自動運転トラックの開発を手がける株式会社T2は、経済産業省資源エネルギー庁の次世代燃料環境価値認証・移転制度の実証事業にENEOS株式会社とともに参画することを発表しました。本事業ではENEOSが認証を受けた次世代バイオ燃料「HVO(水素化植物油)」の環境価値証書をT2が購入し、大手運送会社や荷主約30社向けに提供している高速道路商用運行トラックで活用します。
資源エネルギー庁の実証事業とHVO環境価値証書の移転スキーム
経済産業省資源エネルギー庁は、将来的な「クリーン燃料証書制度」の導入を見据え、「令和8年度環境価値認証制度等整備事業(次世代燃料の環境価値認証・移転制度構築検討に向けた実証事業)」を実施しています。本実証において、T2は自動運転トラックを取り扱う物流事業者として初めて参画しました。
HVO環境価値の認証・調達・利用フロー
実証事業における燃料調達と証書移転の枠組みは、実燃料の物理的な給油と、燃料が持つ低炭素性能の証書を切り離して管理・移転する仕組みに基づいています。
| 項目 | 内容・運用条件 |
|---|---|
| 燃料種別 | 次世代バイオ燃料「HVO(Hydrotreated Vegetable Oil:水素化植物油)」 |
| 調達および認証 | ENEOSがHVOを輸入し、CO2排出が少ないとする環境価値の公的認証を取得 |
| 証書購入・適用 | T2がENEOSから認証証書を購入し、自社フリートの運行実績へ付与 |
| 対象フリート | T2が幹線で商用運行している自動運転トラック(約30社が利用) |
| 脱炭素効果の帰属 | 将来的に利用運送会社や荷主のCO2排出削減実績(Scope3等)への算入を目指す |
HVOは、従来の軽油と比較してライフサイクル全体で60%から80%程度のCO2排出削減効果が見込まれる次世代燃料です。ディーゼルエンジンに手を加えることなくそのまま混合・給油できるドロップイン燃料としての特性を持ちます。今回の枠組みでは、ENEOSが認証を取得したHVO由来の環境価値を証書としてT2が取得することで、既存の運行計画や燃料給油の手順を複雑化させることなく、フリート全体の脱炭素化を可能にします。
T2における自動運転トラック運行と燃料インフラ整備の経緯
T2は2025年7月に関東〜関西間の高速道路においてレベル2自動運転トラックによる商用運行を開始し、2027年度以降には特定条件下での完全無人運行である「レベル4」幹線輸送の実現を計画しています。この運用を実現する前提として、燃料供給や車両メンテナンスの体制整備を段階的に進めてきました。
| 年月 | 実績・取り組み内容 |
|---|---|
| 2022年8月 | 株式会社T2設立 |
| 2025年7月 | 関東〜関西間の高速道路でレベル2自動運転トラックの商用運行を開始 |
| 2025年8月 | 石油業界7社とカーボンニュートラル燃料の利用拡大に向けた協力合意を締結 |
| 2026年1月 | 物流事業者7社とともに48時間以内に2往復(1日1往復)する連続運行実証を達成 |
| 2026年春〜夏 | 有人・無人切替拠点「トランスゲート」を綾瀬、神戸西、西宮北の各IC近傍に開設 |
| 2026年7月 | T2・出光興産・いすゞ自動車がバイオディーゼル利用および車両保守保証で連携 |
| 2026年秋 | 神奈川県内のT2車庫に次世代燃料タンクを設置しオペレーション検証を開始予定 |
| 2026年10月 | 経済産業省資源エネルギー庁の実証事業にENEOSらと参画を発表 |
高速道路での自動運転区間と一般道での有人運転区間を切り替える拠点「トランスゲート」は、走行ルート上で必ず経由する中継点です。T2はこの拠点特性を活かし、構内に燃料タンクを配備することで給油作業を集約する計画を進めています。2026年秋には神奈川県内の車庫に次世代燃料用のタンクを設置し、実運行に即した給油手順や安全性の検証に着手します。また、商用車メーカーや石油元売り各社と協力し、軽油使用時と同一の基準で点検・修理を実施できる体制の標準化も進めています。
参考記事: 出光興産やT2等、2026年夏の自動運転いすゞ車への次世代燃料供給で幹線輸送の脱炭素が加速
参考記事: バイオ燃料とは?脱炭素(カーボンニュートラル)の仕組みと物流・輸送現場での実務知識を解説
サプライチェーン各層への具体的な影響
