物流業界において、持続可能なサプライチェーンの構築は避けて通れない経営課題となっています。特に「2050年カーボンニュートラル」の達成に向けては、自社の直接排出(Scope1、Scope2)だけでなく、他社に委託する輸送・配送から発生する「Scope3」の削減が強く求められています。
こうした中、株式会社ユーグレナ、丸紅ロジスティクス株式会社(以下、丸紅ロジ)、丸紅エネルギー株式会社、篠崎運輸株式会社の4社は、2026年7月1日より、次世代バイオディーゼル燃料「サステオ51」を活用した新たな脱炭素物流モデルの運用を開始しました。
本取り組みの最大の特徴は、運送事業者や物流会社の企業努力だけに頼るのではなく、「荷主が自ら費用を負担して参画する仕組み(荷主主体型)」を採用している点にあります。高額な電気自動車(EV)トラックの導入や大規模なインフラ投資を伴わずに、燃料の切り替えという「ソフトの更新」だけで即座にサプライチェーン全体の環境価値を高められるこのスキームは、グリーン物流の新たなスタンダードとして注目を集めています。
4社連携による「サステオ51」脱炭素物流モデルの全貌
今回のプロジェクトは、バイオ燃料の製造元、総合商社グループ、物流・3PL事業者、そして実運送を担う事業者がそれぞれの専門性を活かして協調し、単なる一時的な実証実験にとどまらない「持続可能で商業的な脱炭素物流モデル」を社会実装したものです。
本プロジェクトの具体的な構成と実務上の骨子を以下のテーブルに整理しました。
| 項目 | 詳細内容 | 参画主体とそれぞれの役割 | 実務上の導入メリット |
|---|---|---|---|
| 運用開始日 | 2026年7月1日 | 4社による共同協調体制 | 燃料調達から実際の運行までをパッケージ化して即時稼働。 |
| 運行ルート | 茨城県内の2つの物流拠点間 | 篠崎運輸(実輸送)、丸紅ロジ(全体設計・管理) | 特定の拠点間往復ルート(ピストン運行)からスモールスタート。 |
| 使用車両 | 10t大型トラック 1台 | 篠崎運輸(保有の大型クリーンディーゼルトラック) | 既存の大型車両をそのまま転用でき、初期の設備投資コストは0円。 |
| 採用燃料 | サステオ51(HVOを51%混合) | ユーグレナ(製造)、丸紅エネルギー(調達・供給) | 既存インフラやタンクをそのまま活用できるドロップイン燃料。 |
既存アセットを延命する「ドロップイン燃料」の優位性
「サステオ51」の最大の特徴は、廃食油や植物由来油脂を原料としたHVO(Hydrotreated Vegetable Oil:水素化植物油)を51%混合した「ドロップイン型燃料」である点です。
従来の第一世代バイオ燃料とは異なり、化学構造が石油由来の軽油とほぼ同一であるため、以下のような圧倒的な実務メリットをもたらします。
- 追加の車両・設備投資が不要:既存のクリーンディーゼル車はもちろん、自社拠点内にある給油タンク(インタンク)や計量機といった給油設備を一切改修することなく、そのまま燃料を切り替えるだけで運用できます。
- 配送オペレーションに影響を与えない:軽油と全く同じ時間で給油が完了し、EVトラックのように航続距離の短縮や重いバッテリー積載による積載可能重量(ペイロード)の低下が発生しません。運行管理の再設計を必要としないため、現場スタッフへの実務的な負担を極限まで抑えられます。
参考記事: バイオ燃料とは?カーボンニュートラル時代の物流実務と導入ロードマップ徹底解説
荷主・運送・3PLの各プレイヤーに与える具体的なインパクト
既存の資産を最大限に活用しながら即座に温室効果ガス(GHG)の排出削減を成立させる本スキームは、サプライチェーンを構成する主要プレイヤーに強力なメリットと行動変容を促します。
1. 製造業者・メーカー(荷主):Scope3排出量の直接削減と「改正省エネ法」の適合
これまでの荷主企業における脱炭素対応は、委託先運送事業者の取り組みに依存せざるを得ず、主体的に関与する手段が限られていました。今回のモデルでは、荷主が燃料の割増費用(軽油との差額分)を直接負担して参画することで、自社のサプライチェーン排出量(Scope3)を直接的かつ定量的に削減できます。
また、制度上の大きな利点として、改正省エネ法への適合が挙げられます。本モデルで使用される「サステオ51」は、バイオ燃料(非化石エネルギー)の割合が過半(51%)を占めているため、国に提出する中長期計画書や定期報告において、該当車両を「非化石エネルギー自動車」として正式に報告することが可能です。法的な要件をクリアしながら企業の環境対応力を社外にアピールできるため、環境経営(ESG経営)を重視する荷主企業にとって極めて強力なインセンティブとなります。
参考記事: Scope 1, 2, 3とは?物流・サプライチェーン実務担当者が知るべき基礎知識と算定ガイド
2. トラック運送事業者:EVシフトの財務リスクを回避し、高付加価値な輸送を提供
多くの中小運送事業者は、荷主からの脱炭素要請と、EVトラック導入に伴う数千万円規模の投資負担との間で板挟みになっています。
