九州運輸局管内でトラック事業者7社が処分、死亡事故や車輪脱落を端緒とする監査が多発
九州運輸局自動車交通部自動車運送事業安全監理室は、2026年9月分としてトラック運送事業者7社(7営業所)に対する行政処分の状況を公表しました。
今回の公表では、重大な死亡事故の惹起を端緒とした30日間の事業停止処分をはじめ、ホイールボルト折損による車輪脱落事故、労働局からの通報や適正化事業実施機関からの情報提供に基づく監査など、多様な端緒から法令違反が認定されています。
7社のうち6社に対して延べ325日車に及ぶ輸送施設の使用停止処分が下されており、改善基準告示の遵守や日常・定期点検の確実な履行など、運行管理と車両管理の両面において徹底した法令遵守が求められます。
処分の内訳:事業停止30日間1社、車両使用停止が計5社、文書警告1社
| 処分の種類 | 件数 | 事業者にとっての意味 |
|---|---|---|
| 事業停止(30日間)・輸送施設使用停止(20日車)・文書警告・輸送の安全確保命令 | 1 | 営業所全体の運送業務が30日間にわたり全面的に差し止められ、車両停止と安全確保命令を伴う極めて重い状態 |
| 輸送施設の使用停止・文書警告 | 3 | 対象営業所の事業用自動車が一定期間使用停止となり、文書による厳重注意と改善措置が課される状態 |
| 輸送施設の使用停止 | 2 | 違反規模に応じて算定された日車数に基づき、対象営業所の事業用自動車の稼働が一定期間差し止められる状態 |
| 文書警告 | 1 | 車両使用停止や違反点数の付与は伴わないものの、違反事実が文書により厳重注意され改善が求められる状態 |
処分の重さの読み方:日車停止の累積が招く事業停止・許可取消のリスク
トラック運送事業者の行政処分において用いられる「日車(にっしゃ)」は、事業用自動車の使用停止規模を示す単位であり、1台を1日間使用停止とすることを「1日車」として計算します(例:20日車であれば1台を20日間、または2台を10日間使用停止)。
原則として10日車ごとに1点の違反点数が付与され、地方運輸局管内で過去3年間にわたり累積管理されます。
累積違反点数が51点以上に達すると事業停止処分、81点以上に達すると事業許可取消処分という致命的な措置に直結するため、日車数の大きい処分や点数の累積は事業継続に決定的な影響を及ぼします。
主な違反類型:過労防止・点呼不備・運転者台帳から車輪脱落に伴う整備不良まで
九州運輸局による2026年9月の処分公表では、全7社中5社で改善基準告示違反が確認されたほか、車輪脱落事故に伴う整備不良や運転者台帳の不備など、安全運行の基盤を揺るがす違反が複数確認されました。上位の主要な違反類型について、法令上の要求事項、監査で指摘された不備、自社点検の着眼点を整理します。
勤務時間等の基準の遵守違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条第4項)
事業者は、事業用自動車の運転者の過労運転を防止するため、拘束時間や運転時間の限度、休息期間の確保など、国土交通省告示(改善基準告示)に定められた労働時間等の基準を遵守して運行を管理しなければなりません(本通達・法令基準)。
今回の監査では、対象となった7社中5社において改善基準告示の遵守違反が認められ、うち3社では告示の「なお書き」に規定された基準への違反も確認されました。長時間拘束や休息期間の不足が慢性化し、適切な労務管理が行われていなかった実態が浮き彫りとなっています。
自社点検においては、運行記録計(デジタコ等)の稼働データとタイムカード等の出退勤実績を厳密に照合し、拘束時間の上限超過や休息期間の割り込みが発生していないかを確認する必要があります。荷待ち時間を適正に把握し、無理のない運行ダイヤが設定されているかを検証することが不可欠です。
運転者等台帳の記載事項等義務違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第9条の5第1項)
事業者は、営業所に雇用・選任するすべての事業用自動車の運転者について、法定の運転者等台帳を作成して備え置き、運転者の氏名、雇入れ年月日、運転免許の保有状況、適性診断の受診結果、指導監督の実施記録などを漏れなく正確に記載しなければなりません。
今回の処分事案では、7社中3社において運転者等台帳の記載事項等義務違反が認定されました。採用後の台帳作成が怠られていたり、雇入れ時の法定項目や適性診断・指導の履歴が適切に追記されず、形式的な管理にとどまっていた実態が示されています。
