北陸信越運輸局管内でトラック事業者2社が処分、富山県の営業所に車両使用停止
北陸信越運輸局自動車運送事業安全監理室は、2026年9月分(令和8年9月分)としてトラック運送事業者2社(2営業所)に対する行政処分等の状況を公表しました。
今回の処分では、富山労働局からの通報や重傷事故の惹起を端緒として監査が実施され、対象となった2社すべてに対して輸送施設の使用停止(車両使用停止処分)が科されました。最大で52日車(事業者点数6点)の使用停止処分が下されており、安全教育の形骸化や労務管理、重大事故発生時の届出手続きにおける不備に対して厳正な対処が行われています。
処分の内訳:最長52日車を含む全社への車両使用停止処分
| 処分の種類 | 件数 | 事業者にとっての意味 |
|---|---|---|
| 輸送施設の使用停止(52日車) | 1 | 対象となる営業所の事業用自動車が延べ52日間にわたり稼働停止となる状態 |
| 輸送施設の使用停止(20日車)及び文書警告 | 1 | 対象となる事業用自動車が延べ20日間にわたり稼働停止となり、同時に文書による警告を受ける状態 |
日車数と違反点数の仕組み:累積による事業停止・許可取消リスク
トラック運送事業者の行政処分において科される「日車(にっしゃ)」は、事業用自動車の使用停止規模を示す単位であり、車両1台を1日間使用停止とすることを「1日車」として計算します(例:2台を26日間停止、または1台を52日間停止で52日車)。
原則として10日車ごとに1点の違反点数が付与され、付与された違反点数は地方運輸局管内で過去3年間にわたり累積管理されます。累積点数が51点以上に達すると事業停止処分、81点以上に達した場合は事業許可取消処分という致命的なペナルティに直結するため、日車の加算や点数累積は事業継続に決定的な影響を及ぼします。
主な違反類型:適性診断義務違反と拘束時間超過、事故届出の不備
北陸信越運輸局が公表した行政処分事案では、運転者に対する適性診断の未受診や特別な指導の不実施、改善基準告示に基づく拘束時間等の限度超過、運行記録計の管理不備、事故発生時の届出違反などが確認されました。確認された主要な違反類型について実務上の着眼点を解説します。
特別な指導及び運転適性診断受診義務違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第10条第2項)
国土交通省の「指導監督告示」に基づき、事業者は初任運転者、高齢運転者(65歳以上)、死傷事故等を引き起こした事故惹起運転者に対して、個別の特別な指導を実施し、独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)などの認定機関における特別な運転適性診断を受診させなければなりません。
今回の公表では、処分を受けた2社いずれにおいても特別な指導の不実施や運転適性診断の未受診が確認されました。雇い入れ直後の初任者に対する安全教育や、事故惹起後の再教育・適性診断受診を怠ったまま乗務させていた実態が浮き彫りとなっています。
自社点検においては、採用時や事故発生時、ドライバーの年齢到達時に合わせて適性診断の予約・受診フローが確立されているか、受診結果票を運転者台帳と紐付けて管理し、診断結果に応じた個別の指導記録を保存しているかを点検する必要があります。
勤務時間等基準告示の遵守違反・拘束時間限度違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条第4項)
事業者は、事業用自動車の運転者の過労運転を防止するため、拘束時間や運転時間の限度、休日労働の限度、休息期間の確保など国土交通省告示(改善基準告示)に定められた基準を遵守して運行を管理しなければなりません。
今回の事案では、労働局からの通報を端緒とした監査により、勤務時間等基準告示の遵守違反に加えて1箇月の拘束時間及び休日労働の限度に関する違反が認定されました。過密な運行スケジュールや不適切な勤務シフトにより、法令の上限を超える長時間拘束や過重労働が発生していたことが示されています。
自社点検にあたっては、デジタルタコグラフやタイムカードの客観的な稼働記録を突き合わせ、1箇月の総拘束時間や休日労働の回数が限度を超過していないか、荷待ち時間を手待ち時間(労働時間)として正しく算入した運行計画になっているかを厳密に監査することが求められます。
運行記録計による記録違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第9条)
事業者は、所定の事業用自動車について運行記録計(タコグラフ)を正しく作動させ、瞬間速度、運行距離、運行時間を確実に記録・保存しなければなりません。
今回の監査では、運行記録計による記録が確実に行われていなかった事実が指摘されました。機器の未装着や故障の放置、運行時のデータ取得漏れなどが管理上の不備として扱われています。
自社点検にあたっては、装着義務のある車両において運行記録計の未装着や故障による未記録が生じていないか、カードの未挿入やデータ欠損がないかを運行管理者が日常的にチェックするフローを整備することが重要です。