サステオ51を導入すれば、車両の買い替え投資を完全に回避しつつ、荷主に対して「CO2を大幅に削減したクリーンなグリーン輸送サービス」を即座に提供できるようになります。コストを荷主と分担する仕組みが構築されるため、運送事業者が一方的に財務リスクを抱え込む必要がなく、競合他社との強力な差別化要因(環境価値)を自社の営業武器に組み込むことができます。
3. 3PL・倉庫事業者:GXコンサルティングを内包した戦略的パートナーへの進化
丸紅ロジが本プロジェクト全体の設計と管理を担ったように、これからの3PL事業者には、単に「荷物を安く、安全に保管・運ぶ」だけでなく、環境価値をサプライチェーンに組み込む「GX(グリーン・トランスフォーメーション)コンサルティング」の役割が求められます。
複数の荷主の出荷データを集約し、最適な運行ルートやピストン便に対してHVO混合燃料を適用する「調停者(オーケストレーター)」としての役割を果たすことで、荷主から長期的に選ばれ続ける戦略的パートナーへの進化が可能になります。
参考記事: 既存車両で脱炭素化!東急バス「サステオ51」導入が物流業界にもたらす3つの恩恵
LogiShiftの視点(独自考察):なぜ「51%混合」なのか、制度をハックする戦略的インサイト
物流専門メディアである「LogiShift」の視点から、本取り組みにおける最も重要な戦略的インサイトを解説します。それは、なぜユーグレナ社と丸紅グループ、そして荷主企業があえて「100%バイオ燃料(純バイオ燃料)」ではなく「51%混合」にこだわっているのかという点です。
コストアップを最小限に抑えつつ、制度上のメリットを最大化する「黄金比」
高度に精製された次世代バイオ燃料(HVO)は、化石燃料である従来の軽油と比較して製造コストが圧倒的に高く、販売単価も割高になります。燃料費が営業利益をダイレクトに左右する物流の実務現場において、100%バイオ燃料への切り替えはコスト負担が大きすぎ、継続的な運用が困難です。
そこで活きるのが「51%混合」という絶妙な比率です。軽油を49%混合することで、燃料調達コストの上昇を最小限に抑えながら、改正省エネ法における「非化石エネルギーの割合が過半(50%超)を占めることで、非化石エネルギー自動車として公式報告できる」という法的メリットをクリアしています。
実務上の経済的インパクトを最適化しながら、法的な環境アピールの効果を100%発揮させる、極めてスマートな「制度ハック(最適化)」であると言えます。
参考記事: 物流脱炭素が加速する2026年5月のマツダと日本通運による共同実証
今後の勝負論:「環境プレミアム(脱炭素価値)の運賃転嫁」
物流企業がバイオ燃料の活用を自社の持続可能なビジネスとして成り立たせるためには、増加する燃料コストを適正に回収する営業力が必要です。
今後は、荷主に対して「当社のHVO混焼トラックを運行させることで、御社のScope3排出量をこれだけ削減でき、改正省エネ法の中長期計画書にも法的エビデンスとして記載できます」という具体的な付加価値を提示し、従来の運賃に「環境プレミアム(環境協力費)」を上乗せして契約を結ぶ提案型営業が不可欠です。データを武器に、環境への投資を荷主と分かち合える仕組みを創出した企業こそが、脱炭素時代の勝者となります。
参考記事: カーボンオフセット輸送とは?Scope3削減に向けたCO2計算方法とJ-クレジット活用法
まとめ:明日から現場リーダーが意識すべき3つのアクション
ユーグレナ、丸紅ロジ、丸紅エネルギー、篠崎運輸による「サステオ51」を活用した荷主主体型モデルは、EVなどの「車両(ハード)の更新」を待つことなく、「燃料(ソフト)」を切り替えるだけで今すぐ物流の脱炭素化を高いレベルで達成できることを証明しました。
激動するグリーン物流の波に取り残されないため、現場のリーダーや経営層は明日から以下のステップを意識して動き出しましょう。
- 自社ディーゼル車両の寿命と稼働フリートの棚卸し
- 保有しているクリーンディーゼル車の残存耐用年数を確認し、無理に高額なEVトラックへシフトするのではなく、バイオ燃料(HVO)への切り替えによって既存アセットを延命しながら脱炭素化を進めるシミュレーションを行いましょう。
- 燃料調達サプライヤーとのネットワーク構築
- ユーグレナ社や地域の石油元売り、バイオ燃料の供給ルートを持つ商社との接点を持ち、自社給油タンク(インタンク)でのドロップイン型燃料の受け入れ可能性や、供給コストの見通しに関する初期的なヒアリングと情報収集を開始しましょう。
- 荷主企業の環境・調達部門との対話の開始
- 荷主に対して、単に「EV化はコストが合わない」と断るのではなく、「既存のクリーンディーゼル車とHVO混合燃料を活用することで、追加投資を抑えつつ即座にScope3排出量を削減し、省エネ法対応もクリアできる」という、お互いにとって最もメリットのある脱炭素ロードマップを共同提案しましょう。
既存の現場力と「マルチパスウェイ(全方位での現実的なアプローチ)」を賢く組み合わせることこそが、これからの持続可能な強靭なサプライチェーンを築く最大の武器となるのです。