自社点検の着眼点としては、営業所に所属する全ドライバーの台帳が実態どおりに整備されているか、運転免許証の更新情報、定期的な指導の実施日、受診した適性診断の結果票が抜け漏れなく反映・保存されているかを定期的に突き合わせる確認手順を設けることが求められます。
点呼の実施および記載事項等義務違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第7条第1項~第3項、第5項)
事業者は、乗務前および乗務後に運行管理者等が対面等により点呼を実施し、酒気帯びの有無、日常点検の実施結果、疾病・疲労等の健康状態を確認し、必要な安全指示を与えなければなりません。さらに、その実施結果を点呼記録簿に正確に記録し、1年間保存する義務があります。
今回の監査では、乗務前後の点呼自体が確実に行われていなかった実施義務違反が2社で認められたほか、点呼記録簿における記載漏れや不備などの記載事項等義務違反も2社で確認されました。
自社点検においては、早朝・深夜帯を含めて運行管理者または補助者が対面点呼を確実に実施できる体制が構築されているか、アルコール検知器の作動ログやデジタコの運行開始・終了時刻と点呼記録簿の記載時刻が完全に整合しているかを日常的に監査することが重要です。
整備不良車両等違反・車輪脱落(貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条の3、道路運送車両法第40条~第43条、第47条)
事業者は、事業用自動車が保安基準に適合しなくなるおそれがある状態や、適合しない状態での運行を行ってはならず、日常点検整備および定期点検整備を確実に実施して車両の安全性を維持管理しなければなりません。
今回の事案では、2社においてホイールボルトの折損等による車輪脱落事故を直接の端緒として監査が実施され、重大な整備不良車両等違反が認定されました。令和5年10月より車輪脱落事故を起こした運送事業者に対する行政処分基準が厳格化されており、車両使用停止処分が下されています。
自社点検にあたっては、自社でのタイヤ交換作業時における清掃、潤滑剤の適正塗布、規定トルクによる締付管理を徹底するとともに、タイヤ脱着後1か月以内または初期走行後の「増し締め」の確実な運用と、日常点検におけるナットの緩み確認を点呼時等に点検・記録する体制を確立する必要があります。
その他の違反類型一覧
上記の上位類型のほか、今回の公表一覧では以下の法令違反が認定されています。
- 疾病、疲労等のおそれのある運行業務(貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条第6項)
- 運行指示書に係る作成・記載事項等義務違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第9条の3第1項~第3項)
- 運行記録計による記録義務違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第9条)
- 運転者に対する指導監督違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第10条第1項)
- 特定運転者に対する特別な指導監督違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第10条第2項)
- 特定運転者に対する適性診断受診義務違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則第10条第2項)
- 自動車に関する表示義務違反(道路運送法第95条、道路運送法施行規則第65条)
注目事例:死亡事故端緒の30日間事業停止と車輪脱落事故に伴う車両停止処分
事例1: 死亡事故の惹起から30日間の事業停止と輸送の安全確保命令(株式会社銀河エクスプレス 本社営業所 / 熊本県熊本市東区)
- 監査の端緒: 2026年2月26日に発生した死亡事故の惹起を端緒として、九州運輸局による監査が実施されました。
- 違反の内容: 勤務時間等の基準の遵守違反(安全規則第3条第4項)、疾病・疲労等のおそれのある運行業務(同第3条第6項)、点呼の実施義務違反(同第7条第1項~第3項)、点呼の記載事項等義務違反(同第7条第5項)、運行指示書の記載事項等義務違反(同第9条の3第1項~第3項)、運転者等台帳の記載事項等義務違反(同第9条の5第1項)、特定運転者に対する適性診断受診義務違反(同第10条第2項)の計7件の違反が認定されました。
