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Home > サプライチェーン> 花王株式会社が2026年4月に挑む製配販の壁打破で物流効率化が加速
サプライチェーン 2026年6月29日

花王株式会社が2026年4月に挑む製配販の壁打破で物流効率化が加速

花王株式会社が2026年4月に挑む製配販の壁打破で物流効率化が加速

夕方になって突然、営業部門から「至急の出荷要請」が入る。

経営層は「WMSのデータを見れば在庫は一目で分かる」と言う。

しかし、現場は山積みのパレットと、不具合だらけのシステムに追われて残業が減らない。

このような「現場の努力だけでは解決できない壁」に、多くの倉庫管理者や実務担当者が頭を抱えています。

システムやデジタル技術、いわゆる「物流DX」を導入したにもかかわらず、現場がさらに混乱する。

このような失敗が、日本の物流倉庫の至る所で起きています。

なぜ、データやシステムを活用しているのに、現場は改善されないのでしょうか。

その根本原因と、解決のための画期的なアプローチについて、日用品大手の花王株式会社(以下、花王)の取り組みを元に解説します。


1. 現場の努力を無にする「製配販の壁」とアナログな限界

物流現場が抱える「終わらない残業」や「頻発する誤出荷」といった深刻な課題。

これらは、現場の作業員のスキル不足が原因ではありません。

最大のボトルネックは、社内外における「製配販(製造・配送・販売)の壁」にあります。

部門間のサイロ化が現場を疲弊させる

多くの企業では、製造(製)、配送・物流(配)、販売・営業(販)がそれぞれ「部分最適」で動いています。

  • 製造(製)の都合:
    工場の稼働率を最大化するために、倉庫の保管キャパシティを無視して大量に製品を作り、押し込む。
  • 販売・営業(販)の都合:
    売上を上げるために、顧客の厳しい時間指定や「受注翌日の午前着」といった過剰なサービスレベルを安易に引き受ける。
  • 配送・物流(配)の現実:
    製造と販売のしわ寄せをすべて受け止め、突発的な出荷波動や、長時間のトラック荷待ち、手荷役によるバラピッキングを強いられる。

このように部門ごとに業務が分断された「サイロ化」の状態では、いくら倉庫内でピッキング動線を改善しても限界があります。

現場の気合いと根性だけで物流品質を維持することは、もはや不可能です。

現場を無視したシステム導入の悲劇

経営層やシステム部門が、現場の実態を知らずにWMS(倉庫管理システム)などのITツールを導入すると、現場は地獄と化します。

  • 「システム上の在庫数」と「実際の棚の在庫数」が一致しない。
  • 画面への入力やハンディ端末の操作が増え、かえって事務作業やピッキング時間が延びる。
  • 荷物の形状や重さを考慮しない、システムによる「非現実的な配車計画」によりトラックが手配できない。

これらはすべて、システムの設計者が「物流の物理的な制約」や「現場の泥臭い実務」を理解していないことから生まれます。

この状況を打破する言葉こそが、花王のCLO(物流統括管理者)がMONOist等で提唱した「現場を知らずデータは生きない」です。


2. 解決策:花王CLOが示す「現場を知らずデータは生きない」の本質

物流の主役に踊り出たのが、2026年4月に本格施行された改正物流効率化法により設置が義務化された、役員クラスの最高責任者「CLO(物流統括管理者)」です。

花王で物流を統括する森信介CLOは、物流を単なるコストセンターではなく、ビジネスの「競争力の源泉」と位置づけています。

そして、データと現場感覚の双方を融合させることの重要性を強く訴えかけています。

「現場を知らずデータは生きない」の真意

データは確かに強力な武器です。

しかし、データは「物理的な現場」というフィルターを通して初めて意味を持ちます。

  • どのサイズの商品が、どのような荷姿(段ボール、袋、パレット)で保管されているか。
  • 倉庫内の柱の位置や、天井の高さ、通路の狭さはどの程度か。
  • トラックドライバーが、納品先でどのような「ローカルルール(手下ろし、検品待ち)」を強いられているか。

これらの「現場のファクト」を理解しないまま、パソコンの画面上でデータ分析をしても、実効性のある改善策は生まれません。

花王の森信介CLOは、自ら現場へ何度も足を運び、泥臭い実務を把握した上で、デジタル技術(WMS、AMR、立体自動倉庫)への戦略的な投資を進めています。

「製配販の壁」を壊す、異業種共同配送「CODE」の衝撃

自社内の最適化にとどまらず、花王は競合や商流の垣根を越えた「共創」へと踏み出しました。

それが、花王と三菱食品株式会社が幹事となり、異業種9社が集結した共同配送コンソーシアム「CODE(Cargo Owners’ Data-driven Ecosystem)」です。

