TS-Boxとは?
TS-Boxは、物流業界が直面するドライバー不足や「2024年問題」といった深刻な課題を解決するために、既存のトラック車両を迅速かつ低コストに自動運転化することを目的とした、車載型の自動運転ソリューションパッケージです。株式会社TuSimple JAPAN(以下、TuSimple JAPAN)が開発した本パッケージは、部分的な自動運転(レベル2+)から特定の条件下での完全自動運転(レベル4)まで、段階的な自動運転システムの実装に対応しています。東名・新東名高速道路といった日本の主要な幹線道路を想定し、トンネル等の多い複雑な日本の高速道路環境に最適化されているため、長距離輸送の省人化・効率化を実証するプラットフォームとして機能します。
主な機能・特徴
TS-Boxは、自動運転トラックの頭脳として機能するハードウェアと、高度な環境認識を行うためのソフトウェアを1つのパッケージにまとめた製品です。具体的な主な機能および特徴は以下の通りです。
- 独自開発のドメインコントローラー「TDC(TuSimple Domain Controller)」の搭載
自動運転に必要な膨大なセンサーデータを高速で一元処理し、車両の経路計画や挙動制御をリアルタイムで実行する高性能な中央処理装置(コントローラー)を搭載しています。これにより、時速80kmを超えるような高速走行時でも遅延なく安全な制動や車線変更が可能になり、自動運転システムとしての高い安全性と安定性を車両現場にもたらします。 - 各種センサーと高精度測位モジュールの一体化
高精度な集中型4Dミリ波レーダー、RTK-GNSS/INS(衛星測位および慣性航法)測位モジュール、そしてこれらを制御する認識・測位融合アルゴリズムが一体のボックスとしてまとめられています。これにより、GPSの電波が途切れやすいトンネル内や雨天・霧などの悪天候下でも、数センチメートル単位での自己位置推定と360度の正確な環境認識を維持することが可能です。 - 既存車両への後付け(レトロフィット)に対応
完全な新型車両や高額な電気自動車(EV)を一から導入する必要はなく、すでに自社で保有・運用している日野自動車「プロフィア」などの一般的な大型10tトラックに、センサー類やTS-Boxを後付けして自動運転化を検証できます。これにより、設備投資を大幅に抑えながら、既存の車両資産を無駄にすることなく段階的な自動運転導入試験を開始できます。 - システム調達コストの約25%削減設計
カメラ、レーダー、測位アンテナ、演算用コンピューターなどの各コンポーネントを個別に調達してゼロから車載システムに統合する場合と比較し、システム全体にかかる開発・調達コストを約25%削減できるように設計されています。自動運転を実証段階から商業運用段階へとスケールさせる際の、金銭的・技術的なハードルを大きく引き下げることに貢献します。 - OEM(自動車メーカー)向け開発互換性
自動車メーカー(OEM)が自社で開発している走行計画・車両制御用のソフトウェアモジュールとも接続できるよう、オープンで柔軟なインターフェース設計が施されています。これにより、車両メーカー独自のセーフティ技術や制御ロジックとTS-Boxを高度に連携させ、柔軟な自動運転アプリケーション開発を行うことが可能です。
こんな企業・現場に向いている/向いていない
TS-Boxを導入・検証して効果が出やすい現場と、逆に導入段階でミスマッチが発生しやすい現場について解説します。
【向いている企業・現場】
- 高速道路を使用した幹線輸送を主軸とする物流・倉庫企業
東京〜名古屋〜大阪といった、高速道路を長距離走行する定期幹線輸送ラインを抱えている企業に向いています。TS-Boxは、東名・新東名高速道路での走行実証に強みを持っているため、高速道路区間の省人化・自動運転化を狙うのに適しています。 - 既存の保有トラックを有効活用したい大企業
自社で稼働させている大型トラックなどの国産商用車を活かして、レトロフィット方式で実証実験を進めたいと考える物流大手やグループ企業に適しています。新規に専用の自動運転車を購入するコストを省き、迅速にプロジェクトを立ち上げられます。 - 次世代自動運転トラックの共同開発・技術検証を目指す自動車メーカー・部品メーカー
独自の車両制御モジュールやセンサー、次世代技術との互換性を求め、自社の技術開発のプラットフォームとして機能性の高い統合制御ボックスを必要としている現場に適しています。
【向いていない企業・現場】
