関東運輸局管内でトラック運送事業者15社が処分、事業停止2社を含む内訳と全体像
関東運輸局は2026年8月、管内のトラック運送事業者15社に対する行政処分状況を公表しました。
今回の公表では、情報提供や公安委員会・労働局からの通報、死亡事故等を端緒とした監査に基づき、名義貸しや点呼の未実施、社会保険等未加入などを理由とする「30日間の事業停止処分」が2社に対して発動されたほか、最大211日車に及ぶ輸送施設の使用停止など重い処分が相次ぎました。
点呼の実施違反や運転者への指導監督・適性診断の未受診、事業計画の無認可・無届出、疾病運行、定期点検整備の未実施など、安全管理の基本ルールを逸脱した複合的な違反が浮き彫りとなっています。
処分の内訳:事業停止2社、車両使用停止13社
| 処分の種類 | 件数 | 事業者にとっての意味 |
|---|---|---|
| 事業停止(30日間)及び輸送施設の使用停止 | 1 | 営業所の事業用自動車の使用が全停止され、30日間にわたり運送事業の継続が完全にストップする重大な状態 |
| 事業停止(30日間)、輸送施設の使用停止、輸送の安全確保命令 | 1 | 30日間の全事業停止に加え、車両停止および行政からの安全確保命令が下され、是正が完了するまで事業の正常化が認められない状態 |
| 輸送施設の使用停止(車両使用停止) | 13 | 違反の規模に応じた期間、対象営業所の事業用自動車の使用が差し止められ、稼働停止による実務影響が生じる状態 |
日車数と違反点数の仕組み:累積による事業停止・許可取消リスク
輸送施設の使用停止処分で用いられる「日車(にっしゃ)」は、事業用自動車の使用停止規模を示す単位であり、例えば10台を10日間使用停止にする場合は100日車となります。
違反点数は原則として使用停止10日車ごとに1点が付与され、同一運輸局管内で過去3年間にわたり累積されます。
累積点数が51点〜80点に達すると事業停止処分、81点以上で事業許可取消処分に直結するため、日車数の大きい処分や累積点数の加算は事業継続に決定的な影響を及ぼします。
主な違反類型:指導監督・点呼・事業計画・車両整備に不備集中
運転者に対する指導監督違反・適性診断受診義務違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第10条第1項・第2項)
事業者は、国土交通省告示の指針に基づき、運転者に対して輸送の安全を確保するための適切な指導および監督を実施し、記録を保存しなければなりません。また、初任運転者や高齢運転者に対しては、特定の指導を実施した上で、独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)等の大臣認定適性診断を受診させることが法令上義務付けられています。
今回の監査では、15社中13社において一般的な指導監督の未実施や記録不備が確認されました。さらに、初任運転者に対する特別な指導や適性診断の受診を怠っていた事例、高齢運転者に対する指導・診断を怠っていた事例が複数社で確認されています。
自社点検においては、年間安全教育計画に基づき法定12項目に沿った指導監督が全運転者に実施・記録されているか、また新規採用時や一定の年齢に達した運転者に対して確実に適性診断を受診させ、受診結果票と指導記録を台帳管理しているかを点検することが求められます。
点呼の実施義務違反等(貨物自動車運送事業輸送安全規則第7条)
運送事業者には、乗務前後に運行管理者等が対面等で点呼を実施し、運転者の健康状態、酒気帯びの有無、日常点検の実施状況等を確認して結果を記録・保存することが義務付けられています。対面点呼が困難な場合であっても、法令で定められた正当な理由と要件を満たした通信手段を用いなければなりません。
今回の一覧では、10社において点呼の実施義務違反等が認定されました。点呼そのものを全く実施していないケースや一部未実施の不備、点呼記録簿の記載漏れに加え、点呼記録の保存義務違反(第7条第5項)も確認されています。
自社点検では、アルコール検知器による測定結果や出退勤データ、運行記録計(デジタコ等)の時刻ログと点呼記録簿が完全に一致しているかを厳密に照合し、点呼の抜け漏れや形骸化が生じていないかを確認する必要があります。
事業計画の変更認可・届出違反(貨物自動車運送事業法第9条第1項・第3項)
