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ニュース・海外 2026年8月28日

Yusen TerminalsのLA港2億ドル投資から探る脱炭素拠点戦略

Yusen TerminalsのLA港2億ドル投資から探る脱炭素拠点戦略

Ocean Network Express(ONE)傘下のYusen Terminals(YTI)は、米国ロサンゼルス港湾局との間で2056年までとなる30年間の長期リース延長契約を締結し、付帯条件として2億ドル(約300億円)規模のゼロエミッション荷役機器投資を確約しました。国内でも国土交通省による「カーボンニュートラルポート(CNP)認証」の運用が進む中、港湾インフラの脱炭素性能がグローバル荷主のサプライチェーン選定基準へと直結しつつある現実を捉え、自社の拠点戦略とScope 3削減計画を抜本的に見直す必要があります。

グローバル主要港湾で加速するゼロエミッション規制と長期リース契約の連動潮流

世界の主要コンテナ港湾では、港湾当局(ポート・オーソリティ)がターミナル運営権(リース権)を更新する際の必須要件として、巨額のゼロエミッション投資や脱炭素化ロードマップの提示を義務付ける動きが標準化しています。かつては取扱貨物量(TEU)やリース料率の最大化が契約交渉の中心でしたが、現在は地域環境規制への適合と気候変動対策が最優先の評価パラメータへとシフトしました。

北米・欧州・アジア主要港における港湾環境規制と投資スキーム

米国最大のコンテナ輸入ゲートウェイであるサンペドロ湾港湾群(ロサンゼルス港・ロングビーチ港)をはじめ、欧州のロッテルダム港やアジアのシンガポール港などでは、港湾荷役機器(CHE: Cargo-Handling Equipment)および陸上アクセス車両に対するゼロエミッション化の法規制が急速に強化されています。

以下の表は、世界の主要港湾における脱炭素化の規制目標と、民間ターミナルオペレーターに求められる投資要件を整理したものです。

国・地域 主要港湾 環境規制・目標方針 民間オペレーターへの投資要件
米国(西海岸) ロサンゼルス港/ロングビーチ港 クリーンエア行動計画(CAAP)により2030年までに荷役機器を100%ゼロエミッション化 リース更新時に電動・水素荷役機器の導入計画および充電・補給インフラ整備の確約
欧州(オランダ) ロッテルダム港 EU「Fit for 55」および2050年カーボンニュートラル港湾目標の推進 陸上給電(Cold Ironing)設備の完全導入、自動化電気式RMG・無人搬送車の標準配備
アジア(シンガポール) シンガポール港(トゥアス港) 2050年ネットゼロエミッション目標、2030年までに港内船舶の完全電化・クリーン燃料化 トゥアス次世代メガポートにおける電動自動運転ヤードトラクターや完全電化クレーンの導入

参考記事: カーボンニュートラル物流とは?GHG削減の算定方法からEV・DXを活用した実務推進策まで解説

巨額公的資金と民間投資を組み合わせる「官民協調ファイナンス」の定着

港湾荷役機器の完全電化や水素化には、機器単体の購入費用だけでなく、超高圧受電設備、急速充電器、水素ステーション、エネルギーマネジメントシステム(EMS)といった莫大な地上インフラ投資が伴います。この初期コストの壁を突破するため、米国では連邦政府や州政府の補助金と民間投資を連動させるスキームが確立されました。

2024年10月、米環境保護庁(EPA)はロサンゼルス港に対し、インフレ抑制法(IRA)に基づく「Clean Portsプログラム」から4億1,200万ドルの助成金交付を決定しました。これに対し、Yusen Terminalsを含む港湾内の民間ターミナル事業者が総額2億3,400万ドルの協調投資を実行することで合意しています。さらにカリフォルニア州では、大気資源局(CARB)が主導する「オフロード機器バウチャー奨励プロジェクト(CORE)」により、大型電動荷役機器の導入時に1台あたり数百万円から数千万円規模の助成金を支給し、事業者の投資回収リスクを低減させています。

参考記事: 40億ドルを投じるBNSF鉄道の巨大拠点から学ぶモーダルシフト

Yusen Terminals(YTI)が2056年までの契約延長で描くゼロエミッション戦略

2026年8月27日、ロサンゼルス港湾委員会(Los Angeles Board of Harbor Commissioners)は、Yusen Terminals LLC(YTI)との間で、2056年まで有効となる30年間の新リース契約を正式に承認しました。1990年10月に締結された旧運営許可(Permit No. 692)が2026年9月末に満期を迎える直前のタイミングで締結された本合意は、単なる拠点の現状維持ではなく、2億ドル(約300億円)のクリーンエア投資を中核に据えた戦略的パートナーシップです。