- 自社内に自動運転の専任担当者や技術検証を行う開発リソースがない企業
自動運転の導入には、実証実験の計画策定や関係省庁との連携、現場でのチューニング、不具合発生時の技術対応が不可欠です。これらを担う専門チームや、導入後の現場運用設計を主体的に行える技術者が社内にいない場合はミスマッチとなります。 - 一般道路や狭い市街地での複雑なルート配送が中心の企業
ルート上に歩行者や自転車、障害物の多い細い路地、店舗での細かな積み降ろしが発生する配送環境では、高速道路走行に最適化されているTS-Boxの強みを発揮できません。 - 長期的なメーカーからの直接的かつ強固な保守・継続的な製品アップデートを前提としたい企業
後述の通り、開発ベンダー側のグローバルな事業転換によるサポート体制の変化が起きているため、安定した定番の商業サポートを何より優先したい企業にとっては、保守リスクの懸念が拭えないため他の運行管理・開発プラットフォームを検討すべきです。
料金・プラン・導入方法
TS-Boxの具体的な販売・提供価格およびプラン内容については、公式に明示されておらず、要問い合わせとなっています。完全非公開の料金形態となるため、見積もりや導入検討時に確認すべき主要なポイントは以下の通りです。
- 初期導入費用:TS-Boxのハードウェア本体(TDCおよびセンサー一式)の価格に加え、対象車両への適合検証、ハードウェアの取り付け・設置に伴う技術作業費用、各種センサーのカリブレーション(初期キャリブレーション・調整)費用が含まれるか確認が必要です。
- ソフトウェアライセンス・保守費用:自動運転の各種アルゴリズムを制御するファームウェアのアップデート費用、走行データを管理・分析するクラウドシステムの利用料など、月額または年額でのランニングコストの有無を確認する必要があります。
- 契約体制とサポート体制:開発元の事業体制変更に伴い、日本国内において実質的なサポートやシステムの提供を行う事業者、または契約を結ぶ窓口(株式会社ロボトラックなど)を事前によく確認しておくことが求められます。
導入の流れ・期間
TS-Boxの公式サイトおよび一般公開されている情報から、詳細な導入ステップや導入期間は確認されていません。自動運転システムという専門的かつ大がかりなソリューションであるため、一般的なレトロフィット型自動運転システムの導入フローおよび推奨される手順は以下の通りとなります。
- 問い合わせ・要件ヒアリング
導入検討中の車両(メーカーや車種、年式)、導入予定ルート、実証における目標レベル(レベル2+〜4)を開発チームへ伝えます。 - 実証実験・適合可否の計画策定
実際に車両への搭載が可能かどうかの事前適合調査を実施し、センサーの搭載位置、車両との通信連携手順などを含めた実証実験計画を策定します。 - 機材調達・車両カスタマイズ(レトロフィット)
TS-Box本体およびLiDAR、レーダー、カメラ、測位アンテナを調達し、対象車両への組み込みと制御配線の構築を実施します。 - クローズド環境下での初期テスト
テストコース等において、基本的な車両制御(加速、減速、ステアリング、センシング精度)が設計通りに動作するかを確認・調整します。 - 公道実証走行の開始・稼働
事前に定めた安全監視員(ドライバー)同乗体制などの各種要件をクリアした上で、高速道路等のテストルートにおける実証実験を開始します。
※TS-Boxの正確な導入フロー、対応可能車両、および必要とされる導入期間は、最新の状況を含め問い合わせ時に必ず確認をしてください。
連携できるシステム・機器
TS-Boxにおいて接続・連携が確認されているシステムおよびハードウェアは以下の通りです。
- 車載向け各種センサー:LiDAR(レーザーセンサー)、広角・近距離を含む各種認識カメラ、集中型4Dミリ波レーダー、マルチアンテナなどのセンサー群と接続し、情報の統合処理を行います。
- 測位システム(RTK-GNSS/INS):車載された高精度測位モジュールと連携し、位置情報をミリ秒・センチメートル単位で補正します。
- 国産商用トラック:日野自動車「プロフィア」などの大型10tトラックをベースに、車両側の既存のアクチュエーター制御システム(アクセル、ブレーキ、ステアリング等)と統合接続し、自動走行を制御する連携が実証されています。
※倉庫管理システム(WMS)、運行管理システム(TMS)、基幹システムとのWeb APIを通じたソフトウェア連携など、その他周辺ITシステムとの具体的な連携情報、およびAPIの公開仕様については、公式に開示されている実績は確認できていません。連携要件がある場合は問い合わせ時に確認してください。