トラック運送事業者が営業所や車庫の位置を変更する場合や、車庫の収容能力等を変更する場合には、国土交通大臣(地方運輸局長)の認可を受けるか、あらかじめ事前の届出を行わなければなりません。また、主たる事務所や営業所の位置に関する軽微な変更についても事後届出等の適正な手続きが必要です。
今回の公表では、9社において事業計画の変更認可違反(第9条第1項)や事業計画事前届出違反(第9条第3項)、事後届出違反が確認されました。無認可での施設拡張や、届出を行わないまま営業所・車庫を移転・変更して事業を継続していた実態が浮き彫りとなっています。
自社点検では、現在使用している営業所、車庫、休憩・睡眠施設の設備や所在地が、運輸局に提出済みの事業計画(許可・認可書および届出書の控え)と完全に合致しているかを定期的に照合・確認することが求められます。
定期点検整備の実施違反・点検記録簿の管理不備(貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条の3、道路運送車両法第48条・第49条)
事業者は、使用する事業用自動車について日常点検を確実に実施させるだけでなく、道路運送車両法第48条に定める法定の定期点検整備(3か月点検・12か月点検)を実施し、その結果を点検整備記録簿に記載して所定の期間保存しなければなりません。
今回の監査では、8社において定期点検整備そのものを怠っていた違反や、点検整備記録簿を適正に作成・保存していなかった違反が認められました。中には車検の有効期間を満了した状態で事業用自動車を運行させていた無車検運行(道路運送車両法第58条第1項違反)の事例も確認されています。
自社点検においては、整備管理者が中心となって車両台帳ごとの点検周期をシステムや台帳で厳密に追跡し、定期点検の未実施車両が運行に入らない体制を確立するとともに、記録簿の適正な保管状況を定期確認することが重要です。
疾病のおそれのある業務(貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条第6項)
事業者は、疾病、疲労その他の理由により安全な運転ができないおそれがある運転者を事業用自動車に乗務させてはならないと定められています。
今回の一覧では、7社において疾病のおそれのある業務に従事させた違反が認定されました。ドライバーの健康状態に異常や疑義があることを把握しながら乗務を継続させていた不備や、健康起因事故につながりかねない労務放置が認められています。
自社点検においては、定期健康診断の確実な受診と事後措置の徹底に加え、乗務前点呼におけるドライバーの顔色・体調申告・問診確認を形式化させず、異常が認められる場合に運行管理者が乗務を確実に中止・交代させる判断基準を社内に定着させることが不可欠です。
その他の違反類型として、以下の項目が確認されています。
- 勤務時間等基準告示の遵守違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条第4項)
- 業務記録の記載事項違反・作成義務違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第8条)
- 運行記録計による記録義務違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第9条)
- 運行指示書の作成義務違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第9条の3)
- 運転者台帳の作成義務違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第9条の5第1項)
- 運行管理者の解任届出違反・講習受講義務違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第19条、第23条第1項)
- 運行管理補助者の要件違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第18条第3項)
- 運行管理者に対する指導及び監督違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第22条)
- 整備管理者の研修受講義務違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条の5)
