山九株式会社は、アセンド株式会社が提供する運送事業者向け基幹システム「ロジックス」の採用を決定し、グループの全国約33拠点への展開を進めています。2024年12月の経営承認後に実施した6拠点での約1年半にわたるパイロット検証を経て、子会社のサンキュウ・トランスポート各社を含めた全拠点への本導入に移行しました。
40年来のアナログ管理を刷新する山九グループの基幹システム統一
山九グループでは、約40年前にサンキュウ・トランスポート各社を設立して以来、グループ横断での輸送業務管理のシステム化が構想されながらも未達のままでした。配車組みをホワイトボードで行い、運行実績や請求管理を拠点ごとのExcelシートで運用するなど、アナログな個別最適が常態化していました。
この運用体制を見直す契機となったのが、グループ全体の輸送ネットワーク強化と案件別採算の可視化、そしてトラック運送業界で導入が進む「適正原価制度」への対応です。元請けの山九と実運送を担うサンキュウ・トランスポートの間で、1件ごとの案件に紐づく売上・原価・粗利を把握できるデータ基盤の構築が急務となっていました。
35項目による比較選定と1年半のパイロット検証
山九は約3か月をかけ、十数社のシステムを約35項目にわたって比較評価しました。管理会計システムとの連携性や現場での入力負荷、協力会社との連携拡張性などに重み付けを行って採点した結果、ロジックスが最高評価を獲得しました。
| 選定フェーズ | 時期・期間 | 主な内容・検証項目 |
|---|---|---|
| システム比較検討 | 約3か月間 | 十数社を対象に管理会計連携や入力性など約35項目で採点評価 |
| 経営承認・初期検証 | 2024年12月 | 鹿嶋(茨城県)と京都の2拠点でロジックスの初期運用を開始 |
| パイロット検証拡大 | 約1年半 | サンキュウ・トランスポート各社から加え計6拠点で現場課題を洗い出し |
| 全拠点本展開 | 2026年10月現在 | 全国約33拠点へ展開の最終段階。グループ全体の輸送業務を集約していく予定 |
システム選定の決め手となった要素は主に3点です。1点目は、標準機能で受注から配車・請求までを広くカバーし、営業所をまたいだ空車情報の共有や荷物割り当てができる操作性を備えている点です。2点目は、案件単位で収支を把握し、物流事業全体の収益性を定量判断できるデータ基盤になり得る点です。3点目は、グループ会社のみならず外部の協力会社とも案件連携を拡張できるデータ連携基盤としての柔軟性です。
2段階で進める業務効率化と収益性改善
山九グループとアセンドは、システム展開の効果創出プロセスを2段階に設定して進めています。
[第1段階:事務工数の削減]
・請求システムへの二重入力の廃止
・帳票作成における多重入力の撤廃
・タイムスタディの実測値に基づく投資対効果の回収
↓
[第2段階:収益性の改善]
・営業所間をまたいだ広域配車による実車率向上
・元請け(山九)と実運送(子会社)の一気通貫での粗利・原価可視化
・案件ごとの採算判定に基づく事業拡大および取引適正化
第1段階では、請求システムや帳票作成に伴う多重入力・転記作業の排除を目的としています。山九は事前に現場のタイムスタディを実施し、1案件あたりの入力工数を実測した上で、事務削減効果単体で投資回収が成立することを導入判断の基準としました。
第2段階では、蓄積された輸送データを活用した収益構造の改革に取り組みます。拠点間をまたいだ配車組みによって実車率を高めるとともに、元請けから実運送に至るサプライチェーンの取引利益を一元管理し、赤字案件の要因究明や適正運賃収受の判断材料として活用します。
参考記事: ロジックスとは?配車から請求・労務管理までを一気通貫でデジタル化する運送業特化クラウドERP
サプライチェーン各プレイヤーへ波及する実務インパクト
全国約33拠点を網羅する大手物流グループが配車・収支管理基盤を統合した動きは、運送・物流業界を構成する関係各社に波及します。
運送事業者:ホワイトボード依存からの脱却と案件別原価の把握
実運送を担う運送事業者にとって、配車表のホワイトボード管理やExcelでの請求計算を続ける運用体制は、事業継続のハードルとなります。
国土交通省による適正原価の制度設計が進む環境下では、自社の運行1件あたりにかかる労務費、燃料費、固定費を正確に把握できていない場合、運賃交渉や受託可否の判断基準を持てなくなります。営業所単位の大まかな採算ではなく、配送コース単位・案件単位で原価と粗利を即座に算出できるデータ体制を持つことが、発注元との条件交渉における前提要件となります。
