合作業の効率化によって、2025年時点で年間約5,255人時(概算値)の作業時間削減効果を生み出しています。

また、リテール物流における配送効率の面でも大きな改善ポテンシャルを秘めています。ドラッグストアや専門店を対象とした物流実態データによると、配送頻度が高い取引先(週4回配送など)は、週2回配送の取引先と比較して1梱包あたりの商品点数が32.8%低いというデータが存在します。化粧品専門店も同様に小口・高頻度配送の傾向が強く、返品作業においても「少量の返品のために個別の宅配回収便が走る」という非効率が発生していました。

「Kakehashi」の返品回収予約機能により、返品情報の事前把握と計画的な回収ルートへの組み込みが可能となり、返品専用のスポット回収配送を抑制する土台が整いました。

参考記事: 配送密度向上とは?積載率との違いやコスト削減を実現する手法・事例を解説

サプライチェーン関係者に及ぼす波及効果

「Kakehashi」による返品機能の自動化は、メーカー・小売・運送会社というサプライチェーンの3者それぞれに実務上の変化をもたらします。

製造業者・メーカー:静脈物流コストの低減と事前予測

メーカー物流にとって最大の課題の一つが、返品(リバースロジスティクス)の不確実性でした。従来は「倉庫に荷物が届いて開梱するまで、何がどれだけ入っているか分からない」という状態が常態化しており、物流センター側での受領検品や棚戻し、再商品化の判断に余計なリードタイムと人件費を要していました。

アプリを通じて返品数量・品番が事前に確定することで、物流センター側は事前に受け入れ計画や作業人員のシフトを最適化できます。さらに、無駄な個別返送便を削減し、定期便やルート集荷への集約が進むことで、メーカーが負担する静脈物流コストの抑制に直結します。

参考記事: 逆物流(リバースロジスティクス)とは?動脈・静脈物流との違いと導入メリット・業務効率化の手順

小売業者(化粧品専門店):接客時間の最大化と保管スペースの圧縮

化粧品専門店にとって、バックヤードでの紙伝票の保管・突合や返品商品の仕分け作業は、売上を直接生まない代表的なノンコア業務でした。

手持ちのスマートフォンでバーコードをスキャンするだけで作業が完結し、計算ミスや記載不備によるメーカー営業との手戻りもなくなります。検品や伝票起票に割かれていた時間が大幅に短縮されることで、店舗スタッフは本来の強みである顧客へのカウンセリングや店頭接客に時間を充てることが可能になります。また、返品承認から集荷までのサイクルが短縮されることで、狭小な専門店のバックヤードに返品対象品が滞留し続ける問題も解消されます。

運送事業者:突発的な集荷依頼の撲滅と集約運用の進展

運送事業者にとって、店舗ごとに電話等で個別発注される突発的な返品集荷は、日々の集配ルートの組み立てや積載効率を乱す大きな要因となっていました。

集荷依頼データがシステム経由で一元的に連携されることにより、計画的なルート編成が可能になります。返品回収のためだけの単独配送を減らし、納品便の帰り便を活用した回収や、同一エリア内での集約集荷が組みやすくなるため、ドライバーの稼働効率向上と実車率の改善につながります。

EC市場で先行する送り状レス・集荷連携の仕組みと同様に、BtoBの商流においても運送会社の物理的な伝票貼り付け・発行作業を削減する基盤となります。

参考記事: Recustomerとヤマト運輸連携、国内7割超の返品を伝票レス化へ

LogiShiftの視点:BtoB静脈物流のブラックボックスを解消する布石

BtoCのEC領域では、配送連携APIの進展によって伝票レス返品や返品手続きのセルフサービス化が急速に普及しつつあります。一方で、メーカーと独立系中小専門店が取引を行うBtoBの商流においては、長年にわたる取引慣行やシステム投資余力の問題から、紙伝票と電話・FAXによるアナログな返品処理が温存され続けてきました。

資生堂ジャパンの「Kakehashi」が持つ本質的な意義は、店舗のフロント業務(小売側)と物流管理(メーカー側)のデータをブラウザアプリという極めて手軽なUIを介して結びつけ、従来ブラックボックス化していた店舗側の返品作業を完全にデータ化した点にあります。

店舗現場で即座にデータ化される体制が整ったことは、将来的にリバースロジスティクスを単なる「事後処理のコストセンター」から「在庫コントロールの起点」へと昇華させる可能性を示唆しています。店頭でスキャンされた瞬間に商品のコンディションや返品理由が特定されれば、中央の物流拠点に長期間滞留させることなく、再販ルートへの早期投入や拠点間移動の判断をエッジ側(発生現場)で下す基盤が整うためです。

参考記事: 返品は「収益源」へ。ウォルマートが挑む在庫価値回復の物流DX

メーカーが自前で小売側の端末や業務フローにまで踏み込み、サプライチェーン川下の作業を簡素化して物流最適化につなげた本事例は、荷主企業が取り組むべき次世代のサプライチェーン統合の具体的なモデルケースといえます。

まとめ:明日から意識すべきこと

資生堂ジャパンの「Kakehashi」による返品機能自動化の事例から、現場リーダーや物流責任者が自社のオペレーションに取り入れるべきポイントは以下の通りです。

  1. 静脈物流の発生源(エッジ)に着目する

自社の物流センター内だけでなく、取引先や納品先での荷受け・検品・返品作業にどれだけのアナログ工程が残っているかを洗い出してください。川下の作業負荷が川上の物流効率を下げている要因を特定することが改革の第一歩です。

  1. 専用機器に頼らない導入障壁の引き下げを検討する

現場DXを成功させる鍵は定着率にあります。専用ハンディターミナルの配布ではなく、汎用スマートフォンやWebブラウザで完結する仕組みを採用することで、初期費用を抑えつつ中小規模の取引先にも素早く展開できます。

  1. 動脈物流のペーパーレス化と静脈物流の自動化を一連で捉える

納品伝票の電子化だけで満足せず、そのデータ基盤を返品や受領確認といったリバース領域に拡張できるかを検証し、往復の物流データを統合した配車・集荷計画へと発展させることが求められます。


出典: 物流(ロジスティクス)ニュース LNEWS
出典: 資生堂ジャパン プレスリリース(PR TIMES)
出典: 国際商業オンライン
出典: 週刊粧業
出典: 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会
出典: ロジスクエア(シーアールイー)

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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