工場ごとに輸送手配や契約運賃が分散し、出荷ごとの待機時間や積載ロスを把握できない課題は、調達と物流を経営直下に統合する全社横断ガバナンスによって解消されます。株式会社プロテリアルの水越雅通CPO兼CLoO(最高調達責任者 兼 最高物流責任者)が推進する体制は、物流を現場任せのコストセンターから経営戦略の中核へ引き上げ、他社との共同輸送でCO2排出量62%削減を達成する仕組みを確立しました。
プロテリアルにおけるCPO兼CLoO体制と物流統括管理者の基本定義
物流を個別部門の作業から全社の経営課題へ昇格させる枠組みとして、プロテリアルでは最高調達責任者(CPO)と最高物流責任者(CLoO)の兼務体制が採られています。
CPO兼CLoOという統合役職が担う組織的役割
水越雅通氏はトヨタ自動車や日野自動車で調達、生産管理、物流を歴任し、2023年10月にプロテリアルのCPOへ就任、2025年6月からはCLoOを兼務しています。資材の「買い方(調達)」と「運び方(物流)」を同一の経営層が一元管理することで、購買条件が引き起こす輸送の非効率を排除する構造を整えています。
従来の組織構造では、調達部門が単価削減を優先して調達ロットを拡大させた結果、倉庫の保管スペースが逼迫し、トラックの手配が急激に集中する弊害が生じがちでした。調達と物流を同一の責任者が統括することにより、サプライチェーンの上流から下流までの運用ルールを横断的に再設計できます。
【従来の縦割り組織】
[調達部門]───> 部門利益(単価低減)を追求(大ロット化)
[物流部門]───> 後工程でシワ寄せ(保管逼迫・配車急増・荷待ち発生)
【プロテリアルのCPO兼CLoO体制】
┌─────────────────────────────────┐
│ 水越CPO兼CLoO(役員クラス経営層) │
│ 調達条件・物流契約・生産計画を全社一元管理 │
└────────────────┬────────────────┘
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[資材調達・購買] [拠点物流・配車]
・適正ロットの発注 ・バース予約と動態可視化
・納品時間枠の分散配分 ・拠点間ラウンドユースの実現
従来の物流部長と経営層としてのCLOにおける職責の比較
改正物流効率化法(物資の流通の効率化に関する法律)において選任が義務付けられた物流統括管理者(CLO)は、従来の物流部長とは権限範囲が根本から異なります。
| 比較項目 | 従来の物流部門長 | 物流統括管理者(CLO/CLoO) |
|---|---|---|
| 組織上の位置付け | 部長クラス(現場管理職) | 取締役・執行役員クラス(経営層) |
| 統括対象 | 物流部門および契約倉庫 | 調達・生産・営業・物流の全社機能 |
| 最適化の視点 | 運賃・保管料の圧縮(部分最適) | 事業継続性とサプライチェーン全体最適 |
| 業務指示権限 | 委託先との運賃交渉・配車指示 | 営業納期や調達ロットの是正命令権 |
CLOは現場ツールの選定者ではなく、経営会議で調達や営業の取引慣行に直接介入し、運用の変更を指示する法的機関として位置づけられます。
参考記事: 物流総括管理者設置義務とは?2026年施行に向けた選任基準と企業が備えるべき実務対策
なぜ今、調達と物流を統合した全社ガバナンスが不可欠なのか
荷主企業を取り巻く規制強化と輸送供給の縮小は、物流現場の努力のみで解決できる水準を超えています。プロテリアルが調達と物流を一体管理する背景には、法令遵守、輸送能力の確保、コスト構造の急変という3つの要因が存在します。
年9万トン荷主への法的義務化と行政処分リスク