- 処分結果: 事業停止(30日間)、輸送施設使用停止(20日車)、文書警告、輸送の安全確保命令、当該営業所違反点数32点(累積32点)。
- 教訓: 重大な死傷事故が発生した場合、運行管理および労務管理全般にわたる徹底的な調査が行われます。過労運転防止や健康状態の把握、点呼の確実な実施を怠っていた場合、事業停止や安全確保命令といった事業継続を揺るがす重大なペナルティが科されることを示しています。
事例2: ホイールボルト折損による車輪脱落事故から車両使用停止処分(株式会社NSUトランスポート 本社営業所 / 大分県宇佐市)
- 監査の端緒: 2026年2月12日に発生した車輪脱落事故を端緒として監査が実施されました。
- 違反の内容: ホイールボルトの折損等による車輪脱落事故車両の運行に伴う整備不良車両等違反(安全規則第3条の3、車両法第40条~第43条、第47条)、自動車に関する表示義務違反(道路運送法第95条、法施行規則第65条)の計2件の違反が認定されました。
- 処分結果: 輸送施設の使用停止(40日車)、当該営業所違反点数4点(累積4点)。
- 教訓: 車輪脱落事故は人身被害や重大事故につながる極めて危険な事象として、惹起事業者に対する処分基準が厳格化されています。タイヤ脱着作業時のトルク管理や増し締め、日常点検での緩み確認といった基本的な保守管理の不備が直接の行政処分につながる実例です。
実務チェックポイント:労働時間・車両保守・点呼記録の点検基準
| チェック項目 | 根拠条項 | 確認の方法 | 不備が招く処分 |
|---|---|---|---|
| 拘束時間・運転時間等の遵守 | 貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条第4項 | デジタコデータおよび出退勤記録から始業・終業時刻と運転時間を算出し告示上限の超過がないか照合する | 輸送施設の使用停止、文書警告 |
| 疾病・過労状態での乗務禁止 | 貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条第6項 | 点呼時の問診および健康診断結果を確認し体調不良や過労のおそれがあるドライバーの乗務を見合わせる体制を点検する | 事業停止、輸送施設の使用停止、輸送の安全確保命令 |
| 車輪・ボルト等点検整備の徹底 | 貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条の3、道路運送車両法第40条~第43条・第47条 | タイヤ交換時の清掃・潤滑剤塗布・規定トルク締付手順を遵守し走行後の増し締めおよび日常点検記録を照合する | 輸送施設の使用停止、文書警告 |
| 乗務前後の対面点呼実施 | 貨物自動車運送事業輸送安全規則第7条第1項~第3項 | 対面または所定のIT機器を用いて早朝・深夜を含む全便で確実に点呼が行われているか運行実績と突合する | 事業停止、輸送施設の使用停止、文書警告 |
| 点呼結果の記録と保存 | 貨物自動車運送事業輸送安全規則第7条第5項 | 点呼記録簿に酒気帯び・日常点検・健康状態等の法定項目が網羅され客観的機器データと時刻の整合性があるか確認する | 事業停止、輸送施設の使用停止、文書警告 |
| 運行記録計による適正記録 | 貨物自動車運送事業輸送安全規則第9条 | タコグラフが正常作動しているかカード挿入漏れやデータ欠損がないかを運行管理者が日常的に点検する | 輸送施設の使用停止、文書警告 |
| 運行指示書の作成と指示 | 貨物自動車運送事業輸送安全規則第9条の3第1項~第3項 | 所定の運行において運行指示書が事前作成され指示内容や携行が適正に行われているか記録を確認する | 事業停止、輸送施設の使用停止 |
| 運転者等台帳の整備・更新 | 貨物自動車運送事業輸送安全規則第9条の5第1項 | 全運転者の台帳が営業所に備え置かれ採用日・免許情報・指導受診歴等が最新状態に更新されているか点検する | 事業停止、輸送施設の使用停止、文書警告 |
| 特定運転者への特別適性診断 | 貨物自動車運送事業輸送安全規則第10条第2項 | 初任・高齢・事故惹起運転者に対して所定の特別適性診断を予約・受診させ結果票を保存しているか照合する | 事業停止、輸送施設の使用停止、文書警告 |
| 自動車の表示義務の遵守 | 道路運送法第95条、道路運送法施行規則第65条 | 事業用自動車の両側面等に事業者名等の法定表示が明瞭に記載されているか実車を確認する | 輸送施設の使用停止 |
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