232エーカーの要衝における長期事業継続性の確立

YTIは1991年以来、ロサンゼルス港のターミナル・アイランド地区(イースト・ベイスン・チャネル沿いのバース212〜224)において、232エーカー(約94ヘクタール)のコンテナターミナルを運営してきました。ロサンゼルス港は2025年の年間コンテナ取扱量が1,020万TEUに達し、26年連続で北米首位を維持する最重要ゲートウェイです。

全米輸入コンテナの約40%が集中するサンペドロ湾において、30年間という超長期の操業権を確保できたことは、YTIの親会社であるコンテナ船社Ocean Network Express(ONE)にとって極めて大きな意味を持ちます。ONEは2023年11月に日本郵船(NYK)からYTIの株式51%の取得を完了しており、自社グループの主要ハブターミナルとして位置付けています。西海岸の主要バースを長期独占確保することは、スペース逼迫時における寄港順延リスクを排除し、アライアンス再編や激化する定期船競争の中で荷主への定時配送サービスを担保する強固な差別化要素となります。

参考記事: CY(コンテナヤード)とは?CFSとの違いから実務フロー・混雑緩和のDX施策まで解説

バッテリーEVと水素燃料電池を最適配備する先進ハードウェア構成

YTIがコミットした2億ドルの脱炭素投資は、港湾内で稼働するすべての荷役機器をゼロエミッション化することを目指しています。同ターミナルはこれまでも先行的に実証実験を行っており、バッテリーEV(BEV)と水素燃料電池(FCEV)の双方を適材適所で組み合わせる重層的な機材ポートフォリオを構築しています。

同ターミナルで導入が進む主なゼロエミッション機器およびインフラ実績は以下の通りです。

  • バッテリーEV(BEV)機器群: テイラー(Taylor Machine Works)製電動トップハンドラー8台、トヨタ製電動フォークリフト7台、電動ヤードトラクター2台
  • 専用受給電インフラ: トップハンドラー用急速充電器5基、UTR(ヤードトラクター)用充電器2基
  • 水素燃料電池(FCEV)機器群: カルマー(Kalmar)製水素ヤードトラクター2台、テイラー製水素トップハンドラー1台、三井パセコ/トヨタ共同開発の水素燃料電池RTG(タイヤ式門型クレーン)1台
  • 水素供給システム: 移動式水素給油トラックおよびターミナル構内定置式水素補給ステーションの配備
【YTIターミナルにおけるゼロエミッション荷役体系】

[海上側・岸壁] 
      │ (ガントリークレーンによる積卸)
      ▼
[ヤード内搬送] ── 電動ヤードトラクター & 水素燃料電池トラクター
      │ 
      ▼
[蔵置・積上]   ── 水素燃料電池RTGクレーン & 電動/水素トップハンドラー
      │ 
      ▼
[ゲート・受渡] ── アイドリング規制・電動フォークリフト荷役 & 将来のZEトラック連携

連続稼働時間が長く高出力を要求されるRTGクレーンや一部のトップハンドラーには水素燃料電池を充当し、短距離往復や待機時間の多いヤードトラクター・フォークリフトにはBEVを充当することで、電力グリッドへの過度な負荷集中を回避しながらターミナルの連続稼働稼働率を維持しています。

参考記事: RTG(タイヤ式門型クレーン)の仕組みと選び方|RMG・ストラドルキャリア比較や自動化・脱炭素の最新動向

日本の港湾DXとCNP推進に向けた3つの実践的示唆

ロサンゼルス港とYTIによる「30年リース×2億ドル脱炭素投資」の事例は、日本の港湾管理者、ターミナルオペレーター、そしてサプライチェーンを統括する荷主企業に対しても極めて具体的な構造改革の指針を提示しています。

1. CNP認証制度を軸とした「港湾選定基準」の再設計

日本国内では、国土交通省が主導する「カーボンニュートラルポート(CNP)認証(コンテナターミナル)」制度の運用が本格化し、2026年8月時点で名古屋港(飛島ふ頭南側/レベル4+++、鍋田ふ頭/レベル4++)、大分港、境港、千葉港など累計15拠点へと認証が拡大しました。

日本の輸出入貨物の99.6%は港湾を経由しており、臨海部は国内二酸化炭素排出量の約6割を占める産業が集積しています。欧米の事例が示す通り、今後はターミナルごとの脱炭素インフラ性能が、船社の寄港地決定や荷主の利用港湾選択における決定的な基準になります。