- 無車検運行(貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条の3、道路運送車両法第58条第1項)
- 名義貸し(貨物自動車運送事業法第27条第1項)
- 社会保険等未加入(貨物自動車運送事業法第24条の4、貨物自動車運送事業法施行規則第14条第2号)
- 事業者の住所の変更未届出(貨物自動車運送事業法第60条第4項、貨物自動車運送事業法施行規則第44条第1項第5号)
- 報告義務違反(貨物自動車運送事業法第60条第1項)
- 自動車に関する表示義務違反(道路運送法第95条)
注目事例:名義貸しや疾病運行による事業停止・大規模使用停止
事例1: 名義貸しや点呼違反など13件の違反で事業停止30日間(マルコ産業運輸 有限会社 / 千葉県八街市)
- 監査の端緒: 法令違反の疑いがある旨の情報を端緒として、令和6年5月28日、同年6月3日及び同年6月17日に監査を実施。
- 違反の内容: 名義貸し(貨物自動車運送事業法第27条第1項)をはじめ、点呼の実施義務違反、業務の記録義務違反、運行記録計による記録義務違反、運転者に対する指導監督違反、定期点検整備の実施違反、運行管理者の解任届出違反、事業計画の変更認可違反、事業計画事前届出違反、事業計画事後届出違反(営業所・主たる事務所の位置)、事業者の住所変更未届出など計13件の違反が認定されました。
- 処分結果: 2026年8月10日付で「事業停止(30日間)」及び「輸送施設の使用停止(170日車)」の処分、事業者点数47点。
- 教訓: 名義貸しなどの根幹的な不正に加え、運行管理・車両整備・許認可届出の全般を放置していた実態が情報提供により発覚し、事業停止30日間および累積47点という極めて重い処分につながっています。
事例2: 点呼不備・社保未加入で事業停止30日と安全確保命令(フェニックス 株式会社 / 千葉県八街市)
- 監査の端緒: 法令違反の疑いがある旨の情報を端緒として、令和6年2月29日、同年3月18日及び同年4月5日に監査を実施。
- 違反の内容: 点呼の実施義務違反、運行記録計による記録義務違反、運転者・初任運転者に対する指導監督違反および適性診断受診義務違反、定期点検整備の実施違反、点検整備記録簿の保存義務違反、運行管理者に対する指導監督違反、運行管理補助者の要件違反、事業計画変更認可違反、社会保険等未加入など計11件の違反が確認されました。
- 処分結果: 2026年8月17日付で「事業停止(30日間)」、「輸送施設の使用停止(130日車)」、及び「輸送の安全確保命令」が発令され、事業者点数43点。
- 教訓: 点呼の不実施や法定診断の怠慢に加え、社会保険等未加入(適確な事業遂行の遵守事項違反)などコンプライアンス全般の欠如が重なり、事業停止とともに輸送の安全確保命令が下される事態となりました。
事例3: 疾病運行や点呼違反などで211日車の使用停止(東京都市場運送 株式会社 / 東京都大田区)
- 監査の端緒: 法令違反の疑いがある旨の情報を端緒として、令和7年11月26日及び令和8年1月6日に監査を実施。
- 違反の内容: 疾病のおそれのある業務(健康状態に懸念がある運転者の乗務)、点呼の実施義務違反等、運転者に対する指導監督違反等、整備管理者の研修受講義務違反、報告義務違反の計5件の違反が確認されました。
- 処分結果: 2026年8月18日付で「輸送施設の使用停止(211日車)」の処分、事業者点数22点。
- 教訓: 違反項目数自体は5件であるものの、疾病のおそれのある業務に従事させたことや点呼違反など、運行の安全に直結する項目において重大な不備が認められ、単一営業所で200日車を超える大規模な車両停止処分が科されています。
自社点検実務チェックポイント:点呼・指導・整備・許認可の確認手順
| チェック項目 | 根拠条項 | 確認の方法 | 不備が招く処分 |
|---|---|---|---|
| 健康状態に疑義のある運転者の乗務除外 | 貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条第6項 | 定期健康診断結果の確認および点呼時における体調・問診記録の照合 | 輸送施設の使用停止(日車処分)、違反点数の付与 |
| 乗務前後の点呼の確実な実施と記録保存 | 貨物自動車運送事業輸送安全規則第7条 | アルコール検知器の客観ログや日時データと点呼記録簿の突き合わせ照合 | 事業停止、輸送施設の使用停止 |