2026年4月1日に全面施行された改正物流効率化法では、年間貨物取扱重量が9万トン以上の事業者(国内約3,200社)に対し、役員クラスのCLO選任、中長期計画の策定、年1回の定期報告が義務付けられました。
| 法的要件 | 規制の具体的内容 | 違反時の措置・ペナルティ |
|---|---|---|
| CLOの選任・届出 | 経営判断に参画する役員級を配置 | 是正勧告・最大20万円の過料 |
| 中長期計画の提出 | 荷待ち削減・積載率向上目標の策定 | 計画不提出時に最大50万円の罰金 |
| 年次定期報告 | ドライバー拘束時間等の実績報告 | 虚偽報告時に最大50万円の罰金 |
| 改善命令への不服 | 国による是正命令の不履行 | 企業名の公表・最大100万円の罰金 |
特定荷主には、ドライバーの荷待ち・荷役時間を年間125時間削減することや、積載率の引き上げが求められています。これらの数値目標を達成するには、製造現場の出荷スケジュールや調達先の納品指定を変更せざるを得ず、事業運営に関与する経営幹部が直接指揮を執る必要があります。
参考記事: 改正物流効率化法で年9万トン荷主にCLO義務化|営業ルールの改定権限を付与
「運べなくなるリスク」と運賃高止まりの構造
2024年4月のトラックドライバー時間外労働上限規制(年960時間)の適用から時間が経過し、輸送力不足は慢性的な需給逼迫として定着しました。NX総合研究所の2026年6月時点の調査では、輸送力確保について「厳しい」と回答した企業が64.4%に達しており、手配難が続いています。
長時間の待機や非効率な手荷役を強いる荷主は運送事業者から敬遠され、配車契約を解除される事例が表面化しています。運賃水準も高止まりを続けており、物流部門単独の運賃交渉によるコスト抑制は限界を迎えています。調達ロットの平準化や発着拠点の運行効率化に踏み込まない限り、原材料の調達停止や製品の出荷不能に直結します。
参考記事: NX総研の2026年調査、輸送力確保「厳しい」64.4%で連携急務
プロテリアルが実証した共同輸送とデータ可視化の定量的効果
水越雅通CPO兼CLoOの主導のもと、プロテリアルはデータ可視化基盤の整備と競合他社とのアライアンスを進め、具体的な成果を数値として算出しています。
大同特殊鋼との鉄道コンテナ共同輸送による削減実績
2026年8月、プロテリアルは大同特殊鋼と連携し、鋼材専用鉄道コンテナを活用した山陰―愛知間のラウンドユース型鉄道モーダルシフトを開始しました(同年9月に発表)。両社の物流量と輸送ルートを突き合わせ、往路と復路で貨物を相互に融通することで、空車回送を排除した持続可能な幹線輸送網を構築しています。
| 評価指標 | 改善前(トラック単独輸送) | 改善後(鉄道コンテナ共同輸送) | 削減効果(率) |
|---|---|---|---|
| CO2年間排出量 | 従来トラック運行基準 | 鉄道コンテナ混載運用 | 約62%削減 |
| ドライバー総走行時間 | 直送長距離運行 | 鉄道駅までの短距離運行 | 約76%削減 |
| 車両回転率 | 片道ごとの空車返却 | 往復積載(ラウンドユース) | 空車走行の大幅低減 |
この施策により、長距離トラック運行に依存していた長大・重量物の輸送リスクを低減させ、ドライバー拘束時間の大幅な短縮を達成しました。
7拠点で進むバース管理と動態データの統合
プロテリアルでは、物流費の構成比率が高い中核工場から順次改革を進め、対象を7拠点へ拡大しています。
Hacobuが提供するトラック予約受付サービス「MOVO Berth」や動態管理サービス「MOVO Fleet」、さらに一部拠点でのGPSデータを組み合わせ、拠点構内における車両の入退場時間、待機時間、荷役時間を分単位で可視化しました。
- 待機時間の特定: どの納品便・集車便がどの時間帯に集中しているかを客観的データとして把握