荷役機械の電動化・水素化が進んでいないターミナルは、グローバル荷主の環境監査において敬遠される「座礁資産化」のリスクを抱えることになります。港湾管理者や運営事業者は、単なる港湾使用料の引き下げ競争から脱却し、CNP認証上位レベルの取得をポートセールスの最前面に据える必要があります。

参考記事: 国交省CNP認証、累計15拠点へ拡大し港湾選定の新基準が定着

2. Scope 3削減に直結する「グリーン・ルーティング」の定量化

製造業を中心とする荷主企業にとって、サプライチェーン排出量(特にScope 3 カテゴリ4:輸送・流通上流、カテゴリ9:輸送・流通下流)の削減は、企業の存続を左右する最重要課題です。

これまで海上輸送のGHG排出量算定は航路距離や本船の燃費データが中心でしたが、YTIのようなゼロエミッションターミナルの稼動により、「どの港湾ターミナルを経由したか」による荷役GHG排出量の差異が明確にデータ化されます。荷主企業は、自社の国際物流ネットワーク設計において、港湾荷役時の環境負荷データを調達・物流パラメータに組み込む「グリーン・ルーティング」を確立すべきです。高環境性能ターミナルを指定して利用することは、ESG開示における客観的な排出削減エビデンスとして機能します。

参考記事: Scope 1, 2, 3とは?物流・サプライチェーン実務担当者が知るべき基礎知識と算定ガイド

3. 電力ピークカットと水素インフラを統合したエネルギーマネジメント

荷役機器の電動化を一挙に進める際、最大の障壁となるのが「ピーク電力需要の急増」と「系統電力網の容量不足」です。YTIの現場でも、多数の電動トップハンドラーやヤードトラクターを同時急速充電する際の受電設備容量の確保が課題となりました。

日本国内のターミナルにおいても、単にディーゼル駆動のRTGやフォークリフトを電動機器に置き換えるだけでは、デマンド値の上昇に伴う基本電気料金の高騰や、災害時のブラックアウトリスクに対応できません。太陽光発電や蓄電池システムを組み合わせたターミナル内マイクログリッドの構築、ピークシフト制御を行うエネルギーマネジメントシステム(EMS)の導入、そして水素燃料電池機器の併用による電力系統への負荷分散を一体的に設計することが、投資対効果を高める必須条件となります。

参考記事: 脱炭素経営とは?物流・サプライチェーンで今取り組むべき理由と導入4ステップを解説

物流拠点の評価軸を「コスト」から「環境継続性」へ再定義する

ロサンゼルス港とYTIの契約延長は、世界の国際物流インフラにおける評価軸が「短期的コストと処理スピード」から「超長期の事業継続性と環境性能(GX)」へと完全に移行したことを決定づけました。30年という長期契約を勝ち取るための最大のレバーが「2億ドルのゼロエミッション投資」であったという事実は、環境対策がもはやコストセンターではなく、将来の事業権を確保するための最重要投資対象であることを証明しています。

日本の物流・港湾ビジネスに関わる経営層および実務担当者は、海外の先行モデルを対岸の火事と捉えず、自社のサプライチェーンに組み込まれた港湾拠点の環境リスクと競争力を速やかに点検する必要があります。

明日から取り組むべき3つのアクションは以下の通りです。

  1. 自社が利用する国内外主要ターミナルの脱炭素インフラと認証状況を棚卸しする

自社貨物の主要輸出入港における荷役機器の電動化状況や、国内CNP認証レベル(レベル1〜5)を調査し、サプライチェーン上の環境負荷と将来のオペレーション継続リスクを評価する。

  1. 港湾荷役に伴うGHG排出量の可視化とScope 3算定モデルの精緻化を進める

航路距離だけでなく、寄港ターミナルの環境性能データを反映できる排出量算定スキームを構築し、ESG情報開示およびScope 3削減計画のエビデンス精度を高める。

  1. 補助金や官民連携スキームを活用した拠点電化・エネルギーマネジメント計画を策定する

国の省エネ・脱炭素関連補助金や自治体支援制度をリサーチし、荷役機器の更新時期に合わせた電動化・水素化のロードマップと、充電ピーク制御を含むEMS導入の投資対効果を試算する。


出典: SupplyChainBrain
出典: Port of Los Angeles
出典: Hoodline
出典: Yusen Terminals LLC
出典: California Climate Investments

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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