食品、日用品、出版、医薬という、全く商材特性の異なる企業群が、配送効率を20%向上させることを目指して手を取り合いました。

重量と容積のパズルを解く、現場発想のデータ活用

CODEの最大の特徴は、商材の「物理的な組み合わせ」にあります。

  • 日用品(花王など):
    かさばるが非常に軽い(容積を消費するが、重量制限には余裕がある)。
  • 食品・書籍(三菱食品、トーハンなど):
    小さくて非常に重い(重量制限にすぐ達するが、容積には空きがある)。

これらを同じトラックに混載することで、車両の容積制限と重量制限の双方を限界まで使い切る、理想的な積載が実現します。

これを実現するために、外部のクラウドプラットフォーム「Snowflake」を活用し、安全にデータを標準化して、AIによる多対多のダイナミック配車マッチングを行っています。

まさに、「現場の物理的な特性(容積・重量)」を知り尽くした上で、最新の「データテクノロジー」を掛け合わせた、最高峰の解決策です。

参考記事: 花王株式会社など9社が配送効率20%向上へ、データ標準化が必須対応に

参考記事: 花王ら異業種9社でCODE始動!支線配送を根本から変革する3つの影響


3. 実践プロセス:製配販の壁を壊し、データを経営の武器にする3ステップ

倉庫管理者や実務担当者が、自社の現場で「製配販の壁」を壊し、データを武器にするための具体的な3ステップの手順を公開します。

いきなり高額なロボットやシステムを購入してはいけません。

段階を追って、着実に進めることが成功の絶対条件です。

導入・実践のプロセス

ステップ 期間(目安) 実行する具体的内容 現場での具体的なアクション
ステップ1 1〜30日 現状業務の徹底的な可視化 WMSのログや手書きの受付簿から、作業時間やトラックの荷待ち時間をデジタルデータとして測定する。
ステップ2 31〜60日 データの「共通言語化」と標準化 パレットのサイズ(T11型など)や、伝票のフォーマット、商品コードを業界標準に統一して他社と連携しやすくする。
ステップ3 61〜100日 CLO主導による「商物分離」の実行 イレギュラーな特急便のコストを営業部門のP/Lへ直接配賦し、安易な即日配送の約束を抑制する。

ステップ1:現状業務の徹底的な可視化と「物理的データ」の収集

感情論や「現場が忙しい」という精神論では、他部門(営業や製造)や経営層を動かせません。

客観的な「ファクト(事実)」をデータとして集めることから始めます。

  • トラック予約受付システム(バース予約)を導入し、車両の「荷待ち時間」を分単位で自動記録する。
  • WMSのログデータを使い、ピッキング作業での作業員の「無駄な歩行距離」や「手荷役(バラ積み)の時間」を測定する。
  • 突発的な特急便によって発生した「追加運賃(チャーター費)」をすべて集計する。

これにより、「特定顧客への多頻度小口配送により、配送コストがどれだけ跳ね上がり、粗利益を圧迫しているか」を明確に数値化します。

ステップ2:データの「共通言語化」と標準規格への適合

自社だけで解決できない物流課題(配送効率の低下など)は、他社と協力する「協調領域」として切り出します。

いつでも共同配送のプラットフォームや他社のシステムと連携できるよう、データや設備の標準化を急ぎます。

  • 自社独自のローカルルールや商品コードを廃止し、業界標準のコード体系へ適合させる。
  • 輸送用パレットのサイズを、日本標準規格である「T11型(1100mm×1100mm)」に統一する。
  • クラウド型のWMSやバース予約システムを導入し、外部からでもセキュアにデータへアクセスできる基盤を整える。

標準化こそが、共同物流という「インフラ」へ合流するためのパスポートになります。

ステップ3:CLO主導による「商物分離」とルール改定の断行

データが揃ったら、役員クラスのCLO(物流統括管理者)の強いリーダーシップを活用し、社内の「製配販の壁」を取り払うための職務権限やルールを改定します。

  • 物流コストの他部署への直接配賦:
    営業活動の都合で発生した「緊急特急便」や、製造部門の予測ミスによる「デッドスペースの保管料」を、それぞれの発生原因となった部門の損益(P/L)へ直接請求する。
  • 納品サービスレベル(SLA)の緩和:
    これまで「受注の翌日納品(D+1)」だったルールを、営業部門と連携して顧客へ「翌々日納品(D+2)」へと変更する交渉を行う。
  • 発注ロットの適正化:
    バラ出荷を減らすため、パレット単位やケース単位での「最小発注ロット(MOQ)」を設定する。