| 拘束時間・休息期間の基準遵守 | 貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条第4項 | 運行記録計(デジタコ)データおよび業務記録と改善基準告示基準との照合 | 輸送施設の使用停止(日車処分) |
| 運行記録計による正確な記録と管理 | 貨物自動車運送事業輸送安全規則第9条 | タコグラフの記録欠落、無記録、改ざんの有無の確認 | 輸送施設の使用停止(日車処分) |
| 業務記録(運転日報)の適正な作成・記載 | 貨物自動車運送事業輸送安全規則第8条 | 運転日報の法定記載事項(乗務時間、作業内容等)の網羅状況の確認 | 輸送施設の使用停止(日車処分) |
| 運転者・初任・高齢運転者への指導監督 | 貨物自動車運送事業輸送安全規則第10条第1項・第2項 | 指導教育計画書の作成状況、実施記録簿、ドラレコ等を活用した教育履歴の点検 | 輸送施設の使用停止(日車処分) |
| 初任・高齢運転者の法定適性診断の受診 | 貨物自動車運送事業輸送安全規則第10条第2項 | 採用時初任診断や適齢診断の受診票および受診台帳の確認 | 輸送施設の使用停止(日車処分) |
| 日常点検および定期点検整備の確実な実施 | 貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条の3、道路運送車両法第48条 | 点検整備記録簿の記載事項、3か月・12か月点検サイクルの実施状況の突合 | 輸送施設の使用停止(日車処分) |
| 事業用自動車の有効な車検の維持 | 貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条の3、道路運送車両法第58条第1項 | 車検証の有効期間満了日と運行管理配車表の照合による無車検運行防止 | 輸送施設の使用停止(日車処分) |
| 運行管理補助者の選任要件の確認 | 貨物自動車運送事業輸送安全規則第18条第3項 | 補助者の資格要件(基礎講習修了等)および点呼実施比率(3分の1ルール)の照合 | 輸送施設の使用停止(日車処分) |
| 運行管理者・整備管理者の法定研修受講 | 貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条の5、第23条第1項 | 運行管理者講習・整備管理者研修の修了証書と定期受講スケジュールの確認 | 輸送施設の使用停止(日車処分) |
| 営業所・車庫等の事業計画認可・届出 | 貨物自動車運送事業法第9条第1項・第3項 | 営業所・車庫の現況設備と認可証・届出書控の整合性の突合確認 | 事業停止、輸送施設の使用停止 |
| 名義貸しの禁止遵守 | 貨物自動車運送事業法第27条第1項 | 自社名義車両の実態運行者、運賃収受体制、雇用契約の実質的確認 | 事業停止(30日間等) |
| 事業用自動車の車体表示の適正化 | 道路運送法第95条 | 車両両側面に表示された事業者名称の表記・視認性の実車確認 | 文書警告、輸送施設の使用停止 |
実務資料(公式ダウンロード)
関連記事
- 関東運輸局が2026年7月にトラック16社処分、事業停止60日や最大233日車も
- 有限会社M.L.Sに7日間の事業停止と370日車、疾病運行など18件違反
- 近畿運輸局、30日全事業停止を運送2社へ発動。管理不備が招く経営危機
- 運行管理者とは?配置人数の計算ルールから資格取得・IT点呼の実務まで解説
- 貨物自動車運送事業法とは?2024・2025年改正の要点と荷主・事業者が取るべき実務対応
- IT点呼の基礎知識|遠隔点呼との違いや導入要件・メリットを解説
- 遠隔点呼とIT点呼の違いとは?Gマーク不要の導入要件と申請手順を解説
- デジタコ(デジタルタコグラフ)とは?アナタコとの違い・装着義務や労務管理での活用法を解説
- 改善基準告示を完全解説!2024年4月改正のポイントと実務での対応策
出典
免責
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言ではありません。個別の対応については行政機関の公式情報をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
