近畿のトラック運送事業者11社を行政処分、死亡事故端緒で車両停止も
2026年8月、近畿運輸局管内(大阪府・兵庫県・京都府・滋賀県)において、トラック運送事業者11社(11営業所)に対する行政処分等が行われました。
今回の公表では、重大な死亡事故や一般事故の惹起、さらに公安委員会からの道路交通法第108条の34に基づく通知を端緒として特別監査等が実施されています。
処分内容としては、死亡事故を起こした1社に対して60日車の輸送施設使用停止処分および違反点数6点が付与されたほか、10社に対して文書警告が発出されました。
処分の内訳:60日車の車両停止1社と文書警告10社
| 処分の種類 | 件数 | 事業者にとっての意味 |
|---|---|---|
| 輸送施設の使用停止処分(60日車) | 1 | 対象となる事業用自動車が延べ60日間にわたり稼働停止となる状態 |
| 文書警告 | 10 | 車両停止等の行政処分には至らないものの、法令違反に対して行政から文書で是正・改善が求められている状態 |
停止日車数と違反点数の仕組み:累積による事業停止・許可取消リスク
輸送施設の使用停止処分において科される「日車(にっしゃ)」は、事業用自動車の使用停止規模を示す単位であり、車両1台を1日間使用停止とすることを「1日車」として計算します(例:60日車は1台を60日間、または2台を30日間使用停止とする処分)。
違反点数は原則として使用停止10日車ごとに1点が付与され、営業所および地方運輸局管轄区域ごとに原則3年間にわたり累積管理されます。
同一運輸局管内での累積点数が51点以上に達すると事業停止処分、81点以上で事業許可取消処分という致命的な措置に直結するため、日車の加算や点数累積は事業継続に決定的な影響を及ぼします。
主な違反類型:指導監督の形骸化や記録不備、点呼・台帳の管理不足が多発
近畿運輸局管内の行政処分事案では、運転者に対する指導教育の不備、日常的な業務記録や運転者台帳の記載漏れ、点呼の形骸化など、運行管理の基礎に関わる違反が複数社で確認されました。頻度の高かった主要な類型を解説します。
運転者に対する指導監督違反・適性診断受診義務違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第10条第1項・第2項)
トラック運送事業者は、国土交通省告示「指針」に基づき、すべての運転者に対して輸送の安全確保に必要な指導及び監督を実施し、その実施状況を記録・保存しなければなりません。また、事故惹起運転者や初任運転者、高齢運転者に対しては特別な指導を行い、大臣認定の特別な運転適性診断を受診させることが法令上義務付けられています。
今回の一覧では、11社中8社において指導監督に関する違反が認定されました。一般的な指導監督の不実施や内容の不適切、指導記録簿の記載事項不備に加え、死亡事故を惹起した運転者等に対する特別な指導の未実施や適性診断の未受診が確認されています。
自社点検においては、年間教育計画に基づき法定項目に沿った安全教育が漏れなく実施され、指導記録簿に日時・内容・指導対象者を正確に記載・保存しているかを確認するとともに、事故惹起時や採用時に適性診断を受診させる手続きが抜け落ちていないかを点検する必要があります。
業務の記録違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第8条)
事業者は、事業用自動車の乗務ごとに運転者へ乗務の記録を行わせ、開始・終了の日時、休憩の状況、走行距離などの必要事項を記載した乗務記録(運転日報)を作成し、所定の期間保存しなければなりません。
今回の監査では、4社において業務の記録に関する記載事項等の不備が確認されました。運行の実態が正確に反映されていなかったり、休憩地点や作業内容などの必須記載項目が空欄のまま放置されていた実態が認定されています。
自社点検では、運転日報の提出確認にとどまらず、法定記載項目がすべて網羅されているか、運行記録計(タコグラフ)のデータやETC利用明細等の客観的な記録と突合して矛盾や記録の脱漏が生じていないかを定期的に確認する体制が不可欠です。
運転者等台帳の作成・記載不備(貨物自動車運送事業輸送安全規則第9条の5第1項)
