内閣官房は2026年9月10日のワーキンググループにおいて、価格転嫁率が低迷するトラック運送など15業種を対象とした取引適正化と商慣習の是正を関係省庁に指示しました。中小受託取引適正化法(取適法)の勧告を受けた違反事業者に対し、経済産業省が年内、他省庁が今年度内に補助金交付や公共事業の入札参加を停止するペナルティを導入します。
内閣官房WGが下した商慣習見直し指示と4つの重点方針
2026年9月10日に開催された第4回「賃上げに向けた中小企業等の活力向上に関するワーキンググループ」において、佐藤啓内閣官房副長官は「昭和の当たり前が今となっては時代遅れということも少なくない。昭和から続く商慣習を令和にふさわしいものにバージョンアップし、業界の常識を変えていただきたい」と表明しました。労務費や燃料費の上昇分を適切に転嫁できない構造を打破するため、政府は監視と実罰措置を組み合わせた4つの具体策を関係省庁に指示しています。
第4回ワーキンググループで示された4大指示
政府が提示した指示内容は、業界慣行の見直しから行政処分企業への経済的制裁まで多岐にわたります。
| 指示項目 | 主な内容 | 実施期限・対応時期 |
|---|---|---|
| 商慣習の見直し | トラック運送や自動車など15業種を対象に具体的目標を策定 | 2027年春までに方針策定 |
| 低転嫁業種への対応 | トラック運送、ビルメン、建設(発注側)等への重点指導 | 次回以降のWGで進捗報告 |
| 官公需の転嫁改善 | 48.4%に低下した官公需の転嫁率改善に向け実態調査を実施 | 次回WGで2025年度状況を報告 |
| 取適法勧告企業への措置 | 勧告を受けた事業者に対する補助金交付・公共入札の停止 | 経産省は年内、他省庁は今年度内 |
商慣習見直しの対象となる15業種と建設業の扱い
商慣習の是正が求められた15業種は、食品製造、繊維、建材・住宅設備、紙・紙加工、印刷、金属、機械製造、電機・情報通信機器、自動車、トラック運送、小売、通信、放送コンテンツ、情報サービス、広告です。公正取引委員会と中小企業庁は有識者検討会を設置し、各業界へのヒアリングを通じて2027年春までに対応方針を取りまとめます。また、取適法の対象外である建設業についても、国土交通省が同様の枠組みで取引適正化を進めます。
制度改正と監視強化の時系列
政府による取引適正化の枠組みは、2024年末以降、法改正と監視体制の拡充が連続して進められてきました。
| 年月 | 主な動きと政策決定 | 内容と影響 |
|---|---|---|
| 2024年12月 | 企業取引研究会が報告書提出 | 下請法改正と物流取引適正化の課題を整理 |
| 2025年5月 | 取適法(中小受託取引適正化法)成立 | 従来の親事業者・下請事業者の定義を改定 |
| 2025年12月 | 第1回賃上げWG開催 | 関係省庁連絡会議による実態把握が始動 |
| 2026年1月 | 取適法および振興法が施行 | 受託事業者の保護と取引適正化基準を適用 |
| 2026年6月 | 第3回賃上げWG開催 | 是正すべき商慣習の対象15業種を特定 |
| 2026年9月 | 第4回賃上げWG開催 | トラック運送の重点是正と入札停止措置を指示 |
| 2026年10月 | 第1回企業取引研究会再開 | 15業種+建設業へのヒアリング方針を公表 |
参考記事: トラック・物流Gメンが2026年10・11月に集中監視、公取委・警察と連携し是正指導へ
業界各層における取引条件の再編と具体的影響
内閣官房が打ち出した指示は、運送事業者のみならず、荷主である製造業や小売業の調達体制にも直接的な影響を及ぼします。
運送事業者:原価データの提示と多重下請けからの脱却
トラック運送業界のコスト転嫁率は全産業中最低水準の34.5%にとどまっており、4次請け以上の案件では約4割しか価格転嫁ができていない実態があります。政府がトラック運送を重点監視業種に指定したことで、運送会社は燃料サーチャージや労務費の引き上げ交渉を正当に行える環境が整いつつあります。