導入事例・実績
TS-Boxを活用したプロジェクトにおいて、公表されている走行テストおよび実証実験の実績は以下の通りです。
- 東名・新東名高速道路でのL4相当走行テスト(TuSimple JAPAN実績)
2023年1月〜10月、神奈川県の厚木南IC〜愛知県の豊田JCT間(およそ270km)の公道において、自動運転レベル4相当(保安・法的な安全規制に則りセーフティドライバーと同乗員が常時監視を行うレベル2走行)の走行テストを実施しました。昼夜間に加えて、渋滞や雨天、トンネルなどGPSの電波が遮断されやすいGPS電波デッドゾーン環境においても問題のない自立走行を記録し、累計走行距離は「41,605km」を達成しています。 - 新東名高速道路でのレベル4相当走行テスト(ロボトラック実績)
TuSimple JAPANのチームとアセットを引き継いだ「株式会社ロボトラック」により、2025年2月に新東名高速道路の駿河湾沼津SA―浜松SA間(約100km)におけるレベル4相当の走行テストが、経済産業省の「モビリティDX促進のための無人自動運転開発・実証支援事業」のもとで実施され、成功をおさめています。
※なお、商用の荷物を積載して一般の物流会社が日常業務で運用するといった「本番商業稼働」の具体的な導入事例については、現時点で公式に公表されている実績は確認できていません。
導入前に知っておきたいこと
TS-Boxの導入検討にあたっては、技術面だけでなく、開発ベンダー側の重大な組織変革や事業継続性についての以下の事実を事前に十分に知っておく必要があります。
- 親会社(TuSimple社)の自動運転からの撤退とAIアニメ事業への転換
開発元の親会社であるTuSimple Holdingsは、2024年初頭に米ナスダック(Nasdaq)市場から上場廃止となりました。さらに、2024年末には自動運転大型トラック事業を全面的に停止・撤退し、社名を「CreateAI Holdings Inc.(以下、CreateAI)」に変更し、生成AIを用いたアニメ・ゲームコンテンツ制作を行う「AIエンタメ企業」への転換を発表しています。CreateAIとしての事業範囲に自動運転開発は現在含まれておらず、既存の自動運転関連知的財産のライセンス提供のみが事業計画に盛り込まれる形となっています。 - 日本チームの「株式会社ロボトラック」への独立・移管
親会社の大きな転換に伴い、元TuSimple JAPANの代表取締役を務めていたNan Wu(ウー・ナン)氏をはじめとする日本の主要な技術者チームは、2024年4月に「株式会社ロボトラック(Robotruck Inc.)」という新会社を設立しました。ロボトラック社は、TuSimple JAPANが有していた技術アセットやノウハウなどの資産、実証実験の実績を引き継いで事業を継続しており、2025年3月には東大IPCやPKSHAなどから3億円の資金調達を受けて日本市場における自動運転開発を推進しています。 - TS-Box単体での供給および保守サポートの不確実性
元々の親会社が自動運転開発から退いたため、従来の「TS-Box」としてのアップデートや直接のサポート体制は変化しています。今後、TS-Box関連のハードウェアおよびソフトウェアを使用する実証実験を行う場合は、後継となった「株式会社ロボトラック」が提供する技術やアセットベースでの協力が不可欠であり、現時点で従前のTuSimple JAPANとしての公式サイトから直接購入する際のような保守サポートが同等に保証されるかどうかは、最新のロボトラック社の事業方針とすり合わせる必要があります。
類似ツールとの比較
自動運転システムの開発や遠隔管理など、自動運転分野において競合となる代表的な他社ツールとの比較を以下に整理します。
| ツール名 | 特徴 | 料金 | 向いている企業 |
|---|---|---|---|
| TS-Box (株式会社TuSimple JAPAN) |
ドメインコントローラー(TDC)と4Dミリ波レーダー、高精度測位モジュール等のセンサー一式を1つのボックスに統合したレトロフィットソリューション。 | 要問い合わせ | 既存の大型商用トラックにセンサーやシステムを後付けし、高速道路でのレベル4実証を行いたい大手企業。 |
| Web.Auto (株式会社ティアフォー) |