- 入出荷枠の平準化: バース予約制を敷き、ドライバーの荷待ち時間を解消
- 客観的エビデンスによる運送会社との対話: 待機料の不透明性を解消し、契約運賃の妥当性を検証
取得された稼働データは現場だけでなく役員会へも定期報告され、調達契約の見直しや工場の操業シフト変更に活用されています。
参考記事: 改正物流効率化法で年9万トンの荷主にCLO義務化|AI最適解を実行する権限
製造業における全社横断物流マネジメントの実践ステップ
プロテリアルの先行事例を踏まえ、一般の製造業やメーカーがCLO主導の物流ガバナンス体制を立ち上げる際の手順は4段階に整理されます。
ステップ1:取扱トン数の精査と法的位置づけの確定
自社の前年度におけるトラック輸送貨物量(発送・着荷の合算)を算出します。
- 自社製品出荷(第一種特定荷主)だけでなく、原材料調達(第二種特定荷主)を含めた総重量を把握する
- 年間9万トン以上の基準値を超えている場合、速やかに役員・執行役員クラスをCLOに任命し主務大臣へ届出を行う
ステップ2:CLOへの業務改善命令権の明文化
社内規定を改定し、CLOに調達・営業・製造部門への業務改善命令権を正式に付与します。
- 営業部門に対する過剰な短納期対応や特定時間指定の緩和指示権
- 調達部門に対する発注ロットの平準化および納品受付ルールの改定権
- 製造部門に対する工場の出荷前倒しやバース運用ルールの遵守命令権
単に物流部門長の役職名をCLOに変更しただけでは、売上を握る営業部門や工場都合を主張する製造部門との利害調整で膠着します。取締役会直下のガバナンス規程として明文化することが必須要件です。
参考記事: 船井総研SCコンサル新刊、特定荷主3200社が直面するCLO改革の要諦
ステップ3:物流KPIの経営言語化とデータ基盤の導入
現場の数値を経営判断用の指標へ変換し、役員会で定期監視する体制を作ります。
| 現場データ | 経営管理への翻訳 | 是正に向けた経営アクション |
|---|---|---|
| 荷待ち・荷役時間(分) | 運送事業者からの契約解除リスク | バース予約の強制化、荷受人員の再配置 |
| 車両実車率・積載率(%) | 輸送コストの浪費およびScope3排出量 | 外装サイズの設計変更、販売ロットの改定 |
| 拠点別滞留車両数(台) | 拠点資産の非効率と労務違反リスク | 操業カレンダーと配車枠の同期 |
ステップ4:競合・同業他社との共同物流の設計
自社単独での積載効率向上には限界があります。プロテリアルと大同特殊鋼の事例のように、競合関係にある同業他社であっても、幹線輸送や保管拠点を「協調領域」として切り出し、復路を活用した共同輸送網を設計します。
参考記事: AGS提言|2026年4月施行のCLO義務化と装置産業化で挑む物流DX
明日から取り組むべき3つの実務アクション
CLO制度の実質化とサプライチェーンの強靭化を進めるため、直ちに着手すべき実務対応は以下の通りです。
- 自社の年間取扱貨物重量(トン数)の合算集計
前年度の出荷実績に加え、原材料や包材の調達実績データを合算し、年間9万トンの基準値に対する自社の位置を特定する作業を購買・物流両部門で直ちに開始してください。
- 物流KPIを統括する経営ダッシュボードの設計
待機時間、積載率、運賃推移、CO2排出量の4指標を抽出し、役員会で月次モニタリングできるデータ連携体制を情報システム部門と整備してください。
- 主要幹線における復路空車データの棚卸し
自社便や契約便で実車率が低下している運行ルートを特定し、同方面へ貨物を持つ近隣他社との共同配送やモーダルシフトの可能性を検証してください。
出典: Daily Cargo電子版
出典: 大同特殊鋼株式会社 プレスリリース
出典: 株式会社プロテリアル プレスリリース