倉庫事業者・3PL:元請けから実運送までを網羅する広域配車網の構築
3PLや元請け物流事業者には、自社グループ内の実運送子会社や協力会社を含めた多層構造の収支を、一気通貫で可視化する管理能力が問われます。
従来のように営業所ごとの独立採算に閉じこもり、帰り荷の確保や空車割り当てを現場担当者の電話連絡に頼っている状態では、輸送リソースの稼働効率を高めることはできません。グループ横断で車両の動態と空車枠をリアルタイムに共有し、広域配車によって実車率を引き上げる仕組みを整えることが、輸配送ネットワーク全体の利益率を維持するための要件となります。
SaaS・テクノロジーベンダー:業務効率化から管理会計・取引適正化機能へのシフト
物流向けシステムを提供するITベンダーに対しては、現場の入力工数削減や帳票出力といった単機能ツールの提供だけでは選定基準を満たしにくくなっています。
山九の比較選定プロセスが示した通り、既存の基幹系管理会計システムとのデータ連携性や、元請け・下請け間の取引データを紐づけて原価を算出する機能が重要視されます。配車表のデジタル化にとどまらず、適正原価制度や実運送体制管理簿の作成義務化など、法規制への準拠と収益改善インサイトを同時に提供できるアーキテクチャが求められます。
参考記事: TMS(輸配送管理システム)とは?WMSとの違いから導入効果・失敗しない選び方まで解説
参考記事: 山九の営業益2%減から読み解く未来!物流業界の構造改革と3つの生存戦略
LogiShiftの視点:配車DXの焦点は工数削減から元請・実運送の一貫原価管理へ
今回の山九グループによるロジックス導入は、物流DXの評価基準が「現場の転記工数削減」から「元請け・実運送を通じた原価管理と収益構造改革」へと移行した実例といえます。
これまで多くの物流企業において、配車システムやTMSの導入目的は、ベテラン配車担当者の属人化解消や請求業務のペーパーレス化に偏っていました。しかし、トラック運送業の平均営業損益率が低迷し、改正貨物自動車運送事業法に基づく適正原価制度の導入スケジュールが進む現在、単に事務作業を省力化するだけでは、運送原価の上昇分を吸収しきれません。
山九の市川寛之グループマネージャーがコメントしている通り、「1件の案件を登録するだけで売上と配車がつながり、粗利と原価まで元請けと実運送の双方で見える世界」を作ることが本質的な目的です。元請けと子会社間の中間取引を含め、実運送体制全体の原価構造をデータで把握できれば、どの荷主のどの運行が赤字要因であるかが特定できます。
業界全体の平均積載率が約38%にとどまるなか、データを根拠に実車率を高める広域配車を組み、適正運賃の収受に向けた価格交渉へ直結させる基盤を持つ企業が、今後の輸送力確保において優位に立ちます。
参考記事: [アセンド調査、価格転嫁率27.3%の壁を破るコース別原価管理の実践](https://logishift.net/2026/08/07/post-7809/)
参考記事: 国土交通省の適正原価策定で実車率50%見直しへ!運賃半減を防ぐ経営管理
まとめ:明日から自社の現場で意識すべきこと
山九グループの基幹システム統一事例を踏まえ、物流企業の経営層や現場リーダーが自社内で着手すべき実務確認事項は以下の通りです。
- 配車・請求業務における二重入力と転記工数の実測把握
営業所ごとにExcelや手書き伝票、請求管理ソフトへ同じ運行情報を重複入力していないかを洗い出し、現場のタイムスタディを行って削減可能な工数規模を算出します。
- 元請・下請・自社便をまたいだ案件別原価の算出精度の確認
月次や営業所全体の損益だけでなく、1運行・1案件ごとに燃料費、人件費、庸車費を紐づけて粗利を判定できるデータ構造になっているかを点検します。
- 適正原価制度を見据えた広域配車・実車率向上策の検討
自社拠点間やグループ会社間で空車情報がリアルタイムに共有されているかを確認し、帰り荷の確保や復路コストの最小化に向けたシステム連携の要件を定義します。
出典: 毎日新聞
出典: PR TIMES
出典: PR TIMES(アセンド)
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