事業者は、営業所ごとに選任・雇用するすべての運転者について運転者等台帳を作成し、営業所に備え置くことが義務付けられています。台帳には氏名、生年月日、雇入れ年月日のほか、運転免許証情報、適性診断の受診結果、安全教育の実施履歴などを正確に記載しなければなりません。
今回の一覧では、4社において運転者等台帳の記載事項等の不備が指摘されました。ドライバーを雇い入れた後に法定記載事項が更新されず、適性診断の受診履歴や指導実績が台帳に正しく反映されないまま放置されていた状態が見られます。
自社点検にあたっては、自社の全運転者について台帳が作成されているかを点検し、最新の免許証更新情報や直近で受診した適性診断結果、指導監督記録が遅滞なく反映されているかを定期的に突き合わせる必要があります。
点呼の実施違反および記録不備(貨物自動車運送事業輸送安全規則第7条第1項~第3項、第5項)
事業者は、乗務前及び乗務後に運行管理者等が対面等で点呼を実施し、運転者の健康状態、酒気帯びの有無、日常点検の実施状況等を確認して必要な指示を与え、その結果を記録して1年間保存しなければなりません。
今回の事案では、3社において点呼関連の違反が認定されました。点呼そのものを実施していなかった未実施違反や、点呼記録簿における確認事項の記載漏れなど、形式的な運用に陥っていた事例が確認されています。
自社点検においては、アルコール検知器の客観的な測定データやデジタコの運行時刻と点呼記録簿を照合し、点呼の実施漏れや時間的な矛盾がないか、酒気帯び確認や体調の聞き取り結果が漏れなく記録されているかを厳正に検証することが求められます。
運行記録計による記録違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第9条)
事業者は、法令で定められた事業用自動車に運行記録計(タコグラフ)を装着し、運行の状況を適正に記録・保存しなければならず、記録の欠落や虚偽の作成は固く禁じられています。
今回の監査では、2社において運行記録計による記録違反が認定されました。タコグラフの記録が適正に取得されていなかったり、機器の故障や未作動を放置したまま運行させていた実態が浮き彫りとなっています。
自社点検では、車両ごとのタコグラフ稼働状況を日常的に点検し、データの欠落や未記録が発生していないか、運行管理者が日々のチャート紙やデジタルデータの内容を確実に点検・確認しているかを検証することが重要です。
その他の違反類型一覧
上記以外の違反として、以下の項目が監査によって認定されています。
- 「貨物自動車運送事業の事業用自動車の運転者の勤務時間及び乗務時間に係る基準」の遵守違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条第4項)
- 疾病、疲労等のおそれのある運行の業務【未受診】(貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条第6項)
注目事例:死亡事故端緒の労務・健康管理違反や道交法通知からの監査
事例1: 死亡事故の惹起から労務・健康管理違反が発覚し60日車の車両停止処分(株式会社エートラフィック 本社営業所 / 京都府宇治市)
- 監査の端緒: 令和7年9月18日及び同年9月29日に発生した死亡事故の惹起を端緒として、運輸局による監査が実施されました。
- 違反の内容: 運転者の勤務時間及び乗務時間に係る基準(改善基準告示)の遵守違反(安全規則第3条第4項)、疾病・疲労等のおそれのある運行の業務【健診未受診】(安全規則第3条第6項)、業務の記録違反(安全規則第8条)、指導監督違反【一部不適切】(安全規則第10条第1項)、指導監督記録の作成・保存違反(安全規則第10条第1項)の計5件の違反が認定されました。
- 処分結果: 輸送施設の使用停止処分(60日車)が科され、事業者点数6点および営業所点数6点が付与されました。
- 教訓: 重大な死亡事故を惹起した場合、監査では運行状況のみならず労務時間管理や健康診断の受診状況まで厳格に追及されます。改善基準告示の遵守や法定健康診断の受診体制に不備があると、車両使用停止などの重い処分へ直結します。
事例2: 過去1年間の最高速度違反3件通知による文書警告(有限会社栄友ライン 本社営業所 / 兵庫県三木市)
