日経ビジネスは2026年7月23日、物流改革を通じて企業価値向上を実現した企業を表彰する「日経ビジネス CLOオブザイヤー2026」の受賞企業を発表し、大賞に花王を選出した。2026年4月に改正物流法に基づく物流統括管理者(CLO)の選任が義務化される中、物流を単なる現場のコスト削減活動から経営戦略の中核へ位置づけ直す潮流が急速に強まっている。
ニュースの背景と「日経ビジネス CLOオブザイヤー2026」の概要
2026年7月23日、日経ビジネス(日経BP)は「日経ビジネス CLOオブザイヤー2026」の選考結果を発表した。本アワードは、国土交通省の後援、株式会社Hacobuなどの協賛のもと、優れた物流改革を推進し企業価値を高めた荷主企業およびリーダーを表彰する制度である。
第2回となる今回は、改正物流効率化法によって年間輸送量が一定規模(年間3,000万トンキロ以上目安)を超える全国約3,000社の「特定荷主」に対してCLO選任が義務付けられたことを背景に開催された。物流を従来の「現場のコスト削減活動」や社内の「下請け」から脱却させ、経営戦略の「中核部門」へと昇格させた先行事例を可視化・共有することを目的としている。
大賞に輝いた花王をはじめ、各部門賞には日本を代表する企業群が名を連ねた。
「日経ビジネス CLOオブザイヤー2026」受賞企業一覧
| 賞名称 | 受賞企業・団体 | 評価された取り組みと経営的価値 |
|---|---|---|
| 大賞 | 花王株式会社 | ロジスティクスを企業価値向上のための経営システムとして統合。製配販の壁を打破する現場革新と異業種連携を推進。 |
| One Team賞 | 株式会社セブン―イレブン・ジャパン | 組織一丸となった取り組みにより、店舗納品やサプライチェーン全体の最適化を全社構造で実現。 |
| Design for Logistics賞 | 株式会社梅の花グループ、ダイキン工業株式会社 | 製品設計や事業構造の初期段階から物流負荷の低減を組み込む「物流考慮型デザイン」を実践。 |
| 共創ロジスティクス賞 | 日清食品株式会社、三菱食品株式会社 | メーカー(荷主)と卸の枠組みを超えたデータ連携と共同配送体制を構築し、持持続可能な物流モデルを確立。 |
審査員を務めた国土交通省 大臣官房審議官(物流・自動車局担当)の木村大氏は、社内で下請け扱いされがちだった物流部門を、CLOの選任を通じて全社的な経営戦略を牽引する主体へと引き上げることの重要性を指摘している。
参考記事: CLO選任義務化に備える3つの対策!Hacobu協賛CLOオブザイヤー2026詳細
物流が「経営アジェンダ」へシフトする構造的背景
今回のアワードで評価された取り組みの背景には、日本の物流産業が直面する不可逆的な構造変化が存在する。
ドライバー不足や時間外労働の上限規制に起因する輸送能力の低下は、単なる現場の配車調整や保管効率の改善だけでは解決できないレベルに達している。適正な運賃改定や作業平準化に対応できない荷主企業は、運送事業者から取引を断られ、商品を消費者に届けられなくなる「物流難民化」のリスクに晒されるようになった。
こうした事態を受け、2025年4月施行の改正物流法に続き、2026年4月からは役員クラスの最高責任者であるCLOの設置が特定荷主に対して法的義務となった。物流の統括責任を現場の「物流部長」から「経営幹部(Cレベル)」へと移行させることで、自社の営業活動や生産計画に由来する不合理な物流負荷を抑制することが法的に求められている。
今回の「CLOオブザイヤー2026」は、法律の遵守という防衛的な対応を超え、物流改革を収益性向上やESG経営、事業継続性(BCP)の強化へと結びつけた先進企業を称えるものとなった。
参考記事: 選任が迫る物流統括管理者と改正物流総合効率化法2026年への必須対応
業界プレイヤーに迫られるパラダイムシフトと具体的な影響
CLOを中心とした「物流起点経営」へのパラダイムシフトは、サプライチェーンを構成する製造業者、行政、卸・問屋のそれぞれに対して経営プロセスの再構築を迫っている。
製造業者(メーカー):製品・事業設計からの「物流最適化」とサイロ化の打破
製造業者にとって、物流はもはや「作った製品を運ぶための後工程」ではない。Design for Logistics賞を受賞したダイキン工業や梅の花グループのように、商品開発や包装設計、生産計画の段階からトラックの積載効率や荷扱い負荷を組み込む取り組みが不可欠となっている。
また、大賞を受賞した花王は、社内の部門間サイロ化、すなわち「製(製造)・配(配送)・販(販売)の壁」を打ち破る改革を進めている。営業部門が売上を優先して受けていた過度な即日指定納品や、製造部門が工場の稼働率だけを考慮して行う過剰生産は、倉庫や輸送現場に極端な出荷波動と荷待ち時間を発生させる。
花王では、森信介CLOのもと「現場を知らずデータは生きない」という方針を掲げ、現場の物理的制約や商習慣のファクトを正確に把握した上で、WMS(倉庫管理システム)や立体自動倉庫への投資、さらには他部門への改善命令を行使している。
参考記事: 花王株式会社が2026年4月に挑む製配販の壁打破で物流効率化が加速
行政・規制当局:ガバナンスと企業価値評価の紐付け
行政・規制当局は、CLO選任の法制化を通じて、物流を企業のガバナンスの一部へと組み込むことに成功した。年間輸送量の報告や中長期計画の提出を義務付けることで、経営陣が物流に無関心でいられない仕組みを作り上げている。