自動車事故報告規則に規定する事故の届出違反(貨物自動車運送事業法第23条)
事業者は、事業用自動車において死者や重傷者が発生した死傷事故など、国土交通省令(自動車事故報告規則)で定める重大な事故が発生した際、国土交通大臣に対して所定の事故報告書を提出して届け出る義務を負っています。
今回の事案では、重傷事故を引き起こした事業者において、自動車事故報告規則に基づく事故の届出義務を怠っていた違反が認定されました。事故の発生自体に加え、法令で義務付けられた行政への報告義務を適切に履行していなかった点が指摘されています。
自社点検においては、重大事故や重傷事故が発生した際の社内エスカレーション規定および運輸支局への報告手順がマニュアル化されているか、報告期限内に正確な報告書を提出できる管理体制が整っているかを確認しておく必要があります。
注目事例:労働局通報端緒の52日車処分と重傷事故惹起に伴う届出違反
事例1: 労働局通報を端緒に過労防止違反や適性診断未受診など5件が発覚(株式会社KSG 本社営業所 / 富山県氷見市)
- 監査の端緒: 令和7年11月12日、富山労働局からの通報を端緒として北陸信越運輸局による監査が実施されました。
- 違反の内容: 勤務時間等基準告示の遵守違反(安全規則第3条第4項)、1箇月の拘束時間及び休日労働の限度に関する違反(同第3条第4項)、運行記録計による記録違反(同第9条)、指導監督告示による運転者に対する特別な指導及び運転適性診断受診義務違反(同第10条第2項・2件)の計5件の違反が認定されました。
- 処分結果: 輸送施設の使用停止(52日車)、事業者点数6点・営業所点数6点が付与されました。
- 教訓: 労働基準監督機関による労務監査と地方運輸局による安全監査は相互通報制度により連動しています。拘束時間上限や休日労働の超過といった労務管理の違反が発覚すると、運輸局の立入監査を招き、車両使用停止などの重い処分につながるため、デジタコデータ等を用いた労務の適正化が不可欠です。
事例2: 重傷事故惹起を端緒に適性診断義務違反と事故報告義務違反が発覚(有限会社清水重建 本社営業所 / 富山県南砺市)
- 監査の端緒: 令和8年7月15日、重傷事故を惹起したことを端緒として北陸信越運輸局による監査が実施されました。
- 違反の内容: 指導監督告示による運転者に対する特別な指導及び運転適性診断受診義務違反(安全規則第10条第2項・2件)、自動車事故報告規則に規定する事故の届出違反(法第23条)の計3件の違反が認定されました。
- 処分結果: 輸送施設の使用停止(20日車)及び文書警告、事業者点数2点・営業所点数2点が付与されました。
- 教訓: 重傷事故などの重大事故を惹起した事業者は、運輸局による重点監査の対象となります。事故惹起時の安全教育や適性診断の受診を怠っていただけでなく、法定の事故報告を怠っていた場合はさらに違反が重なるため、事故発生時の初動対応と法令遵守を徹底しなければなりません。
実務チェックポイント:安全指導・拘束時間管理・事故報告の点検基準
| チェック項目 | 根拠条項 | 確認の方法 | 不備が招く処分 |
|---|---|---|---|
| 特別な指導の実施 | 安全規則第10条第2項 | 初任・高齢・事故惹起運転者に対して指針に基づく特別な指導を実施し記録しているか確認する | 文書警告、車両使用停止処分 |
| 特別な運転適性診断の受診 | 安全規則第10条第2項 | 初任・高齢・事故惹起運転者に認定機関の適性診断を受診させ、結果票を保存しているか照合する | 文書警告、車両使用停止処分 |
| 勤務時間等基準告示の遵守 | 安全規則第3条第4項 | デジタコおよび出退勤記録から拘束時間・運転時間・休息期間が告示基準を満たしているか確認する | 文書警告、車両使用停止処分 |
| 1箇月の拘束時間上限遵守 | 安全規則第3条第4項 | 月間の総拘束時間を集計し、改善基準告示で定められた限度時間を超過していないか確認する | 文書警告、車両使用停止処分 |
| 休日労働の限度遵守 | 安全規則第3条第4項 | 勤務割表および出勤実績から休日労働の回数や連続勤務が基準内に収まっているか確認する | 文書警告、車両使用停止処分 |
| 運行記録計の適正な記録 | 安全規則第9条 | 装着義務車両においてタコグラフが正しく作動し、速度・距離・時間が欠損なく記録されているか点検する | 文書警告、車両使用停止処分 |
| 自動車事故報告書の提出 | 法第23条 | 重傷事故等の死傷事故発生時に、自動車事故報告規則に基づき所定の期日内に届出を行っているか確認する | 文書警告、車両使用停止処分 |
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出典
免責
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言ではありません。個別の対応については行政機関の公式情報をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