ただし、交渉を成立させるには「燃料費が上がった」という定性的な主張ではなく、デジタルタコグラフの走行記録や待機時間ログ、車両維持費などの客観データを提示する原価計算能力が必要です。無償の付帯作業や長時間の荷待ちを前提とした従来の運行契約を解消し、実運送体制管理簿の整備とあわせて下請構造をスリム化する動きが加速します。
参考記事: 国交省標準運賃、53%が収受5〜7割止まりで強制力欠如が課題
製造業者・メーカー:補助金停止リスクと付帯作業の有償化
製造業者は、取適法の勧告を受けた場合に経済産業省などの補助金受給や官公庁入札への参加を停止されるという、直接的な経済的ペナルティを負うことになります。ものづくり補助金や省力化投資補助金などの受給資格を失うことは、設備投資計画に大きな打撃となります。
そのため、従来は暗黙の了解としてトラックドライバーに行わせていた「フォークリフトによる積込・荷降ろし」「倉庫内での仕分け・検品作業」「指定時間外の長時間待機」を無償で強要する商慣習を即座に停止しなければなりません。運送契約書面において運行運賃と荷役料・待機時間料を明確に区分して別建て契約を結ぶ運用への移行が必須となります。
参考記事: 国交省、転嫁率34.5%の運送業へ5年ごと許可更新制で悪質排除へ
小売業者:定時納品ルールの緩和と特売に伴う付帯業務の見直し
15業種に指定された小売業界では、特売日の納品集中によるトラックの長時間待機や、店舗での陳列作業の無償委託といった慣行の見直しが焦点となります。
小売各社は、センター受入時間の24時間化やバース予約システムの導入によって車両待機時間を削減する対策を講じる必要があります。また、運送事業者からの労務費転嫁申し入れに対して一方的な据え置きや減額を行った場合、取適法違反として社名公表やペナルティの対象となるため、納品条件の緩和や配送頻度の適正化を物流部門と営業部門が連携して進める体制構築が求められます。
参考記事: トラック・物流Gメン、6.3万社の通報を是正指導に導く客観的証拠
LogiShiftの視点:ペナルティ連動で問われる荷主の調達ガバナンス
今回の内閣官房指示における最大の転換点は、取適法勧告と「補助金停止・入札排除」が直結した点にあります。これまでの下請法や物流関連法における行政指導は、社名公表によるレピュテーションリスクが中心であり、財務や営業活動に直接的な制約を課す実効性に乏しい面がありました。しかし、経済産業省が年内、他省庁が今年度内に導入する新基準により、違反企業は公的資金の獲得や公共事業から即座に排除されます。
特に2028年6月までに全面施行される「適正原価制度」では、法令遵守に必要な下限コストを下回る取引の継続に対して運送事業者の許可更新拒否が適用されます。製造・小売企業が不当な運賃据え置きを強要した場合、トラック・物流Gメンによる調査を経て取適法の勧告を受け、自社の補助金停止や公共調達排除に直結するリスク構造が完成します。物流の調達コスト削減を調達部門の業績評価(KPI)としている荷主企業は、その評価軸を「法令遵守と適正原価の収受率」へ転換するガバナンス改革を行わなければ、サプライチェーンの維持そのものが困難になります。
参考記事: 国土交通省の適正原価、標準運賃比35%減試算で下限タリフ210円へ
今後に向けた実務上の確認事項
運送事業者および発注者双方が明日から確認すべき実務は以下の通りです。
- 運送契約書面における運行運賃と付帯作業料(積込・荷降ろし・仕分け等)の明確な区分状況を点検すること。未記載の作業が存在する場合は覚書を交わして有償化を完了させる。
- 荷待ち時間・荷役時間の運行実績データをデジタコや動態管理システムから抽出し、客観的な数値根拠を揃えて価格交渉の書面を準備すること。
- 自社が関与するサプライチェーンの取引階層を調査し、多重下請けによる中間マージン発生構造を実運送事業者との直接契約へ見直すこと。
出典: トラックニュース
出典: 内閣官房
出典: 経済産業省・中小企業庁