特急便を使えば使うほど自部門の利益が減る仕組みになれば、営業担当者は安易な即日配送の約束を自制するようになります。

リードタイムに余裕が生まれれば、配車計画の最適化が可能になり、積載率が劇的に向上します。

参考記事: 花王に学ぶ都市部倉庫の自動化投資!競争力を高める3つの実践手順

参考記事: 花王・トラスコ中山の事例から学ぶ!物流を付加価値に変える3つの実践ステップ


4. 期待される効果:データと現場協調が生む劇的な改善成果(Before/After)

これらのステップを確実に実行することで、物流現場のオペレーションと企業の収益構造は劇的に変化します。

導入前(Before)と導入後(After)の違いを、具体的な定量・定性データで比較します。

CLO導入による倉庫現場と経営層の変化

評価指標 導入前(Before)の課題 導入後(After)の効果 経営・財務へのインパクト
物流コストと積載率 空荷が多く、トラックの平均積載率が38%台で低迷。 異業種での混載共同配送により、積載率が大幅向上。 全体的な物流関連コストを約20%削減することに成功。
トラックの待機時間 車両の到着時間が不明確で、長時間の荷待ちが発生。 バース予約システムでの計画的な入出庫管理。 敷地内での待機時間を平均60分未満へ大幅に短縮。
誤出荷と作業品質 目視検品による人為的ミス。現場の焦りによる誤出荷。 WMSとバーコード検品の連携により、属人化を完全排除。 出荷における誤出荷率を0.01%以下に低減。顧客の信頼度向上。
労働環境と人手不足 突発的な出荷波動により、長時間残業が常態化。 全社的な出荷量の平準化により、計画的な定時退社が可能。 心理的ストレスが軽減され、退職者が減少。人が定着する現場へ。

輸送コスト20%削減と「選ばれる荷主」への脱皮

データドリブンな配車や異業種間での共同配送を実践することで、トラックの積載率が飛躍的に高まります。

実車率が向上することで、全体の配送コストを20%以上削減することが十分に可能です。

さらに、トラックドライバーの待機時間を削減し、無償の手荷役(付帯作業)を廃止することで、運送会社から「選ばれる荷主」としての強固な地位を確立します。

深刻化する「物流難民化」のリスクを完全に回避できるようになります。

参考記事: 【2026年義務化】CLO(物流統括管理者)設置で企業価値を高める3つの対策

参考記事: 物流総括管理者設置義務とは?2026年施行に向けた対象基準と実務対応を徹底解説


5. まとめ:成功の秘訣は現場力と「6割からのスタート」

花王の森信介CLOが語る「現場を知らずデータは生きない」というメッセージは、いかにITやDXが進もうとも、物流の本質は「泥臭いフィジカルな現場」にこそあるという不変の事実を示しています。

製配販の壁を壊し、物流をプロフィットセンター(価値創造部門)へと変革するための成功の秘訣は、最初から「100%完璧な体制」を求めないことです。

サプライチェーンには、自社の営業、生産、さらには顧客や運送会社、3PLなど、極めて多くのステークホルダーが絡み合っています。

全員の100%の合意を待っていては、計画はいつまで経っても進みません。

まずは、「特定の配送ルート」や「主要な1拠点」に絞り、6割の完成度でスモールスタート(アジャイルな取り組み)を切ることが極めて有効です。

そこで得られた小さな成功体験と、可視化された定量的な改善データ(荷待ち時間の短縮幅や、削減できた追加運賃など)を武器にして、社内の他部門や経営陣を説得していきましょう。

物流は、もはや単なる経費を消費するだけの部門ではありません。

企業の社会的責任(CO2削減・Scope3対応)を果たし、事業継続性(BCP)を担保する、最重要の経営戦略領域です。

明日から、自社倉庫の「荷待ち時間」や「特急便の手配回数」のデータを手元のエクセルに記録することから始めてみませんか。

その現場から上がる小さな一歩が、CLO時代の強固なサプライチェーンを築く、確実なスタートラインとなるはずです。


出典: 日経ビジネス電子版

出典: 花王株式会社 ニュースリリース

出典: 三菱食品株式会社 ニュースリリース

出典: 株式会社トーハン ニュースリリース

出典: 国土交通省 自動車輸送統計調査

出典: 物流(ロジスティクス)ニュース LNEWS

出典: 国土交通省 物流統括管理者(CLO)のあるべき姿に関するワークショップ

出典: 国土交通省 流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律等の改正について

出典: LOGISTICS TODAY

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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