- 監査の端緒: 道路交通法第108条の34の規定に基づき、公安委員会から過去1年以内に3件の最高速度違反通知が届いたことを端緒として監査が実施されました。
- 違反の内容: 「貨物自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針」による運転者に対する指導及び監督違反(安全規則第10条第1項)の1件が認定されました。
- 処分結果: 文書警告が発出されました(事業者点数0点、営業所点数0点)。
- 教訓: 事故を起こしていなくても、警察からの道路交通法違反通知が重なることで運輸局の特別監査が発動します。日頃からスピード超過を防ぐ安全指導を形骸化させず、運行記録計等のデータを活用した具体的な速度管理を徹底することが不可欠です。
事例3: 放置駐車違反の反復通知から指導監督体制の不備を認定(株式会社LIBERO 本社営業所 / 大阪府大阪市西淀川区)
- 監査の端緒: 公安委員会からの道路交通法第108条の34の規定に基づく放置駐車違反の通知が、過去1年以内に3件に達したことを端緒として監査が行われました。
- 違反の内容: 運転者に対する指導及び監督違反(安全規則第10条第1項)の1件が認定されました。
- 処分結果: 文書警告が発出されました(事業者点数0点、営業所点数0点)。
- 教訓: 放置駐車違反のような交通違反であっても、会社への通知件数が蓄積すれば行政の監視対象となります。運行中の駐停車マナーや納品先での駐車ルールについて、ドライバーに対する教育・監督を事業所全体で徹底しなければなりません。
実務チェックポイント:処分事例から抽出した自社点検基準
| チェック項目 | 根拠条項 | 確認の方法 | 不備が招く処分 |
|---|---|---|---|
| 一般的な指導及び監督の実施 | 安全規則第10条第1項 | 年間安全教育計画書および法定12項目に沿った指導記録簿の突合確認 | 文書警告、車両使用停止 |
| 指導及び監督記録の適正作成・保存 | 安全規則第10条第1項 | 指導教育記録簿における実施日時、場所、指導内容、受講者署名の確認 | 文書警告、車両使用停止 |
| 事故惹起運転者等への特別な指導 | 安全規則第10条第2項 | 事故惹起者や初任者に対する個別の特別指導計画および指導記録の確認 | 文書警告、車両使用停止 |
| 特別な運転適性診断の受診 | 安全規則第10条第2項 | 初任・高齢・事故惹起運転者の適性診断受診票および受診台帳の確認 | 文書警告、車両使用停止 |
| 乗務前後の点呼の確実な実施 | 安全規則第7条第1項~第3項 | タイムカードやデジタコ記録と点呼実施時刻の照合および未実施の有無確認 | 文書警告、車両使用停止 |
| 点呼記録簿の必須事項記載と保存 | 安全規則第7条第5項 | 点呼記録簿の酒気帯び確認結果、体調問診、日常点検確認の記載漏れ点検 | 文書警告、車両使用停止 |
| 業務の記録(乗務記録)の記載・保存 | 安全規則第8条 | 運転日報における開始終了時刻、休憩地点、走行距離等の記載漏れ照合 | 文書警告、車両使用停止 |
| 運行記録計による運行状況の記録 | 安全規則第9条 | タコグラフの未装着・作動不良の有無およびデータ保存状況の確認 | 文書警告、車両使用停止 |
| 運転者等台帳の整備と法定事項網羅 | 安全規則第9条の5第1項 | 全運転者の台帳存在確認および適性診断結果・免許番号等の記載漏れ点検 | 文書警告、車両使用停止 |
| 改善基準告示に基づく拘束・休息管理 | 安全規則第3条第4項 | デジタコデータおよび日報による拘束時間上限超過や休息期間不足の照合 | 車両使用停止、点数付与 |
| 定期健康診断受診による疾病運行防止 | 安全規則第3条第6項 | 運転者の健康診断受診台帳の確認および未受診者の運行除外状況の点検 | 車両使用停止、点数付与 |
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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言ではありません。個別の対応については行政機関の公式情報をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