本実証による自動運転と燃料証書制度の連携は、荷主企業、運送会社、規制整備側の実務プロセスに直接的な影響を与えます。
荷主企業(製造業者・メーカー):輸送力確保とScope3排出量削減の同時処理
荷主企業にとって、長距離幹線輸送の確保とサプライチェーンCO2排出量(Scope3 カテゴリ4)の削減は、それぞれ個別に解決策を模索しなければならない課題でした。電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)による大型トラックの長距離運行は、充電インフラの配置密度や車両価格の観点から即時導入に制約があります。
本スキームを利用する荷主は、既存の自動運転定期便の枠組みを利用しながら、HVOの環境価値証書に裏付けられた輸送実績を獲得できます。自社で特別仕様の車両を手配したり給油設備に投資したりすることなく、幹線輸送の安定確保と温室効果ガス排出量の削減実績算入を同時に進めることが可能になります。
参考記事: Scope 1, 2, 3とは?物流・サプライチェーン実務担当者が知るべき基礎知識と算定ガイド
運送事業者:追加オペレーションなしでの次世代燃料対応
大手運送会社をはじめとする運行受託事業者にとって、新燃料への切り替えに伴う現場の業務負荷は主要な懸念事項です。給油ステーションの限定による運行ルートの変更や、混合燃料による車両故障時の補償問題は、導入障壁となっていました。
今回の実証では、ENEOSが輸入したHVOの環境価値を証書として移転させるため、日々の配車計画やドライバーの運行経路を変更する必要がありません。また、トランスゲートや専用車庫への燃料タンク設置、商用車メーカーとの修理メンテナンス保証連携が並行して進められているため、運行実務への追加負荷を抑えた形で次世代燃料の導入知見を蓄積できます。
参考記事: 福山通運とT2、510km中継で自動運転試験|往復24時間の運行成立を検証
行政・エネルギー供給側:クリーン燃料証書制度の社会実装モデル構築
経済産業省資源エネルギー庁が進める制度設計において、実商流における証書移転の検証データは不可欠です。本実証は、幹線道路網を定常運行するトラックフリートを対象とし、燃料の輸入、認証、証書購入、運行データとの紐付けに至る一連の取引プロセスを具体化するケースとなります。
実運行に即した証書制度のルールが確立されることで、石油元売り会社にとってもHVOなどの高付加価値燃料を安定的に供給・流通させる事業基盤が整います。制度設計と民間実務のすり合わせが進むことで、国内輸送部門における脱炭素燃料の流通促進につながります。
LogiShiftの視点:運行基盤と環境価値の統合がもたらす構造変化
物流業界における省人化(自動運転)と脱炭素化(GX)は、それぞれ独立した技術領域として実証が進められてきました。しかしT2とENEOSの取り組みは、これら2つの要素を単一の運行サービスとして統合する方向性を示しています。
| 従来の個別対応 | 今回の統合型アプローチ |
|---|---|
| 自動運転トラックの走行技術検証のみを先行 | 高速運行と同時に拠点給油・整備オペレーションを一体検証 |
| 車両ごとに代替燃料を直接給油して脱炭素化を模索 | HVOの環境価値証書を運行プラットフォーム側で一括処理 |
| 荷主・運送会社が個別に車両・インフラ手配を負担 | 自動運転輸送サービスを利用するだけで環境価値も同時に享受 |
運送会社や荷主にとって、自動運転の導入検討と次世代燃料の調達を別々に進めることは、設備投資とリスク管理の二重負担となります。T2がトランスゲートの給油インフラを整備し、ENEOSの証書制度を活用して「環境価値が付帯した自動運転運行枠」として提供するモデルが定着すれば、導入側の実務ハードルは下がります。輸送サービスの競争軸が、単なる「運賃とリードタイム」から「自動運行による安定供給力と保証された環境価値の合算値」へと再定義される契機となります。
明日から意識すべきこと
- 自社の幹線輸送ルートにおいて、Scope3削減対象となる運行便の年間燃料消費量と排出削減余地を算定する
- 長距離輸送の委託先に対し、自動運転実証や次世代バイオ燃料(HVO/RD)導入に関するロードマップの共有を求める
- 経済産業省によるクリーン燃料証書制度の設計動向を把握し、自社の温室効果ガス算定基準に証書移転が適用可能か確認を進める