国土交通省と経済産業省は共催のフォーラムや評価制度(アワード)を通じて優良事例を周知・推奨しており、今後は物流への取り組みがESG投資家や金融機関による企業価値評価の直接的な指標となっていく。
卸・問屋:企業間データ統合と持続可能な共創基盤の構築
共創ロジスティクス賞を受賞した日清食品と三菱食品の連携に象徴されるように、卸・問屋の役割も大きく再定義されている。メーカー(荷主)と小売(納品先)の中間に位置する卸は、両者の間をつなぐプラットフォーマーとしての価値を高めている。
花王と三菱食品が幹事となり異業種9社で立ち上げた共同配送コンソーシアム「CODE(Cargo Owners’ Data-driven Ecosystem)」の例では、食品、日用品、医薬品、出版といった異なる商材特性を持つ企業群が外部クラウド(Snowflake)上でデータを標準化・共有している。
日用品などの「かさばるが軽い(容積勝ち)」荷物と、食品や書籍などの「小さくても重い(重量勝ち)」荷物を同じトラックに混載することで、支線配送領域における車両の積載限界まで効率を高め、配送効率20%向上を目指すなど、卸と荷主が協調したプラットフォーム形成が加速している。
参考記事: 花王株式会社など9社が配送効率20%向上へ、データ標準化が必須対応に
LogiShiftの視点:名ばかりCLOを防ぎ物流を価値創造の源泉に変える3つの要件
「CLOオブザイヤー2026」の受賞企業が示した成果は、単に役員に「CLO」という肩書きを与えただけで得られたものではない。多くの企業が形だけの「名ばかりCLO」を選任して終わる懸念がある中、物流を真の経営戦略へと高めるための具体的なポイントを3つの視点から考察する。
1. 職務権限規定における「物流改善命令権」の明文化
社内のサイロ化を壊すためには、CLOに対して営業部門や生産部門に介入できる明確な権限を与える必要がある。
例えば、自動車メーカーのSUBARU(スバル)では、独立した「物流本部」を新設し、経営直轄のCLOに「物流改善命令権」を付与した。営業活動の都合で発生した突発的なチャーター便費用や、過剰生産による外部倉庫保管料を、発生原因となった部門の損益(P/L)へ直接配賦するルールを導入した結果、安易な即日指定や突発発注が抑えられ、物流コストの20%削減を達成した。
CLOが機能するためには、経営トップが「物流改善は全社の最優先事項である」と宣言し、職務権限規定として文書化することが絶対条件となる。
参考記事: 物流コスト20%削減に直結するSUBARUのCLO主導改革
2. データ駆動型アプローチによる「客観的ファクト」の提示
他部門との調整や取引先との交渉において、感情論や精神論は通用しない。必要なのはデータという共通言語である。
Hacobuが提供する「MOVO Berth」などのトラック予約受付システムや動態管理システムを導入し、拠点ごとのトラック荷待ち時間、作業時間、積載率、配送コストの増減をデジタルデータとして測定・可視化することが改革の第一歩となる。
前回のCLOオブザイヤーでHacobu賞を受賞したホクシン株式会社は、物流の専門家が不在の環境でありながらクラウドツールの活用によりトラック待機時間を60分未満へ短縮し、電話・FAX連絡業務を月50時間削減した。巨額のシステム投資を行わずとも、データによる「現場の可視化」からスタートすることが可能である。
3. 「100%完璧」を求めず「6割の完成度」で走り出すアジャイル姿勢
サプライチェーン改革において、社内外の全ステークホルダーから100%の事前合意を得ようとすれば、計画は確実に停滞する。
日清食品の深井CLOは「業界全体で6割も進めば十分」と提言し、完璧な計画作りに時間をかけるよりも、先行して実行に移し、成功モデルを示す重要性を主張している。
まずは「特定の1拠点」や「特定の主要配送ルート」に絞り、6割の完成度でスモールスタート(アジャイル改革)を切り、荷待ち時間の短縮や積載率向上といった定量成果を提示する。その事実をもって社内や取引先を納得させていく手法こそが、短期間で実効性のある改革を推進する最適解である。
参考記事: 日清食品CLOが語る!物流部門を成長の核へ変える3つの実践任務
まとめ:経営層と現場リーダーが明日から取り組むべきアクション
「日経ビジネス CLOオブザイヤー2026」の発表は、日本の物流が「コスト削減の対象」から「企業価値を高める経営戦略」へと完全に移行したことを告げる歴史的節目である。
制度対応を単なる行政指導へのペナルティ回避と捉えるか、自社のサプライチェーンを再定義する機会と捉えるかで、今後5年の企業の競争力は決定的に分かれる。経営層および現場リーダーは、明日から以下の3つのアクションに着手すべきである。
- 自社の物流意思決定プロセスの棚卸しを行い、CLOへの権限集中と職務権限規定(物流改善命令権)を整備する。
- トラック予約受付システム等のクラウド型SaaSを活用し、荷待ち時間や積載率などのアナログ業務をデジタルデータとして可視化する。
- 100%の全社合意を待たず、「特定の主要拠点の納品条件緩和」や「特定ルートでの異業種混載」など、6割の完成度でアジャイルにスモールスタートを切る。
自社単独での抱え込みを捨て、データに基づく共通言語と異業種・他社との共創ネットワークを構築することが、これからの時代に選ばれる荷主企業となる唯一の道である。
出典: 日経ビジネス電子版
出典: LOGISTICS TODAY
出典: 株式会社Hacobu ニュースリリース
出典: 日経ビジネス CLOオブザイヤー2026 特設サイト
出典: LNEWS(物流ニュース)
出典: 経済産業省 CLOフォーラム案内