世界初のオープンソース自動運転ソフト「Autoware」をベースにした、開発・運行・遠隔監視を強力に支援するオープンなプラットフォーム。 | 要問い合わせ | 独自の自動運転車両開発を目指す自動車メーカーや、自社運用に合わせた高い柔軟性とカスタマイズ性を求める物流・交通事業者。 |
| T2 自動運転システム (株式会社T2) |
高速道路における幹線輸送にターゲットを絞り、レベル4自動運転トラック自体の開発から遠隔管理・運行管理をトータルで設計。 | 要問い合わせ | 東名・新東名等の大都市間を結ぶ長距離幹線輸送の自動運転化・完全無人化を主目的とする物流企業・荷主企業。 |
| 先進モビリティ 自動運転システム (先進モビリティ株式会社) |
東大発の技術をベースとし、トラック・バス等の既存車両を後付け(レトロフィット)で自動運転化、さらに車車間通信を用いた無人隊列走行技術に豊富な実績を持つ。 | 要問い合わせ | 高速道路等での無人後続隊列走行(CACC)を実用化したい、または既存のバスなどの商用車両を自動運転化したい物流・交通事業者。 |
どのような条件であればTS-Box(または後継のロボトラック社ソリューション)を最優先で選ぶべきでしょうか。まずは「現在所有している大型トラック資産を、後付けのワンストップハードウェアを用いて実証試験車両に変えたい」という条件を重視し、かつ「東名・新東名高速道路での実績を持つ高精度な測位融合技術や、ミリ波レーダー一体型コントローラー(TDC)のハードウェアパッケージを活用したい」と考える場合です。
一方で、開発のカスタマイズ性を何よりオープンにしたい場合は、オープンソース「Autoware」を基盤に柔軟なエコシステムを構築している「Web.Auto」が適しています。また、日本の大都市間幹線輸送に徹底して焦点を当て、安定した国内拠点の体制のもとでレベル4長距離トラック実用化を進めたいならば、三井物産・優先・いすゞ等の資本のもと精力的な開発を進める「T2 自動運転システム」が、また、トラックの無人後続隊列走行や実績豊富な大学発ベンチャーによる安定的なレトロフィット施工体制を求めるなら「先進モビリティ」が、それぞれ実用的な比較候補となります。
よくある質問(FAQ)
- 一般的なスマートフォンアプリでの管理に対応していますか?スマホアプリはありますか?
- TS-Boxは車載用の物理的なドメインコントローラーやセンサーからなる「自動運転ハードウェア・ソフトウェア統合パッケージ」であり、スマートフォンの単独アプリとしての配布や一般的な環境(iOS/Android用アプリ)は提供されていません。遠隔監視等を行うためのシステム環境や対応ブラウザ等については、契約状況により異なりますので個別での問い合わせが必須となります。
- 既存の他社メーカー製トラックに導入(取り付け)することは可能ですか?
- 可能です。既存車へカメラやLiDAR、センサー等と本ボックスを後付けする「レトロフィット方式」を主要なコンセプトとしており、実際に日野自動車「プロフィア」などに後付け搭載して東名高速道路の実走行テストを成功させた実績が公表されています。
- 無料のデモ利用やトライアルは可能ですか?
- 自動運転システムという安全に関わる製品特性や多大な物理的取り付けコストが発生する背景から、一般的なソフトウェアSaaSのように「すぐに試せる無料トライアル」はありません。事前相談による実証計画に基づいたステップが必要となります。
- 問い合わせやサポートの体制はどのようになっていますか?
- 元々の開発元であった株式会社TuSimple JAPANのチームおよび日本におけるアセットは「株式会社ロボトラック」へ引き継がれています。そのため、現在の機材調達、開発支援、実証テストにおける技術的なサポート体制については、ロボトラック社への問い合わせを行うことを推奨します。
- 契約期間や解約に関する条件はありますか?
- 実証実験や共同開発の計画に基づいて個別の開発・利用契約を締結する形となるため、一定の定型化された最低契約期間などは公開されていません。問い合わせ時に個別見積もりと併せて確認をする必要があります。
- トラックの後続車無人隊列走行に対応していますか?
- TuSimpleが培ってきた高速道路での自動運転レベル2+からレベル4の実証を推進・サポートしていますが、TuSimpleからスピンオフして技術を引き継いだロボトラック社の創業者や技術チーム自体は、過去に自動運転隊列走行を成功に導いてきた実績や高いノウハウを蓄積しています。